ジャンプ (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社
3.27
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本棚登録 : 918
レビュー : 120
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334733865

作品紹介・あらすじ

その夜、「僕」は、奇妙な名前の強烈なカクテルを飲んだ。ガールフレンドの南雲みはるは、酩酊した「僕」を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買いに出かけた。「五分で戻ってくるわ」と笑顔を見せて。しかし、彼女はそのまま姿を消してしまった。「僕」は、わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。失踪をテーマに現代女性の「意志」を描き、絶賛を呼んだ傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 「リンゴを買って5分で戻ってくる」と言い残して失踪した彼女の謎の理由を探す物語。

    先の展開が気になって1日で読み切った。

    もしもあのときこうしていれば…
    誰もが経験する、ちょっとした後悔がこの作品の大きな分岐点になる。

    彼女が失踪することになった理由もまた切ない。
    読後もこの小説の世界にしばらく浸れる、素晴らしい作品。

  • 肩透かし食らった気分でエンドマーク。失踪した女性に全然魅力を感じなかった。もっとミステリアスな女性だったら違ったのかも。あっけらかんとしすぎてる。

  • 明日の朝食に食べるリンゴを買いに、「5分で戻るわ」と出かけた彼女は、それっきり帰ってこなかった。

    物語はそんな推理小説風の導入で幕を開ける。
    やがて現れる彼女の姉だという人物とコンビを組んで、主人公による探偵ばりの探索行がはじまる。彼らはあちこちと聞き込みを行い、しだいに彼女の足取りが明らかになっていく、かに見える。
    しかしある時から、一緒に彼女を探していたはずの(彼女の)姉や友人たちが彼を避けるようになる。問いかけても話をはぐらかされるばかり。ちょうどアイリッシュの「消えた花嫁」の主人公のように、彼以外の全員が答えを知っていて彼だけが蚊帳の外に置かれているみたいに。

    そのまま事態は迷宮入りし、5年の月日が過ぎる。そして、答えはある日思いもかけないところでやってくる。思いもかけないかたちで。
    それは、それまでの物語の意味を一瞬にして変えてしまう真実だった。まるでクリスティのミステリーで、犯人は語り手の主人公その人だった、とわかったときみたいに読者は思わずページを繰り、過去の記述を読み返さずにはいられないだろう。主人公とともに。

    だが、そののち真実はしずかに心に着床しはじめる。
    5年の歳月が、別の意味をもって彼の心に降りてくる。

    それにしても、その答えを主人公は聞くべきだったのだろうか。
    彼の人生を一変させてしまうその答えを。

    「知らなければ、知ろうとしなければそれですんだのに」と人は思うかもしれない。
    そう言えば、同じ作者の小説「Y」でも、主人公は何かに衝き動かされるように突き進んだ結果、意外な真相を知る。やはり彼にとっての世界がひっくり返るような事実を。
    だが、いずれの主人公もたぶんそのことを後悔はしていない。彼らは真相を知り、その意味を悟ったとき、それでもそこから新しくはじまる世界を引き受ける決心をする。

    彼らはきっと長い夢を見ていたのだ。
    長い夢のあと人はふたたび目を醒まし、本当の人生を歩きはじめる。それは容赦ない真夏の光の降りそそぐ場所かもしれないが、それでも彼らはそこから歩きはじめる。

    この物語の中でもっとも印象的なのは、小道具として登場するリンゴだ。
    それはまるで主人公の分身であるかのように、物語の冒頭で彼の前から失踪し、物語の途中で消息を現したかと思うと、ラストシーンでまた忽然と現れる。
    あたかも主人公のあてどない探索行の道標であるかのように、それは物語の要所要所に登場する。
    しかし、まるで彼が探していた答えのように、それはずっと彼の近くにあったのだ。思いもかけないかたちで。幸福の青い鳥の物語のように、失われた彼のリンゴは、ずっと毎朝彼の冷蔵庫の中に入っていた。誰かの手によって。

