詐欺師フェーリクス・クルルの告白(下) (光文社古典新訳文庫 Aマ 1-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752378

作品紹介・あらすじ

クルルはある青年貴族の身代わりとなってリスボンに向かう。車中、古生物学者のクックック教授と同席し、地球の生命と宇宙の生成について講義を受ける。クルルは深い感銘を覚えるが、一方で教授の娘にも魅了され…。稀代の詐欺師クルルの身に、予想外の展開が。

感想・レビュー・書評

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  • そのとらえどころない美を掴もうとする言葉の奔流は僕の琴線に触れた。
    詐欺師クルルが自分の世界漫遊見聞を饒舌に語るという、トーマス・マンが生涯書き綴って、結局第一部しか完成しなかった作品。
    だけど、神は細部に宿る。
    読んでいるこちらもオイオイと思う程の饒舌な語りから立ち表れるのは、愛について、生命について、宇宙について、美について、要するに「はかなさ」。クルルや登場人物たちの言葉や仕草、社会や風景等々の描写は、それを批評するためにあるのでは無く、細部に美を感じるためにある。

  • 大風呂敷を広げながら未完の自伝風小説というと即座に「トリストラム・シャンディ」を思い出す。
    あちらよりも、より物語的でより狙いが明確。
    マンは面白いものとどうにも読み進められないものとの差が激しい。

  •  原著1954年刊。
     トーマス・マン(1875-1955)が35歳で書き始め、永らく中断して書き終えたのは何と79歳。
     このインテリジェントな(大)作家については、北杜夫さんを通して畏敬の念を持ちつつも、近年は全く関心を寄せることなく、『ブッデンブローク』あたりも結局読んでないのだが、最近になって「トリックスター」への興味から、山口昌男さんの著作に本作がたまに言及されているので気になり、中古で入手した。
     少年時代から誰にでも化けてしまう(演技する)天才的な特技を持つ主人公クルルの遍歴を描く。やたら女性にもてる外観と洗練されまくった身ぶり(演技)を持っているのがミソ。
     が、本作は完全に「未完作」である。35で書き出して79歳までいったい何をやっていたのか。どうしてそんなに気にくわない物語だったのに、晩年になってこれの「第1部?」を書き継いだのは何故だったか。
     読んでいくと「これについてはもっと後で・・・」というような様々な伏線がそのままで中絶してしまうし、更に物語は膨らんでいくだろうと期待させられるのに、非常に中途半端なところで終わってしまうのがこの上なく残念である。
     もっとも読者がこの先「こんなふうに展開していくだろう」と予測できてしまうあたりに、老トーマス・マンはうんざりしてしまったのか。
     なるほど、逸脱しつつ他者、主に女性を翻弄してゆくクルルはトリックスター的な傾向を示している。ただ、トリックスターという役柄は、本来、本人のモノローグのかたちでは発動されないはずだろうという気もするし、際限の無いトリックスター的「いたずら」を延々と書けばもの凄く長大な小説になってしまうだろうと思われ、到底書き切れないことに気づいてうつむく老マンの表情が想像されて、同情を抱かされる。
     途中で妙な人物「クックック」氏によって開示される即物主義的・進化論的で壮大な宇宙観が本作にはまとまりのわるい長いエピソードとして挟まれるなど、気になる点をあれこれ残して、小説家が去ってしまったことが、いち読者としては悔やまれるところだ。

  • 未完の遺作だったようで、出版時は売れたらしい。上巻を読んでからだいぶ時間が経ってしまった。ほんっとにね、クルルのことがいけすかなくてね、なんとか何やっても許される超絶イケメンに変換しようとしたが、こういうタイプの男はなかなかイメージできなく、若い頃のアランドロンに置き換え、なんとか頑張って読みました。「なんかきゃあきゃあ言ってみたい、そういうの一度もないや」と思ったけど、ギンギラギン辺りのマッチには結構熱中してました。

  • 2011-10-21

  • ユングやアーレントなど、ドイツ語圏の本を読んでいるうちに、なんとなくトーマス・マンにたどりつく。

    マンは、北杜夫経由で読み出して、高校時代にハマっていたのだが、だんだん重厚長大な感じに疲れて、長らく遠ざかっていた。

    光文社ででているエロス3部作?(「ベニスに死す」「だまされた女/すげかえられた首」)が面白くて、その勢いで「詐欺師フェリークス・クルルの告白」に進む。

    こちらも、なんだかエロスな話しで、面白いです。マンの重厚長大、質実剛健なイメージがかなり書き替えられたな。

    この小説は、1910年に構想され、書き始めるのだけど、別の作品のアイディアがでてくると、執筆がとまり、落ちついたらまた書き足す、みたいな感じで延々と書きつがれ、最終的にはマンの最後の長編になったもの(1954年に出版)。というもののお話としては、まだまだ始まったばかりの感じで、最初の構想からみれば、きっと3分の1くらいか、4分の1くらいかな。

    本人の健康状態を考えれば、これが最後の作品になるだろうことは十分認識していたはずで、当初の構想の全部を書き上げることはできないことは意識しつつ、最後に書く長編にこれを選んだってのは、なんだかスゴいですね。

    そこまでして書かれたこの作品に、人生の最後を飾るみたいな感じはなくて、結構軽くて、エロスがあって、ピカレスクで、楽しいんだよね。

    なんだか、マンに親近感を感じた。う〜ん、しばらくハマるかも。

  • マンが生涯通して書き、遂に完成しないままとなった作品。

    タイトルの通り、フェーリクス・クルルの独白形式の本で、序盤の幼少期の回想は多少読み進めづらい。それでも中盤以降にある、パリ・リスボンの街並みやそこでの人々をクルルの視点で観察・分析しているところなどは、具体的かつ詩的で読んでいてとても惹かれる。世界旅行の序盤途中で終わってしまっているのがひどく残念に感じる。

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著者プロフィール

【著者】トーマス・マン(Thomas Mann)1875年6月6日北ドイツのリューベクに生まれる。1894年ミュンヒェンに移り、1933年まで定住。1929年にはノーベル文学賞を授けられる。1933年国外講演旅行に出たまま帰国せず、スイスのチューリヒに居を構える。1936年亡命を宣言するとともに国籍を剥奪されたマンは38年アメリカに移る。戦後はふたたびヨーロッパ旅行を試みたが、1952年ふたたびチューリヒ近郊に定住、55年8月12日同地の病院で死去する。

「2016年 『トーマス・マン日記 1918-1921』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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