夜と女と毛沢東 (光文社文庫)

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レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334740436

作品紹介・あらすじ

「高名な評論家たちが愚問として封じていた問いを、直接この思想家に発してみた」と辺見庸が踏み出せば、「世界じゅうをとび歩いている冒険旅行家をつかまえて体験談を聞いている面白さ」と応える吉本隆明。毛沢東の私生活からオウム問題、性愛論、臨死体験、さらに人類史の課題まで-。思想界の巨人と行動する芥川賞作家が語りあう比類なき刺激に満ちた対論集。

感想・レビュー・書評

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  • 毛沢東の性生活を語り尽くす一冊かと思いきや、語られるのはオウムや晩期資本制等についてであった。辺見の妙な意気込みと、淡々と語る隆明の対比が面白い。海水浴で溺れ死にそうになった隆明の回想は読み応えあり。

  • 毛沢東の夜と女にまつわる話だと勘違いしてた。毛沢東のお話。夜ということについての話。女ということについての話。3つ別々の話である。夜派と昼派。人間はどちらかにだいたい分かれる。夜は魔物であって。精神の広がりがある。人は夜の闇でしばし憂う。自分のことを考えるのも誰かが眠りについたころである。ボクは昼派である。健康的にはこのほうがいいと思うが目立った刺激がない。夜派だったころが懐かしい。なんだろ。自由な気分を得られた。昼は独り占めできそうな気がしないが夜はなんだか自分だけに許された時間のように思えたからだろう。漱石は女について結局あまりわからなかったのだろうという見解が面白かった。女を心底わかろうなんて男にはできっこない。だいたいの男は女のことを少しづつ知らされてるだけである。こんなことを想うのも夜がふけた静かな時間帯で。

  • そふと的毛沢東キャンペーン中に購入。まだ読んでいない。

  • 「毛沢東」

    ◇辺見 …どうも日本の知識人は、朝貢とまでは言わないまでも、どこか貢ぎ物を持って中国に向かうというか、あらかじめ相手を崇拝しきっているという印象がぬぐえないのです。(p.25)

    ---日本の中国語教育が中共の簡体字・ピンイン一辺倒になったのは、このようなメンタリティと無関係ではないだろう。つまり、国民党政府が台湾に逃げた後、崇めるご本家を共和国にいち早く換えたというわけだ。

    ◇吉本 …しかしどうやら毛沢東は、共産主義者というよりも、歴代の中国皇帝と同じだと考えたほうが正確じゃないですかね。(p.40)

    ◇吉本 …中国には、古代以来の朝貢・冊封体制的な世界観がありますよね。そういう根深い精神的な枠組みは、今も残っているし、これからも残り続けると僕は思う。(p.47)

    ---吉本は、中国はおろか、外国に行ったことがない。それにもかかわらず、日本と中国の異質性をしっかり捉えている、とワタシには思える。今だから、ずいぶん気楽に言える文革否定を、文革中にやっていたのには、まったく脱帽だ。

    中国は、中世世界だというのが、ワタシの経験と学習を経てたどり着いた答えなのだが、対談者二人も指摘するように、ひとつのイメージに集約できないのが、中国だ。

    「夜」

    ◇吉本…夜型のときのほうが精神の範囲が広くて、それこそ善も悪もみんな許容できる。(p.70)

    ---夜というのは、肉体から魂が少しばかり離れるような時間だ。でも、それは煌々と蛍光灯が光る部屋ではなく、夜の闇の中においてなのだ。だから、蛍光灯の中で徹夜したって、疲れるだけなんだよなぁ。

    ◇辺見…一つの事態を多角的に考えてみるという雰囲気、絶対少数の異論にも耳を傾けてみるという空気がほんとになくなったなと思うんです。だから短絡的に言えば、昼派が完全制圧した社会になったのかな、と思うんですけどね。(p.84)

    ---それが昼とか夜とかと関係があるのかはわからない。でも、世間には、少しばかりの「悪」があってもいいかもしれないと思う。健全なだけの社会というのは、非常に狭量な社会でもあるだろう。これこそ正しい、というものには、常に胡散臭さがまとわりついている。

    「女」

    ◇吉本…要するに美男子の書くものは、何と言うのかな、どこかあっさりしているんですよね。(p.172)

    ---やっぱり、美男子は女にモテルがゆえに、そこで、ある意味、解放されちゃっているのね。結局、ものを書くエネルギーって、抑圧された情念(うらみつらみ)じゃないのかな?

    ◇辺見…やっぱり若い層にも<若年性市民主義ファシズム>を感じるんです。ディファレントであることをかなり気にする。異質なものは、芽のうちから摘んでいくような感じ。(p.180)

    ---これはどうか?異分子を排除したがる傾向は、日本社会全体に言えることではないのか?

    「身体と言語」

    ◇吉本…(従軍慰安婦問題について)戦争における人間の本性、事実事態を、けしからんと問題にする議論は間違っていると思うし、そういう観点から教科書記載に賛成か反対かという議論も成り立たない。あくまでもこれは制度の問題であって…(後略)。(p.231)

    ---戦争等極限状況になれば、自分も慰安所に並んだだろうと辺見も言う。そして、それは、ワタシもそうかもしれないのだ。吉本も、辺見も、自分をその状況に放り込まず、高みからの断罪に激しく抵抗する。そういう意味では、「階級の敵」論で、日本国民と戦争責任者とを分かつことも間違っている。差別問題を論じるとき、自己の精神に巣くっている差別感情から目を背けるのも、間違いであろう(ボクは学生時代の一時期、反差別系の運動に参加したことがあった。しかし、ボクはその運動から脱落した。反差別活動家の人にとっては、「差別」は内なるものではなく、外にあるものだったからかもしれない。)。
    吉本は、更に言う。

    ◇吉本…自分が自衛隊の兵隊になれない限りは、防衛力は必要だとか、自衛権はあるんだなんて言うまい、というのが僕の考えなんです。(p.242)

    石原慎太郎は、兵隊になって前線に行く覚悟があるのだろうか?軍備増強を声高に叫ぶ政治家は、自身のことばにどれだけの責任を持ってくれるのだろうか?そして、それは、非武装中立論者にもいえるのだけれど。

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    吉本も辺見も、自分のことばに自分を放り込まない言論の状況に抵抗している。ことばを吐き出す多くの者たちが、自分だけ安全な場所に避難して、他者を断罪する。その状況は、いまも変わらないだろう。

    この対談は、阪神淡路大地震とオウム事件を、エポックメーキングな出来事として扱っている。911についての議論も聞きたいところだ。

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著者プロフィール

1924年、東京・月島生まれ。詩人、文芸批評家、思想家。東京工業大学工学部電気化学科卒業後、工場に勤務しながら詩作や評論活動をつづける。日本の戦後思想に大きな影響を与え「戦後思想界の巨人」と呼ばれる。2012年3月16日逝去。

「2018年 『吉本隆明全集 第16巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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