オイディプス症候群 下 (光文社文庫 か 30-4)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334745097

感想・レビュー・書評

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  • 書いてるとちゅう

    下巻も前半の方はやはり議論が多い。
    しかし途中から怒涛の展開で、新事実や、犯人との対決の場面ではアクション?シーンのように緊迫した状況が続き、ミステリとして第一級品であると思う。
    さらに巻末の解説には、カケルの現象学的な見地・見解は、そのまま著者自身の思想的立場に基づいたものであるという。残念ながら正直なところ、カケルのいう現象学的推理法の独自性は十全に理解できるものではなかった。しかしそれはそれとして、弁証法的な(たぶん、何でも内に取り込んで分析し安易に善悪を二項対立させるようなもの)立場と、現象学的な認識のあり方であると思われる「直観」、その相克を何らか表そうと試みていることはわかった。現象学、哲学についてさらに理解がないと、この作品をもっと俯瞰的な視点で理解するのは難しいと思う。

    一方で、著者の思想的主張を盛り込み、カケルたちに語らせる必要があったのか、という疑問もある。
    例えば比較して良いものか分からないが、石持浅海さんの小説では、同じく登場人物同士の議論のパートが多く挿入されるにしても、その内容は作中でまさに起こっている事件についての解釈を互いに議論しているもの。ミステリではその方が盛り上がるのは間違いないのだが、本作でもそのような場面は皆無ではないにしろ、特に前半〜中盤にかけて事件そのものとは関係ない議論の応酬が多い。

    しかし、著者はもちろんあえてこうした哲学的議論をミステリに取り込んでいるのだろう。カケルの現象学的な見地からは、ミステリそのものに対してもメタ的に批評することができる。巻末解説にあったように、直観による推理法は、ミステリそのものに対しての自己批判的なものなのだろうか。
    まだ、理解が十分ではない気がする。
    一度もう少し哲学を勉強して、再度「哲学者の密室」などに挑戦するのが良いのかもしれない。

  • このミス ベスト10 2003年版10位。1,600枚の大作だけどほとんどが「弁証法」に対する批判的考察とギリシャ神話に関するうんちく。一応、嵐の山荘ものの本格ミステリーだけど、全く頭に入ってこない難解な文書を、延々と目で追い続けるという罰ゲーム的作業でした。京極さんの妖怪や宗教に関する膨大なうんちくなどかわいくものです。巻末の解説も全く意味わからんのだけど少なくとも解説の人は本書の内容を理解してるもよう。このミスの選者も理解できてんのかいな。

  • いや~重厚かつ濃厚な作品でした。現代思想関係の書物は割と読んでいた方なので合間合間の哲学の思考実験は楽しく読めましたが、その手の文章に慣れていない読者は壁へきするかもしれませんね。でも推理ものとしての出来栄えも上々。超人的な探偵ではなく途中で何度も仮説の検証と変更を余儀なくされる論理の流れは読むものを巻き込んでいきます。

  • 推理小説という次元を超えた何かだ。こいつは。

    性犯罪にあった子供の復讐へのもっていき方が特に美しい。もちろん、それだけじゃなくて、イリノイの暗躍とかもいい具合に入り乱れていた。

    十推仙に入りそうで、入らない。

  • 中学生の頃、大好きだった駆シリーズ。
    十年ぶりに販売されたのに気づいておらず、先日ようやく読んだ私。
    男の趣味が変わったのだと痛感しました。
    いわゆるインテリ系の男が好きだった私。
    駆のような細身でクールで賢い男が昔は好きでした。
    でも、時が経つにつれ徐々に趣味が変わっていったのは認めます。
    そして現在の趣味はガチムチマッチョ男子です。
    例えるならば、プロレスラーの蝶野。

    そんな私だからかもしれませんが、駆の魅力に今ひとつ入り込めませんでした。
    駆シリーズを再度、読み直したら違うのかもしれませんが。

  • 硬派な本格ミステリを読むのは実に久しぶりなこともあって、非常に楽しめました。
    周囲から隔絶した孤島を舞台にした連続殺人、ギリシア神話の見立て、など手あかのついたお膳立てではありますが、矢吹駆シリーズならではの思想家(今作はフーコーがモデル)との対決や現象学的推理などは健在です。
    孤島を舞台にしたミステリにしてはサスペンス色は薄めで、目の前で連続殺人が発生しているのに登場人物たちがひたすら冷静に議論を重ねるのは不自然ではないかと思いましたが、これも持ち味なのでしょう。
    複雑極まりないプロットですが、最後の謎解きは綺麗にうまくまとまっていて読後感は不思議とすっきりしています。

  •  No.33「長門有希の100冊」
     上巻のレビューで、謎の日本人青年矢吹駆に注目していると書いてはみたが、期待していたほどの活躍はなく。推理小説にありがちな全員殺されてから、偉そうに謎解きを披露する。

     殺人動機が希薄な推理小説はがっかりするが「長門有希の100冊」 の中では感情移入できるほどに動機はしっかりしている。それについては異論はないのだが、事件を深く掘り下げる講釈には途中、げんなりさせられる。楽しめない部分はそれらがストレートに伝わらないところである。読者は置いてけぼりの感が否めない。

  • ギリシャ神話の勉強になるね

  • ■生きるための議論か、あるいは死ぬためか

    「牛首島」の不思議な建造物・ダイダロス館に集ったのは、ナディア・モガールと矢吹駆を含む十人の男女だった。島を襲った嵐のため、孤立化する島の中で死体が発見される。その死体に施された装飾の意味は?謎が謎を呼ぶ中、次々と殺されていく訪問客…。はたして彼らがここを訪れた真の意味とは!?

    第3回本格ミステリ大賞

  • 矢吹駆シリーズ

    事件の翌朝発見されたマドック博士の遺体。絞殺され転落した遺体の秘密。オイディプス症候群の研究の為に招かれた人々。謎のマリユス・マルボー。島の持ち主アレクザンダー氏の妻イレーネ・ベロニアスの過去と息子ポールの誘拐強姦事件とオイディプス症候群の関係。アメリカのゲイ社会に流行したオイディプス症候群。島の捜索中に水中銃で射殺されたソーニャ・ラーソンとデリンジャー。元刑事ポッツ氏の殺害。ザイールのオイディプス症候群の発生時キャンプを訪れた謎の男女の正体。ニコライ・イリイチ・モルチャノフの暗躍。コンスタンとイリイチの関係と決別。

     2009年12月9日購入

     2011年5月20日読了

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著者プロフィール

作家・評論家。1948年東京生まれ。
79年『バイバイ、エンジェル』でデビュー。98年編著『本格ミステリの現在』で第51回日本推理作家協会賞評論その他の部門を受賞。2003年『オイディプス症候群』と『探偵小説論序論』で第3回本格ミステリ大賞小説部門と評論・研究部門を受賞。主な著作に『哲学者の密室』『例外社会』『例外状態の道化師ジョーカー』他多数。

「2024年 『自伝的革命論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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