〇 評価
サプライズ ★★★☆☆
熱中度 ★★☆☆☆
インパクト ★★☆☆☆
キャラクター★★★☆☆
読後感 ★★☆☆☆
希少価値 ★☆☆☆☆
総合評価 ★★★☆☆
架空の町,葉崎町を舞台としたシリーズ。ヴィラ・マグノリアという住宅地区で,連続して殺人事件騒ぎが起こる。コージーミステリという体裁をとっている。登場人物が非常に多い。その上,若竹七海の文体は,説明不足というか,無駄な描写がないので,誰が何をしているのか分かりにくい。そのため,冒頭からしばらくは物語に入り込みにくかった。
最初の事件の謎は魅力的。空き家であるヴィラ・マグノリア三号棟の中で,顔と指を潰された身元不明の死体が密室状態で見つかる。この死体の身元がなかなか分からない。密室のトリックは連鎖的なもの。不動産会社がカギを掛け忘れていたこと,死体を運んだロバートが三号棟と八号棟を間違えたこと,三島が裏口のカギを閉めてしまったこと,という三つの出来事が起こったから密室になった。
真相解明のシーンでは伏線が一気に回収される。牧野セリナの夫の自殺が偽装でロバートが夫(南春太)だった。三島芙由の夫は三年前に事故死しており,その死体が南春太の死体として引き取られていた。そして,謎の死体となった陽飛沖が,真相を知って恐喝しに来たと誤解し,隠蔽工作をしたというもの。ミスディレクションとして,鬼頭典子の元彼氏である笹間寿彦を出し,笹間と中里とのトラブルなどを絡める。ここに,松村朱美殺害が加わる。
この作品の魅力は,ヴィラ・マグノリアに住むゆかいな人々,住人と警察の動向だろう。若竹七海特有のユーモアのある文体で,各個人が好き勝手に動くさまはそれなりに楽しい。
それだけでなく,ミステリとしての骨格もしっかりしている。丁寧な伏線とその回収。ただし,トリックはしょぼい。プロットもそれほど凝っていない。
雰囲気を楽しむミステリなのだが,若竹七海らしいシニカルな要素はある。それぞれの登場人物は,双子の子どもも含めて,単なるいい人ではない。無邪気な子どもですらない。最後の南小百合のモノローグもえぐい。実は事故ではなく,殺人でしたと明かさなくても…。単なるコージーミステリとして読むとここでガツンとくる。
もう少し,内容を把握しやすいような文体だったらよかった。このあたりは相性だろう。トリック,プロットがしょぼいこともあって評価としては★3どまり。
冒頭の書き出し部分がイマイチ。いきなり多数の固有名詞などの情報が多数登場し,物語に入り込めない。
〇 メモ
三島芙由
一号棟の住人。公務員。双子の娘(亜矢・麻矢)がいる。裏口のカギを掛け,三号棟を密室にしてしまう。
五代四郎・フジ
二号棟の住人。四郎は引退した中学校校長。四郎は,入院している。五代四郎が倒れて救急車が呼ばれた騒ぎが,三号棟の密室の原因の一つ。
岩崎晃・中里澤哉
四号棟の住人。二人で塾を経営している。
松村健・朱美
五号棟の住人。朱美はトラブルメーカー。松村健は朱美殺しの犯人
入江菖子
六号棟の住人。翻訳家
鬼頭時子・典子
七号棟の親子。典子は鬼頭堂という古本屋経営をしている。典子はミスディレクション。
牧野セリナ
八号棟の住人。謎の死体に隠蔽工作をし,謎を深めてしまう。
伊能渉・圭子夫妻
九号棟の住人。夫は中古自動車の販売会社の社長。圭子にはかつて,不倫が原因で飛行機事故を起こしたという過去がある。渉は花岡みずえと不倫。二人そろってミスディレクション
十勝川レツ
十号棟の住人。猛烈老人
角田港大・弥生
ハードボイルド作家とその妻。実は妻がゴーストライター
南小百合
セリナの元姑。黄金のスープ亭のシェフ。陽飛沖殺害の真犯人
ロバート・サワダ(南春太)
菓子職人。二重国籍を持ち,牧野セリナの夫でもある。南小百合の息子
笹間寿彦
鬼頭典子の元恋人。
三笠六郎,駒時時久,一ツ橋
警察官
児玉剛造・礼子
小島不動産の社長夫婦。婦人は死体を発見する。
花岡みずえ
児玉不動産屋の従業員
陽飛沖
謎の死体の正体。謎の中国人
謎の遺体(陽飛沖)殺害
真犯人は南小百合。南春太(ロバート)と牧野セリナが偽装工作をしたこと,三島が裏口のカギを掛けたことなどが原因で密室殺人になった。
