- Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334747145
感想・レビュー・書評
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「変調二人羽織」は、二十代の頃に読んだはずなのだが、幸いにも殆ど内容を覚えていなかったため、改めて新鮮な気持ちで楽しめました。
それにしても、トリックの意外性と無数にある丁寧な伏線は、毎度毎度、素晴らしいと思ってしまう。表題作にしても、本当に巧妙に入っているので、これは見逃してしまう。円葉のしくじりとか、百人一首とか、なんか緩いんだよね、とか。今読んでも、全く色褪せない推理小説だと思いますし、連城さんの場合、文体や情感の濃さもあるので、それがまた独特の哀愁を醸し出していて好きです。オープニングの鶴の描写なんか、秋に読むと本当に泣くかもしれない。
ただ、「ある東京の扉」は、いかにもな昭和の陰の匂いをプンプンさせている胡散臭さがあるけれど、実は、これが一番好きかもしれない。ツッコまれる度に、こじつけに近いような訂正で提供されるストーリーに、阿呆らしく思いながらも、実は天才なのかもと思ってきて、楽しくなってきた自分を発見しました。結末も良いです。
そして、好きとは別に、最も印象に残ったのが、「依子の日記」。トリックは今の時代だとオーソドックスなのかもしれないが、それを知る前と知った後とで、また異なる女性の哀しさとやるせなさを実感させられる作りが素晴らしいのと、愛の形って、人それぞれに異なるものなんだろうけど、「竣太郎」の場合はどうなんだろう。それは違うと言いたいけれど、そうかもと思ってしまう、連城さんの物語の説得力のようなものは感じました。ただ、彼を男として見るとどうかと問われると、私の価値観だと違うと思う。でも、彼のそうした愛(あるいは狂気)を理解する人もいるし、愛に正しいとか、正しくないとか無いのかもしれないけれど・・個人的にはトリックよりも、そうしたことを悶々と考え出してしまい止まらない。果たして怖いのは、愛なのか、人間なのか?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『誤って薄墨でも滴り落ちたかのようにゆっくり夜へ滲み始めた空を、その鶴は、寒風に揺れる一片の雪にも似て、白く、柔らかく、然しあくまで潔癖なひと筋の直線をひきながら、軈て何処へともなく飛び去ったのだと言う』
ミステリ史に残る書き出しといえば、ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』。あの洒落た雰囲気とリズムも忘れ難いですが、連城三紀彦の『変調二人羽織』の書き出しも初読時に、その美しさにボーっとなりました。作中の時間が大晦日の話で、おりしも作品と同じ時期に、寒い部屋で読んだのも良かったのかもしれない。
収録作品は5編。先に書いたように表題作の「変調二人羽織」は、冒頭の美しい書き出しからつかまれました。二人羽織の演目を披露している最中に、何かで刺されて死んだ落語家の破鶴。
『最近の社会派推理小説で矢鱈、登場するリアリズム刑事そのものの風体をした』中年刑事の亀山こと亀さんは、かつての相棒の宇佐木に事件の手紙を送りつつ、推理をめぐらせる。
タイトルに「変調」と冠するだけあって、展開がもうとにかく捻りに捻る。不可解な犯行現場と、消えた凶器。そしていずれも動機を持った不審な容疑者たちといかにも本格ミステリ的なお膳立て。
『最近の社会派推理小説で矢鱈、登場するリアリズム刑事そのものの風体をした』亀山刑事が、そんな本格ミステリ的な事件に挑み、推理を組み立てていくのは、当時のミステリの潮流に対するシニカルさや遊び心を感じさせる。
亀山刑事の推理がどんどんすごい方向に転がっていったときは「どこが社会派・リアリズム刑事やねん!」と、思わずツッコミそうになった(笑)
連城さんといえば、美しい文章とどこかほの暗いイメージがあったのですが「ある東京の扉」は、そのイメージとは少し違った作品。編集者の下にやってきた男は、ミステリー小説の構想を買ってほしいと持ちかけるが……
編集者からの注文やツッコミを受けつつも、飄々と、そして思い付きのままに事件や設定を崩し、作り変えていく男。そのやり取りも可笑しいし、ネタ自体もどんどん暴走していく感じも楽しかった。
男は一見適当に事件を作っているようなのですが、ところどころで教養や詩情を感じさせる部分もあり、そこはやはり連城さんの味かなあ、という感じ。ラストのオチもなかなか痛快。
