江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (740ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334737160

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  • 大正12年4月、月刊誌「新青年」に発表された処女作『二銭銅貨』から、大正14年12月に「映画と探偵」で発表された『接吻』までの最初期の傑作群22作品が、それぞれ〈自作解説〉とともに収録されている。

    『二銭銅貨』をはじめ、『D坂の殺人事件』『屋根裏の散歩者』『人間椅子』と、乱歩初心者のわたしでさえ、タイトルは知っている作品が掲載されており読みごたえがあった。
    特に面白く感じたのは、『二銭銅貨』『黒手組』『盗難』『屋根裏の散歩者』『疑惑』『人間椅子』。
    それでも〈自作解説〉によると、『黒手組』は「あの小説は不出来である。」「探偵劇として成功したものでは無論ない。」と、けんもほろろ。
    『盗難』なんて、『新青年』は専門雑誌だから、やっつけなものは書けない。自ずと他の雑誌のものは力が抜ける。『写真報知』に発表されたこの一篇なども、息休めに属する拙作であるとまで書かれている。おまけに「その癖稿料は『写真報知』の方が高かったのだから、妙なものだ」とひと言添えられてるのだ。あはは、ここまであっけらかんと暴露されても、嫌味なく面白おかしくまとまってしまうのは、乱歩の人柄の良さもあるのだろう。
    そんなこともあって、乱歩先生にとって『新青年』に作品を書かない時は、創作力に自信を失っていることを意味するものであるらしい。
    どちらの作品も面白かったんだけどなあ。

    すべての作品に、このような〈自作解説〉がついているのだから、大変得した気分になる全集なのだ。

    『屋根裏の散歩者』の解説では、「種切れで随分苦しんだ余りの作で、書上げて了った時はペチャンコになってしまって、もう俺は駄目だと悲しんでいたのが、案外好評で、またいい気になって次の小説を書き出した」という思い出が書かれている。ペチャンコになったり、駄目だと悲しむ乱歩って、どんな感じなのかな。先生には悪いのだけれど、想像すると何だか可愛いらしい文豪である。
    明智小五郎にモデルがいたことを初めて知ったのは『D坂の殺人事件』。講釈師の伯龍という方らしい。「誰彼に『いい主人公を作り上げましたね』と云われ、つい引き続いて小五郎物を書くようになった」そうだ。この「つい」とか、『屋根裏の散歩者』での「いい気になって」となるのが、乱歩先生なんだなとニヤリ。
    なかでも思わず吹き出してしまったのは『人間椅子』の解説。
    横溝正史と二人で神戸の町を散歩していたときのことが書かれていた。
    とある家具屋の店先に陳列された、大きな肘掛椅子を見つけ、店の人に椅子の中へ人間が隠れられるのか聞いたという。なんとも茶目っ気のあるお方ではないか。「横溝君はその時分から、私の何というか少々突飛な癖を、蔭ながら恥ずかしがってくれたものである。」の一節が、ふたりの関係を表していて、とても印象に残るものだった。

    今回〈自作解説〉のおかげで、作品だけでなく乱歩自身にもとても魅力を感じ、興味を持つことができた。この全集は30巻もあるから、これからどんな乱歩に出会えるか楽しみだ。数年はかかるだろうけど、気長にぼちぼちと追っかけてみよう。

  • 江戸川乱歩作品、サイコパス的犯行でゾクゾク。何をするのもつまらない郷田。ある日下宿の天井を上り屋根裏を這いまわり、住人の部屋を散歩する。郷田は持ち前の犯罪嗜好癖から殺人を計画する。天井に隙間があり、その真下に住人・遠藤の大いびき。隙間から口の中にモルヒネ液をポトリ。。。遠藤は顔色が白くなり青藍色に変わり、いびきがやみ胸のところが動かなくなり死亡する。警察は完全密室なので自殺で処理するが、明智小五郎は、自殺日に目覚まし時計をセットしするか?というところから郷田の殺人を疑う。明智が郷田に対して罠を仕掛けた!⑤

  • 乱歩の本はいくつか持っているけれど、この全集が一番好き 注が多いし、何より作品ごとに作者のコメントがついてるのがとても良い
    乱歩最初期の作品集で、勢いがある感じ 似たような変態性癖の人が出てくるので、続けて読んでいると、また似たような感じかと思ってしまう
    それでもやっぱり味つけがちょっとずつ違っていて、とても面白い
    探偵小説モノとしては、トリックが複雑すぎたり、無理があったりするけれど、小説ならではのおもしろさという形になっていると感じる

  • 初の江戸川乱歩。
    時代の割に言葉は分かりやすく、短編なので読みやすい。
    江戸川乱歩の世界観にぐんぐん引き込まれる。
    人間椅子と赤い部屋が好きだけど、どんでん返しは何回もされると飽きがきてしまう。

