ヴェネツィアに死す (光文社古典新訳文庫 Aマ 1-1)

  • 光文社
3.34
  • (15)
  • (32)
  • (53)
  • (12)
  • (5)
本棚登録 : 363
感想 : 49
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (166ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751241

作品紹介・あらすじ

高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて…。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『ヴェニスに死す』の古称で有名。
    というよりヴェネツィアを採用しているのはこの訳だけらしい。
    『ノルウェイの森』は未読だが、笠井潔御大の『魔の山の殺人』刊行時に備えてサブテキストたる『魔の山』はいずれ読まねばならず、手始めに選んだ初トーマス・マンがこれである。
    マーラー「大地の歌」はかの現象学探偵も好んで口ずさむところであり、その意味ではもっと早く読んでおいても良かったか。
    旅行先のヴェネツィアにて偶然目にした美少年が忘れられず、密かにコレラが蔓延する中、立ち去ることができない老作家の最期を描く中編小説。

    追記:読書メーターの感想の中に「マンのショーペンハウアー/ニーチェからの影響がとても顕著で、これを読んでから『悲劇の誕生』を読めば中学生でも何言ってるか分かると思う」という記述を見つけ、ハッとなった。

  • 【本の内容】
    高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。

    美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。

    おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて…。

    [ 目次 ]


    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 主人公が予想の100倍ぐらいキモくて最高!勝手に「ロリータ」のような雰囲気の作品だと思い込んでいたがそんなことはなかった。主人公は完璧なる美の体現者たる異国の少年への一方的な愛に身を焦がし、会話さえすることなく街をさ迷って死んでいく。そこにギリシア神話、歪な登場人物、病んだヴェネツィアの空気といった様々なモチーフが混じりあって迷宮的な読み心地を演出している。予想を裏切る面白さでした。

  • 人生で一番難しい本な気がする……
    正直途中わけわからんくなりながら、ページ進めてた(´・ω・`)
    しかし、トーマス・マン研究の方の授業で『魔の山』のレポートを一ページも読まずに書いて提出した自分を思い出してしまい、若いとは何と恥知らずで痛々しいことか……(人生で一番反省してます)

  • 先に映画「ベニスに死す」を見て、完璧な映像の中に織り込まれた美的命題の想像以上の深さに、ヴィスコンティ監督が読んだ原作がどんなものでそこに書かれている言葉をどうやってあそこまで的確な映像に落とし込んだかが知りたくなって読みました。

    マンの文章はちょっと飾りが多い印象も受けましたが、老作家の悶える心情や、感情の滲み出る表情など、細かな描写がはっとさせられるような巧みな表現で綴られており、すぐに付箋だらけにしてしまいました(私は読書中、好きな描写があると付箋を貼る癖がある)。

    でも、読めば読むほど、繊細な表現に充ちるとともに、答えのない抽象的主題に貫かれたこの世界観をできるだけ忠実に再現しながらも、原作にはないシーンや人物を盛り込んだりしながら、完璧な映像作品に仕上げたヴィスコンティの執念と手腕に驚かされます。

  • 劇的で美しくて破滅的で準古典ならではの明快さ。題材には時代を感じるけどこの美しさは普遍だと思う。ってか個人的にこういうお話は大好き。
    新訳読みやすかった!でもなんとなく味がなくてさっぱりした感じ。話はよく分かったから重厚な古い翻訳で読んでみたい。

  • 新訳シリーズということで読みやすさを期待して開いたが、翻訳文学を読み慣れた人でないと疲れるかも。映画を知っていれば楽しめると思う。映画の描写のように、何か常に劇的なことが起こる物語ではないので、夜、眠りにつく前に読むと、心地よい。
    クリエイターや表現者、美を好む人の心に響く作品。美しい死にざまの一つだと思う。

  • 平野啓一郎の「マチネの終わりに」に「≪ヴェニスに死す≫症候群」という言葉があり、それに触発されて(たぶん)再読。原文がドイツ語だからかもしれないが、観念的な耽美を湛えた表現の中であっけなく破滅(死)を迎えるような印象。現実の破滅の方がはるかに恐ろしいぞ。一番驚いたのは、主人公が50歳にして晩年の老小説家と呼ばれていることかな。

  • 「ベニスに死す」というタイトルの映画としても知られている作品。(原作)

    初老の主人公・アッシェンバッハは、若いうちから才能を発揮した威厳ある作家であり、長年仕事一筋だった。
    そんな彼は、旅先のヴェネツィアで美しい少年・タッジオに出会い、少しずつ変わっていく。

