白い兎が逃げる (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334741785

作品紹介・あらすじ

ストーカー行為に悩む劇団の看板女優・清水伶奈。彼女を変質者から引き離す計画は成功したはずだった。ところが、ストーカーが兎小屋の裏で死体となって発見される。追いかけていたはずの彼が-。鉄道に絡むトリックを用いた表題作ほか、火村とアリスが挑む3つの事件。ミステリのエッセンスをふんだんに盛り込んだ、これぞ正統派の推理小説。

感想・レビュー・書評

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  • 作家アリスシリーズの4作からなる中編小説。
    大阪がメインで話が進む。
    有栖川氏は作中で女性を大切にする作家さんだなと感じた。

  • 火村とアリスの4つの事件
    通俗アクション作家の双子の弟が殺害されたー不在の証明
    テロ集団に拉致された森下刑事の目前で毒殺された男ー地下室の処刑
    社会評論家の殺人現場に残されたダイイングメッセージー比類のない神々しいような瞬間
    小劇団の看板女優のストーカーが遺体で発見されるー白い兎が逃げる

    どれもたっぷりと読める中編で、じわじわと真実に迫る火村がだんだんと憎たらしくなってくる。
    犯人は悪なんだけど、あまりにもジリジリとくるもんで。
    不在証明をどう崩すのか、動機は何か、ダイイングメッセージの意味は、いろんな要素が絡んでるので、最後までドキドキと楽しかった。

  • 中編集ということだが、本のタイトルと同じ「白い兎が逃げる」はかなりのページ数を割いており、このくらいの厚さの文庫を一冊で出している作家さんもいるから、堂々1冊分の作品と思ってもいいと思う。

    火村とアリスがなんだかんだ話し合いながら事件の真相に近づいていく過程が、やはり楽しい。

    そして、「あなたが犯人です」とビシッと指さす場面はないし、火村が勝ち誇るような描写はない。
    火村の質問やら動向から、犯人が、ああ、もうこの人にはかなわないのだと首を垂れていく終わり方がなんとも敗北感なのだ。
    自分が「やられた!」と思う(喜んでいる)瞬間でもある。


    『不在の証明』
    失業中のひったくり犯が主人公と思いきや、そういう事か。
    双子という事で、途中までは辿り着ける。
    5分やそこらの違いをどう見るか・・・

    『地下室の処刑』
    ドラマで見た記憶があったけれど、肝心のところを丸っと覚えていなかった。
    犯行理由、ものすごく深く腑に落ちた。

    『比類のない神々しいような瞬間』
    これも、ダイイングメッセージを見て「知ってる!」と密かに知ったかぶったのだが、ポイントは別なところにあった。
    犯罪を肯定するのではないけれど、年下の愛人のけなげな執念・・・と感じてしまう。

    『白い兎が逃げる』
    小劇団の看板女優(色白で、どこかうさぎを思わせる)をストーキングするちっぽけな男。
    ドラマなどでもストーカーを見るが、気持ち悪くて怖い。
    この作品はとりわけリアルである。
    犯人の候補者が少ないにも関わらず、たっぷりと楽しめた。
    鉄道トリックも登場して、盛りだくさん。

  • とても濃密な中編集。どれも面白かったです。あと、それぞれのタイトルも良かった。「白い兎が逃げる」は目星ついていたけだ、ちょっとぞっとしつつ、最後の切り上げ方がなんともいえないミステリーらしい余韻に浸らせてくれる。

  • 相変わらず潔癖なアリス。彼の珍推理が火村のためになっていると初めて言葉にしてもらったね。よかった。
    「地下室の処刑」は、シャングリラ久しぶり!ってどきどきしながら読んだ。「おかしい発言」を探して真相の前に読み返してみたんだけど、全然気付かず。なるほどなー。

  • 作家アリスシリーズの中編集。
    4作どれも読み応えあり。
    「地下室の処刑」はホワイダニットの話。
    とても身勝手だけど、なるほどこんな理由もあるのねと感心した。
    大阪府警のはりきりボーイ森下くんが処刑の立会人にされちゃうんだけど、彼を可愛がってる船曳班の仲の良さが出ててそういう場面がみれてほっこりした。いや、話は全然そんなことないんだけど。

