訴訟 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-2)

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  • / ISBN・EAN: 9784334751944

作品紹介・あらすじ

銀行員ヨーゼフ・Kは、ある朝、とつぜん逮捕される。なぜなのか?判事にも弁護士からもまったく説明されず、わけのわからないまま審理がおこなわれ、窮地に追い込まれていく…。「草稿」に忠実な、最新の"史的批判版"をもとに、カフカをカフカのまま届けるラディカルな新訳。

感想・レビュー・書評

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  • カフカがこっちを笑わせようとしてきている小ネタを訳者の丘沢さんが丁寧に拾っていくので重苦しさが薄く、さらにヨーゼフ・Kが芸術的にウザいので逮捕と先の見えない訴訟に同情心が湧かないため軽やかに読める。ただし最後まで軽やかに読んだ時点で、何を読んだのか迷子になる。決定稿ではないからなのか、終わらない訴訟の話なんだから迷子になって当然なのか、ちょっとまた1ステージ目からプレイしますね、という気持ちになる。巻末にまとめられている「断片」の各章をどこに挟むといい感じに納まるかどうか考える余地もあったりして、ゲームブックのような小説といえるかもしれない。

    身に覚えのない訴訟以外は、有能なんだか自己肯定感が高いボンクラなんだかわからない30歳の会社小説&妙な女達との邂逅小説だ。仕事ができるのと人間として深みがあるのは別だと言われたらそうなのだが、ヨーゼフ君事故で頭ぶつけたりしなかった?という不安に駆られたし、なんとも魅力がない彼が妙に気持ちの悪い女達にモテモテなのも幸せなのか不幸なのかわからない(余談:ヨーゼフ君は好きな誰子ちゃんに好かれるからうれしいんじゃなくて誰かが自分を好くことで自分の立場が上になることが好きなんだと思う。権力闘争の人だから)。全体的に、わからなくなる。わからなくすることを追求した本だともいえそう。

  • 知り合いに薦められて読みました。「審判」という名前の方が有名かもしれませんが、光文社の「古典新訳」文庫では、あえてより一般的な「訴訟」というタイトルにして、さらに元のテキストになるべく忠実に順番を並べたそうです。確かに読み進めると、最後の方は、おやっ?という箇所が登場しますが、チャプターの順序についてはあまり気にせず読むことをお勧めします。また日本語訳は全体通してとても読みやすかったです。

    主人公のヨーゼフ・Kはある朝いきなり逮捕されますが、罪状がわかりません。逮捕した役人も罪状を知らず、「裁判」にかけられても下級の役人は罪状を教えてくれません(というか役人自体もわかっていないらしい)。その中で主人公は親戚や会社の同僚、弁護士や判事などとやりとりしますが、事態は進展せずストレスばかりがたまる・・・というような内容で、ものすごく印象に残るストーリーでした(この本のストーリーは一生忘れない気がします)。

    理不尽さを小説にしたという解釈がありますが、私はAI全盛時代には、この小説のようなことが現実に起こるかもしれない、と感じました。フィリップ・K・ディックのマイノリティ・レポートにも通じる面があり、例えばAIが「〇〇氏は悪事を将来働くから逮捕せよ」と警察に指示を出すようなシナリオです。捕まった当人はいったいなぜ自分が逮捕されたのかわからないでしょう。「訴訟」はAI全盛時代にこそ読まれるべき本かもしれません。

  • 訳の分からないまま、裁判にかけられてるんだけど、なにか哲学的なにおいをかんじながらよんでます。

    わたしたちの日常もわかったつもりなのに何か勘違いをして進んでいるのかもしれないなぁ。

  • 銀行員のヨーゼフ・Kは、ある朝突然、官憲に逮捕される。そして、実体のよくわからない裁判・訴訟にまきこまれてゆく。罪状も不明、訴訟日程などの手続きなど、裁判所サイドからの情報も不案内なのであった…。

    以前、新潮文庫版で「城」などを読んだことがある。それら既存の翻訳は、陰鬱で、ダークな印象が濃厚だったように記憶する。
    だが、この新訳では、むしろ軽妙で、ときに明るさすら感じられ、それが最も大きな違いである。読み易いか、と言えば、こちらの新訳のほうが読み易い。

