- Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334751272
作品紹介・あらすじ
とつぜん出現した謎の犬におびえる人々を描く表題作。老いたる山賊の首領が手下にも見放され、たった一人で戦いを挑む「護送大隊襲撃」…。モノトーンの哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇。
感想・レビュー・書評
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イタリアが生んだ奇才の作家ブッツァーティが書く不可思議なお話を集めた短編集。
テーマは多岐に渡るが、全てにキリスト教的世界観が通底にある感じがして日本のホラーや怪異とは全く違うのが面白い。
特に聖人が出てくる話が多く、さすがカトリックの中心であるお国柄だと思った。
どの話も面白いが
・アインシュタインとの約束
・七階
・神を見た犬
・呪われた背広
・秘密兵器
・天国からの転落
・驕らぬ心
はとても面白く、教訓めいたものがあった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
帯には「奇想」とあるが,童話や寓話のような話が多い.またキリスト教の影響が色濃いなあ.といっても,敬虔ではなく皮相的.
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すごい。ブッツァーティは汲めど尽きぬ後悔も吐き気を催す徒労感も、こんなにも目の前に届けてくる。僅か数頁の内容も含むこの22作の短編集は、いずれも文体も内容もリーダビリティ溢れているのに、遊園地のフリーフォールばりにすとん奈落へ落としていく。これぞ不条理、生きるのって楽じゃないよ。しかしながらその落下感と後味が癖になってしまうような、不思議な魅力が本作には込められているのだ。「コロンブレ」「グランドホテルの廊下」「風船」「秘密兵器」辺りが素晴らしいが、皮肉的な肯定感に溢れた「マジシャン」がマイベストか。
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ブラックユーモアが好きなのでこれらの作品は
本当に面白かったです。
実際にはありえないお話なはず、なのです。
だけれどもきちんと人間の心理を捉えているせいで
現実にありそうな気がして、恐ろしいもので。
表題作はまさに人というものの弱さを
露呈させている作品です。
人は「枷」がなくなるように望みますが
その「枷」がいざ取れてしまうと
どのように行動してよいかが分からないのです。
結局人にはそれ相応の
「秩序」が必要なんだと痛感させられます。
それと不条理な作品も多いです。
「風船」なんかはそれの典例。
幸せが望むように続かないのと同じ。 -
不吉な話が多いのだけど、脳裏に浮かぶのは不思議なことにパステルカラーのきれいなイメージ。おしゃれな星新一という感じ。「コロンブレ」と「七階」がピリッとまとまっていて、特によかった。
カトリックがらみの諸編を読むと、イタリア人はイタリア人で、日本人とはちがう網にがんじがらめになって生きているようだ。空の向こうに天国があって、そこから聖人が見下ろしてるんだもの。気が抜けない。 -
新聞記事のような癖のない文章でつづられた幻想的な短編小説集。傑作選ということで、どれもこれも印象深い作品ばかり。スイスイ読めて鮮明なイメージが残る不思議な作風だ。表題作の「神を見た犬」では、椅子の下に置いたパンの描写だけで色々思わせて涙が出た。これ含めて、昔ながらのキリスト教徒の精神世界を感じさせる作品が多くて興味深かった。
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「神を見た犬」パン屋は遺言により毎朝パンを貧民に配るが、修道士にパンを運ぶ犬を神の分身として恐れる。「七階」病状別入院病棟。軽度の7階の病室から理不尽に下へ下へ追いやられ、末期患者の1階の病室へ。これは怖い。
