なぜ絵版師に頼まなかったのか (光文社文庫 き 12-6)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 34
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  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334748531

感想・レビュー・書評

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  • 明治初期の、お雇い外国人・ベルツを題材にした物語。
    連作短編ですが、狂言回しは一人の少年。

    その少年の13歳から23歳までの約10年を追いかけた、
    当時の世俗をネタにしたミステリーとなっています。

    さすがにベルツの性格などは後付けと思いますが、
    江戸から明治へと移りゆく様子が垣間見えるのも、面白く。

    ラスト、続きがあるような終わり方ですが、、
    それが書かれることは永久にないのが、なんとも残念です。

  • 各章のタイトルは著名ミステリのもじりということだったので、ちょっと調べてみました。

    1.『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? 』 アガサ・クリスティ
    2.『九マイルは遠すぎる』 ハリイ・ケメルマン
    3.『人形はなぜ殺される』 高木彬光
    4.『白昼夢』 江戸川乱歩
    5.『羊たちの沈黙』 トマス ハリス

    1.と2.と5.は調べるまでもありませんでしたが、3.と4.は知らない作品でした。(4.はちょっと苦しいので間違っているかも)

    昔、『エイリアン通り』という漫画(成田美名子 作)を読んだとき、章題が映画のもじりだと気がついて、躍起になって元ネタを調べたことを思い出しました。

  • 葛城冬馬、十三歳。明治元年生まれの髷頭の少年は、東京大學医学部教授・ベルツ宅の給仕として働くことになった。古式ゆかしき日本と日本酒をこよなく愛する教授は、比類なき名探偵でもあった。米国人水夫殺害事件、活き人形が歩き出す快事……数々の難事件を、冬馬の調査をもとに鮮やかに解決してゆく。史実を絶妙に織り交ぜながら綴る、傑作ミステリー!
    (2008年)

  • 3

  • タイトルを見た時に、アガサ・クリスティへの
    オマージュか?と思ったのですが、どうやら色んな作家さんの
    有名な作品名をもじっただけのようです。でも面白い(^◇^;)
    「なぜ絵版師(えはんし)に頼まなかったのか」
    「九枚目は多すぎる」「人形はなぜ生かされる」
    「紅葉夢(こうようむ)」「執事たちの沈黙」の5編を収録。
    明治のお雇い外国人として東京帝大で医学を教えたベルツと、
    その弟子となった葛城冬馬たちが遭遇する数々の事件を描いた
    軽めな時代ミステリですね。
    シリーズ化している他の作品のようなミステリを
    連想してはいけません。
    カバーイラストからもわかるように軽い内容なので
    箸休めにちょうどいいと思います。

  • おもしろかった☆江戸時代から御一新があり、その直後の明治初期のお話。その時代の実在の人物がチラホラ出てきており、その史実もちょっと調べたりしてなかなか興味深い作品です☆キャラもなかなか魅力的な人物で主人公の冬馬はもちろん、大酒飲みのベルツ先生やコロコロ名前が変わる歌之氶さんも好きになりました☆表題の、なぜ絵版師に…が良かった!なんとなく、世にも奇妙な物語チックなとこが好きです。続編はないんでしょうね…作者さんは随分お若くして亡くなっていたのでびっくりしました。

  • おじがいるのに天涯孤独にされてしまった主人公。
    日本大好きな医学部教授の元に奉公する事に。

    5話の連続短編で、小さかった主人公は
    最後には二十歳過ぎた大学生に。
    不思議な話であったり、医学に関係する話であったり。

    最初の話は、地味な仕返し、とも言えます。
    2話目はそこまでして持って帰って
    植民地にしたかったのか、と。
    3話目は落ちの頑張る気持ちは分かりますが
    その後の事を考えると、大変なものがあるかと。
    ちょっともやっとするのが4話目ですが
    この時代を考えると、こうなる事も。
    そして最後の5話目は…忠誠心というのは
    すごいものだな、と。

    そしてすべてに関連して、主人公の友人(?)は
    結局きちんと長続きする職が持てたのでしょうか?
    お金には困ってなさそうに生活しているので
    あまり心配する必要はないかも?w

  • 明治時代、いいなぁ。実在の人物に重ねて物語を紡ぐなんて、すごく自由な発想。そんで、面白い。面白いよ。

  • 〇 概要
     明治政府に招かれた雇われ外国人の一人,エルウィン・フォン・ベルツのもとで給仕として働き始めた葛城冬馬の成長と,冬馬とベルツが遭遇した事件が描かれた短編ミステリ。

