新アラビア夜話 (光文社古典新訳文庫 Aス 2-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751395

作品紹介・あらすじ

理由なき自殺願望者が集うロンドンの夜。クリームタルトを持った若者に導かれ、「自殺クラブ」に乗り込んだボヘミアの王子フロリゼルが見たのは、奇怪な死のゲームだった。美しい「ラージャのダイヤモンド」をめぐる冒険譚を含む、世にも不思議な七つの物語集。

感想・レビュー・書評

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  • 著者は「宝島」「ジキルとハイドなど」のスティーヴンスン。
    悪漢が闊歩するヴィクトリア朝ロンドンで、ボヘミアの魅力的な王子フロリゼルと、忠臣ジェラルディーン大佐の冒険譚です。
    しかし…この作者は、スティーブンソン、スチーブンソン、スティーヴンソン、スティーヴンスン。。などなど翻訳者さんにより表記が違うので、検索するときに非情に見つけづらい!!ヽ(`Д´)ノ


    『自殺クラブ』
    自殺志望者が集まる秘密結社『自殺クラブ』を巡る3つの物語。

    ロンドンに滞在するボヘミアの王子フロリゼルと、忠臣ジェラルディーン大佐が訪れたバーで、人々にクリームタルトを配って回る若者が現れた。若者は、生きることに絶望して「自殺クラブ」へ入会し、最後の散財をしているという。興味を示したフロリゼル王子は、自分も自殺志望者だと偽りその怪しい組織へと潜入する。
    そこではクラブの会長が会員たちを集めて、トランプゲームにより殺される者と殺される者を選び出していた。
    クラブ参加者の命運を見た若者は自殺を思いとどまるが、ある夜フロリゼル王子が殺される者のカードを引き当ててしまう。
     /「クリームタルトを持った男」

    自殺クラブを解体させたフロリゼル王子だが、会長の影響力はまだ強かった。
    アメリカ人青年スカダモアは、美しい女性から逢引の誘いを受ける。すっぽかされたスカルダモアが家に戻ると、自分のベッドに男の死体が残されていた。
    呆然とするスカダモアの前に友人ノエル博士が現れた。ノエル博士はスカダモアの大きなトランクに死体を詰めさせ、旧知のジェラルディーン大佐を紹介する。スカダモアはフロリゼル王子とジェラルディーン大佐の一行に加り、税関も素通りできた。
    しかしこの死体は、自殺クラブ会長を追っていたフロリゼル王子の手の者だったのだ。
     /「医者とサラトガトランクの話」

    街を歩いていたリッチ中尉は、優雅な二輪馬車の御者により不思議な屋敷に送り届けられた。屋敷の中は紳士たちの賭博場だった。そして屋敷の主は客たちの様子を観察するかのように屋敷を回っている。
    ホストの目に叶ったのは、リッチ中尉と歴戦の老兵オルック騎兵少佐の2人だった。
    ホストの正体はジェラルディーン大佐で、フロリゼル王子が自殺クラブ会長との決闘の立会人として、信頼できる紳士を探していたのだった。
     /「二輪馬車の冒険」


    『ラージャのダイヤモンド』
    世界で6番目に有名なダイヤモンドを巡る4つの物語。
    最後にサラッと書かれていたフロリゼル王子のその後が…(@_@;) 王子なにやってんの…

    60歳になるトマス・ヴァンデラー卿は「ラージャのダイヤモンド」と呼ばれる素晴らしいダイヤモンドを持っていた。贅沢三昧により破産寸前となった若い妻は「ラージャのダイヤモンド」を含む財宝を夫から盗み出そうとする。
    ヴァンデラー卿の秘書のハリーは、ヴァンデラー夫人から丸い箱をある場所に持っていくように頼まれる。その場へ向かうハリーをヴァンデラー卿と、夫人の従兄弟が追いかけてくる。
    走って逃げるハリーは、侵入した他人の家の裏庭で、丸い箱の中の宝石をばらまいてしまう。
     /「丸箱の話」

    ヴァンデラー卿の「ラージャのダイヤモンド」を拾ったのは有能な若い学者で聖職者のロールズ師だった。ロールズ師はダイヤモンドの美しさに魅了されてネコババしようとする。
    ロールズ師がダイヤを持っていることを知った持ち主のトマス・ヴァンデラー卿とその弟で元軍人のジョン・ヴァンデラーは、ロールズ師を狙う。
    やがてロールズ師は、ボヘミアの若くて魅力的な王子フロリゼルと知り合いになり助けを求める。
     /「若い聖職者の話」