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上手くいかないから不幸なのではない、貧しいから不幸なのではない、それだから不幸なのだと思ってしまう考え方が不幸なのだ。ブッツァーティの小説は読者に主人公の人生の最後に立ち会わせそれを問いかける物語だ。一元的な物の見方を否定し物事に違う観点を与える。10代の頃彼の長編「タタール人の砂漠」で頭をガツンとやられた。それと同じ感覚がこの短編集にも詰まっている。謎の怪物コロンブレに殺されまいと逃げ続けた男の話、護送大隊をたった一人で襲撃しようとする年老いた山賊の話。ラストですべての不幸が幸福に代わり、幸福が不幸に入れ替わる。この世界のことはすべて脳内で起きている。他人の視点は何の意味もない。自分の人生が幸福か不幸かは誰が決めるのか。自分の脳が決めるのだ。ザックスナイダー監督が私のお気に入り映画「エンジェルウォーズ」で伝えたかったのもそれだと思うがリアルな映像ゆえに成功したとは言い難い。でもテーマは同じ。自由への鍵はそこにある。
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はじめの2作は軽快で、ピウミーニの『キスの運び屋』みたいだな、と思った。聖人が天から人の世界を見下ろして…という設定は、私はピウミーニで初めて読んだのだが、勿論ブッツァーティの方が古いので、ピウミーニが真似したのかもしれない。しかし、そもそもイタリア人は、こうしたことをしょっちゅう考えているのでは、とも思った。幼い頃から、「聖人さまがご覧になっていますよ」と戒められて育つ、とか。
告解のシーンも多く、カトリックの国の作家だなぁ、とも思う。
ロダーリやピウミーニほど明るくないし、カルヴィーノほど寓話的でもナンセンスでもないが、やはりイタリアの作家らしく、解説にあるカフカなんかとは全く違う。
「病院というところ」はちょっとカフカっぽかったが、不条理というよりは社会批判。日本なら役所が舞台で書ける。
「七階」は、筒井康隆の「乗越駅の刑罰」を思い出した。「秘密兵器」は星新一風。
やはり傑作は表題作。一番面白いのは「七階」。
その他「コロンブレ」「グランドホテルの廊下」「驕らぬ心」「クリスマスの物語」が良かった。 -
全編書かれているのは不安だったり、不条理だったり、社会風刺だったり、死の扉を前にした強迫観念だったり悲観主義的な内容でありながら、頭を抱えることなくスイスイ楽しみ読むことができた。ハートフルでコミカルな印象から「これ漫画になるな」と思ってたら解説で漫画形式の作品も残したことを知る。なるほどな、と納得した次第。厭世的な寓意に陥らず、愚かな人間への愛情を素直に感じた。俗人化した神や聖人がまたチャーミングで、、、などとほのぼのしてたらポンと落とされるのだからやっぱり怖いのね。
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『神を見た犬』を始めとする短篇集。岩波文庫の短篇集と幾つか重複がある。
どれも寓意に満ちていて、読後感がすっきりと行かないものが少なからずあるが、ブッツァーティはそこがいい。収録作の中では『戦艦《死》』が一番良かった。 -
イタリアのカフカと呼ばれるブッツァーティの短編集。カフカと並べられるが、カフカとは違った、人間の不条理、不安・恐怖のようなものを、キリスト教社会を通じて書いている作品が多い。既に古典扱いされている作家にも関わらず、どこかで聞いたような話が多いのは、おそらく、星新一のような著名な短編小説家を始めとした様々な文芸作品もここから着想を得ているのかもしれない。
いずれの作品も短編で決してしつこい文章ではない、むしろ読みやすさを感じるのに、そこに現れる世界観や時間の密度がものすごいのだ。タイトルになっている「神を見た犬」は、その淡々とした先の読めないストーリーが、ふと、百年の孤独を彷彿とさせた。ストーリーの分厚さは全く異なるのだが、威力がある短編だ。
「天地創造」では、神のデザイナー達が地球上の生命をデザインしていくのだけど、そのなかでクマムシをデザインした過程が取りあげられていて、博物学が幻想の世界へ導かれる瞬間を見た気がした。レオ・レオニも幻想世界の「平行植物」を描いたが、イタリアに同時代に生まれた彼らが生き物の知識を幻想文学への導入に至った背景には、何か共通のものがあるのではないかと、その瞬間沸き立つように妄想してしまった。 -
イタリアでは有名な童話作家らしいが日本に来ているものが少ないのが残念。モヤリと残る終わり方、それぞれの短編が実に皮肉っぽく面白かった。
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どちらかと言うと避けてきた「幻想文学」と言うジャンル。歯医者の待ち時間の寄った本屋で手に取って、「古典」の響きに惹かれて手に取ったんだけど、ジャンルとしてはほぼ初体験に近かったが、食わず嫌いはあかんで、と思い知った一作。特に「七階」の空恐ろしさは秀逸。一度でも内科に入院した事のある人間には…。表題の「神を見た犬」では、やはりキリスト教と言う宗教を理解した頭で読みたかった、と思う。しかし、ブッツアーティって覚えにくいし読みにくい(笑)
