龍臥亭事件: 長編推理小説 (下) (光文社文庫 し 5-28)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (586ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334728908

感想・レビュー・書評

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  • 御手洗潔シリーズ、10作目。上下巻の長編。

    今作は御手洗本人はほとんど出て来ず(手紙だけ)、石岡くんが完全なる主役。もう少し御手洗の助言もあるのかと思いきや、石岡くんがほぼ自力で事件を解決するという展開は意外かつ感動。やればできる子なんだな、石岡くんも。
    題材はかの有名な津山事件。と言いつつ、事件の名前くらいしか知らなかったので、まさかノンフィクションレベルまで引用しているとは思わなかった。確かにフィクションにしてはやけに生々しい描写だなぁと思っていたから、ほぼ実話と後で知って、驚愕と同時に納得。作中で起こった見立て殺人よりも興味深く読めた。ただ、一部の人名、地名は仮名にしてあったとしても、ここまではっきりと描いてあれば仮名の意味もないわけで、となると、完全なるノンフィクションならまだしも、フィクションの事件と織り交ぜるのはいいものかと老婆心ながらも心配になる。昭和の初期とは言えど、まだまだはるか昔とは言い難い。内容が内容なだけに、フィクションとノンフィクションの描写のバランスが危うく感じてしまった。とは言え、一読の価値ある大作だとは思いますけどね。

  • 龍臥亭事件という作品が自分のなかで大好きで、思い入れの深い作品なのは、石岡さんが、事件を解決したいと深く願い、他には誰も頼れないとなんとか自分の頭で必死に、本当に必死に考え、推理し、ボロボロになりながらも、事件の謎を解いていく姿が描かれているから。

    御手洗潔という超人の活躍をその傍で振り回されながら見守るしかない石岡さんの姿はそこにはなく、必死な凡人のもがきが私の心を打ちました。

    霧のなかの幻想的な舞台にて行われる犯人との格闘、そして終幕、石岡さんの手による真相披露が描かれる第12章からエピローグにかけては、御手洗シリーズ屈指の名シーン名場面の連続でした。

  • 石岡くんのリハビリ?だけど、最後まで読んでるとなんだか切なくなってしまった。石岡くんなりに一生懸命な解決しようとするその姿に思わず、頑張れと応援しながら読んでいました。

  • (上巻の感想からの続き)
    そういった中でも大トリックを仕込んでいるのが非常に嬉しいし、また、菱川幸子の殺害方法が運命の皮肉さを伴っているのが単なる推理ゲームに堕してなく、小説として余韻を残してくれるのがプライドを感じて嬉しい。

    連続殺人が続くのも、最後の最後まで御手洗を登場させず、石岡という凡人に解決させることにより、不自然さが無い―よく名探偵がさんざん人が死んでおきながら犯人は貴方だ!と誇らしげに指摘する厚顔無恥さがこの作品には無い。昭和初期の殺人事件に基づいて連続殺人が成されたというのも島田氏がこだわる日本人論、昭和論をほのめかしており、しかも忘れ去られるであろう事件を再認識させてくれたのも作者の真面目さだと思う。
    あと最後の最後であっと云わされるミチの正体。こういう演出が心憎い。

    この頃の島田氏の創作意欲は衰えを知らず、毎年1~3冊の新作を発表している。恐らくこの作品はその口火となったように記憶している。読んでみてやはりこの作品は新生島田荘司氏の誕生を高らかに宣言しているように感じた。
    本当に素晴らしい作家だ、島田氏は。

  • 龍臥亭事件下巻。

    島田荘司の本を読むたびにこの人のトリックってトンデモだよなぁと思う。実際にやろうと思っても絶対できんだろ、という。でも、それが全然嫌じゃないのがすごい。むしろ、「待ってました!」という気持ちになる。もはやお家芸だと思う。

    それはわくわくするような設定と上巻から下巻にかけて着々と積み上げられてきた情景描写によるものだと思う。ロマン溢れる人里離れた温泉宿、そこにある伝説、謎の死…そういった現実離れした設定にのめりこんでいると、最後トリックがトンデモだったとしてもむしろOKとなる。そういう世界観だから、という感じだろうか。

    けなしているように感じるかもしれないけれど、私は島田荘司のそういう所が素晴らしいと思う。

  • 下巻も600ページ近くあるが、先が気になってスラスラと読めた。

    ただ、そのうち200ページ程を実際の事件『津山三十人殺し』についてに割いている。
    この事件は日本の事件史上インパクトがかなり強いものなので知ってる人も多いと思う。
    そういう人が読むとこの部分はこんなに必要だったのか?と思うかもしれない。
    私も途中石岡くんのこととかを忘れて、違うものを読んでる気分になった。

    それでも事件についてはおおよそは知ってはいたが、細かいところまでは知らなかったのでなかなか興味深く読めた。
    睦雄がしたことはどんな同情の余地があっても許されるものではないと思うが、それを引き起こす原因にもなった周りの差別や村の独特の閉鎖性も本当に罪深いことだと思った。
    作者はそういうことを訴えたかったのだろうな思えるほどこの睦雄の部分は力が入っていたように思う。

    石岡くんは途中頼りなく思えるところももどかしいところもあったけど、最終的には事件を解決して前に進めるようになったようで良かった。
    お疲れさまと心から言いたい。

    あとは、吉敷シリーズとちょっとリンクしていたらしいがそっちのシリーズは未読なので解説読むまで気づかなかった…。

  • 津山三十人殺しをベースにした一連の殺人事件が結末を迎えます。
    下巻は大部分が都井睦雄に関する記述でした。ここは創作ではなく、筑波昭氏の「津山三十人殺し」を参考に、ほぼ事実であることがあとがきに記されています。
    津山三十人殺しは有名なので知ってはいたものの、内容はうろ覚え。
    このようなことが起こっていたのかと、悲しいような息苦しいような気持ちになりました。

