カメラ・オブスクーラ (光文社古典新訳文庫 Aナ 1-1)

著者 :
制作 : 貝澤 哉 
  • 光文社
4.03
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本棚登録 : 301
レビュー : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752361

作品紹介・あらすじ

裕福で育ちの良い美術評論家クレッチマーは、たまたま出会った美少女マグダに夢中になるのだが、そこにマグダの昔の愛人が偶然姿をあらわす。ひそかに縒りを戻したマグダに裏切られているとは知らず、クレッチマーは妻と別居し愛娘をも失い、奈落の底に落ちていく…。

感想・レビュー・書評

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  • 地位も名誉もあり、裕福で私生活にも恵まれた男の心に、ふと魔が差して、
    どんどん悪い方へ、抜き差しならない状況へと転がってゆくストーリー。
    途中、タイトルの「意味」がわかった瞬間、慄然としたが、
    彼がいい年をして無茶を仕出かすにしては、
    育ちのよさのせいか、悪いヤツになりきれず、
    むしろ小悪魔と小悪党のペアに翻弄される様子が憐れにして滑稽で、
    そこがこの小説の面白さだと思ってしまう自分の性格には
    幾分問題があるのか、どうか。
    それにしても、巻末のナボコフ年譜、

    > 1916年‐17歳、10月、死んだ伯父の遺産を元手に『詩集』を自費出版。

    という短い記述に嫉妬と羨望を覚えて歯軋り(笑)。

    「そう、生きるのは大変よね」(p.223)by 美少女マグダ

  • おもしろ哀しい災厄の恋愛。終盤の対決シーンは完璧で美しくてあっけない。

    おおむね喜劇として楽しんだのだけれど、悪のエキスみたいなホーンのふるまいは怖かった。クレッチマーとマグダがわりとそこらにいそうな人物だったからなおさら。そして喜劇だから何かと拳銃が出てくることを気にせずに読んでいたけれど、裏切られたから殺そうとするのは、外見が美しいから愛すると同じぐらい、相手が人間に見えていないのだ。愛じゃなくて恋だし狂気だった。

  • 1933年、ナボコフ初期の小説で、『ロリータ』の原型をなすような、オヤジの、少女への愛と裏切られる受難をえがいている。
    後年のナボコフは文章自体がすさまじく濃密なディテールに溢れ、読みにくいのだけど、この初期作品はずっと読みやすい。ストーリーも明快で、普通に面白い。
    ロリータは12歳だがこの作品の少女マグダは16歳。ふつうなら高校1年か2年生だ。援助交際とかで女子高校生を漁るエロオヤジもたくさんいるみたいだから、性的に異常とはもはや言えないだろう。ロリータの12歳はかなり若い(小学5年か6年)が、13歳で結婚させる社会もこの世にはあるのだから、ローティーンの少女を性的対象として見ることをタブーとするのは、単にわれわれの社会/文化の機制であろう。かく言う私も、20歳以下の女性は「子供」というイメージしかしないので、とても恋愛の対象にはできそうにないが、それは無意識裡に文化にすりこまれたというところか。
    まあ、年齢はちょっと低いけれども、妻子のある中年オヤジが若い女性にメロメロになってしまうという点では、個人的にとても共感できる。
    この小説では少女マグダが別の男性とべったりになって中年主人公を裏切る。ブニュエルの映画「欲望のあいまいな対象」に似ているが、谷崎潤一郎的なマゾヒズムの契機は、ナボコフには存在しない。彼はヘンタイとは言えない、普通な心性を持ったまじめな文学者というべきだ。
    この小説も、谷崎的ないしドストエフスキー的なマゾヒズム、破滅志向が存在しないため、意外にも健康的な、純粋に小説的構成を楽しむための作品となっている。それはまるで推理小説的な構造をもった『ロリータ』でも変わらない。
    ナボコフの興味は倒錯的心理にあるのではなく、あくまでも純粋な「小説作法」にあるわけだ。その意味では、この初期作品はまだ円熟期の濃縮が足りないのだが、ふつうに楽しく読めることは確かだ。後味も意外と悪くない。

  • ロリータを読んでから、ナボコフという作家に興味がわいて買いました。
    前作よりも読みやすく、比喩もロリータよりかは息をひそめている感じがしてすらすらと読めました。


    後半の盲目になった時の絶望感はすごかったです。描写から今見えている視界がきえたかのように、その時に感じる肌の風の感触とか、遠くの衣擦れの音とかも聞こえてくるような気がして・・・
    読後感がすごいです。何とも、自らまいた種というべきなのでしょうけれど、娘と妻を捨てて他の女の所へ行ったとしても、この最後はあまりにも酷過ぎる。
    恐怖がぞわぞわと眼球を撫でているかのような感覚。
    クレッチマーも悪いけど、後半のマグダとホーンを見ていると微々たるものに思えます。

