神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)

制作 : 関口 英子 
  • 光文社
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本棚登録 : 654
レビュー : 77
  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751272

作品紹介・あらすじ

とつぜん出現した謎の犬におびえる人々を描く表題作。老いたる山賊の首領が手下にも見放され、たった一人で戦いを挑む「護送大隊襲撃」…。モノトーンの哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇。

感想・レビュー・書評

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  • すごい。ブッツァーティは汲めど尽きぬ後悔も吐き気を催す徒労感も、こんなにも目の前に届けてくる。僅か数頁の内容も含むこの22作の短編集は、いずれも文体も内容もリーダビリティ溢れているのに、遊園地のフリーフォールばりにすとん奈落へ落としていく。これぞ不条理、生きるのって楽じゃないよ。しかしながらその落下感と後味が癖になってしまうような、不思議な魅力が本作には込められているのだ。「コロンブレ」「グランドホテルの廊下」「風船」「秘密兵器」辺りが素晴らしいが、皮肉的な肯定感に溢れた「マジシャン」がマイベストか。

  • ブラックユーモアが好きなのでこれらの作品は
    本当に面白かったです。

    実際にはありえないお話なはず、なのです。
    だけれどもきちんと人間の心理を捉えているせいで
    現実にありそうな気がして、恐ろしいもので。

    表題作はまさに人というものの弱さを
    露呈させている作品です。
    人は「枷」がなくなるように望みますが
    その「枷」がいざ取れてしまうと
    どのように行動してよいかが分からないのです。

    結局人にはそれ相応の
    「秩序」が必要なんだと痛感させられます。

    それと不条理な作品も多いです。
    「風船」なんかはそれの典例。
    幸せが望むように続かないのと同じ。

  • 不吉な話が多いのだけど、脳裏に浮かぶのは不思議なことにパステルカラーのきれいなイメージ。おしゃれな星新一という感じ。「コロンブレ」と「七階」がピリッとまとまっていて、特によかった。

    カトリックがらみの諸編を読むと、イタリア人はイタリア人で、日本人とはちがう網にがんじがらめになって生きているようだ。空の向こうに天国があって、そこから聖人が見下ろしてるんだもの。気が抜けない。

  • 上手くいかないから不幸なのではない、貧しいから不幸なのではない、それだから不幸なのだと思ってしまう考え方が不幸なのだ。ブッツァーティの小説は読者に主人公の人生の最後に立ち会わせそれを問いかける物語だ。一元的な物の見方を否定し物事に違う観点を与える。10代の頃彼の長編「タタール人の砂漠」で頭をガツンとやられた。それと同じ感覚がこの短編集にも詰まっている。謎の怪物コロンブレに殺されまいと逃げ続けた男の話、護送大隊をたった一人で襲撃しようとする年老いた山賊の話。ラストですべての不幸が幸福に代わり、幸福が不幸に入れ替わる。この世界のことはすべて脳内で起きている。他人の視点は何の意味もない。自分の人生が幸福か不幸かは誰が決めるのか。自分の脳が決めるのだ。ザックスナイダー監督が私のお気に入り映画「エンジェルウォーズ」で伝えたかったのもそれだと思うがリアルな映像ゆえに成功したとは言い難い。でもテーマは同じ。自由への鍵はそこにある。

  • はじめの2作は軽快で、ピウミーニの『キスの運び屋』みたいだな、と思った。聖人が天から人の世界を見下ろして…という設定は、私はピウミーニで初めて読んだのだが、勿論ブッツァーティの方が古いので、ピウミーニが真似したのかもしれない。しかし、そもそもイタリア人は、こうしたことをしょっちゅう考えているのでは、とも思った。幼い頃から、「聖人さまがご覧になっていますよ」と戒められて育つ、とか。
    告解のシーンも多く、カトリックの国の作家だなぁ、とも思う。
    ロダーリやピウミーニほど明るくないし、カルヴィーノほど寓話的でもナンセンスでもないが、やはりイタリアの作家らしく、解説にあるカフカなんかとは全く違う。
    「病院というところ」はちょっとカフカっぽかったが、不条理というよりは社会批判。日本なら役所が舞台で書ける。
    「七階」は、筒井康隆の「乗越駅の刑罰」を思い出した。「秘密兵器」は星新一風。
    やはり傑作は表題作。一番面白いのは「七階」。
    その他「コロンブレ」「グランドホテルの廊下」「驕らぬ心」「クリスマスの物語」が良かった。