     展開や結末が明確な小説ではなく、各章の奇妙な状況そのものを味わう、というのが本作の、カフカの読み方だと私は思う。だけど、折にふれて時々再読する、という小説ではないかな、私には。

  • 例えば、今でも、警察署って古い建物が意外と多いって思わない?
    迷路のような廊下に一度迷い込めば、前からは制服人間が頻繁に押し寄せ、そして平日の昼間に何の用でいるのかよくわからない人たちが無表情でソファーに座っている… この作品の裁判所の描写を読んでると、ふとそんなことが思い浮かぶ。

    一言「不条理」って言われている(らしい)カフカ作品の初体験の感想は、翻訳者による日本の現代言葉を使ったきびきびした文体によるところが大きいのだろうけど、「不条理」って少しも感じなかった。逆に、冒頭に書いた警察署の情景を思い出したように、すごく身近に感じられるものがあった。
    私の感覚が麻痺しているのか、悲しいことに現実社会がカフカの世界に追い付いたのか、カフカが生きた時代のプラハよりも、私たちが生きる現代の日本社会のほうが不条理に感じる。現代、私たちはほぼどこででも、こちらを見つめる監視カメラの目や、コンビニのレジや役所の窓口で急に激昂してわめき散らしている、いい歳したジジイババア共や、自宅と学校とマクドナルドとコンビニの往復だけで一日の生活を終える、携帯電話の画面の大きさくらいの世界観しか持たない高校生とかにしか出会わないし。

    やっぱりカフカ作品はそれが一見いびつに見えるだけで、非現実の脳内世界っていうんじゃなく、ぴったりと現実全体に貼り付く人生や社会の真実を、コインの裏側を見せるように描いてくれたのかなあ。それに気づいた現在、現実世界と空想世界とどちらが不条理か、分別がつかなくなってるっていうのは本当に皮肉だけど。

    でも、私も、冒頭の「誰かがヨーゼフ・Kを中傷したにちがいなかった。悪いこともしていないのに、ある朝、逮捕されたのだ。」という描写で、この作品やカフカに速攻で引き込まれた。
    それにしても、日本でカフカの熱烈ファンが多いっていうのは、他のかたの熱いレビューでよくわかった。
    それぞれのレビューが独創的で、ある意味カフカ的だというのは、ほめすぎかな。
    (2011/1/26)

  • 「審判」と従来は呼ばれていた未完の作品の新訳。20年くらい前に観たオーソン・ウェルズの映画版がすごく暗くてわけわからなくて面白かったのをよく覚えてる。
    原作もやっぱりわけがわからない。監視人、判事、弁護士、事務局員さまざまな人々が入り乱れさまざまな出来事が起こるが、全体としてなにひとつ進まない。それどころか、いったい何の訴訟なのかも一向にわからない。にもかかわらず、主人公はその訴訟に巻き込まれ生活の全てを翻弄される。まさに不条理の極致。
    その割りに、想像してたよりもぜんぜん軽い。映画版みたいな暗さはなく、全体として喜劇的な明るさと軽さがある。主人公がやたらと女性にモテることも含めて、何かに似てるなと思ったら、村上春樹だと気づいた。(フランツ・カフカ賞とか「海辺のカフカ」とかあるけど、直接的に村上春樹とカフカを対比した批評ってあったっけ?)元からそうなのか翻訳のせいなのか。カフカも村上春樹もよく読んでるわけじゃないのでよくわからないな。どうなんだろう。

  • にやにやくすくす、笑えて笑えて、ブラックでぞっとする。オフビートで先読み不能、転がるロックンロールな小説でした。
    「1984」みたいなんだけど、もっと楽しく皮肉に笑えます。映画「未来世紀ブラジル」っぽいけど、もっと挑戦的。
    映画で言うと、「未来世紀ブラジル」をゴダールが好きに撮っちゃいました、喜劇です。なんだけど、これ本当に喜劇ですか?みたいな感じですね。