    ドリアンナ・カレーニナの名前ににやり、としていた頃が懐かしいです。

  • ロリータには及ばないけど、これも中々面白かった。
    谷崎潤一郎的な昼メロっぽい下世話な話を、文学にまで高めている。
    初期の作品だけどギャグセンスは冴えている。
    あの変な作家の友達はよかった。
    マグダはひどい女なんだけど、ちゃんと胸キュンもあるのが凄い。
    マグダとホーンが再会して絵を渡されるシーンは、かなり胸キュン度が高かった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「谷崎潤一郎的な昼メロっぽい」
      上手い!
      ナボコフのえも言われぬユーモアが好きです。
      「谷崎潤一郎的な昼メロっぽい」
      上手い!
      ナボコフのえも言われぬユーモアが好きです。
      2012/12/10
    • ayahさん
      nyancomaruさん、コメントありがとうございます!

      そうなんですよね、ユーモアというかブラックユーモアというか。。。^^;
      本が中々...
      nyancomaruさん、コメントありがとうございます!

      そうなんですよね、ユーモアというかブラックユーモアというか。。。^^;
      本が中々手に入りにくいのが難点ですね。
      2013/01/07
  • 古典

  • 2011-10-1

  • 恋は盲目 と 昔の人はよく言ったものらしい。理性や常識を失うと、奈落まで落ちていく。家庭崩壊。裕福な妻子ある男性と少女の恋愛は、周りを見えなくし、家庭崩壊、娘の病死。
    さらに旅行中に少女とその愛人がヨリを戻した事を知って…心中未遂か?事故を起こし、失明する。下衆なカップルに復讐しようと、踏みこみ哀れな結末を迎える。
    や、まさか命まで取られるとは。暗い部屋でのモノクロな恋愛模様?
    'ロリータ'のベースになった作品にしてはシンプルな方らしい。'ロリータ'を読んでみたくなったが、最後まで挫折せず読めるか?

  • 初めて手にしたナボコフであり噂通り強烈な印象を残した「ロリータ」と、この「カメラオブスクーラ」で作者の著書は2作目です。
    あとがきにもありましたが、読みはじめ辺りから感じるこの気持ちの悪さは読んだ覚えがあるなぁなんて思っていましたが、「ロリータ」と流れが似ている。
    私はなぜ、大人の男性の狂おしいまでの想いに少なからず違和感を覚えたのか、読みながら考えていました。
    おそらく、彼が求めていた少女と実際に接触するまでの男性の内面の描写が、女である自分には馴染みのないものだからかな、というのが読み終わってから気づいた私なりの気持ちです。

    美術評論家であり、妻子とともに裕福な暮らしを送るクレッチマーは、映画館で見かけた美しい少女マグダに激しい恋心を抱きます。
    なめらかな肢体に触れる幸運に目がくらみ、クレッチマーの行動はエスカレートしていきますが、マグダもまた止められない情欲を他の男性に抱いていました。

    最後には本当の「破滅」が待っていますが、ストーリー自体に新鮮さは特に感じませんでした。
    ナボコフの良さを感じたのは、その描写の方法です。

    クレッチマーがむちゃくちゃやろうが、愛人マグダがさらにマイ愛人を作ろうが、まるで美しく花から花へ飛び交う蝶のように、ナボコフは情景を二次元、三次元と描いていきます。
    聞くだに気が滅入りそうな人物やストーリーも、精緻に描き出された情景がもたらす効果によって、どんどんと映画のように視覚的なスピード感を持って頭の中を流れていくようでした。
    言葉というものを生涯かけて操ろうとしたような、なんとも不思議な深さを感じました。

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著者プロフィール

ウラジーミル・ナボコフ(Владимир Набоков, Vladimir Nabokov)
1899年4月22日 - 1977年7月2日
帝政ロシアで生まれ、ヨーロッパとアメリカで活動した作家・詩人。文学史上、亡命文学の代表者とされることもある。昆虫学者としての活動・業績も存する。
ロシア貴族として生まれたが、ロシア革命後の1919年に西欧へ亡命。ケンブリッジ大学に入学し、動物学やフランス語を専攻。大学卒業後にベルリンで家族と合流して文筆や教師などの仕事を始める。パリを経て1940年に渡米、1945年にアメリカに帰化。1959年にスイスに移住し、そこで生涯を閉じた。
ロシア時代から詩作を開始。ベルリン、パリにおいて「シーリン」の筆名でロシア語の小説を発表して評価を受ける。パリ時代の終わりから英語による小説執筆を始めた。渡米後も英語で創作活動を続け、詩・戯曲・評伝を記すだけでなく翻訳にも関わった。
代表作に、少女に対する性愛を描いた小説『ロリータ』。映画化され、名声に寄与した。ほかに『賜物』、『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』、『青白い炎』、自伝『記憶よ、語れ』。

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