- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334747244
感想・レビュー・書評
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読書中、カラダ中が痛くなる小説。
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「テロルの創世」
本体に何かあった時のために、クローンの子供しかいない街。親は政治犯罪をした人がなる。メインとなる種族はリュミエールと呼ばれ、クローンはオンブルと呼ばれる。
平山作品は無国籍感がどの小説でもある。だけど、独自の進化を遂げた未来が舞台の作品は多くはない。短編の名手だけあって小技が効いている。
捕まった殺人鬼はリュミエールの偉い人の子なのでオンブルの子供を殺しても大して罪にはならない。
オンブルの親は子が使われると、次の街に移って行く。街の番号は1から5まであって、五巡街にいる人たちは度重なる子との別れで精神に異常をきたしている人が多い。
主人公の巳影は、殺された女の子のリュミエールに会いに行く。その人は、もう疲れたと言って、逝ってしまった。巳影は自分のリュミエールに会いに行くことにする。少年漫画みたいでワクワクする終わりだ。
「Necksucker Blues]
顔の焼けただれた男は、あるバーの女、ブルーに血を吸われる。それは陶酔感があって気持ちが良い。だけど女は、あるデブ男の血が最高だという。男はデブを殺して血を作り上げるレシピをもらう。そのレシピには断食をして、スパイスとハーブの効いた食事をして、ゴキブリを生で食べて、赤子の血を吸う書いてある。それを実践した男は完璧な血となってブルーの元に現れる。ブルーは男が動けなくなるまで血を吸った。その後ろから殺したはずのデブが出てきた。デブは食人鬼で男を食うために全てを行なっていたのだった。店の名前は山猫亭。
短い話で平山夢明版の、注文の多い料理店。本当に嫌なことを書くのが得意だ。
「けだもの」
テオの父は狼男。父は死を望んでいるが、テオはなかなか銃を撃てない。娘が死んでテオは父に犯人を探してくれと依頼した。犯人は刑事でテオも父も返り討ちに会うが、テオは父の心臓を食べて狼男になって刑事を殺した。
ファンタジーな話が出てきて驚いた。バラエティ豊かな短編集だ。
「枷 コード」
男は顕現と呼ぶ現象を求めていた。ある女を拷問して殺した時に電球が光った。その顕現の成果を集めている。フォークが曲がったり、レンガが飛んできたり、服が燃えたりと顕現の種類はたくさんある。
男は誰彼構わず殺さないようにルールを決めていた。それはレコード屋から聞いたコレクターの話。コレクターとは病気のようなものなので、ハワイアンとかジャズとかジャンルでコレクションすると金が持たない。なので、これは良いとか、これは買わなくてもいいとかを決める。だが、枷は一度はめると外せなくて、ルールに合ったものは絶対に買わないといられない精神状態になる。男が決めた枷は、関わっている芝居と同様の装飾品を身につけて、13歳から29歳で、ヒロインが唱えるセリフを一文でもいいので言う事。
男は義理の娘と帰っていると、娘がその枷にハマることを言った。装飾品もつけていた。娘で顕現を発生させようとするが何も起こらなかった。その後に演劇の練習をしていると、耳が落ちて、家に帰る頃には四肢と耳鼻が無くなっていて、女たちに見せてきた鏡の前で自分の姿を見ている。虫が湧いていて死んでいることも理解しているが、ただそれだけ。娘は見事に顕現を発生させた。
コレクターの例えを殺人鬼に当てはめるのは面白い。男が行っている演劇の練習で、演出家が言う殺人鬼の話が定型文で、そのような物事とは違う男の殺人理由との対比が滑稽。
ドロヘドロ的世界観を感じたので林田球に漫画化してほしい。
「それでもお前は俺のハニー」
エミの家には一階から二階まで大量の黒電話が置いてある。死んだ息子からの電話を待っているそうだ。だがその音は聞こえるものには聞こえないので耳を潰した。
日本は高齢化社会というが、主人公も50歳を超えていて年齢が高い。だけどテンションも高い。エミは見た目は80歳というが実際もそれくらいなのだろうか。その年でヤリまくって体売るのは健康的な日本人だ。
ずっと鳴る電話に辟易して、男が自分で耳を刺す。エミと同じになって逃げ出して暮らす。これは純愛だ。
「或る彼岸の接近」
50歳も超えて会社をクビになった。安い家を探していると一軒家が見つかり住んだ。その家の庭には墓みたいな石が積んである。
男はタクシー運転手として働き出したが、新しい家に引っ越してきてから妻の調子が悪い。逆十字架を飾ったり、健康に良いからと変な食事を作ったり、ヨーイチという人形を買ってきたりと変わった行動が目立った。
ある日タクシーを走らせていると変わった客を至るとことで乗せた。どの客も自分の家の裏に降りて行く。家の中には入れずに家の窓を見ると、妻が異形の者どもに囲まれて息子を殺そうとしていた。庭の墓からホースが蠕動していて刺すと家の中に入れた。家に入ると何ごともなくて、仕事に戻ると妻が息子を殺したと連絡をしてきた。妻が殺したのはヨーイチだったが、妻の中では息子を殺したことになっているので、病院に見舞いにくる息子のことも分からない。男は家族で行った公園の油彩を、いつも妻に渡す。