    〇 総合評価 ★★★☆☆
     小説巧者の北森鴻らしく,5つの短編のそれぞれが,史実と虚構をおりまぜ,読み応えのある作品になっている。ミステリとしては,それほど完成度が高くないが,ベルツを始めとしたお抱え外国人たちは個性的。各作品で名前を変える市川歌之丞も非常に魅力的なキャラクターとして描かれている。主人公の葛城冬馬も十分魅力的。なにより,史実がうまく虚構に織り交ぜられており,ある程度の日本史の知識があれば,聞いたことがある歴史的事実,偉人(ビゴー,フェノロサ,岩倉具視,井上馨など)が出ており,これも結構楽しい。最後の終わり方が唐突なのが残念。葛城冬馬が主人公の描かれていない話があるのかもしれない。全体を通じた趣向が用意されていたのかもしれない。傑作というほどの作品ではないが,北森鴻らしい安定した作品。

    〇 なぜ絵版師に頼まなかったのか
     ベルツと冬馬の出会いとなる作品。ここで,シリーズを通じ,名前と職業を変えながら出てくる市川歌之丞とも出会うことになる。「なぜ絵版師に頼まなかったのか」という言葉を残して,殺人をし,自殺した水夫。その真相を探る。真相は,外国人に復讐をするために,水夫が一緒に写真を撮った「コレラ」であるとウソをついて,そのウソが発端となって,恐怖を感じ,殺人と自殺をしたというもの。不平等条約の存在が背後にある。

    〇 九杯目は多すぎる
     求婚広告に秘められた謎がテーマとなる作品。お雇い外国人のフェノロサが登場する。市川歌之丞は市川扇翁という名で,古美術商として登場している。真相は,海外に,日本の「地図」を運び出すために,求婚広告は利用されていた。しかし,その地図は偽の地図だった。フェノロサは,地図が運び出されているという事実だけを見て,日本が近いうちに外国に侵略されると考え,美術品を海外に運び出していたというオチ。

    〇 人形はなぜ生かされる
     市川扇翁は小山田奇妙斎という名前で登場。れおな堂多弁児という人形作家が作った人形が,町を徘徊するという謎が描かれる。真相は,人形のモデルとなった人間を,人形のように見せかけ徘徊させていたというもの。動機は,れおな堂が自分の子供に見せかけた人形を殺害し,徴兵逃れをしようとしていたというもの。背景には,日本の徴兵制度が変わったことがあった。

    〇 紅葉夢
     小山田奇妙斎は鵬凛という住職として登場。お抱え外国人としては,ビゴーが登場する。小梅という芸妓が殺害される。真相は,おたかという芸妓。外務卿の井上馨の結核の薬を毒にすり替えておき,小梅に飲ませたという真相。井上馨の部屋に毒があったことが広まるのを恐れた紅葉館のマダムが死体の場所を変えたことにより,おたかにはアリバイができたというもの。ビゴーが犯行現場を見事な絵で再現したことで真相が分かった。

    〇 執事たちの沈黙
     お抱え外国人としてはスクリバが登場。鵬凛は,仮名垣魯人という名で登場し,作中で葛城頓馬と名を変える。東京大学内で火災が発生し,謎の死体が見つかる。洋装に下駄をはいていたこの死体の正体は誰かという謎。真相は死体がどこかに忍びこもうとしていたと見せかけたかったというもの。東大に遺棄したのは正確に解剖してもらうため。謎の死体は,森有礼の家の執事であり,密偵だった男で,正体がばれ殺害されていたのだ。物語の最後は,葛城頓馬が語る。その口調は,葛城冬馬が死んでしまったかのような口調であった。

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著者プロフィール

1961年山口県生まれ。駒澤大学文学部歴史学科卒業。’95 年『狂乱廿四孝』で第6回鮎川 哲也賞を受賞しデビュー。’99 年『花の下にて春死なむ』(本書)で第 52 回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門を受賞した。他の著書に、本書と『花の下にて春死なむ』『桜宵』『螢坂』の〈香菜里屋〉シリーズ、骨董を舞台にした〈旗師・冬狐堂〉シリーズ 、民俗学をテーマとした〈蓮丈那智フィールドファイル〉シリーズなど多数。2010 年 1月逝去。

「2021年 『香菜里屋を知っていますか 香菜里屋シリーズ4〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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