椿姫 (光文社古典新訳文庫)

制作 : Alexandre Dumas fils  西永 良成 
  • 光文社
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レビュー : 40
  • Amazon.co.jp ・本 (491ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751616

作品紹介・あらすじ

美貌の高級娼婦マルグリットは、パリの社交界で金持ちの貴族を相手に奔放な日々を送っていた。ある日、青年アルマンと出会い、初めて誠実な愛を知る。マルグリットは享楽的な生活を捨て、パリ近郊の別荘で二人の幸福な生活が始まる。だが、噂を聞いたアルマンの父が駆けつけて…。

感想・レビュー・書評

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  • 人は自分が持つことができない物こそ欲し、なれないからこそ憧れる厄介な欲求がある。善良な市民がアウトローに憧れ、純朴な女性が破滅的な恋愛を求めるのも多分そういうことだ。高級娼婦マルグリットと良識ある青年アルマンは正反対の二人だからこそ相思相愛に…と思ったが、途中からアルマンくんのダメっぷりに目も当てられなくなってきた。マルグリットに己の虚栄心を散々指摘されてもさっぱり理解することなく、余計なお世話や当てつけやらを繰り返す彼に思わず目を背けたくなるのは自分も同類のダメ人間だからでしょうか。あぁ、恐ろしい…

  • 19世紀フランスの作家であるデュマ・フィス(1824-1895)の代表作にして恋愛小説の古典、1848年の作。イタリアの作曲家ヴェルディによるオペラでも有名(初演1858年)。作者が嘗て関係を持っていた実在の高級娼婦との体験が基にあるとされている。なお、デュマ・フィスは『三銃士』『モンテ・クリスト伯』で知られる作家アレクサンドル・デュマの私生児。

    本作中に様々な形で登場する、アベ・プレヴォーの『マノン・レスコー』と、幾つかの共通点を持つ。作者の実体験が背景にあること、ヒロインが高級娼婦であること、その恋人であった男の回想として話が展開していくこと、男がヒロインや世俗に翻弄されること、恋人同士は男の父親によって引き裂かれること、最後に恋人たる男を愛しながらヒロインは死に赴くこと、残された恋人によって埋葬の移しかえが行われること・・・etc. 本作のヒロインたるマルグリットの人物像・その心理の変遷は、マノンに比べてずっとはっきり描かれているように感じられる。



    娼婦を自己の快楽享受の為に金で買った道具としか看做さない男たちの中で、アルマンだけは「じぶんのためではなく、あたしのためにあたしを愛してくれ」た。男たちの欲望に奉仕する商品として人格が物象化され心身ともに虚偽に塗れていく中で、アルマンは「あたしが自由に考え、話すことができる、たった一人の人間」だった。そんな二人が愛し合うと云うのは、実に美しいことだと思う。

    そんな二人が一時の幸福な信頼の裡に愛の生活を実現できたのが、虚飾と俗物に埋め尽くされた狂騒の大都市パリを離れた田園であったという点も『マノン』と共通する。即物さを振り切りながら若さが疾走する真実の愛は、俗世を突き抜けたところにしか在り得ないのか。「社会」とは相容れない狂気にも似た無限遠の自閉空間――そして「社会」による制裁を受けて破滅せずにはいない私的世界――、でしか在り得ないのだろうか。

    「これは狂気の沙汰かもしれない。でも、あたしは彼を愛しているのよ! どうしようもないじゃないの」(マルグリット)

    「世界は遠くのほうで勝手に営みをつづけ、ぼくらの青春と愛の絵図を影で汚すこともありません」(アルマン)

    「ああ、あんたはこう思っているんでしょう。ふたりが愛し合い、羊飼いの少年少女みたいに田舎でゆったりとした生活をしていればそれでいいんじゃないかって。・・・、それじゃだめなのよ。理想の生活とは別に、物質的な生活ってものがあるんだから。どんなに純真な決意だってね、・・・、鉄のように頑丈な鎖でこの地上につながれているものよ」(プリュダンス)

