モンティニーの狼男爵 (光文社文庫 さ 19-1)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334732226

感想・レビュー・書評

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  • 18世紀フランスの田舎の男爵の恋物語。
    私はこの作者の、過剰な説明がなく状況やセリフでそれを読み取らせる巧みな文章の虜になっている。
    読む前から間違いないとわかっていたけど、さらに内容も楽しくてとてもよかった。

    特に洗練されてもいない男爵は、特に美人でもない奥様を愛しすぎて嫉妬のあまり狼になってしまう。
    そんなファンタジーな展開なのに、地に足がついているというか、そうなったところで何も違和感なく話が進むところが面白い。村人は驚きもせず見抜いた上で狩ろうとするし。
    読みの鋭いエミールがいい仕事してるなあ。

    ラストの男爵の語りもまたいい。
    年月を重ねて、最終的にこんなふうに愛情を信じられたら素敵だなと思う。

  • 革命前のフランス、モンティニーの領主ラウール・ド・モンティニーは、幼少時に両親を失い、パリにいる放蕩ものの叔父以外に身内もなかったが、狼狩りを得意とし、変わり者の領主としてそれなりに成長。二十歳のときに叔父の持ち込んだ政略結婚で娶った妻ドニーズと、それなりに幸福に暮らしていたが…。

    ファンタジー要素はあるけれど基本的にはラブストーリー。今まで読んだ佐藤亜紀(といってもバルタザールと雲雀と天使の3冊だけだけど)の中では、いちばん軽快で読み易かった。佐藤亜紀というと海外文学の翻訳もののような壮大かつ緻密な設定と文体で、気を抜いて読めないところがある印象だけれど、今作はモンティニー男爵自身がくだけた調子で誰かに過去を語っている形式なのと、目次でハッピーエンドが約束されているのでリラックスして読めたのかも。

    ちょいネタバレだけどタイトルに入っているので書いてしまうが、中盤でドニーズが美男子のルナルダン氏と不倫の恋に落ちてしまい、男爵は嫉妬から狼に変身するようになってしまう。シャイで、外見コンプレックスで、でもとてもドニーズを大切にしていたラウールが、質実だった妻の思いがけない裏切りにどれほどのショックを受けたことかと思うと大変切ない。しかも相手はイケメンだけが取り柄のずるがしこい男。でもこのルナルダン氏をツバメにしている伝説の美女ブリザック夫人がとっても素敵な女性で大好きでした。

    他の登場人物たちも、必ずしも善男善女ではないのだけれど、それぞれに存在感があり、嫌なところがあってもなんとなく憎めない。ドニーズの最初の出産のときに村中の女たちが集まってくるところはなんだか祝祭感があって好きだった。男爵のご先祖が妻とその愛人にどのような仕打ちをしたかという伝説もゴシック味があって良い。

    人間同士の計略で陥れたり陥れられたりとする駆け引きはありつつ、読後は童話か民話を読み終わたような気持ちで、幸福に本を閉じられました。

  • この本を評価できるだけの知識と経験を私は持ちません・・・。
    きっとこういう本が何度も読みかえしたくなる本なのですね、登場人物たちは当たり前にそこにいて、生活があってドラマはあったような気もするし「特になし」と記してもよさそうな気がする。
    田舎の男爵様は気が小さくて気難しくて器用でなくて優しいひと。狼ならば腹もたちません。かわいいね、男爵様。
    日本人が描いたフランス文学というのでしょうか、翻訳本を読んでいるのとは全く違う言葉の吸収しやすさと遊び心と高尚さにうっとりしました。

    しかし人に薦めるのは難しいなあ、面白いんだけどなあ。ここが!とハッキリ言えない。その穏やかな幻想性がいいの。夢みたい。

  • 佐藤亜紀2冊目。
    『バルタザールの遍歴』と趣を異にするけど、これも間違いなく傑作。

    主人公の男爵は、愛する妻への猜疑心と自分への不甲斐なさから、あるとき狼に変身する能力を手に入れてしまう。
    かといって、そのまま恋敵を食い殺すわけでも妻に復讐するわけでもなく、ただ狼の姿のまま野山を走り回って憂さを晴らすだけ。
    ところがある日、恋敵の策にまんまと嵌って捕えられてしまい・・・

    これは極上のファンタジーであり恋愛小説です。
    まるで海外作品を和訳したような文体が雰囲気を盛り上げる。
    本を読むというのは、物語を追うだけじゃなくて文章を楽しみ表現に酔うものだと教えてくれる。
    ここまでくると「小説」じゃなくて「文学」だ。

    本に向き合いたい時にもってこいの一冊。

  • ラブストーリー。切ないというか、遣る瀬無い。だがそこがいい。
    山月記のような趣もあります。

  • フランス革命前夜、パリからはなれた田舎町モンティニー。ひとりの男爵が、妻を寝とられ、狼に変身する。<br>他の作品とは違って、ストーリー自体が読みやすくて入りやすいため、素直に「おもしれーなー」と思いながら読み進められました。なんていうか、小気味いい小説だ。それでいて可愛い。ラウールからドニーズへの愛がもう最高に一途で良かったです。

  • フランス革命の前兆も風の噂程度に、狼を害獣扱いし、小さな権力や金勘定など目先の生活にいそしむ平凡な人達が暮らす田舎町。
    主人公は冴えない貧乏貴族。冴えない奥さんとの金銭結婚。思いがけない恋とささやかな幸せも束の間、現れる間男。使用人からもコケにされ、自尊心を失ってゆく男爵の身に起こるある出来事とは?

    18世紀のフランスと聞いてイメージする煌びやかさとは裏腹に、パリから離れた片田舎で営まれる生活と人間関係はリアルでしみったれていて滑稽。共感する所多い。

    それと対照的なのが、夜の静けさや雷や野生動物、それらと言葉を交わすことなく呼応しあう、周りの人間と上手く関わり合えない男爵。そして子ども達の描写。
    自然と人間、神話と現実の境界が曖昧な時代だからこそ描ける、リアルな生活感をもったファンタジー。
    そんな世界観をベースにした恋愛小説です。

    お話の流れに大きな起伏はないけど文章が美しいのでとりあえず展開とか気にせずゆ〜っくり読みたい。名画を鑑賞するように読みたい。そこにユーモアがしれっとした顔して紛れ込んでる所が、好き、、
    注釈もなしに小難しい単語をポンポン投げてくるドS?でお馴染みの作家さんですが、その点こちらの作品はやさしい方。

    読み終えたあと表紙を撫でて抱き締めたくるようなあたたかいお話でした。
    あと、あとがきの、文学における狼と人間の関係性について書かれた「狼男文学」考察が面白かった。

  • おとぎ話としては落ちまでが長く、スジがしつこい。
    ことばや文調は素晴らしいのに、自分としては物足りなかった。

  • おすすめされて読んだ。愛すべき夫婦。

  • 2001-00-00

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著者プロフィール

1962年、新潟に生まれる。1991年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。2002年『天使』で芸術選奨新人賞を、2007年刊行『ミノタウロス』は吉川英治文学新人賞を受賞した。著書に『鏡の影』『モンティニーの狼男爵』『雲雀』『激しく、速やかな死』『醜聞の作法』『金の仔牛』『吸血鬼』などがある。

「2022年 『吸血鬼』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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