黒いトランク: 鬼貫警部事件簿 (光文社文庫 あ 2-36 鮎川哲也コレクション)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334732639

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの再読。
    最初に読んだときは面白いなと思ったが、二度目だったせいか、新鮮さは薄れた。
    基本的には交通機関をどう組み合わせてアリバイを作成したかという時刻表トリックと2つのトランクがどう入れ替わったかというトリックの解明。
    最初は簡単なトリックなのかと思っていたらそうは行かず、最後の最後まで謎解きは迷走する。ただ結果的には単純なことであったのが意外。もっと捻っても良かったのかなとも思う。
    当時の社会情勢、終戦直後で人々の心にモラルだとか崇高だとかそういったものよりも今生きていくことに精一杯故に現代ではちょっと考えられないような思考や動機も表現されていて、その辺がこういうレトロな作品を読むのは興味深い。
    また当時のダイヤグラムそのまま時刻表が記載されているのも興味深い。
    一つ気になったのは鬼貫警部がかつて想い人であった女性の要請でこの事件解決に乗り出すものの、結果的にはその想い人とは結ばれないというその顛末。彼の女性観は職業柄によるものなのか、それともこの時代故によるものか、はたまた他に寄るのかは分からないが、一見人当たりが良く穏やかな鬼貫が、その胸の中には違うものを持っているのかと思うと寂しいような哀しいような。
    またこの事件の被害者はいずれも好感の持てない、もっと言えば家族ですらその死を悼んでいないタイプの人間であり、結末からしても鬼貫が事件を解決することに意味があったのかなという気もする。このあたりはネタバレにもなってしまうのでこれ以上は書かないが。

    あとがきによると、鮎川さんがこの作品を書かれるきっかけになったのはクロフツの『樽』ではなく、横溝先生の『蝶々殺人事件』であるらしい。なんと偶然同時に『蝶々殺人事件』を借りてきていたので、続いて『蝶々殺人事件』を読んでみることにする。

  • 複雑で緻密なトリック。作者の苦労が感じられる力作である。純度100%のトリックまさにその通りである本格ミステリであった。クロフツの「樽」好きとしては、このプロットは至高。
    最強犯人のシナリオ。鬼貫警部との対峙。結末…勿論、私は真相にたどり着けなかったが、敬服する。只々恐れ入りましたと頭が上がらないのであった。
    真相に近づけた読者はいたのだろうか?解説の図をみて、大体の構図を理解できたくらい難解であった。

  • トリックの派手さはないご、アリバイ崩しとしては傑作と言っていいのではないか。緻密に組み立てられていて、読み終わっても、中々全てを理解するのは難しかった。時間があったら何回か読み返してみたい。

  • 黒いトランク
     1 幕あき
     2 逃亡
     3 目覚めざる人
     4 或る終結
     5 古き愛の唄
     6 新しき展開
     7 トランクの論理
     8 対馬
     9 旧友二人
     10 膳所のアリバイ
     11 蟻川のアリバイ
     12 ジェリコの鉄壁
     13 アリバイ崩る
     14 溺るる者
     15 解けざる謎
     16 遺書
     17 風見鶏の北を向く時
    講談社「書下し長編探偵小説全集13 黒いトランク」 1956年7月

    黒いトランク 鮎川哲也
    立風書房「鮎川哲也長編推理小説全集1 黒いトランク」 1975年7月

    代作懺悔 鮎川哲也
    推理文学 1971年7月

    エッセイ 原田裕
    奇人・変人・大人

    解説 山前譲
    鮎川哲也と「黒いトランク」

    解説 芦辺拓
    「黒いトランク」 その物語とトリックの全て

  • 死体を詰めた黒いトランクが行ったり来たり。読み終わったあとの正直な感想は、えっと、なんのためにあんなに行ったり来たりさせたんだっけ?
    アリバイ作りにしては煩雑すぎてリアリティはない。もっと簡単にアリバイを作る方法がいくらでもあるだろう。
    殺人の動機は、全体主義的言説吹聴する被害者への正義の怒り。この動機もリアリティが薄弱に感じられるが、SNS上でパヨクとネトウヨがバトルしている現在。一周回って有りかもしれない。

