- Amazon.co.jp ・本 (166ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334751241
作品紹介・あらすじ
高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて…。
感想・レビュー・書評
-
『ヴェニスに死す』の古称で有名。
というよりヴェネツィアを採用しているのはこの訳だけらしい。
『ノルウェイの森』は未読だが、笠井潔御大の『魔の山の殺人』刊行時に備えてサブテキストたる『魔の山』はいずれ読まねばならず、手始めに選んだ初トーマス・マンがこれである。
マーラー「大地の歌」はかの現象学探偵も好んで口ずさむところであり、その意味ではもっと早く読んでおいても良かったか。
旅行先のヴェネツィアにて偶然目にした美少年が忘れられず、密かにコレラが蔓延する中、立ち去ることができない老作家の最期を描く中編小説。
追記:読書メーターの感想の中に「マンのショーペンハウアー/ニーチェからの影響がとても顕著で、これを読んでから『悲劇の誕生』を読めば中学生でも何言ってるか分かると思う」という記述を見つけ、ハッとなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人生で一番難しい本な気がする……
正直途中わけわからんくなりながら、ページ進めてた(´・ω・`)
しかし、トーマス・マン研究の方の授業で『魔の山』のレポートを一ページも読まずに書いて提出した自分を思い出してしまい、若いとは何と恥知らずで痛々しいことか……(人生で一番反省してます) -
先に映画「ベニスに死す」を見て、完璧な映像の中に織り込まれた美的命題の想像以上の深さに、ヴィスコンティ監督が読んだ原作がどんなものでそこに書かれている言葉をどうやってあそこまで的確な映像に落とし込んだかが知りたくなって読みました。
マンの文章はちょっと飾りが多い印象も受けましたが、老作家の悶える心情や、感情の滲み出る表情など、細かな描写がはっとさせられるような巧みな表現で綴られており、すぐに付箋だらけにしてしまいました(私は読書中、好きな描写があると付箋を貼る癖がある)。
でも、読めば読むほど、繊細な表現に充ちるとともに、答えのない抽象的主題に貫かれたこの世界観をできるだけ忠実に再現しながらも、原作にはないシーンや人物を盛り込んだりしながら、完璧な映像作品に仕上げたヴィスコンティの執念と手腕に驚かされます。 -
劇的で美しくて破滅的で準古典ならではの明快さ。題材には時代を感じるけどこの美しさは普遍だと思う。ってか個人的にこういうお話は大好き。
新訳読みやすかった!でもなんとなく味がなくてさっぱりした感じ。話はよく分かったから重厚な古い翻訳で読んでみたい。 -
平野啓一郎の「マチネの終わりに」に「≪ヴェニスに死す≫症候群」という言葉があり、それに触発されて(たぶん)再読。原文がドイツ語だからかもしれないが、観念的な耽美を湛えた表現の中であっけなく破滅(死)を迎えるような印象。現実の破滅の方がはるかに恐ろしいぞ。一番驚いたのは、主人公が50歳にして晩年の老小説家と呼ばれていることかな。
-
トーマス・マンの傑作。
20代の頃は、若者に恋する年寄りって、身の程知らずだし醜いよなぁと思っていたけど、30代になって、少し気持ちがわかる。
若い身体、美しさってそれだけですごく輝いていて(まじで光輝いてる)、眩しくて、憧れてしまうし、自分の若い時代を振り返り、みすみす無駄にしたと悔やんでしまうものだ。
きっともっとしわくちゃになれば、更に思うのだろう。
最近、老いを受け入れる等の考えが急に増えているし、30代でも若いと言われ、公共交通機関を見渡すと、確かに40代以上ばかりで、さすが高齢化社会だと思うことも多いが、反面トルコに行って、若い人の多さに驚いた。
若い、というだけでエネルギーが溢れ出し、醜いものはそれなりに、それなりなものは美しく、美しいものはカリスマのように輝いてみえる。
何が言いたいか分からなくなってきたけど、恋焦がれて、最後にスペイン風邪かなんかで死んでしまう小説家は、幸せだったのかだけを判断したい。
最後に強烈な生を愛することができ、幸せだったと思いたい。