独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社
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レビュー : 196
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334745264

作品紹介・あらすじ

タクシー運転手である主人に長年仕えた一冊の道路地図帖。彼が語る、主人とその息子のおぞましい所行を端正な文体で綴り、日本推理作家協会賞を受賞した表題作。学校でいじめられ、家庭では義父の暴力に晒される少女が、絶望の果てに連続殺人鬼に救いを求める「無垢の祈り」。限りなく残酷でいて、静謐な美しさを湛える、ホラー小説史に燦然と輝く奇跡の作品集。

感想・レビュー・書評

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  •  8編収録の短編集。

     今回も平山節炸裂の短編集。でも、この手のスプラッタものを読んでもグロさや痛さをあまり感じなくなってきたあたり、自分も相当マヒしてきたんだなあ、と思う今日この頃。高校時代は、平山さんの作品は評判だけで「ゲテモノだ」と毛嫌いしていたのに、どこで道を踏み外したのか……

     そうしたグロさの中でも、なぜか文学的美しさを醸し出しているのが、平山さんの特徴です。今回も暴力、汚物、殺人といろいろありますが、短編の語り口がなぜか、そうしたものを高尚なものに昇華してしまったりもします。

    「C10H14N2(ニコチン)と少年―乞食と老婆」は「~です。~でした」といった童話のような語り口から、いじめを受ける少年と、社会から迫害を受ける老人の交流を描いた作品。

     人間の負の面を真正面から描きつつも、そこから離れた少年と老人の美しくも儚い交流……かと思いきや(苦笑)

     一片も救いが残らない結末は、ある意味「見事!」としか言いようがないです。

    「Ω(オメガ)の聖餐」は死体を食べる巨大な人間と、それを世話する男の話。

     描写がまたド汚い話ですが(褒め言葉です)、オメガが話す内容は、どこか深遠さすら感じさせます。オメガ曰く、人間の脳を食べると、その知識や経験が徐々に自分の中に取り込まれていくらしく、そこからでる言葉はなぜか、高尚さを感じます。オメガのたどる道も、なぜか神が召されたような神々しさすら感じさせます。

    「無垢の祈り」は学校ではいじめられ、家では義父の虐待を受ける少女の話。

     救いのなさがずっと続く中でのラストシーン。それが本当に救いなのかどうか分からないのですが、どこか不思議な安心感と、これもまた神々しさを感じさせるものでした。

    「すまじき熱帯」は18年ぶりに再会した父親と共に、大金のため未開の地に住む元ヤクザを殺しにいく男の話。

     いろいろ笑わされた作品です。主人公がその土地の外国語が聞き取れないわけですが、それが空耳で日本語のように聞こえてきます。その内容がまあ、ひどい(苦笑)。そして、話の展開もめちゃくちゃ(笑)。親父がまさかの告白をした時は唖然となり、そして笑ってしまいました。なんだか笑ってしまったことが悔しくも感じます。

     表題作の「独白するユニバーサル横メルカトル」の語り手は地図。執事のような丁寧な語り口や、他の地図やカーナビとの関係性など、地図が本当に感情を持っているかのような語りの細やかさ。それと比して語られる、地図の持ち主の行為のおぞましさもまた印象的。

    「怪物のような顔(フェース)の女と溶けた時計のような頭(おつむ)の男」は、拷問のプロフェッショナルの男と、彼に拷問される女の話。

     これもまた、痛そうな凄惨な描写が続きます。そんな拷問を受けてまで彼女が追い求めたものとは?

     キャラの強烈さ、拷問の描写の痛さに加え、二人のやり取り、どこかせつなさを感じる結末と、まさに平山さんらしさを感じさせる短編でした。

     ディストピアSFの世界観を感じさせる「オペラントの肖像」と羊たちの沈黙を思わせる殺人者と、女性警官が登場する「卵男(エッグマン)」。どちらも思わぬどんでん返しのある佳作です。

     この短編集の魅力は、クソな現実や社会、人間の悪の面を、凄惨な描写や話の救いの無さでコーティングすることで、ある意味中和していることだと思います。

     そして、こうした描写によって、より物語のそれぞれの輝きや神々しさ、切なさを際立たせているのが、また平山さんの凄いところ。

     万人には薦められないですが(苦笑)、でもはまったら抜け出せない魅力がある作品です。

    第59回日本推理作家協会賞短編部門「独白するユニバーサル横メルカトル」
    2007年版このミステリーがすごい!1位

  • ホラーというか、鬼畜系小説。

    この作者の余すところない言葉の美学が、
    はてしない鬼畜描写によって、孤高の輝きを持つことになった短編作品集。

    読書を、スイーツなど片手にゆったりしたあたたかい部屋で
    ふわふわのホームウエアにつつまれながら、
    ぬくぬくとした宵の優しい時間の添え物程度に楽しむ善良な人には
    禁書となりうる描写多数です。
    一般的な読書を楽しむ人にも、寝入りばなの一冊に本書を選ぶと、
    最初はトンでもなく脈略のない夢が始まって、
    そのうちスプラッタ系の映像が結ばれる可能性があるのでは…。