    銀行員の若者フランシス・スクリムジャーに、匿名の素封家から援助の申し出がある。どうやらスクリムジャーはその匿名者の私生児で、彼の言うとおりの結婚をすれば財産をもらえるらしい。
    しかしこの話には「ラージャのダイヤモンド」を巡る人々の出し抜き合いが隠されていた。
     /「緑の日よけがある家の話」


    ロールズ師の持っていたラージャのダイヤモンドは、いまはボヘミアの王子フロリゼルの手に預けられた。
    外交特権のあるフロリゼル王子だが、このまま持っていては国際問題になる。だが持ち主に返せば罪に問われる者、理不尽な処遇を受ける者が出てきてしまう。思考を巡らす王子の前に刑事が訪れる。
    さあ、いかにすべきか。
     /「フロリゼル王子と刑事の冒険」

  • 以前読んだ岩波文庫版に収録されていたのが「医師と旅行鞄の話」「帽子箱の話」「若い僧侶の話」のみで消化不良だった新アラビア夜話、こちら読んでやっと全貌とタイトルの意味もわかりました。どこらへんがアラビアンナイトなのかと思っていたけれど、主人公のボヘミア王子フロリゼルが、側近のジェラルディーン大佐を連れて、お忍びで夜な夜な町に繰り出し、なんらかの事件に巻き込まれ解決する構成が、千夜一夜のハルーン・アル・ラシッドになぞらえられていたんですね。

    収録作は「自殺クラブ」と「ラージャのダイヤモンド」の2作で、それぞれが短編連作形式になっています。まずは「自殺クラブ」。1話目「クリームタルトを持った若者の話」で、フロリゼル王子とお付きのジェラルディーン大佐は、居酒屋でクリームタルトを配ってまわってる奇矯な若者と出会い興味を持つ。彼は自暴自棄になっており、親しくなった王子と大佐を(もちろん正体は知らず)あるクラブへ連れていく。そこが自殺クラブ。ここには自殺願望のある人々が集まっており、なんと夜ごとトランプのカードを引いて、スペードのエースを引いた人間を、クラブのエースを引いた人間が殺害するというシステムで自殺(他殺だけど)がおこなわれていた。

    この設定が現代でもありそうで秀逸。大佐はやめるよう王子に進言するが、好奇心旺盛な王子はこのゲームに参加、なんと2夜目にしてスペードのエースを引き当ててしまう。もちろん王子を守るために大佐がいろいろ暗躍し王子を救出、自殺クラブは検挙され、会員をもてあそんで金儲けしていた会長は逮捕される。ここでとっととこの会長を処刑しとけばよかったんだけど、なぜか大佐の弟がこいつの監視役を引き受けいずれ決闘することになるという謎展開。

    そして2話目「医者とサラトガトランクの話」では、視点人物が変わり、お人よしの若者サイラスくんが、ひょんなことから奇妙な事件に巻き込まれ、ある晩美女に誘われて出かけて帰宅すると部屋の中に死体が!むかいの部屋の医者ノエル博士に相談すると、実は裏社会に精通している博士は死体をトランクに詰めサイラスを逃亡させる。死体の入ったトランクを持って右往左往するサイラスくん、最終的にフロリゼル王子と出会い、なんとトランクの死体はジェラルディーン大佐の弟、犯人は逃亡した自殺クラブ会長であることが判明する。

    3話目「二輪馬車の冒険」でまたしても視点人物が変わり、ブラックンベリー中尉という勇敢な軍人が登場。突然二輪馬車の御者に声をかけられて謎の豪邸パーティに連れていかれたブラックンベリー。そこでは品の良い若者(※正体はジェラルディーン大佐)が、同じようにして連れてこられた人々をもてなしている。実はこれ、大佐による一種のオーディション。最終的にブラックンベリーと、オルック少佐という勇敢な老軍人が残され、ジェラルディーンが事情をうちあける。正体は明かせないが王子が行方不明になっており助け出しに行きたいので協力者を探していたというのがざっくりした事情。一夜にして豪邸の家具は運び出され空き家に戻る。

    最終的には、二人の助けを得たジェラルディーン大佐が、自殺クラブ会長に拉致られていた王子を救出、めでたしめでたし。1話ごとに全く予想外の人物視点で語りだされる連作というのが面白かったし、個人的にはジェラルディーン大佐がめっちゃタイプ(笑)この主従、王子のほうが年上なんだけど、美男子二人の主従なんて萌えでしかない。さながらラインハルト様とキルヒアイス。エイリアン通りのシャールくんとセレムさん味もある。こういう献身的な側近キャラにとても弱い。