    アッシェンバッハはタッジオを宿泊先のホテルで見かけるたびに、その美しさを褒めたたえていた。
    それはだんだんエスカレートし、神を想うような言葉でタッジオを礼讃していく。

    ただ目が合うだけの存在。
    互いのことは知っているのに、わざとそうしているかのようにそっけなくし、言葉を交わさない。
    そんな微妙な関係が続く中で、タッジオはアッシェンバッハに微笑んだ。
    タッジオと話がしてみたい、でもできない、とヤキモキしていた中で放たれた微笑み。
    それは、アッシェンバッハの心を焼くには充分すぎるほどの衝撃だった。

    「タッジオを愛している」と自覚したアッシェンバッハは、立ち止まることができなかった。

    常に自制を保ってきたアッシェンバッハにとって、少年に惹かれることは後ろめたいことであり、罪悪感のようなものを感じているようだった。
    しかし抵抗してみても、彼はタッジオを愛することを止められず、しまいには後をつけ回すようになってしまう。

    自分を見つめ、後を追ってくるアッシェンバッハに対して、タッジオは嫌がるそぶりを見せず、たまに思わせぶりに振り返ったり、視線を寄越したりする。
    そんなタッジオの態度は、どのような意味を持っていたのだろうか。

    世間から「正しい人間」だと思われているアッシェンバッハの内面が、荒れ狂い、酔いしれ溺れていく様は、とても苦しく切なかった。
    自身の老いを悔やみ、肉体を若返らせたいとすら思い、着飾り化粧をするアッシェンバッハ。
    そんな彼を、私は笑うことができない。

    街に病気が蔓延し、命の危険すらある中で、アッシェンバッハはヴェネツィアを去ることができなかった。
    タッジオのそばにいることを選び、彼を必死に追いかけ、それがきっかけでラストの場面に繋がっていくのは、あまりにも報われないと思った。

    今思えば、彼らは言葉を交わしてすらいなかった。
    たったの、ひと言も。
    始めから最後まで、二人の距離は変わらなかった。
    それがまた良いと思った。
    膨らんでいく気持ちに体が追いつかず、想い人の前では臆病になってしまう。
    そんなアッシェンバッハを表しているようだと思った。

    アッシェンバッハの気持ちは、最初は花を綺麗だと愛でるような気持ちに似ていたように思う。
    美しい花を、ずっと眺めていたいと思うような。
    しかし「花」は「神」になり、美しく尊いものを崇めたてるような気持ちが生まれ、終いには「欲」が生まれたのだ。

    たった一人の少年の美が、老いた作家の人生を変えてしまった。
    これまで感じたことのないような興奮、ときめき、戸惑い、切なさが混ざり合っていたアッシェンバッハの心。
    その心の動きを追っていくのは興味深く、とても好きな作品だった。

  • トーマス・マンの傑作。
    20代の頃は、若者に恋する年寄りって、身の程知らずだし醜いよなぁと思っていたけど、30代になって、少し気持ちがわかる。
    若い身体、美しさってそれだけですごく輝いていて(まじで光輝いてる)、眩しくて、憧れてしまうし、自分の若い時代を振り返り、みすみす無駄にしたと悔やんでしまうものだ。

    きっともっとしわくちゃになれば、更に思うのだろう。

    最近、老いを受け入れる等の考えが急に増えているし、30代でも若いと言われ、公共交通機関を見渡すと、確かに40代以上ばかりで、さすが高齢化社会だと思うことも多いが、反面トルコに行って、若い人の多さに驚いた。
    若い、というだけでエネルギーが溢れ出し、醜いものはそれなりに、それなりなものは美しく、美しいものはカリスマのように輝いてみえる。

    何が言いたいか分からなくなってきたけど、恋焦がれて、最後にスペイン風邪かなんかで死んでしまう小説家は、幸せだったのかだけを判断したい。
    最後に強烈な生を愛することができ、幸せだったと思いたい。

全49件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

【著者】トーマス・マン(Thomas Mann)1875年6月6日北ドイツのリューベクに生まれる。1894年ミュンヒェンに移り、1933年まで定住。1929年にはノーベル文学賞を授けられる。1933年国外講演旅行に出たまま帰国せず、スイスのチューリヒに居を構える。1936年亡命を宣言するとともに国籍を剥奪されたマンは38年アメリカに移る。戦後はふたたびヨーロッパ旅行を試みたが、1952年ふたたびチューリヒ近郊に定住、55年8月12日同地の病院で死去する。

「2016年 『トーマス・マン日記 1918-1921』 で使われていた紹介文から引用しています。」

トーマス・マンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三島由紀夫
ヘルマン ヘッセ
ドストエフスキー
三島由紀夫
カズオ イシグロ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×