閉ざされた夏 (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334740177

感想・レビュー・書評

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  • 若竹七海の極めて初期の長編。1992年「夏の果て」という題名で発表して第38回江戸川乱歩賞候補になった。文庫ではなく、単行本の感想を述べる。

    冒頭モノローグの後には、完全架空の「新国市高岩清十記念館 高岩公園 パンフレット」の資料が出てきて、次に高岩公園地図と清十記念館間取図、清十旧邸間取図が現れる。‥‥こ、これは新本格推理小説の冒頭の体裁ではないか。それにしてもよく作り込まれた世界だ。清十は有島武郎ぐらいの位置付けの、教科書に載っている完全架空の有名作家として出てくる。こういう作り込みが本格の魅力です。これでそのまま乱歩賞を獲っていたら、若竹七海先生は本格推理の大御所になっていたのだろうか。

    本書は、乱歩賞最終候補作品を加筆・訂正し「閉ざされた夏」と改題して1993年1月に出版された。表紙裏には30歳そこそこの女性が、かなり緊張した趣の著者近影として「将来が期待される大型新人である」と載っている。既に全ての頁が色焼けしていて、最後の頁には図書カードを入れる袋まで付いている。県立図書館はカードで管理していたのだろう。28年前と言うと、もはやそんなにも「閉ざされた」時代なのかと感慨に耽る。

    資料は他にも「特別展企画書」、「企画展パンフレットもくじ」、そして事件にいろいろと影響を与える清十の遺品の数々や遺族の日記などが、さも実在しているかの様に出てくる。図らずも、私の好きな考古学ではないけれども、文学館の学芸員の仕事と生活が、冒頭から1/3ほど使って丁寧に描写される。珍しい学芸員主体の「殺人事件」なのである。

    いや、私は殺人事件など起きずとも博物館や文学館、美術館は、本格推理モノには良い舞台と思うのですよ。学芸員の仕事は日々遺物を巡って果てしない推理合戦をしているようなものでしょう。

    閑話休題。
    新人学芸員の才蔵くんと同居している妹がミステリ作家という設定から、さてはこの妹が探偵役か!とミスリードさせるというなかなか一筋縄ではいかないつくり。犯人の正体も二転三転する。渾身の本格推理である。
    おゝ「期待の大型新人だ」読んで行こう、じゃない‥‥。若竹七海作品を年間10冊は読もうシリーズの4冊目。一応季節を考えて選んでみました。

  • 亡き天才作家高岩青十の文学記念館。
    遺族が邸宅・庭園があった場所を一般に公開して、現在は高岩公園・旧高岩邸・新設した高岩記念館がある敷地だった。
    才蔵は、会社が倒産して新しく高岩記念館に働く事になった。
    学芸員として働き始めたが、記念館で奇妙な放火未遂が相次いで起きた。
    和気あいあいとしていた記念館は一変し、職員たちの言動にもおかしな様子が・・・。
    才蔵は、ミステリ作家である妹の楓と謎を追いかけ始める。
    そんな折り同僚の一人が他殺体として発見された。
    事件を解く鍵は天才作家の過去に・・・。
    果たして二人は、真相にたどり着くのか?

    ユーモラスでいて切なくほろ苦いミステリーです。

  • だいぶ久しぶりの再読。
    葉村晶に出会ってからは、彼女が主人公のものについつい手が伸びて…。
    学芸員の仕事ぶりが読めるのが楽しい。

  • 若くして死去した小説家の記念館に勤める文芸員の話。
    最初は、放火未遂が何回かあり、その後殺人事件までに発展するというもの。


    いろいろ事件は起こるし、職場の人間関係がおかしくなるしで、主人公はなんか疲れてるかんじ。
    殺人事件や放火未遂事件の動機も分かるちゃ分かるけど、なんかもやもやしてしまった。


    2015.6.21 読了

  • 夭逝した作家の文学記念館では、日ごろのんびりしている学芸員たちが、特別展開催にむけて慌しく準備を行っていた。そんな最中、敷地内で放火未遂が起こった。単なるいたずらと思われたが、今度は館内の職員が他殺死体で発見され…。序盤は記念館の日常を描いている性質上、静かでおっとりとした雰囲気の中で物語りは滑り出す。新米学芸員才蔵の視点に、時折不審者(放火犯)の描写、作家の過去などが挟まれて、徐々に不穏な様相を呈し始める。読みながら途中、あれ?なんか変?と気にかかった部分は、全部きちんと後への伏線につながっているので、あとですっきり。私が特に引っかかっていた「物差し!」は最後まで読まないと解らない。はじめのゆったりペースに油断していると、終わりに近づくにしたがって急展開になるのでちょっと戸惑う。何気ない顔を装っていた隣人の意外な裏側が露呈して、(主人公にとっては)苦味のある結末を迎える。こういう苦いところがこの著者の持ち味だなぁと感じた。

  • どうしてこうも切ない、やるせない気持ちになるのに読んでしまうのか。若竹作品を読むとこういう気持ちになることが多い。 夭折した作家の文学館で起こる放火未遂事件に、殺人事件。
    やっぱり若竹作品にはもやもやする人がたくさん出てくる。あの、バイトの子も本当に・・・なんだったら主人公も好きじゃない。けど。学芸員の討論が面白くて、それがのちに事件の重大なヒントになって…被害者も悲しいし、加害者も悲しい。館長にきちんと天罰が下るのか見たかったけど、最高に切ない終わり。 殺した人、死体を動かした人、放火未遂した人、放火した人…悪い、は何をもってなのか。

  • 好きな著者だったので。

    ある作家の文学記念館に勤める主人公。
    出勤時間もまちまちと、のんびりした職場だが、
    先輩たちは個性的でマイペース。
    特別展の準備に忙しい中、放火が発生する…。

    思ったより、作家の過去の暴露があまりなかったし、
    登場人物たちへの思い入れも薄くて、
    全体的に印象が薄い。

    主人公同様、
    ゆるくてスケジュール通りに中々進まない仕事環境にはいらいらしそうだが、
    職場に色々な種類の緑茶だけでなく、
    紅茶も取りそろえられているのはうらやましかった。

  • こういうのは二転三転とは言わないだろうな。一つ謎が解けても、まだ謎は残ってという展開がクライマックスまで続く。それはともかく、個々の謎が軽量級で、大ネタがなく、動機もベタ。ことに被害者の女性の行動に説得力がなさすぎて、なんとなく腑に落ちない。読後感は悪くないけど、キャラの魅力で勝負するような話でもないから、何を目当てに読めばいいかは見つけにくいか。

  • 文学記念館で働く、新入り学芸員とミステリ作家の兄妹。奇妙な放火未遂事件がつづき、とうとう殺人事件が。兄妹が不審なできごとを解いていく。

  • ふんわりとしたミステリー。

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著者プロフィール

東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒。1991年、『ぼくのミステリな日常』でデビュー。2013年、「暗い越流」で第66回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。その他の著書に『心のなかの冷たい何か』『ヴィラ・マグノリアの殺人』『みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない』などがある。コージーミステリーの第一人者として、その作品は高く評価されている。上質な作品を創出する作家だけに、いままで作品は少ないが、受賞以降、もっと執筆を増やすと宣言。若竹作品の魅力にはまった読者の期待に応えられる実力派作家。今後ブレイクを期待出来るミステリ作家のひとり。

「2014年 『製造迷夢 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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