    それはさておき。
    フランツ・カフカさんの長編小説。長らく「審判」というタイトルで知られていました。

    カフカさんは、生前は「変身」などを発表したくらいで、作家としては無名なまま1924年に40歳で死んでしまっています。
    この「訴訟(審判)」は、カフカさんが30歳前後の頃に書かれたものらしいですね。
    でも、未発表なまま死んじゃった。残された遺稿は、順番のはっきりしない16の章、16の連絡短編のようなものだったそうです。
    で、カフカさんの死後、お友達のブロートさんという人が発表。
    その際に、ちょっと書き換えちゃったり、いろいろしちゃったみたいなんですね。
    で、タイトルも「審判」。「審判」に限りませんが、死後のブロートさんプロデュースの遺稿発表で、詳しくはなぜか知りませんが、爆発的に売れてしまったそうなんですね。

    その後、「どうやらブロートさんが結構変えちゃってるらしいね」ということが研究者の間で判ってきまして。
    今回の光文社古典新訳文庫では、「できるだけカフカの原文に忠実に」というのがコンセプトらしく、タイトルも直訳すると「訴訟」という方がふさわしいそうです。
    ところが、16の章の並びが判らない。判らないので、そこは、えいやっ、って並べてみました、と、あとがきに書いてありました。まあ、しょうがないですね。

    というのが、前置き的な備忘録なんですが、読後感としては、
    「おもしろかった。でも…ちょっと長いかな?」
    と、いうのが率直な印象でした。

    やっぱり印象に残っているのは、

    ●冒頭、とにかく訴えられちゃった、困ったな、という、主人公ヨーゼフ・K。
    なんだけど、なんで訴えられたのかさっぱり判らない。
    刑事事件だそうなんだけど、被害者が居る訳ではなくて。
    なんとなく、「お国の法に抵触した」という感じ。
    誰も中身が判らないけど、それが置き去りにされて困っちゃうし、憤慨する(笑)。

    (そもそも、この、ヨーゼフ・Kっていう名前が、いかしてるなあ、と思います。
    Kってなんやねん、って感じですけど。その「肝心なところがわかんないじゃん」というのが、ものすごくこの小説にふさわしいですね。
    とってもなんだか、ロックンロールな、お名前ですね)

    ●ヨーゼフ・Kさんは銀行員。それもそこそこの地位の人。
    上役と競いながら、上役を気にしながら、部下にチョットいばりながら、一生懸命仕事する。訴訟が気になるけど仕事する。
    これがまた、どんな仕事なのかはサッパリわからない(笑)

    ●この訴訟に絡んで、なんだか良く判らないけど良くないことをしてしまった銀行の部下が、
    ある夜、銀行の物置部屋(?)で、鞭打ち人に、鞭を打たれている。
    鞭を打たれて、ひぃひぃ苦しみ悶えながらも抵抗できないという。
    それをみて、かわいそうと思いながらも何もできない、恐れおののくヨーゼフ・K。
    これまた、何が何だかわからない。わからないけど、権力の恐ろしさ、権力のピラミッド構造の不条理さ、ほとんどマンガで気持ち悪いけど笑えちゃう。

    ●訴訟にまつわり、公判?に集う、わけのわからない人々。
    そして、これまた中身はサッパリわからないけど、なんだかソレッポイだけの弁護士。

    いらいらする主人公。
    良く判らないけど、ゴルゴ13のマンガみたいにすれ違った女性と情事に及んだりする迷走。

    ●役場の対応が、これまたたらいまわしというか、なんというか。
    訳が分からないけど、これまた権力がピラミッド構造になって、空洞化しているような虚無感の戯画化というか。

    ●ヨーゼフ・Kの叔父さんなどが、訴訟になったのか!と恐れおののき憤慨。
    これまた、「なんでそうなってるの?」という餡子をさておいて疾走する物語。
    このあたりも、クスクス笑って読めました。

    ●ヨーゼフ・Kが、男たちに連れられて、殺されてしまう。
    これが、最終章ならそれはそれで判りやすい?終わり方だけど、この本としては「これは最終章じゃないんじゃないか?」という置き方。
    なので、夢なのかな?という風にも読み取れる。
    ただ、この章自体は、オモシロ怖かった。