    表題作の「白い兎が逃げる」は兎のような雰囲気の舞台女優のストーカーが殺される話。
    アリスのストーカーへの嫌悪と、ストーカーと紙一重のような重たい愛への憧憬が興味深い。
    重たすぎて届かない愛し方に憧れるとか、どんだけ愛し方が歪んでるんだよアリス。
    犯人も被害者もプライド高くて歪んでたけど、アリスも違うベクトルで歪んでると思った。

    話が進むにつれて、被害者と加害者がくるくる回って、だれが敵かがわからなくなる。
    珍しく誰が動機を持っていたかから推理が展開していって面白かった。

  • 作家アリスシリーズの短編集。
    本作品はどの話もこれまでの短編集に輪をかけて面白かった。
    単純な話に終わらない工夫が見られたからかも。
    火村は確かに優秀だけど、ちゃんと情報収集して考えて真相に辿り着くのが人間らしくて好き。どこぞやの「それだけの情報でそこまで分かる??」みたいな人じゃないところが好き。
    あと今回も当然のようにアリスに同行させるの好き。
    毎回的外れな迷推理を恥ずかしげもなく披露するアリスのメンタルの強さも好き(笑)。

    ・不在の証明…スリがたまたま犯罪現場付近に潜んでいてその目撃情報が事件解決の鍵になる話。
    目撃されたはずの容疑者に揺るぎないアリバイがあって、その容疑者が一卵性双生児だったら、必然的に目撃されたのは双子の片割れってことになるのに(たとえそれが被害者でも)、誰もそう言い出さないことにモヤッとした。
    現場の上の階の女性が怪しそうと勝手に考えてたけど、外れた(笑)。

    ・地下室の処刑…シャングリラ十字軍って聞き覚えがあると思ったら『暗い宿』に出てきてるらしい(覚えてない)。
    アルマーニ森下が指名手配中のシャングリラ十字軍メンバーに拉致される。アジトに拘束された森下の目の前で、メンバーの一人の銃処刑が行われる。実は処刑は狂言だったがそうと知らないターゲットは最期にワインを所望し、それに仕込まれた毒で命を落とす。何故殺される間際の人間をわざわざ毒殺したのか、それとも処刑が狂言で終わると困る者の仕業か。
    ホワイダニットな、動機の解明によって犯人が絞られる展開が面白かった。過激なテロ集団なのに、私刑に銃の弾を入れてなかったり、森下を殺さずに解放したり、ちょっとメンバーの行動原理が理解できなかったけど、毒殺の動機は面白く読んだ。

    ・比類ない神々しいような瞬間…これは凄く練られた美しい構成だった。一番好きかも。死の瞬間の咄嗟の行動=ダイイング・メッセージを扱ったクイーン作品のアリス評に始まって、まさにダイイング・メッセージの残された事件が発生し、第二の殺人の被害者がダイイング・メッセージ代わりに握りしめた千円札が本人の意図しない形で犯人を追い詰める。上手い。
    最初のダイイング・メッセージは図を見てすぐに源氏香だと思った(諳では書けないけど)んだけど、単に知識の問題でしかないので、多分有栖川さんもピンと来る人がいることを想定して書き進めている。そして「これは何か」ではなく「なぜこんな万人に伝わらない手段を選んだのか」を問う。理由もすごく腑に落ちるものだったし、源氏香だと分かっちゃっても尚面白かった。
    まぁ、千円札はポケットに入ってたんだから、握りしめて死ななくても犯行日が割り出されるのは時間の問題だっただろう。造幣局は大阪にあるから、この時事ネタは大阪人にはより響いたのかもしれない。ていうか、千円札が漱石だった時代を経験してる人間で良かった(笑)。
    アリスと火村のくだけたやりとりを頁数を惜しむことなく挿入してくれたのも、嬉しい。ありがとう有栖川さん。