松島朱美殺害
犯人は松島健。母親からの電話などを使ったアリバイ工作
ヴィラ・マグノリアに夫婦を案内した児玉礼子が死体を発見する。十勝川が警察に通報。三笠は3年前の中国人の密航騒ぎを思いだす。死体は顔を潰され,指も潰されていた。
警察による聞き込み。その後,黄金のスープ亭に,ヴィラ・マグノリアの住人が集まる。住人による会話と推理。松村朱美は裏の道である人物を見掛けたといい,現場は密室状態だったので不動産屋が怪しいという話題が出る。
警察による捜査会議。容疑は不動産屋に傾く。
各住民による夜のシーン。
翌日の捜査。警察は児玉剛造の話を聞き,剛造が伊能圭子を脅迫しようとして九号棟を訪れていたことなどを聞く。朱美が盗み聞きしたので,トラブルになる。
警察は伊能圭子に聞き込み。脅迫のことも聞く。三島家の双子が学校でトラブルを起こす。
警察が,黄金のスープ亭とホテルを調査。事件があった夜に東京の出版社の人間(進藤カイ)が急に泊まったことが分かる。
伊能圭子に送られてきた脅迫状,進藤カイという謎の人物など,謎が増える。
警察が角田港大への聞き込み中に,松村朱美が殺害されているとの情報が入る。松村朱美の死体を発見した現場で,警察は十津川レツから,伊能渉が不倫をしていることを知る。
三島芙由への聞き込み。警察の一ツ橋と三島が,高校時代の同級生であることが分かる。三島家の双子の娘から,鬼頭典子が昔付き合っていた男の話を聞く。その男の容貌は最初の被害者に似ていた。
角田港大の妻,弥生への聞き込み。「進藤カイ」という名前が,角田の小説の登場人物の名前であることを知る。
伊能渉は,花岡みずえと不倫をしていた。
鬼頭典子への聞き込み。松村朱美が死亡した時間に,いたずら電話があり,もう少しでアリバイがなくなるところだったという。
一ツ橋が三島芙由と食事をしながら夫のことを聞く。夫は3年前から行方不明。
捜査が続く。松村健は妻の追悼パーティをしようとするし,伊能圭子は行方をくらます。捜査の中で,伊能圭子に脅迫状を出したのが伊能渉だったことが分かる。
警察の捜査で,三島家の双子の子どもが,三号館の裏門のカギの在りかを知っていたことが分かる。
殺人があった日,児玉剛造は,三号館のカギを掛け忘れていた。伊能圭子と昔不倫をしていた機長は既にしんでおり,中里は笹間を台風の日に殴っていた。
松村家のお通夜。角田港大が松村健に推理を披露する。疑われていることに気付いた松村健は角田港大を殴り逃走。最後は車にひかれて捕まる。
三島芙由は,双子が三号館のカギを隠していたことを知っていた。そして,事件のあった日,裏口に鍵を掛けたことを認めた。
三島芙由が警察から疑われていたとき,牧野セリナが最初の殺人の犯人が自分であることを認めた。
真相。松村朱美を殺害したのは松村健。もともと妻を殺害したいと思っていた松村健は,ヴィラ・マグノリアで起こった死体発見騒ぎに乗じて松村朱美を殺害した。母親からの電話や,松村朱美が魚を買おうと玄関にいたことなどを利用してアリバイ工作をした。角田港大の駐車場に車を止めたことなどが原因で発覚
三号館で発見された死体は不法入国の中国人揚飛沖だった。犯人は牧野セリナ。牧野セリナは3年前,夫の自殺を偽装し,保険金をせしめた。実は,ロバート・サワダが牧野セリナの夫である南春太。二重国籍を持っていた。ロバートは,揚が自分を恐喝しに来たと誤解し,事故で頭を打ったロバートをセリナの住む8番館と間違えて3番館に運ぶ。進藤カイと名乗る男がホテルに来たりするなどして,その日は死体を動かせなかった。翌日は五代四郎の心臓発作騒ぎ。セリナは死体の顔と指を潰すなどして騒ぎに加わる。その後,三島芙由が裏口のカギを閉めてしまったので入れなくなる。
3年前,セリナが南春太の死体として引き取った死体は,三島芙由の夫の死体だった。
後日談。三島芙由と警察の一ツ橋はいい感じ。角田弥生は角田港大のゴーストライターだった。中里と鬼頭典子は八号館を買おうとする。
そして,揚殺害の真犯人とこの事件の黒幕は南小百合だったことが最後に分かる。