    と、いうようなところですね。

    なにしろ、作者からすると「死後にごみにしてくれ」と言い残した遺稿なんで。
    作者の中ではダメだったのか。それとも、もっと手を入れたかったのか。長くしたかったのか。短くしたかったのか。
    面白いのは面白かったんですが、「変身」に比べると、冗長であることは確かだった気がします。
    この「訴訟」だって、半分くらいとかにぎゅぎゅっとすると、もっと面白かったんじゃないかなあ、という気もします。

    ただ、面白かった部分で言うと、普通の小説のような「密度」「テンポ」といったものとは別次元の面白さ。
    いちがいに短くした方が良いとは言えないかもしれませんね。

    オフビートで、先が読めない。リアリズムも定型も関係ないので、目が離せないジェットコースター状態なんですね。下手すると、平気で空中に飛び出して終わっちゃう、そんなジェットコースター(笑)。

    ただ、この「訴訟」で翻訳者が意図しているように、大事なのはユーモアっていうか笑える部分なんじゃないかなあ、とは思います。
    「変身」もそうでしたが、よくよく素直にぼーっと読むと、笑えちゃう。
    不条理っていうとなんだかムツカシそうですが、
    ●「お前を逮捕する」
    ▲「なんでですか」
    ●「逮捕するから」
    ▲「困ったな」
    ●「有罪だ。処刑」
    ▲「なんで!助けて!俺はやってない!なにを?」
    という感じですから、ほとんど、ドリフのコントなんですね。
    別段、カフカさんはもったいつけたりしてません。カッコつけたり、ブンガクぶったり、高尚にごまかしたりしてないんですよね。
    判りにくいこと、判らないこと、「???」となること自体が、書きたかったことなんでしょうね。

    じめじめせずに、からっと乾いた笑い。

    笑えて止まらないかとおもったら、ふっと怖くなる。気持ち悪い。

    実際に僕らの生活でも、会社の中でも、なんだかいつのまにか「なんで?」という中学生レベルの疑問に、答えられない状態で進んでいることって、ありますよね。



    …国家の政治の話でも、そうだったりするんですよね。
    笑えませんね。


    さすが、カフカさん。面白かったです。愉しみました。

  • カフカの文章は、特定の精神状態の時に読むと鎮静作用がある。少なくとも僕の場合はそうだ。
    けっこう切羽詰ってる。文章が頭に入ってこない。それだからいっそう(活字中毒の僕は)小説を求める。……そんな時、カフカの文章はめきめき効力を発揮する…ような気がする。

    まったく身におぼえのない訴訟を起されたK。誰が訴えたのか、そしていつまでつづくのかもわからない。『城』でも散々だったKと、同一人物に思えて仕方なく、僕はかえってくすくすと面白がってしまう。
    「掟の門」の話は、なんだかとっても惹きつけられる…でも意味わかんない! カフカは「意味わかんない!」から心地良くある。

    光文社古典新訳でよかった。あとがきにもあるように、ユーモアが随所にちりばめられていて、今までのしかめっつらしいカフカよりこちらのほうが断然好きだ。
    丘沢静谷の訳でケストナーの『飛ぶ教室』も前に読んだけど、あれもよかったしね。

    追記。「未完成」とはいうものの、そもそも終わりのない訴訟を描いたのがこの小説なわけで、どこで区切るかの問題はあるにしろ(個々の読者が決定するほかないと思うが)、「未完成」がこの小説の欠点にはなりえない。

  • やっぱりカフカは面白い。不気味で異様な設定で終始よくわからないのだけど、その中にも真実が隠されているかのような。サラリーマン生活で溜め込んだ組織に対する鬱憤をこっそりしたためていたのかな、と想像して思わず笑ってしまう。未完の物語であることが惜しい。

  • ディストピア小説を思わせる。半分ほど読んで、関心が途切れてしまった。その訴訟について、本人だけが何も知らされていない。 丘沢静也による新訳。16/03/20

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著者プロフィール

1883年プラハ生まれのユダヤ人。カフカとはチェコ語でカラスの意味。生涯を一役人としてすごし、一部を除きその作品は死後発表された。1924年没。

「2022年 『変身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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