    ・白い兎が逃げる…有栖川さんは時々小劇団を題材にする。世代的に劇団全盛期かな。野田や鴻上や三谷さんと同年代だもんね。
    時刻表モノの変型と言っていいだろう。ちょっといろんな設定を強引に詰め込み過ぎな感がした。そんな優雅な暮らしをしてる日本画家なんてよほどの著名人だけだぞ、とかモヤッとした(笑)。
    看板女優の清水伶奈が蜂谷と名乗るファンにストーカーされていることを団員に相談する冒頭のシーンは、ストーカーに対する男女の捉え方の違いがよく表れてて不快(笑)。
    脚本家の亀井は、ストーカ一にひと泡吹かせるゲームを思い付く。蜂谷に伶奈の北海道行きの偽情報を流し、当日伶奈の後を追わせて、伶奈は北海道に行くと見せかけて関空で引き返し、亀井の相続した鳥取の別宅に隠れる、というもの。しかしその当日、伶奈に釣られて付いてきていたはずの蜂谷が殺されていたことが、後日分かる。
    このゲームと称された一案が、実はストーカー被害に対して何の根本的な解決にもなってなくて、どれだけ実行する意味があるだろうか。も一度読んだほうがいいかも。
    色白で白い服を好む玲奈は作中で兎に例えられ、殺人犯であろう亀井とでウサギとカメになぞらえて、当日ストーカーに化けていたに違いない亀井がいつ伶奈を追い抜き鳥取で出迎える格好ができたか、ってところが読みどころなんだけど、伶奈が書こうとしていた脚本が不思議の国のアリスを踏まえたものだったので、どちらかというとアリスに出てくる兎を連想した。鳥取=白兎海岸=兎、という繋がりも登場させてて、かえってどれも半端な感じ。つまり、ここらへんのエピソードをごそっと取り除いたほうがウサギとカメに集中できたかも。
    亀井は別件の女子専門学校生殺害こそ指紋残したせいで言い逃れできなそうだけど、蜂谷殺しは例えアリバイが崩れてもしらばっくれれば有罪になるような証拠がなさそう。ていうか、行きずりのヒトをカッとなって殺しちゃうようなタイプの人なら、伊能真亜子が亀井の誘いに乗ってたらヤバかったに違いない。
    あと、変にアリバイ工作を作り込み過ぎるとボロが出るから、自分がそんなことする立場になったら注意しようと思った(笑)。
    やっぱりも一度読むべきかも。

  •  火村・アリスコンビが四つの事件に挑む短編集。

     証言とロジックで攻める正統派推理小説でありながら、単にそれに終わらず真相が明かされるにつれ、意外な動機や展開が用意されてる作品が多く楽しめました。

     表題作の「白い兎が逃げる」は時刻表が絡んでくる中編。視点の変え方が見事だったということと、事件を巡る意外な展開が楽しめ時刻表トリックはあまりなじみのない自分も楽しく読むことができました。

    「地下室の処刑」は森下刑事がテロ組織”シャングリラ教団”に監禁されその目の前で起こった毒殺事件を推理するというもの。

     フーダニットとワイダニットがしっかりと結実した佳作です。意外な動機がとても面白く感じました。あとがきで”シャングリラ教団”と火村の対決がいずれあるかも、とあるのでぜひ長編でお願いしたいところ。

    「比類のない神々しいような瞬間」はダイイングメッセージもの。最近のダイイングメッセージものの事情が分かるほかにも、タイトルとラストの結び付け方がオシャレで印象的でした。

  • 今まで読んだ火村シリーズの短編で一番好きかも。表題の話、トリックなかなか凝ってた。

  • 文章にも登場人物の行動にもストレスを覚えることなく
    肝心のトリックも「なるほどー」と楽しませてもらえました。
    トリックの中には知識がないとどうしようもないものが
    あるので「自分も謎解きを!」と臨むより、小説の中の
    世界を楽しむのが正しいのかなと思います。

    関西人なので地名になじみがあるのもうれしいです。
    東京が舞台のものは薄ぼんやりと位置関係がわかるだけか
    それすらわからない事も多いので省いて読んでいますが、
    梅田のナビオの前とか書かれていると映像がきちんと頭の
    中に浮かぶのでよりリアリティが増します。

    リラックスしつつしっかり楽しめるミステリって
    そんなにないと思うのですが、私の中ではクリスティの
    短編集と同じカテゴリに入れたいと思える一冊でした。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。89年「月光ゲーム」でデビュー。「マレー鉄道の謎」で日本推理作家協会賞を受賞。「本格ミステリ作家クラブ」初代会長。著書に「暗い宿」「ジュリエットの悲鳴」「朱色の研究」「絶叫城殺人事件」など多数。

「2023年 『濱地健三郎の幽たる事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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