    物語の終幕はこんな風に描かれる。

    「...蝉の声は途絶えることがない。何種類かの鳴き声が折り重なってひとつにまとまり鼓膜を震わせる。僕は片手にリンゴを握りしめたまま待った。真夏の光の降りそそぐ小さな駅の、人影のないプラットホームのベンチに腰かけて、いつやってくるともわからない上り電車を待ち続けた...」

    http://book1216.blogspot.jp/2009/11/blog-post.html

  • 「リンゴを買って五分で戻ってくるわ」と言い残して失踪した彼女。行方を追い始めるが、奇妙な出来事と彼女の関係者に翻弄される「僕」。そして、主人公の「僕」にも彼女に隠している真実があり・・・。
    失踪が自らの意思なのか、それとも事件に巻き込まれたのか?真相が判るまで主人公以上にドキドキする。リンゴなど小道具の使い方も巧みで、小説の真髄を味わえる。

  • リンゴを買いに行ったまま失踪してしまった彼女を捜索するお話。
    恋愛に重要なのは「タイミング」「フィーリング」「ハプニング」だとよく言われるが、本作はその「タイミング」に関しての要素が強いかな。

    佐藤正午作品はこの一作のみしか読んでいないが、いま小説を書かせたらNo.1の実力と言っても過言ではないと思う。女性視点で読むと違和感が残るような気もするが、男の心理描写は抜群に上手い。
    読んでていちいちイライラさせる主人公の優柔不断な部分は、きっと同族嫌悪なのだろう。終始、痛いところを突かれたような感じを抱えながらも、読了。

  • 付き合っていた彼女が突然失踪する。その原因を推理小説風に追跡していく。そうまでして探すほどの彼女のように思えない。明らかに気まぐれ自己中心的な思考の持ち主のように思える。そうまで必要に追跡する執念深さに途中からウンザリした。

  • 初めての佐藤正午。

    お試しと思ってbookoffで108円の棚から見つける。

    彼女がいなくなった…みたい…?
    探すの?ミステリ?犯罪もの?いやいやひたすら彼の心の中の逡巡。で、一月経ち、半年経ち、五年経つ。そうだよな、悶々としたまま生きていくのってどんな気分なんだろう。行方不明ではないことはわかったけれど、その次の悶々は、なぜ自分には連絡がなかったんだろう。半年間のお付き合い期間って微妙だから…。

    でも最後に、
    …え…。

    これはなかなか面白かったです。

  •  だれが何と言おうとこの作品が好きである。
    「リンゴを買って五分で戻ってくる」と言い残し、そのまま消えてしまった恋人を、主人公は血眼になって捜し求める。手がかりらしきものは見つかるが、いずれも決定打にはいたらない。やがて主人公は彼女のことを忘れてゆき、他の女性と結婚する。五年後、全くの偶然から二人は再会し、思いがけない真実が明らかになる――。
     冒頭の一文から引き込まれ、読むのをやめることができない。緻密な描写は実話かと見まごうばかりのリアリティにあふれ、会話のやりとりも絶妙である。全篇を覆うサスペンスタッチの語り口と、最後に待っている意外な哀しい(そして怖い)結末。ラストシーンは何度も読み返し、すでに結末が分かっているのに胸の高鳴りを抑えることができなかった。
     読み終えた後にもう一度冒頭部分を読み返して欲しい。主人公は「これでよかった」と思っているのか、それとも後悔しているのか? 言葉とは裏腹の行動によって主人公の心情を浮き彫りにするのは佐藤正午の得意技である。
    「失踪をテーマに現代女性の意志を描いた…」云々というキャッチコピーは鵜呑みにしない方がいい。そんなものとは関係なく純粋に楽しむことができる恋愛ミステリーであり、間違いなく佐藤正午の最高傑作であろう。もともと純文学出身の作家だけあって、みずみずしい文体にはわざとらしい表現は一つもない。個人的には日本の文学史に残るべきと言い切ってしまいたいくらいの名作である。

  • 主人公の鈍感さに完全に騙され、そのまま読み進めると最後は意外な展開。相変わらず不思議ワールドな作家さんの文章にはユーモアが溢れてる。好きな作家さんの一人。

  • 「Y」に続いて、昔読んだ佐藤正午作品を再読。「Y」も人生という時間の物語だったが、本作も似たところがある(SFではない)。いろんな人の時間が絡み合って、近づいたり離れたりする。それが人生。みたいな。

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著者プロフィール

1955年長崎県佐世保市生まれ。『永遠の1/2』ですばる文学賞、『鳩の撃退法』で山田風太郎賞受賞。おもな著作に『リボルバー』『Y』『ジャンプ』など。

「2016年 『まるまる、フルーツ おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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