夕萩心中 (光文社文庫 れ 3-5)

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  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334742676

感想・レビュー・書評

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  • 期待していた連城三紀彦さんらしさを味わい、そして今までの連城三紀彦さんのイメージを覆される……。まったく正反対の感覚を味わった一冊でした。

    収録作品は6編。個人的に連城作品のイメージと言えば、美しい叙情的な文章。レトロなロマン漂う作品の時代設定。恋情と哀感の交差するストーリー。そしてミステリの切れ味となってくるけれど、前半の3編がまさにそのイメージ通りの作品。

    それもそのはずで、最初に収録されている「花緋文字」、表題作の「夕荻心中」、そして「菊の塵」は、同著者の名作『戻り川心中』の系譜を継いでいます。

    「戻り川心中」収録の5編とこの「夕荻心中」の3編は、一冊に納められていた版もあるらしく、これらは総称して花葬シリーズと呼ばれています。
    そう考えると、作品の雰囲気の近さにも納得できるし、耽美な作風や色香を漂わせる文章も素晴らしいの一言に尽きる。

    特に「花緋文字」はミステリとして読み終えたときの衝撃もすさまじかった。うかつに他の作品の名前を出すとネタバレになるから書けないけど、昔読んだある傑作を彷彿とさせる。

    美しさの中に隠された悪意が一気に噴出したときの、クラクラする感覚。そしてその悪意すらも、黒ずんでいるけれども、美しく思わせてしまう。そんな作品の雰囲気にも酔いました。

    後半に収録されているのが「ひだまり課事件簿」という連作短編。大手新聞社の中で閑職に追いやられたひだまり課の面々が活躍するユーモアミステリです。

    前半に収録されている花葬シリーズとの落差がすさまじい(笑)
    連城三紀彦さんってこういう作品もあったのか、とちょっと意外な気持ちになります。

    キャラクターたちのとぼけた会話や個性、ストーリーの雰囲気など、出来が悪いわけではないけれど、前半と後半の作品のテンションが違いすぎて、ちょっと波に乗れませんでした。描写や会話も今の時代から見ると、ちょっと古くささが目についてしまった部分があります。

    ひだまり課が悪いというわけではないけれど、花葬シリーズを一冊でまとめて読んでいたとしたら、その時の感動と衝撃はとんでもないものだっただろうな、とも思ってしまいました。

  • 〈花葬〉シリーズの男女の情感の縺れと、「陽だまり課事件簿」の軽妙ながらもハードボイルドを思わせる台詞回しのカッコ良さ。

  • 『戻り川心中』に続く花葬シリーズ三作。明治大正の情緒ある背景に女の気迫や美しさがよく映え、息を潜めて眺めていたくなる。特に表題作は哀切に満ち、儚く花びらを散らすように生きた女の愛と執念を感じた。最期のとき、夕はどんな気持ちだったのだろうと思いを馳せる。
    後半に収録のユーモアミステリ連作はガラッと作風が違い驚くのだが、陽だまり課の連中のキャラクターが良く微笑ましく読んだ。

  • 連城作品はどれも素晴らしいが、
    やっぱり花葬シリーズのクオリティは
    頭一つ抜けてる。
    美しい筆致と引き込まれる物語。
    おまけに予想外のオチまで
    用意されている。
    ずっと読み続けていたい作品だった。
    残念ながらこの3編で花葬シリーズは
    全て読み終えた事になる。残念。

    取って付けたように余白を埋めた
    陽だまり課事件簿という連作短編は、
    前の3編とあまりに雰囲気が異なり、
    一冊に収録されるのは
    ちょっと無理があるように感じた。
    この連作短編もユーモラスで
    面白いのは間違いないのだけど。

  • ミステリ短編集。やはり耽美でロマンチックな印象が強いです。だけど案外とどろどろして邪悪な真相……それでも美しい雰囲気は壊されていないので、やっぱり素敵だなあ。
    お気に入りは「花緋文字」。この真相はある意味とんでもなくショックでした。まさかそんなこと、思いもしなかった……。
    「陽だまり課事件簿」も面白かった。前半の作品とうって変わってスラップスティックな感じが意外でした。

  • 花葬シリーズの、何とも言えない文章の湿り気!
    花緋文字の、最後の驚き!
    それにしても、花葬シリーズは、なぜ1冊にまとまっていないのか?

  • “花葬”シリーズの三作品は読者をうっちゃることに精魂を傾けたような出来で、そのためのネタ振りでしかない、前段部分の完成度が異様に高すぎることに、もはや笑ってしまう。結局ネタばらし部分で底が抜けてしまうだけの話を、よくもまあここまで彫琢できるものだ。職人芸の世界だけれど、オチの仕掛けそのものは多少強引な感じが否めないようにも思う。多分、オチの鮮やかさは二の次なんでしょうね。

  • 表題作を含む<花葬>シリーズの三篇に連作短編<陽だまり課事件簿>を併録した復刻版。同じシリーズとはいえ「戻り川心中」に収録された五篇とは少々毛色が異なる印象。この三篇が収録されなかった理由もその辺りにありそうだ。私怨の政治的利用という表題作の傾向は長編作の「敗北への凱旋」に受け継がれているが、歴史や国家といった大義的な飛躍をすると、個人の人間ドラマが置き去りになってしまうので、私はあまり好きになれない。物語のスケール感が小さかろうが、連城氏の艶やかでしっとりした文体は【個の情念】にこそ適している気がする。

  • 2020/08/12

  • 内容(「BOOK」データベースより)

    時は明治末期。政府重鎮の妻君・但馬夕とその家の書生・御萩慎之介との情死事件は起きた。現世では成就できない愛を来世に託した二人の行為を、世人は「夕萩心中」ともて囃したが、その裏には驚くべき真実が隠されていた…。日本ミステリ史を美しく彩る“花葬”シリーズ三作品に、ユーモア・ミステリの傑作連作「陽だまり課事件簿」を併録。流麗なる連城“世界”に酔う。

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著者プロフィール

連城三紀彦
一九四八年愛知県生まれ。早稲田大学卒業。七八年に『変調二人羽織』で「幻影城」新人賞に入選しデビュー。八一年『戻り川心中』で日本推理作家協会賞、八四年『宵待草夜情』で吉川英治文学新人賞、同年『恋文』で直木賞を受賞。九六年には『隠れ菊』で柴田錬三郎賞を受賞。二〇一三年十月死去。一四年、日本ミステリー文学大賞特別賞を受賞。

「2022年 『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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