影を踏まれた女 新装版 怪談コレクション (光文社文庫)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334740689

感想・レビュー・書評

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  • 新聞で取り上げられてたので読んでみた。
    怪談話だけどめちゃめちゃ怖い感じではなかった。映像化されたら面白いかも。

  • 大正時代に編まれた岡本綺堂の『青蛙堂鬼談』から十二篇、同じく『近代異妖編』から三篇を収録した短編集の新装版文庫。岡本綺堂は、捕物帖の嚆矢と言われる『半七捕物帖』で知られる。定評ある時代考証と読み手に優しい筆致で古き日本、特に江戸情緒を描き出す点は、捕物帖も怪談物にも共通する。
    『青蛙堂鬼談』では、雪のちらつく春の一日に、好事家の紳士が自宅で急な会合を催す。好奇心で集まった人々を待ち受けていたのは、家の主人と三本足の竹細工の蝦蟇だ。「青蛙」と呼ばれるいわくありげなこの蝦蟇の前で、客たちは手持ちの怪談をするよう乞われる。百物語に倣ったオーソドックスな手法だ。身の毛がよだつ、といった内容のものはなく、読後に不思議な余韻を残す話が多い。
    青蛙にまつわる伝説『青蛙神』。『利根の渡』は、渡し場で毎日一人の男を捜し続ける座頭の執念が怖い。部屋に掛けた猿の仮面の目が夜ごと光り、悲劇を招く『猿の眼』。『清水の井』『蟹』『一本足の女』『龍馬の池』などは、あやかしに犠牲者として選ばれた者の不運が極まる、一種の不条理譚だ。
    続く『近代異妖編』も、ある語り手が語った怪異という形式を取る。『寺町の竹藪』では、女の子のたったひとつの台詞で全体が怪談となる。表題作『影を踏まれた女』は、影踏み遊びの子供達に影を踏まれて以来、明るい場所に出るのが怖くなった娘、おせきの話。
    彼女は「影を踏まれると悪いことが起こる」と頑なに信じる。怪談そのものというよりは、おせきの強迫神経症的な脅えを怪談という角度から描き出した秀作だ。
    全編、人間心理の描写が生き生きしているため、短い話であっても薄くはない。『利根の渡』で座頭の面倒を見てやる老人の気の良さ。『蛇精』におけるうわばみ退治の名人とその妻の睦まじさ。『影を踏まれた女』では、おせきの許婚が彼女を守ろうとする意気込みが健気。しかし彼らの人情にほだされていると、話は不条理の内に終わったり、酷い結末を迎えるので油断ならない。
    怪異それ自体を動かない縦糸とし、怪異に翻弄される登場人物の右往左往を横糸にして綴られる短編の数々。きっと読み手の心の襞に忍び込む影となるだろう。

  • 怪談短編集。怖いというより、奇怪な感じの話を集めている。

  • モダンな響きの表題作だが、収められているのは古い時代を舞台にした怪談である。現代ホラーでは起承転結の後にダメ押し的なオチがあって怖さを重ねてくるものが多いが、本作では事の顛末が明らかにされずに終わる作品ばかりであり、読者は不可思議な出来事に背筋を凍らせながら不安定な心理状態に置かれたままにされる。非科学的な事象を扱うのであるから明解な結末など本来望むべくもないのだが、この独特の余韻は恐怖心を高める点で効果絶大である。

  •  何度も読み返している、江戸情話溢れる怪談集。私の岡本綺堂歴はここからスタート。手元にある半七文庫風の…。
     江戸の夜、後ろを振り向きざま、の女の図柄の方がよかったと思う。
     (収録内容)
     青蛙神・利根の渡・兄妹の魂・猿の眼・蛇精・清水の井
     窯変・蟹・一本足の女・黄いろい紙・笛塚・龍馬の池
    近代異妖編
     異妖編・月の夜がたり・影を踏まれた女
    解説 都筑道夫

  • 怪談 短編集

  • 青蛙堂鬼談
    「青蛙神」
    「利根の渡」
    「兄弟の魂」
    「猿の眼」
    「蛇精」
    「清水の井戸」
    「窯変」
    「蟹」
    「一本足の女」
    「黄いろい紙」
    「笛塚」
    「龍馬の池」

    近代異妖編
    「異妖編」
    「月の夜がたり」
    「影を踏まれた女」

  • 子供の頃、大人たちがする怪談話はかなりの娯楽だった。そんなことを思い出させてくれる岡本綺堂の怪談集。ストレートな怖さではなく、読後に怖さを覚える粋な短編が多く、読んでいて気持ちが良い。気に入ったのは、妖怪モノの「猿の眼」「一本足の女」。どちらも不思議な事象だけ語られ、結局のところなんだったのかというぼんやりした結末。しかし、ぼんやりさが強い余韻を残している。

  • これはまさにホラーというより怪談。古びた匂いが作品世界を満たす闇をさらに濃くしている。また時々恐ろしいものの正体が明かされないまま終わるのが不気味で、不安を誘う。


  • 《影》

    というのは実に奇怪な、そして不思議なものだ。
    影が浮かび上がらせるその黒い平面はとてもリアルに生きて目に映る。
    岡本綺堂、彼はとてもセンスの良い人だったのではないか、と思う。
    言葉の選び方にとても魅力のある作家ではないかと。
    その証拠にたくさんの付箋が付け加えられ、ありとあらゆる想像の出来る物語が詰まっている。
    青蛙堂奇談ではそうしたものが辺りに立ち込めているのが分かる。
    それは《影》のあった時代を知っている人だからこそ書けるものなのかもしれない。

    現代の社会の影でも人間関係の影でもない、人一人持っているその《影》を書いた彼。
    ぜひ、暗い光のなかで読んで貰いたいものである。

    (2009.01.31)

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著者プロフィール

(おかもと・きどう)1872~1939
東京生まれ。幼少時から父に漢詩を、叔父に英語を学ぶ。中学卒業後、新聞、雑誌の記者として働きながら戯曲の執筆を始め、1902年、岡鬼太郎と合作した『金鯱噂高浪(こがねのしゃちほこうわさのたかなみ)』が初の上演作品となる。1911年、二代目市川左團次のために書いた『修禅寺物語』が出世作となり、以降、『鳥辺山心中』、『番町皿屋敷』など左團次のために七十数篇の戯曲を執筆する。1917年、捕物帳の嚆矢となる「半七捕物帳」を発表、1937年まで68作を書き継ぐ人気シリーズとなる。怪談にも造詣が深く、連作集『三浦老人昔話』、『青蛙堂鬼談』などは、類型を脱した新時代の怪談として評価も高い。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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