    それにしても、男が女に向ける独占欲というのは度し難い。まして高級娼婦を恋人にもつ、若いだけで金持ちの粋人でもないただの男であれば。

    「もしあなたが真剣に恋をしたことがあるならきっと、じぶんが全身全霊を捧げて生きたいと願う存在を世の中から孤立させておきたいという、あの欲求を覚えられたことでしょう。愛する女性が周囲にどんなに無関心でも、いろんな人間や物事にふれていくうちに、いくぶんかは香気と純一さをなくしていくように感じられるからです」(アルマン)

    男の独占欲・虚栄心が娼婦の自尊心と衝突する遣り取りを見るにつけ、様々に姿を変える偽装した自己愛でないような純粋な愛というのが在り得るのか、思わず考えさせられた。二人いれば、その二人は互いに他者である。各人の愛の形に相手が首尾よく収まるとは限らない。自己都合という隔壁が融け消えてしまう陶酔の瞬間、合一の瞬間、それは殆ど死の瞬間と云っていい、成就されざる成就であるか。

    二人の愛の美しさゆえに、女に裏切られたと勘違いした男による報復の残酷さが哀しく際立つ。自分を傷つけようとする男の行為すら愛の証だと赦し、男を愛し続けながら死んでいく女とは対照的に。憎しみも愛の一つの現れであろうか。



    同じく若さの恋愛小説とでも云うべき『マノン・レスコー』と併せて読みたい。二作を続けて読んだのだが、翻弄されながらも娼婦に惹かれ続けずにはいられない男の心理が、何だか我が事として分かってきてしまいそうだ。

  • 19Cのフランスにおいて、高級娼婦が純粋な青年との愛を通じて「真の愛」にたどり着くお話。
    この本における主題はおそらく「長期的な視点から愛する相手の利益になる場合には、短期的には相手の不利益になるようなこと、あるいは自分が嫌われるようなことでもするのが、真の愛の持ち主である」みたいなじゃないのかなー。
    個人的にはクソみてぇな自分の人生の中の反省において、愛とはそういうものであるのではないか、と思う機会が多いので、この本の「愛観」にはアグリーですおっおっお

  • 男と女の恋愛の感情を見事に描いているように思う。

    1年足らずで亡くなってしまうこと、社会的な大きな障害・・・全てが恋を燃え上がらせる。マルグリッドの感情は詳しくは書かれていないのに、なぜか彼女の信条がひしひしと伝わってくるところがこの小説のすばらしいところだと思う。作者のデュマ・フェスの実体験をもとにしているらしいので、真実味があるのかもしれない。

    しかし・・・

    最後に、「それでも、アルマンはいつかまた恋愛をして、たくましく生きて行くんだろうな・・・」と思ってしまったのは、ワタシの年齢のせいだろうか・・・

  • どこにもなく、出版元に確認してもなし。古本屋で2500円……

    新潮社のものはキラキラした表紙で綺麗でしたが、ツルツルした紙質に字も大きく読みにくいため、角川のにしました。
    それも大きかったですが、まだぎりぎり読める感じ。
    翻訳者も大事ですが、出版元で紙質や字のサイズも気になると感じた1冊でした。

  • 椿姫、「愛のむくろ」にあらず。

    パリ社交界でその美貌で名高い高級娼婦、マルグリット・ゴーティエと恋に落ちたアルマンは、パリ郊外の田舎で二人きりのささやかな生活を送る。アルマンの誠実さにマルグリットもまた彼に心を許し生まれ変わろうとする。しかし彼女にのめり込み、彼女の豪奢で奔放な生活のつけを払うために借金まで負おうとする息子を案じたアルマンの父親がパリにやってきたことから、二人の関係に暗雲がたちこめて…

     相手が娼婦という玄人女性と知りつつも、彼女のパトロンが彼女の家から帰るのを家の前で朝までじっと待ち、嫉妬が抑えられない。父親の差し金であえて身を引かざるをえなかったマルグリットの事情も知らず、彼女の愛想つかしを間にうけてあらん限りの方法でマルグリットに復讐をする。アルマンの青さが痛すぎる。

