神聖喜劇 第2巻 (光文社文庫 お 9-6)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (538ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334733629

作品紹介・あらすじ

東堂太郎が回想する女性との濃密な交情。参戦目的、死の意義への自問自答は、女性との逢瀬の場で反芻されていた。村上少尉と大前田軍曹との異様な場面は、橋本・鉢田両二等兵による「皇国の戦争目的は殺して分捕ることであります」なる"怪答"で結着した。「金玉問答」「普通名詞論議」等、珍談にも満ちた内務班の奇怪な生活の時は流れる。やがて訪れる忌わしい"事件"の予兆。

感想・レビュー・書評

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  • 夏こそずっしりと重い大作を読もうと考えて、分厚目の文庫本5巻に渡る超大作の本書をセレクト。それこそ、日本近代文学の金字塔にあたる作品として学生時代から認識はしていたものの、相当に難解な作品なのだろうと思い込んでいた。

    確かに平易な作品であるとは言い難いが、実際に読み進めてみるとそれを超える面白さに釘付けになってしまい、貪るように5巻を読了してしまった。

    本書は著者自らの従軍体験に基づき、日本陸軍の二等兵である主人公が送る数ヶ月間の陸軍訓練が舞台となる。主人公の東堂太郎は、超人的な記憶力を持ち、日本陸軍の不条理に孤独な戦いを挑んでいく。

    これは日本陸軍に限った話ではないが、軍隊という組織が国家権力によって運営されている以上、その全ての営みには何かしらの法的文書が存在している。その点で極めて官僚的な組織という一面を軍隊は持っており、実際の訓練における一挙一同に、ある種バカらしいほどの理屈付けがなされているという点でのナンセンスさに溢れている。その点で、主人公の超人的な記憶力は、このあらゆる法的文書をすらすらと暗誦し、ときには不条理なトラブルを解決するためにその記憶力で持って立ち向かっていく。

    そして、本書の面白さを際立てせているのは、人物造形の深みのレベルの高さである。そもそも新兵訓練のための招集ということで、集められた二等兵は日本社会の縮図といえるほどに、学歴や身分、職業などが千差万別になっている。突出しているのは、新兵に対して残忍なしごきを与える主人公の班の班長の造形である。ステレオタイプ的な残忍さだけを持つ人間として描くのではなく、中国大陸で残忍な虐殺に関与してきたという過去や、訓練生活の中でのユーモアなど、非常に多面的な人間として描かれることで、決して物語の先行きを安易には予測させないような展開が待っている。

    全く予想だにしなかった結末も含めて、ひたすら物語の巨大さに圧倒された全5巻であった。

  • 這卷從與安藝女子的幽會,甚至剃毛的橋段,延續思考參戰與死的目的。正派的村上少尉義正嚴詞地說明皇國戰爭的目的,然而大前田的「殺して分捕るのが戦争よ」依然留在不得要領的橋本等人心中,讓人哭笑不得。金玉問答那段寫得還蠻有趣。卷末大前田似乎又有爆發的跡象,感覺山雨欲來風滿樓。

  • 主人公の意識の流れの中で、文章も、文体も、様々な形をとり、人間の心理、人間の存在を見つめていく作品。凄くって一言では表現出来ない。3巻以降、どうなっていくんだろう。

  • 村崎一等兵の長い話、大前田軍曹の演説はどちらも聞かせる。「剃毛」のシーンが印象深い。解説は阿部和重。以下箇条書き。20-21・現代にも通じる若者に関する言説、284・爆笑、381-2・羊のアソコ云々→ウディ・アレンの映画。

  • 安芸の彼女のあたりから、お?てなって。。。

  • 「殺して分捕るのが戦争よ」と言い放つ大前田軍曹に対し、「アジア解放の聖戦」との理想を堅持しようとする村上少尉。息詰まる2つの戦争観の対立は、新兵の滑稽かつ正直な反応によって笑劇に終わる。
    合間に東堂が膨大な文学作品を引用しつつ回顧する「安芸の彼女」との交情と「剃毛の儀式」。兵の待遇問題と対馬における「淫売屋」の存在から、軍の中に厳然として存在する階級と学歴偏重、部落差別について、東堂は神山や村崎古兵との会話から理解を深める。
    「普通名詞」をめぐる滑稽劇のあと、大前田が漏らす「人間を踏みつけにしたこげな有様がこの先続きよったら…もっと恐ろしか大事が持ち上がるじゃろう。きっと持ち上がる」という不吉な発言でこの巻終わり。
    感想は最終巻で。

  • これまでの読書体験の全てを総動員するに足る読書だ。ありとあらゆる手法を用いて、東堂の思想、感情、思い出、対人・対物評価を描いている。喜劇的なおかしみを描いていて、同時にそれは、悲劇・悲壮の裏返しである。

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/433473362X
    ── 大西 巨人《神聖喜劇〈第2巻〉200208‥ 光文社文庫》
     

  • いきなり毛色が変わる第三部「十一月の夜の媾曳」は冗長にて高尚、淫靡でニヒルな死生観が古典文献引用により多岐に広がり蠢く。読み進めるのが実に困難、10P読むに1時間を要した。生か死かの両極の緊張は風雅に美しく、髄まで味わい尽くしたいが為に。結局はイメージの怒濤にのまれ溺れたに過ぎない。これが精一杯。舞台が軍隊に戻れば戻るでまた凄い。逼塞の軍隊生活をねちっこい観察眼で揶揄し切り裂く東堂の頭脳、部落出身兵橋本の実直な怪答はスカッと爽快。腹を捩る場面が幾度も。だがその笑いの裏側には大きな人間の悲哀が隠されている。

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著者プロフィール

作家(1916年8月20日~2014年3月12日)。福岡県生まれ。九州帝国法文学部政治学科中退。新聞社勤務の後、1941年12月召集され、以後敗戦まで対馬で兵営生活を送る。敗戦後、福岡で発刊された『文化展望』の編集に携わる傍ら、文筆活動を開始する。46年新日本文学会に入会、以後『近代文学』や記録芸術の会など、さまざまな文学芸術運動に関わる。48年日本共産党に入党、61年以降は関わりがなくなるが、コミュニストとしての立場は生涯変わらなかった。公正・平等な社会の実現を希求し、論理性と律動性とを兼ね備えた文章によって個人の当為を形象化する試みを続けた。1955年から25年の歳月を費やして完成した『神聖喜劇』は、軍隊を日本社会の縮図ととらえ、主人公の青年東堂太郎の精神遍歴の検証を通じて絶望的な状況の中での現実変革の可能性を探った大作で、高い評価を受けている。ほかの小説に『精神の氷点』(1948年)、『天路の奈落』(1984年)、『三位一体の神話』(1992年)、『深淵』(2004年)、批評集に『大西巨人文藝論叢』(立風書房、全2巻)、『大西巨人文選』(みすず書房、全4巻)など。

「2017年 『歴史の総合者として』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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