  • 鮎川哲也 「黒いトランク」を読みました。

    うーん時刻表がでてきました。
    私の今迄のミステリー読書で意外にも初めてでした。
    今まで西村京太郎も読んでいませんから。
    何しろ未知なる挑戦なのですから。

    ミステリーベスト◯をすべて読みたいと思ったのがきっかけでした。
    まず入手しなくてはいけない本リストに入りました。運良く本をゲットしました。
    それから数ヶ月、次何を読むか気分とか、タイミングとか、目についたものだとか、手近にあったりなどの末、お待たせしました。完読しました。

    鮎川哲也 本屋とかではあまり見かけません。
    しかし有名です。名前は以前から知っていました。
    ミステリーの重鎮のような方。本格推理小説。
    他の作品も入手しなくてはならないリストにはいりました。
    まず鮎川哲也と見たらゲットします。

  • 本格推理もの。舞台は1949年で終戦後すぐ。まだ日本文化が色濃く残っている。旅行ものとしても面白い。人物描写は抑制が効いていてうるさくなくそれでいて特色があって面白い。トリックはかなり凝っているが蓋を開けてみれば単純だ。

    当時の時刻表・九州の地図をなんども見返した。そうして実際自分がそこにいるような楽しみ方をした。時刻表をみたり地図をみたりする楽しさが味わえた。

    トリックはちゃんと読んでいけば追いつけるので、巻末のトリック解説表がなくても大丈夫。あったほうがわかりやすいが。なので発表当時ではなく洗練されたものが読みたい人は創元推理でもいいと思います。
    ただ、序盤にある北原白秋の話などが他のバージョンでは削られているらしく、創元推理版もないかもしれない。こういった話が面白いところなので、光文社版を選んで良かったかも。

  • スピード感はなく話そのものは地味だけど、凝ったトリックで面白い。
    じっくりとダイヤを確認しながらの推理はあの時代ならではという感じで、それだけでノスタルジックな感傷を覚える。

    ただ最後まで鬼貫は好きになれなかった。
    時代や作者の観念が手伝って、女性に対する考え方がとても偏ってる。
    昭和なのだからと理解していたけど、終盤に鬼貫の女性観が吐露されていたことで、読後感は正直イマイチだった。
    あとがきからも思ったけれど、作者は女性に何か恨みでもあるのか…
    良くも悪くも昭和の推理小説。

  • 難しかったー。
    時刻表とか行動表なんかは読み飛ばしてしまったせいもあるけど。
    人入れ替わったりトランク入れ替わったりがもう全然ついてけなかった。
    まあでも難しい難しいと思いながら読むのもなかなか楽しかった。
    鬼貫さんの女性観もなかなか。

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著者プロフィール

鮎川哲也(あゆかわ・てつや)
本名・中川透。1919(大8)年、東京生まれ。終戦後はGHQ勤務の傍ら、様々な筆名を用いて雑誌へ短編を投稿し、50年には『宝石』100万円懸賞の長篇部門へ投稿した「ペトロフ事件」(中川透名義)が第一席で入選した。56年、講談社が公募していた「書下ろし長篇探偵小説全集」の第13巻「十三番目の椅子」へ応募した「黒いトランク」が入選し、本格的に作家活動を開始する。60年、「憎悪の化石」と「黒い白鳥」で第13回日本探偵作家クラブ賞長編賞を受賞。受賞後も安定したペースで本格推理小説を書き続け人気作家となる。執筆活動と並行して、アンソロジー編纂や新人作家の育成、忘れられた探偵作家の追跡調査など、さまざまな仕事をこなした。クラシックや唱歌にも造詣が深く、音楽関連のエッセイ集も複数冊ある。2001年、旧作発掘や新人育成への多大な貢献を評価され、第1回本格ミステリ大賞特別賞を受賞。2002(平14)年9月24日、83歳で死去。没後、第6回日本ミステリー文学大賞を贈られた。

「2020年 『幻の探偵作家を求めて【完全版】 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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