     社交界を舞台にした大人の恋愛というものに免疫のないこんな青二才に惹かれた理由をマルグリットは「あなたがじぶんのためではなく、あたしのためにあたしを愛してくれるからなの」と語っている。つまりアルマンの自分に向けられる真っ直ぐな愛情は、「社交界の美貌の花」という人ではなく男たちの欲望を満たすための所有物、モノとして扱われてきた彼女が最も望むものにずばりはまったのだった。

     マルグリットは、アルマンの不在に訪れた彼の父親の「アルマンと彼の愛する家族とを大事に思うなら身を引いてほしい」という説得を受け入れ、その自己犠牲を自らの誇りとしてアルマンとの別れを決心するのだが、それと知らずに一方的に彼女に裏切られたと思い込み、彼女をとことん傷つけるアルマンの幼さ単純さはマルグリットの孤高の決意の悲愴さを際立たせる。彼女はその決意を胸に抱いたまま不治の病のために独り逝くのである。

     少女の昔初めて読んだ『椿姫』には実はホラーじみた印象しか残らなかった。それはマルグリット亡き後、全てを知ったアルマンが後悔の念にさいなまれながら、彼女の亡骸を埋葬しなおすため墓を掘り返す場面があるのだが、むくろとなり変わり果てた「パリ社交界の花」の姿が衝撃的だったからだ。だが、今ならばわかる。むくろはマルグリットその人ではない。アルマンのあまりにも青すぎた愛のむくろだ。

     さて、私にとってはアルマンの青き「愛のむくろ」と読めた『椿姫』だが、本書の解説に紹介されていたロマン・バルトの「『椿姫』の中心的な神話は〈愛〉ではなく〈承認〉である」という説にはパンチを食らった。娼婦という常に卑しい身分と社会的に見られているマルグリットは、人として対等にアルマンから愛され、また彼の父親の願いを受け入れて自己を犠牲にすることにより父親から敬意を得るというように、他者からの承認を得ることによって自己が高められたことを認識する。

     つまりこれは若きアルマンの失恋物語ではなく、「他者から敬意を払われ自己を認められたい」という人である限り誰しもが持っている欲求を実現したマルグリットの物語だというのだ。この意味においても、本書のタイトルはマルグリットを表す『椿姫』なのだなと感じ入った。

  • 高級娼婦と青年の恋物語

    デュマ自身の体験をベースに物語が進んでいく。恋愛模様は分かり易いが、周囲の人々の色々な思いが交錯していてもどかしさを感じる。
    一時の幸せを感じつつもお互いの事情により離れざるおえなかった二人の気持ちが複雑だと思う。

  • 本当に名作…最高の愛の物語。
    デュマ フィス自身がマルグリットのモデルとなった女性にどれほど入れ込んだかは妻を差し置いて彼女の墓の近くに葬ることを頼んだことを見ていても明白。

    序盤でこの愛の結末はわかってしまうんだけれど、そこに至るまでの愛の物語が半端じゃない。
    ふたりは愛し合いたいだけなのだけど、世間が放っておかない。愛するがゆえに犠牲を払わせることを選べない。そして最後には…
    読んで本当に良かった。

  • 金城一紀の『GO』に出てきて気になってた作品。こういう作品だったのか。高級娼婦のマルグリットと恋に落ちたアルマン。作者デュマ・フィスの実経験を下敷きにして書かれた美しくも儚い恋のお話。実質処女作と言えるこの作品でデュマ・フィスは自身の恋物語とフランス社交界の裏と闇を書き上げた。娼婦は普通の幸せを掴めないのかなー。手紙のシーンが切ない。作中に出てくる『マノン・レスコー』を読んでみたくなった。2012/429

  • 古典って感じ、また観たことないけどいかにもオペラの原作(いかにいい加減な感想かがばれてしまう)。歩みが雄大で、男女の仲もある意味あっさりと描かれている。
    この時代のキーは手紙ですか、そりゃ時間も今から考えれば緩やかに流れてるだろう。最早こういった感覚は実感不可、良い悪いの問題ではない。
    だからこそ失われた価値に裏打ちされた古典は読まれるべき意味があると思われ。

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