  • 全編書かれているのは不安だったり、不条理だったり、社会風刺だったり、死の扉を前にした強迫観念だったり悲観主義的な内容でありながら、頭を抱えることなくスイスイ楽しみ読むことができた。ハートフルでコミカルな印象から「これ漫画になるな」と思ってたら解説で漫画形式の作品も残したことを知る。なるほどな、と納得した次第。厭世的な寓意に陥らず、愚かな人間への愛情を素直に感じた。俗人化した神や聖人がまたチャーミングで、、、などとほのぼのしてたらポンと落とされるのだからやっぱり怖いのね。

  • 『神を見た犬』を始めとする短篇集。岩波文庫の短篇集と幾つか重複がある。
    どれも寓意に満ちていて、読後感がすっきりと行かないものが少なからずあるが、ブッツァーティはそこがいい。収録作の中では『戦艦《死》』が一番良かった。

  • イタリアのカフカと呼ばれるブッツァーティの短編集。カフカと並べられるが、カフカとは違った、人間の不条理、不安・恐怖のようなものを、キリスト教社会を通じて書いている作品が多い。既に古典扱いされている作家にも関わらず、どこかで聞いたような話が多いのは、おそらく、星新一のような著名な短編小説家を始めとした様々な文芸作品もここから着想を得ているのかもしれない。

    いずれの作品も短編で決してしつこい文章ではない、むしろ読みやすさを感じるのに、そこに現れる世界観や時間の密度がものすごいのだ。タイトルになっている「神を見た犬」は、その淡々とした先の読めないストーリーが、ふと、百年の孤独を彷彿とさせた。ストーリーの分厚さは全く異なるのだが、威力がある短編だ。

    「天地創造」では、神のデザイナー達が地球上の生命をデザインしていくのだけど、そのなかでクマムシをデザインした過程が取りあげられていて、博物学が幻想の世界へ導かれる瞬間を見た気がした。レオ・レオニも幻想世界の「平行植物」を描いたが、イタリアに同時代に生まれた彼らが生き物の知識を幻想文学への導入に至った背景には、何か共通のものがあるのではないかと、その瞬間沸き立つように妄想してしまった。

  • イタリアでは有名な童話作家らしいが日本に来ているものが少ないのが残念。モヤリと残る終わり方、それぞれの短編が実に皮肉っぽく面白かった。

  • どちらかと言うと避けてきた「幻想文学」と言うジャンル。歯医者の待ち時間の寄った本屋で手に取って、「古典」の響きに惹かれて手に取ったんだけど、ジャンルとしてはほぼ初体験に近かったが、食わず嫌いはあかんで、と思い知った一作。特に「七階」の空恐ろしさは秀逸。一度でも内科に入院した事のある人間には…。表題の「神を見た犬」では、やはりキリスト教と言う宗教を理解した頭で読みたかった、と思う。しかし、ブッツアーティって覚えにくいし読みにくい(笑)

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      手軽に読めるブッツァーティ。お薦めの一冊ですね。
      「キリスト教と言う宗教を」
      逆に、この話を足掛かりにキリスト教を考えてみるとか、、、
      手軽に読めるブッツァーティ。お薦めの一冊ですね。
      「キリスト教と言う宗教を」
      逆に、この話を足掛かりにキリスト教を考えてみるとか、、、
      2013/01/28
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著者プロフィール

1906年、北イタリアの小都市ベッルーノに生まれる。ミラノ大学卒業後、大手新聞社「コッリエーレ・デッラ・セーラ」に勤め、記者・編集者として活躍するかたわら小説や戯曲を書き、生の不条理な状況や現実世界の背後に潜む神秘や謎を幻想的・寓意的な手法で表現した。現代イタリア文学を代表する作家の一人であると同時に、画才にも恵まれ、絵画作品も数多く残している。長篇『タタール人の砂漠』、『ある愛』、短篇集『七人の使者』、『六十物語』などの小説作品のほか、絵とテクストから成る作品として、『シチリアを征服したクマ王国の物語』、『劇画詩』、『モレル谷の奇蹟』がある。1972年、ミラノで亡くなる。

「2017年 『魔法にかかった男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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