    これまでも、島田さんの描き出す「日本人論」は鋭く核心を突いていると感じていましたが、ここでもその本領を発揮しています。
    私が幼少の頃から、なんとなく感じ続けていた「日本人」というもの、そして「田舎」というものの、感覚では分かるのだけどうまく言葉にできない本質を、うまく言い当てられたような気がしました。

    そして石岡君、御手洗からの助言に助けられたところはあったにせよ、自力でよくがんばりました。
    ミチ親子を助けるために体を張る姿は格好良かったです。

  • 一気に後半も読み終わった。後半になると話が昭和犯罪史の様相を呈してきた。昭和初期に実際に起きた猟奇的事件の見立て殺人と言う落ちに、複数犯という解決は少し無理があるような気がするが、意外性と言う意味では十分楽しめた。
    ただ、その昭和犯罪史の同じ説明が何度も出てきたり、後半の延々200ページにわたる津山事件はルポとしては面白く読めるがこれがいくら主人公?の心情を描くためとはいえ、ここに挿入される必要があったかは疑問。綿密な取材の後はわかるが、架空の物語に実話を挿入するには無理があるし、これはこれで別個の作品にした方が良かったのでは?
    ともあれ、迫力満点の筆力で、因習にとらわれた村とそこで起きる連続殺人事件を見事に描き切ってある。ほかの作品も読もう。

  • 「御手洗が去った後に鬱々としていた石岡君が、一念発起して依頼人と二人旅か~やるじゃん石岡君(*^ω^*)」
    と、旅行の目的(悪霊祓い…)は置いといてほのぼのしていた序盤から一転。イッちゃってる同行者(女)に導かれるままに、一路西へと向かう二人。もちろんロマンスのロの字もなく、ひたすら真っ暗闇の行程にビビる石岡君がおかしい(笑)。

    曰く有りげな元旅館に二人が転がり込んでからは、展開がまあ早い早い。
    【密室状況に次々と転がる銃殺体のオンパレード!】
    からの、
    【悍ましい死体装飾】(*_*)ひいいい

    幾らなんでも過剰過ぎるんじゃないですかううう…(泣)とページの端を摘まみながら読み進めていくと、どうやら戦前の猟奇殺人に酷似した殺害方法だということが判明。
    被害者を量産しながら、事態は加速度的に展開していきます、が。

    御手洗探偵、結局出てこないじゃないの\(^^)/石岡君ドンマイ

    助手史上稀に見る(関口君もいい勝負かな(笑)自己評価の低いワトソン・石岡君が、起死回生の推理披露!警察官達がそろって石岡君に「教えて下さいよ~」ってやるシーンは、悶絶するくらい嬉しかった(笑)。「え、説明?何を?」なんて、空っとぼけるんじゃなく、素で言ってるんだからな~愛しいわ!笑

    トリックそのものは、作中でくどいくらいに仕掛けのある部分の描写をしてるので簡単に見当がつきます。
    ただ、犯人はちょっと意外でしたね。ネタバレになるので言及しませんが、アンフェアな点もあります。

    とはいえ、今作のハイライトは、やはり事件そのものではなく実際に起こった「津山事件」を題に取ったことでしょう。

    下巻の後半で語られる津山事件の犯人・都井睦雄の生涯と、つぶさに語られる犯行当夜の状況。当時不治の病とされていた肺結核を理由に、それまで懇意にしていた女性達から拒絶されたことに腹を立てた故の凶行が、淡々と語られます。
    もちろん、無辜の人々まで手にかけた彼に同情の余地は一片もない、と私自身は断じるのですが、ほんの一人でも彼に救いの手を差し伸べる人がいたらどうなっていただろうと考えてしまいました。

    殺害方法や動機はもちろん、村の因習や偏見も恐ろしいと思ったのですが、読んでいて一番ぞっとしたのが、事件には何の関係もない善意の第三者の証言でした。

    「彼は、世間で言われとるような人じゃあない。あの人は優しい、本当にええ人じゃった」

    これが、三十人の村人を情け容赦なく殺戮した殺人者に対しての評価です。凄まじい地獄絵図を一夜にして描いた男の持つ別の一面性が訥々と語られるのですが、その穏やかな語り口に、何故か命乞いする人々の描写よりも胸を引き絞られました。人間失格の「……神様みたいないい子でした」にも震えたけど、この一文も凄いなあ。



    捜査が進むにつれ、明らかになってくる「三十人殺し」との類似性に着目した石岡。やがて、彼は「好色の人非人」として忌み嫌われた三十人殺しの下手人の意外な真の姿に触れる。
    時を経て繰り返される大量殺人は、果たして彼の意思を継いだ何者かの仕業なのか?

  • 長かったです。
    それにつきますね。
    この作品は無理に真相を暴こうとしても
    無駄骨になる作品なので
    おとなしく読んだ方がいいですよ。

    しかし、とある多人数殺人事件は
    悪しき習慣の蓄積だったんですね。
    確かにあの人は鬼畜だったけれども
    よく読むと無関係な人には
    鉄槌を落とさなかったのです。

    そう、落としたのは
    けなしたものだけ。

    そして現代の犯人に関しては…
    一番悲しい事実が出てきましたね。
    そして真相部分にも悲しいものが…
    皮肉にも…

    御手洗なき事件でしたが
    なかなかおもしろかったです。

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著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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