    ビブリア古書堂から興味を持ったが、いい作品を紹介してもらった。

  • まず、本の作りがいい。文庫表紙の手触りや詳細な註と解題。最高に素晴らしいのが全作に自作解説がついている事。

    さすがに作品には出来不出来があるが、こうやって改めてほぼ発表順に読むと、この時期に乱歩のエッセンスが詰まっているのが良くわかる。この文庫のシリーズは全巻揃えたので、敬意を持って読み進めていきたい。

  • 二銭銅貨
    乱歩のデビュー作です。
    推理小説を読み込んでいるだけあって、かなりひねくれたつくりになっています。

    わたしは、どうせ推理ものならストレートな推理ものの方が、よいなぁとちょっと思います。

    一枚の切符
    チェスタートンのブラウン神父をちょっと思い出しました。
    こっちも、「二銭銅貨」と同じく、ひねくれたところがあります。
    ただ、こっちのひねくれかたの方が、性格はいい(意味不明だな)と思ったりしました。

    二癈人
    あとがきの「逆さまトリック」という話が、おもしろかったです。
    でも、ちょっと無理があるかな。こういう無理が、乱歩らしさなので、悪くないです。

    双生児
    初期短編集だけあって、いろんな乱歩の趣味がでています。
    これは、自分が自分を殺してしまうというイメージ先行の変な趣味が出ています。

    D坂の殺人事件
    明智小五郎登場。
    しかし、このトリックは、卑怯な気もします。

    でも、現実的には、こんなもんだろうなぁ。
    不審者は、赤い車に乗って……。

    心理試験
    これは、思い入れのある1編です。
    大学の心理学の講義のときに、あらすじを聞かされて、謎解きの部分をやったことがあります。
    見事だまされて、感心した覚えがあります。
    多分、それが、ファースト江戸川乱歩かな?いや、少年探偵団とかのシリーズは読んでいたか?

    黒手組
    これはまぁ、トリックがバレていたといえばバレていたのですが、爽やかな読後感で、嫌いじゃないですよ。
    あぁ、乱歩の読者は、もっと変な趣味なのを求めたのかも。

    赤い部屋
    このどんでん返しが嫌われたということは、やっぱり、乱歩って、変な小説を求められていたんだなぁと思います。

    日記帳
    うーん、こんな恋愛は、きらいじゃないですけど、それをみて一喜一憂する気持ちは、わからないかも。

    というか、女の子の暗号に気づかないというところが、間抜けすぎです。

    そして、女の子のその後も、ちょっとよめちゃいました。

    算盤が恋を語る話
    同じ秘めた恋愛の話ですが、「日記帳」より、こっちの方が数倍好きです。
    それは、もしかしたら、「算盤が恋を語る話」という題名が、好きというのも大きいかも。

    この恋は、かなって欲しかったなぁ。こんなことする男の人は、けっこう好きかもしれない。
    これほどマメではないのですが、内気なところが自分に通じるような気がするんだと思います。

    幽霊
    それほどつまらない作品とも思えないのですが。
    しかし、ここでペシャンコになっても、後、あれだけの作品を書くんだから、偉大だと思います。

    盗難
    これは、軽快で落語っぽくっておもしろいです。
    肩の力を抜いて伸び伸びと書いた感じです。

    白昼夢
    ミステリーというより、怪談っぽいお話です。
    まあ、ポーとかも、ミステリーとホラーと両方書いていたし、けっこう相性はいいのかも。

    でも、怖さにオカルト的なギミックを使わないところは、乱歩の意地だなぁ。

    指輪
    これは、「白昼夢」というより、「盗難」と同じ落語っぽいお話です。
    これは、これでわたしは好きです。

    夢遊病者の死
    推理するから、間違える?みたいな感じがありますねぇ。
    でも、夢遊病者ネタは、1回使っているので、新鮮みとしては、難しいかも。

    百面相役者
    このあたりの発想が、後のそのものズバリ「怪人百面相」につながっていくんだろうなぁと思うと、なかなか、味わい深いものがあります。

    まあ、嘘オチ、夢オチは、あんまり何回もするもんではないのですが。

    屋根裏の散歩者
    乱歩お得意の退屈さんも、出て来ます。
    さすが、すべてがつまっている初期短編集です。

    しっかし、明智って、ものすごい正義の熱血漢だと思っていたのですが、それって、少年ものだけのイメージだったんですねぇ。

    いや、すごい彼は、自首することすら見抜いていたからそう言ったのかも……。

    一人二役
    まぁ、実は、気づいてなくても、告白されればそう言うだろう……。
    女は、こわい。

    疑惑
    うーん、上手に書いたら「幻の女」みたいな傑作になりそうですが。
    そして、「幻の女」と同じように、後半は、メタラクタラになるという……。

    人間椅子
    これ、ありえなーーいとか思いながら、おしりムズムズしますよねぇ。
    変態の乱歩パワー炸裂という感じです。

    そして、こういうのが、思いっきり受けるその時代って……。

    接吻
    これ、「一人二役」の裏表のような話だなぁ。
    で、結論は、やっぱり女はこわい……。

  • さすが乱歩!
    初期の乱歩作品が沢山入っています。
    一時期ハマりまくって乱歩ばかり読んでいました。
    何と言うか、トリック云々よりも乱歩が描く独特の不思議な雰囲気が好き。

    やはり人間椅子は別格です!