「依子の日記」は日記形式で綴られるミステリ。
仕掛けもさることながら、日記内の男女の情念や愛憎の描き方の迫力が、なんとも凄まじい短編でした。先日読んだ土屋隆夫作品もそうだけど、この時代のミステリ作家の愛憎の描き方の迫力は、今の作家の作品とは一味違う感じがする……
『戻り川心中』以来、久々の連城作品だったけど、文章の美しさや作品の余情はもちろんのこと、本格ミステリの遊び心も存分に感じられる作品集でした。
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初期の本格ミステリを5編収録した短編集。
どの作品も論理と叙情を両立させたクオリティの高い短編です。
物語の着地点を予想させない、読み手の意表をつくテクニックが群を抜いていて、犯人当てを楽しむよりもただただ作者の描く豊饒な物語を堪能するばかりでした。
心に残ったのは表題作「変調二人羽織」と「六花の印」の2作。
まずは「変調二人羽織」。
東京の夜空に珍しく一羽の鶴が舞った夜、一人の落語家・伊呂八亭破鶴が殺された。
舞台となった密室にいたのはいずれも破鶴に恨みを抱く関係者ばかり。捜査で続々と発覚する新事実。そして、衝撃の真相は―。
出だしから絵画を観るような、格調高い文学的な香りのする文章に引き込まれます。
何気ない描写にも全てに必然性があり、魅力的な謎と人間ドラマが有機的に結びついているのが素晴らしい。
「六花の印」。
明治時代と現代を交互に描いた物語。
夫に呼び戻される名家の妻を駅に出迎えた人力車の車夫と、アメリカから帰国した男を出迎えたお抱え運転手。
車夫と運転手は、彼女と彼が拳銃を隠し持っていることに気づき…。
過去と現在を行き来する流れに最初は戸惑いますが、行き来するたびに次第に増幅される緊張感がスリル満点。
最後には二つの話が合流するのだろうと予想はつきますが、やはり予想の上をいく鮮やかな真相に感服。
夫人が一瞬見せた緋色の布に包まれた拳銃や雪の中をポツポツと舞う提灯行列の光など、幻想的なまでに美しい情景が印象的でした。
巧みなトリックに騙されながらめくるめく美文を味わえるという、なんとも贅沢な時間を過ごすことができました。 -
初期の短編集。記憶をたどると未読だということがわかり、意外と新鮮な気持ちで読めた。連城ミステリの特徴は、特殊な作品構成と、読者の想像もつかない結末の意外性にある。そこに情緒豊かな描写が加わり、艶と鋭さが調合された唯一無二の作品に昇華する。
あとがきに作者は自身のミステリ事始めについて、「ミステリはどれを読んでも犯人がすぐにわかってしまうので退屈だ」と語って死んだ父の一言で、「それなら父が読んでも犯人のわからぬ推理小説を書いてみよう」と書いている。その思いが反映された初期の作品はどれもこれも個性的。トリッキーでバカミスと紙一重のトリックもあるが、卓越した文章力に酔わされて、ほろ酔い気分のまま面白く読了してしまうのが憎いのよね。
圧巻は『六花の印』。後の「花葬シリーズ」にも繋がる仄暗い色香と殺意に縁どられた第一級の本格ミステリで、因縁を紡ぐ皮肉なラストまで素晴らしい。
初期の作品での未読が結構ありそうなので、翻訳ミステリに胸焼けした時にでも読もうかな。 -
どれもこれもトリックが凝りすぎていて私には合いませんでした……『戻り川心中』は面白かったんですけどね……
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今まで読んだ連城三紀彦作品の中でも一番好みの話が揃ってたかも。依子の日記はじわじわきますね。各々の思惑や感情が同じ方向ではなく、そういった要素がさらに異常さを引き立てたと言うか。何作か読んでるのでこれでは終わらないだろうと思いながら読むのだけど、結局、さらに斜め上の結末で驚かされる。そうしたお話の構成も素晴らしいのだけど、連城作品はどれも文が濡れている。情感溢れる文学作品としても推したい。
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2021/03/03
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「依子の日記」を読むのは2度目だったが、やはり、よい話を読んだ、という気分になった。
連城作品には、様々な男女の愛憎が描かれるが、ここまで心乱れる愛情や憎しみは、なかなか現実の世界では生まれてこない。小説ならではの醍醐味を味わうことができた。