    良識はどういうもので、常識がどういうもので、
    世間一般の嗜好がどういうものであるかを少なくとも網羅したと思われる
    御仁が本書を嗜むのなら、
    想像の壁が取り払われて、人間の脳みそと良心とが解放され、
    果てしない享楽の世界を一瞬でも垣間見れる、悪魔の書。

    血塗られた翼を白くすることはできないが、
    飛べない代物にはならない使い道を選べる賢さを持った大人への良書。

  •  まあ、何というか、そりゃ、気持ち悪いですよ。私自身は嫌いじゃないですけれどね、こういうの。けど最初の『ニコチンと少年-乞食と老婆』でノックアウトされて後は放棄する、というのは勿体ない気がします。
     順番があるからには順番通りに読むべきだ、というのが持論ではありますが、やはり出来るだけ多くの話を読んでもらいたいから二つ目の『Ωの聖餐』から読むこともおすすめしたいです。題材自体は一番えぐいけれど、内容としては一番美しい。表題作の『独白するユニバーサル横メルカトル』もおすすめ。

     まあ、でも、気持ち悪いよなあ・・・。

  • タイトルと表紙に惹かれた。
    ミステリーというよりサイコホラーかな、

    全8編からなる短編集、特に好きなのが
    「ニコチンと少年」
    気持ち悪く笑える
    あそこが2つに裂けているって不思議。

    「無垢の祈り」
    可哀そうで怒り心頭
    少女を救う怪物に感謝した。

    他、すべて刺激的な作品で読みやすい。

    お勧め。

  • 深いエグみが美味しい短編集、確かにこれは脳内麻薬が出るわ出るわ。据えた臓物のグロテスクが満ちているのに漂う気品が憎い。

  • グロい。きつい。でもやめられない…
    からっとしたグロさ、と言うか。でも最後の短編の拷問はきつかった…でも読んでしまうから困る。

    “オペラントの肖像”と“Ωの聖餐”が印象に残った。
    表題作も面白くてよかった。

    けど再読は…気力があるときにしか読めないかな…

  • 残酷さと静謐さと狂気にユーモアでペダンティックな描写、今まで読んでなかったのが勿体無い。『Ωの聖餐』がいちばん好きだった。『オペラントの肖像』『卵男』も好き。文章とリズムが本当に素晴らしい。ジャンルはバラバラでも特有の文体で語られる不気味でどこか静謐で繊細な表現は惹き込まれる。

  • 2016年は3の倍数月は再読月間に当てます。よって、コレも再読なので、カウントはしません。

    久しぶりの平山夢明作品。短編、八編収録。

    少年の視点から、作文のように書かれた「C10H14N2(ニコチン)と少年──乞食と老婆」。

    汚物と腐臭まみれの「Ωの聖餐」。

    虐待とイジメの二重苦にあえぐ「ふみ」の「無垢の祈り」。

    平山流SFミステリーその①「オペラントの肖像」。

    平山流SFミステリーその②「卵男」。

    言葉遊び満載、コメディー感もある不条理系「すまじき熱帯」。

    表題作は、まさかの道路地図の一人語り「独白するユニバーサル横メルカトル」。

    お得意のスプラッターな拷問描写「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」。

    実に作者らしいモノから、少し毛色が異なるかなというモノまで。内容も、文体もヴァラエティーに富んだ、八編。

    再読を経ての個人的なお気に入りは「Ωの聖餐」、「無垢の祈り」、「独白する~」以下、省略の順。

    公序良俗を尊び、善人な外面(そとづら)の方々には、決してオススメはいたしませんけれど……。

  • マジで色々入ってる短編集
    平山先生はSFになるとリリカルな雰囲気がただようのが好き。
    勿論お馴染みのエグいやつも入ってるよ。

  • 残虐なシーンの多いホラー小説で、とても面白かった。

    特に「Ωの聖餐」「卵男」「すまじき熱帯」の三編はキャラクターが魅力的で、とても印象に残った。魅力的なキャラクターとは、オメガ、エッグマンにカレン、ドブロクのことであるが、彼らは残虐なシーンばかりの小説の中で癒しになっていた思う。

    「オペラントの肖像」については、心理学を勉強していたこともあり、個人的にとても印象に残った。オペラント条件付けによってレバーを押し続ける囚人は、面白いキャラクターorシーンだと思った。

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著者プロフィール

ひらやま・ゆめあき
1961年、神奈川県生まれ。デルモンテ平山名義で、映画・ビデオ批評から執筆活動をスタートし、1996年、『SINKER―沈むもの』で小説家としてデビュー。2006年、短編「独白するユニバーサル横メルカトル」で、第59回日本推理作家協会賞を受賞。また、同作を表題作とした短編集は、2007年版「このミステリーがすごい!」で1位を獲得。2010年、『ダイナー』で第31回吉川英治文学新人賞候補、第28回日本冒険小説協会大賞、翌2011年に第13回大藪春彦賞を受賞。近著に『或るろくでなしの死』『暗くて静かでロックな娘(チャンネー)』『こめかみ草紙 歪み』『デブを捨てに』『ヤギより上、猿より下』などがある。

「2017年 『大江戸怪談どたんばたん(土壇場譚) 魂豆腐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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