何かが変化している怖さがある。ヨーイチの位置が冷静に見ると入れ替わっていたりする。変化は確かにあるのだが登場人物は気づかない。怖い。
妻がつぶやいていた、フタグンとかを聞くとクトゥルフっぽい。
「ミサイルマン」
暇つぶしをするように人を殺す、男とシゲ。いつも残酷に殺して弄んで山に捨ててしまう。あるデブ女を殺して埋めるが、鳥が掘り出したのか女の顔が木に引っかかっててニュースになる。シゲは女に財布を盗まれたので、ぐずぐずになっている女の元に行って漁る。その時からシゲの手が荒れてきて、これは呪いだと言う。呪い返しをしようと、また女の元に行くと、頭の変な旦那と猫がいた。シゲを呪った人形を奪おうとして、みんな車に轢かれた。男はシゲの言う通りに、ボディを車に乗せて南に向かった。
男が河川敷で遭遇したのはキリストだとシゲは言った。その時にはハデスと聞こえたと言う。二人の行動は聖書に関連するものかもしれないが思いつかない。パッと見はソドムとゴモラの住人だけど。
ラストの南に行くところは青春小説って感じがする。全体的には時計仕掛けのオレンジかな。
男とシゲはミサイルマンの歌詞の通りに、何か食いたかったんだろう。それが殺しなのかは分からないけど、とりあえず破壊しているのが気持ちがよかったのかもしれない。あまり理由を説明しないのが良い。 -
『人を喰うモノたちの物語』
個人的にはこの本には、面白いけれど、良くも悪くもあっさりとしていて、食い足りない、あと一押し欲しかった本という感想を持ちました。
構成としてはSF的だったりホラー的な物語を7編集めた短編集です。
内容としてはグロテスクな物が多いのですが、物語内ではそれが当然の事のようにあっさりと書かれている物が多く、あまりグロテスクには感じない不思議な作風です。
個人的に面白かったのは「枷」、好きなのは「それでもおまえは俺のハニー」「或る彼岸の接近」です。
「枷」では主人公の拘りの為の作業が(良い意味で)おぞましい所が、「それでもおまえは俺のハニー」では駄目な人間が自分なりに突っ走る所が、「或る彼岸の接近」では弱さを持つ人間なりに最後まで思いやる所が、それぞれに印象に残りました。
全体の感想としては、この本に収められている短編はインパクトのある環境設定に変わり者ながらも感情を持つ登場人物を置いてショッキングな出来事を展開させており面白い短編集でした。
しかし、短編であるからなのか、それとも作風からなのか、衝撃的な出来事が展開されても余韻が少なくあっさりと終わるといった印象を感じました。
総じて面白いだけに、個人的にはもう一押し欲しかったという感想です。 -
『鬼畜系』というものらしいです。
生理的嫌悪感があるグロさ。
でも意外と心理的ダメージのあるエグさはない。
気持ち悪さがそれほど後を引かないのです。
どの話も物語の終わりには何だか爽快感すらあります。
不思議な感覚ですね。
グロをエンタメした作品集です。 -
平山夢明先生、連読み、とりあえずのラスト作品。
『独白する~』は☆4に近い3。『ミサイルマン』は☆2.7とか2.8の3。単体で好きなのは「枷」「それでもおまえは俺のハニー」。相変わらずの鬼畜系(笑)にホラー、SF…と今作も作風様々。
『独白する~』と読む順番が、逆だったら、印象が変わっていたかもしれない。また、この本に関しては、順番を無視し、ランダムに読みすすめたので、感じ方も変わったのかな?
後日、頭~流して再読してみるか…。 -
“鬼畜系”作家・平山氏の初体験本。まさに鬼畜。矢鱈とディティールにこだわる人体破壊は、その風景だけでなく、音や匂いまで詳細に伝えてくる(伝わってくる)。まさに鬼畜。
でもなんだろ、これだけ人でなしのキチガイ話なのに、読み進めていくにつれ、妙に気分が研ぎ澄まされていく。不思議なくらい心地好い読後感。この感覚は初めて。そしてクセになる。
その鬼畜っぷりがいかんなく発揮される「枷(コード)」や表題作「ミサイルマン」もいいが、オープニングを飾る「テロルの創世」は短編SFとしても秀逸。グロ描写苦手な方でも読めるので、まずはここから鬼畜系を始めてみませんか。 -
よく分かんないな~と頭を捻りながら読んだけどこれはよく分からなくていいやつだと思いました。
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平山作品としては比較的グロ描写がマイルドなので電車の中とかで読みやすい。
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平山夢明は、"生理的にイヤな話を書かせたら日本で三指に入る小説家"なんだそうです(解説より)。もう本当に気持ち悪い。小説の悪いところは、描写を わりとリアルに想像してしまうことですね。この作品の強烈な描写を、私の脳は律儀に映像変換してくれて、参りました。まぁ、そうと判っていて読んだんだから、ある意味 充分楽しんだ ということでしょう。