  • すべてに自作解説がついてるのが凄い。
    中には自らズバリ「駄作」と評してるのも(私にとってはそれですら面白かったのですが…)
    あの有名な明智小五郎が初登場する話もあり、暗号やら心理戦やら存分に楽しめる内容です。
    古本屋で偶然手に入れましたが、続きを集めようかなと思案中。

  • 再読。内容はネタバレ含む(覚書のため)。

    ・二銭銅貨
    「南無阿弥陀仏」の暗号。「ゴジャウダン」は傑作だと今でも思う。点字に目をつけたところもなかなか。

    ・一枚の切符
    博士夫人が轢死体で見つかり、殺人容疑で博士が逮捕。重石と飼い犬を使ったトリック。ただ、夫人が本当に「犯人」かどうかはぼやかされている。

    ・恐ろしき錯誤
    火事で妻を失った夫が考えだした、犯人あぶりだしの方法。妻が大事にしていたロケット(実際はそんなもの、そもそもなかった)に各人の顔写真を張り付けておいたものを使い、脅しをかけてみるという手法だった。着想もいいし、オチのつけ方も格好をつけて、珍奇なものにしていないところがまたよし。

    ・二癈人
    夢遊病者と「思わせる」というトリック。当時としては、斬新な発想だったのではないか。

    ・双生児
    一卵性の双子の入れ替わりは古典的だが、このお話のメインテーマは「指紋」。指紋のネガティヴ部分を勘違いして、兄の指紋だと錯誤してしまった。
    2013/01/02追記:この作品のトリックは某有名海外推理小説家の某作品にもある。

    ・D坂の殺人事件
    人間の記憶なんて頼りない、というテーマをもとに書かれた作品。実際のトリックよりも、「私」が、「格子のせいで、見る位置から服の色が違う風に見えた」という推理したことがやたら頭に残ってしまっていた。

    ・心理試験
    蕗屋の人となりがいいね、好み。因みに蕗屋のモデル(というか着想)は『罪と罰』のラスコーリニコフから。駆け引きの過程が好み。

    ・黒手組
    暗号の一面として、糸を使ったトリックに似たきらいがあることが指摘されよう。明智が二組のカップルの月下氷人となった作。しかし、罪作りな娘よ。

    ・赤い部屋
    ブラックユーモアがあって好き。アニメにもなっているが、あれよかやはり原作の雰囲気がいい。

    ・日記帳
    恋を表す方法に、切手を斜めに張るものがあると知ったのはこの作品から。哀愁が漂う。

    ・算盤が恋を語る話
    そろばんを恋文の代わりとして使う男の話。偶然がかくも残酷とは。

    ・幽霊
    明智がまさか登場しているとは。死んでいると思われた人が、実は生きていたという話。戸籍謄本の偽造は今では出来ぬだろう。

    ・盗難
    新興宗教の金庫からまんまと大枚をせしめた盗人の話。

    ・白昼夢
    屍体を屍蝋にした男の話。

    ・指環
    「全く黙殺された」話らしいが、そんなに駄作とも思われない。

    ・夢遊病者の死
    「花氷のトリックは、西洋の作品にも前例がない」と乱歩自身評しているが、類したものなら前例はあるように思われる。また、本作のようなトリック一本槍の話は歓迎されなかったと嘆いているが、本作に限って言えば、そう評されても仕方なかったように思う。夢遊病をテーマにした「二癈人」のほうが着想も筋もいい。

    ・百面相役者
    アイデアは好き。どんでん返しは少々安易。

    ・屋根裏の散歩者
    明智は好きだが、むりくりに登場させなくてもよかったと思う。

    ・一人二役
    しっかりと落とせている。実話が下敷き。

    ・疑惑
    変に凝りすぎて、やや冗長のきらいがある。「無意識」の殺意をテーマにした意欲作。

    ・人間椅子
    大好物。城昌幸氏の「怪奇製造人」につながるものがある。

    ・接吻
    無賃で「やッつけ」で書いた作品。好き勝手やった感じがそこはかとなく出ていて好きである。写真の撮り違えの描写など、若干取ってつけた感じがあって想像しがたかった。

  • 作品発表順になっており、作者の作品の思い出もあり、親切な作り。
    有名な作品がかなり初期からあるので驚きでした

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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