    「ラージャのダイヤモンド」も同じ形式で、1話ごとに視点人物が変わるのだけど、こちらでは王子&大佐は明智探偵やホームズよろしく、終盤ちょこっと顔を出し事件を解決するだけなので、やや物足りない。

    1話目「丸箱の話」では、有名な「ラージャのダイヤモンド」を持つヴァンデラー将軍の秘書として働き始めた若者ハリーが主人公。彼は将軍の秘書よりも派手好きのその若い夫人のお取り巻きをしているほうが性にあっており、夫人に利用されてしまう。夫人は夫のダイヤモンドを自分の衣装代のかたに売り飛ばそうと画策、そのパシリとしてハリーにダイヤの入った丸箱を持たせる(ハリーは中身を知らない)が、どこまでも運のない彼はそれを持ったまま逃走するはめになり、あげく逃げ込んだ先で箱をひっくり返し、そこの家主(悪人)にお宝の半分を奪われてしまう。

    2話目「若い聖職者の話」では、ハリーが箱をひっくり返した庭をたまたま通りがかった、その家の間借り人で聖職者のロールズが、ハリーが落っことした「ラージャのダイヤモンド」を偶然拾ってしまい、聖職者にもかかわらず、これを売り飛ばせば…と出来心がめばえ持ち逃げ。列車で偶然相室になったヴァンデラー将軍の弟でダイヤに目がない悪党と出会い、共犯者となる。

    3話目「緑の日除けがある家の話」真面目な銀行員の若者フランシスは、ある日突然奇妙な誘いを受けパリに旅立つ。どうやら彼はさる金持ちの私生児で、本当の父親が彼を援助しようとしているらしい。さまざまな偶然から彼はその父親がヴァンデラー将軍であり、ヴァンデラー将軍の弟(2話で登場したダイヤ好きの悪党)の娘と結婚させようとしていることを知る。この娘は美人で気立てがよくフランシスは一目で好きになってしまうが、もちろんここに例のダイヤモンドの事件が絡んできて…。

    4話目「フロリゼル王子と刑事の冒険」ここでやっと王子登場。改悛した聖職者ロールズからラージャのダイヤモンドを預かったフロリゼル王子を、将軍兄弟が訴え出、王子は逮捕されそうになるが、王子はやってきた刑事を篭絡し…。一応解決するけどあまりすっきりしない展開。しかもその後王子は、こんなことばっかりしてたので自分の国で革命が起こって王位を追われ、ロンドンで煙草屋になりましたという謎のオチ。

    自殺クラブのほうがとにかく面白かったので、これハリウッドで実写映画化とかしないかなー。ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にイケメン王子とイケメン従者が活躍するバディもの、絶対受けると思うんだけど(笑)

    • 淳水堂さん
      yamaitsuさん

      私も読みました!
      特に「自殺クラブ」は映像化できそうですよね。
      「二頭立ての馬車の冒険」で、ジェラルディーン...
      yamaitsuさん

      私も読みました!
      特に「自殺クラブ」は映像化できそうですよね。
      「二頭立ての馬車の冒険」で、ジェラルディーン大佐が決闘の立会人として信頼できる紳士を探す方法が、お金持ち&人を見る目があるという意味ですごかったです。

      しかし「そんな事やってて国を顧みなかったから革命起こされて亡命」ってなにやってんのよ。
      読者には楽しい王子様だけど、国民には悪い君主だったのか。。
      まあ煙草屋も気楽そうだけど、国を顧みなかったのは反省していただきたい…。
      2022/08/06
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!

      「自殺クラブ」絶対映像化むきですよね!エンタメ、バディものとして単純に面白いし、淳水堂さんも書かれ...
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!

      「自殺クラブ」絶対映像化むきですよね!エンタメ、バディものとして単純に面白いし、淳水堂さんも書かれてる「二頭立ての馬車の冒険」のそのシーン、あっという間に豪邸が空き家になるのとか映像で見てみたい!