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手軽に読めるブッツァーティ。お薦めの一冊ですね。
「キリスト教と言う宗教を」
逆に、この話を足掛かりにキリスト教を考えてみるとか、、、手軽に読めるブッツァーティ。お薦めの一冊ですね。
「キリスト教と言う宗教を」
逆に、この話を足掛かりにキリスト教を考えてみるとか、、、2013/01/28
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2009/10/10 購入
2009/10/16 読了 ★★★★
2022/12/31 読了 ★★★★★ -
「『バカなことを!』アインシュタインは苛立った。『私の発見ほど、罪のないものはない。ちょっとした法則を見つけただけじゃないか。それも抽象的で、人畜無害で、私利私欲とは無関係なものだろう』 『あきれた男だ』イブリースは声を張りあげ、またもアインシュタインのみぞおちを指で突いた。・・・『いいか、お前が知らないだけなんだ!』『私が、何を知らないと?』だが、すでにイブリースの姿はなかった。」
まるで星新一のショートショートを読み進めるようなそんな思いが一篇毎に深まってくる。身構えることもできぬまま放り出される感覚に痺れながら、一つ、また一つとむさぼるように読み切っていく。
長編「石の幻影」では、余りにも白黒のはっきりした結末が鼻につくような気になったが、この「神を見た犬」を含む短篇集ではがらりと異なる印象を得る。個々の物語に明確な終わりは描き切られていない。それでも読む者はそれが何処に行き着くのか、行き着いてしまうのかを悟らずにはいられない。
実在する人物、場所などの符牒によってその指し示されるものが明確に読み取れるものもある。また別の物語では人間の根本的に持つ醜悪な性質を少々シニカルに指し示されて終わるものもある。幻想的、という表現は決して正しくブッツァーティを示しているとは思えないのであるけれど、その謎めいた舞台の設定は巧みである。その罠の魅力につられてつい物語の内側に絡め取られてしまう。するといつの間にか保持していた慣性の行き先が見当たらなくなるような断絶。現実と自分を繋いでいたはずロープが、プツッと切れる。
そしてしばし呆気に取られる。急いで自分が何処へ流されようとしているのか見極めようと、手掛かりを探ってもがく。その半ば溺れたような感覚を味わうことができること、それがブッツァーティを読む楽しみと言えるかも知れない。
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数年前にTSUTAYAで見かけて読んでみたいと思いながら今回やっと読めた本。
22の短編集なのだが、これは面白かったな。
この時代のヨーロッパの作家の常なのか、神にまつわる話が多いのだけれど、それでも背景に伺える当時の色々な風景が、読んでて味わえるかのような感覚で、ま、ミステリーといえばそう言えるものもあり、特に七階が面白かったな。
古典文庫はこれしか出ていないのかもしれないが、他で出ているものも読んだみたい。 -
『タタール人の砂漠』で有名なイタリアの作家であり画家でもあるブッツァーティの短編集。『タタール人の砂漠』と同様、幻想的と評される作風で不条理さや不安感、安定のなさ、不思議、奇跡などを描く。それは現実的ではないがゆえに逆説的にリアリティをともなっている。本人はカフカ的と呼ばれることを嫌がっていたようだけれど、作風的にはカフカのようで、この世の何ともならなさを描くことに卓越している。
映画監督フェリーニとの映画制作も構想されていたようだけれど、実現はしなかったとのこと。フェリーニの作風も夢や幻想に仮託しながら無意識や奇跡などを描くものであり、親和性はあると思われるだけに実現しなかったのが残念。同時代人のモラヴィアが実存主義文学的作風だったのに対抗することを意識していたようで、その対立も興味深い。
光文社古典新訳文庫がブッツァーティを改めて世に出してくれたことに感謝。 -
『七階』が強く印象に残った。
抗いがたくじわじわと絶望の淵に追い込まれていく、その焦燥感に息の詰まる思いがした。
いや〜な後味が残る読後感であまり居心地がよくはない短編集だが決してそれが嫌ではない。むしろ癖になりそう。