      こんな素敵な王子なのに、煙草屋オチはなかなかショックですよね(^_^;) そのころ、ジェラルディーン大佐はどうしてるのかが気になります。一緒に煙草屋やってるのかしら(笑)
      2022/08/07
  • 海の中で高波が来たらちょいと体を浮かせるような、クロールの息継ぎがビシリと決まるとか、いわゆるシャッターチャンスの瞬間をわかってらっしゃる作家だなあ、と思たら「ジキル博士とハイド氏」を書いた人だった。多分自分が翻訳物を初めて買った本がこれだった気がするの。だからしつこい位に何度も読み直してる訳で、二人で息の合った社交ダンスを踊るような、ガラス越しに手を合わせるような、変な一体感と恍惚感がありました。ボヘミアの
    王子がロンドンにて「遠山の金さん」をやるシリーズもの。楽しい。ちょっとずつお話が続いている。

  • 19世紀のロンドンを舞台に、アラビアンナイトを下敷にして書かれた物語集。自殺クラブから始まり、ボヘミアのフロリゼル王子が関わる一本の大きな物語が、いくつもの短編で紡がれていく。
    最初は一体何の関係があるの?という物語でも、少し読み進めると、あーここに繋がるのか!という感じ。
    あとがきにもあったが、19世紀ロンドンは経済発展著しく、他の国からすると、魔都のようでまさしくアラビアンナイトの世界だったのかもしれない。
    今のロンドンはガス燈でもないし、暖炉の使用が禁止されてから霧の都でも無くなったけど、それでも夜はビクトリア朝を思い起こす画がある。
    中学生の姪っ子にお薦めしたい。

  • ボヘミアの王子フロリゼルが主人公。奇想天外な事件と冒険譚。「自殺クラブ」秘密クラブではトランプゲームで殺す者殺される者を選びだす。

  • 再会を果たして感激°˖✧ ずっとさがしていた短編集でした★

    光文社古典新訳文庫さま、ありがとう!(しかもここの文庫は私のツボ押し文学作品に満ちておる…)

    ちょっとした記憶違いもあり…ゆえに探し方も間違っていたらしく
    タイトルに見覚えがなかったけど作者名から「もしかするぞ…?」と思ったらやっぱりそうだった! やったやった♪

    19世紀ロンドン版「アラビアンナイト」
    酔いしれました!

    https://www.instagram.com/p/CRGlZ86Dzqm/

  • 『自殺クラブ』3篇『ラージャのダイヤモンド』4篇の二部構成で、各篇のメインキャラクターは異なっているがボヘミアのフロリゼル王子がストーリーに絡む。「これで(とわがアラビア人の著者は言う)「~の話」は終わる」と各章は締めくくられる。最初よくわからず?となったが、読み直してから意味がわかった。フロリゼル王子の視点で書かないことで、突然わけのわからない状況に置かれたメインキャラクターのきもちになれてワクワクした!
    『宝島』と『ジキル博士とハイド氏』と同じ作者とは思えない、荒唐無稽なファンタジー!

  • 宝島を書き、ジキルとハイドを書き、自殺クラブを書いたということでスチーブンスンの天才ぶりがわかる。ヴィクトリア朝のロンドンの夜、クリームタルトを配る若者に連れられてきた自殺願望者の集まる自殺クラブに乗り込んだボヘミア王子フロリゼルの無茶苦茶な冒険談。アランビアンナイトのように話は別の話に広がって7つの話からなる短編集になっている。どの話も謎が提起され陰謀が謀られ、薔薇十字探偵社の榎木津並みに無茶苦茶なフロリゼルの活躍が繰り広げられる。たまらない!

  • ボヘミアの王子フロリゼルが関わった奇妙な二つの事件を書いた連作品。
    臣下の諫めも聞かず面白がって危険に飛び込んでしまう最初の作品から段々と人格が高潔になってしまうのはやや物足りなく感じますが無関係の人間を犯罪に巻き込む敵のやり口や語り手が各話違うけれど物語が続くスタイルは面白かったです。
    ロールズ氏は聖職者から180度方向転換してしまったのだからそのまま犯罪者を極めて欲しかったな、とも少し残念に感じました。

  • 冒険小説の古典的名作「宝島」の作者スティーブンソンが書いたミステリー風の小説。

    ボヘミアの王子フロリゼルの関わる二つの奇妙な事件が収録されている。
    メインキャラクターはフロリゼル王子なのだが、章によって違う登場人物の視点での物語になる。
    19世紀のロンドンとパリが舞台。

    序盤のフロリゼル王子は、自ら刺激を求めて危ないことに首を突っ込んでゆく感じで、お付きの臣下ジェラルディーン大佐が諫めても聞かないタイプでなんと

    なく漫画「レベルE」のバカ王子とダブってしまって、あのキャラクターの元ネタはこの王子なのかと思ってしまった。
    しかし、後半の章になるにつれ高潔で正義感の強い人物になってしまい、さながら銀河英雄伝説のラインハルトの様になってしまっているのでギャップが大きい。

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