失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752538

作品紹介・あらすじ

いつもの列車は知らぬ間にスピードを上げ…日常が突如変貌する「トンネル」、自動車のエンストのため鄙びた宿に泊まった男の意外な運命を描く「故障」、粛清の恐怖が支配する会議で閣僚たちが決死の心理戦を繰り広げる「失脚」など、本邦初訳を含む4編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • デュレンマット生誕100周年「女性に男性のような思考は必要ない」① - SWI swissinfo.ch
    https://bit.ly/3paKrZ9

    シーラッハはデュレンマットの夢を見るか? | ドイツ大使館 − Young Germany Japan
    https://bit.ly/3q7ED1X

    増本浩子さん・連続講演「デュレンマットの普遍-スイスから世界を見る」第1回レポート - 光文社古典新訳文庫
    https://www.kotensinyaku.jp/column/2012/09/005276/

    失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 - 光文社古典新訳文庫
    https://www.kotensinyaku.jp/books/book151/

  • 20世紀スイスの劇作家デュレンマット(1921-1990)による短編小説集。劇作家による小説らしく、いずれも読んでいると演劇を観ているような気分になる。

    ① 現代は、世界には不変的/普遍的な意味秩序が貫徹しているという前提が不可能となった時代である。
    ② つまり、世界から「もっともらしさ」が消失してしまった時代である。
    ③ そこにあるのは、各サークルがそれぞれの真善美を喚きあう胡散臭い喧騒だけである。
    ④ そして、「世界に真理はない」という言明自体が喧騒の一部としてしか成立し得ない。
    ⑤ よって現代は、世界に関して有意味な表現が可能なのかが常に問題となる時代である。

    彼の不条理で奇妙な作風の背後には、こうした現代という時代への痛切な問題意識があったように思う。現代において「まだ可能な物語」とはいかなるものなのか、と。

    □ 「トンネル」

    ① どうも何かが食い違っている気がする。
    ② つまり、世界は既に破綻をきたしているのかもしれない。
    ③ しかし、誰も世界の根源的なメカニズムを見通せない。
    ④ だから、何もなす術がない。
    ⑤ よって、誰もが世界の破綻を直視せず日常をそのまま継続しようとする。

    ひとは日常という分厚い肉の内奥に押し込められて、世界の実相にまるで近づけなくなってしまったよう。

    □ 「失脚」

    ① そこでは誰もが恐怖に支配されている。
    ② しかし、誰もその恐怖の内実を捉えられていない。
    ③ よってなおさら、恐怖は空虚な中心を取り巻きながら自己増殖していく。

    確固たる世界の認識とそれに基づく安定的な自他関係の構築が不可能な、一種の極限状態。

    □ 「故障――まだ可能な物語」

    「われわれを脅かしているのはもはや神でも正義でもなく、交響曲第五番のような運命でもなくて、交通事故や設計ミスによるダムの決壊、注意散漫な実験助手が引き起こした原爆工場の爆発、調整を誤った人工孵化器なのだ。われわれの道はこのような故障の世界へと通じている」(p119)。

    □ 「巫女の死」

    「われわれふたりの前に立ちはだかっているのは、途方もない現実、それを引き起こす人間と同じくらい不可解な現実なのだ。神々が――そういうものが仮に存在するとして――このお互いにもつれ合ったとてつもない事実、しかも恐ろしく破廉恥な偶然によって引き起こされた事実の巨大な塊の外にあって、その全体像を、表面的であるにせよ、何らかの形で把握しているのに対して、われわれ死すべき運命にある人間は、この救いようもない混乱のまっただなかにあって、途方に暮れてただ手探りしているだけなのだ」(p274)。

    「世界を理性に従わせようとした私、想像力でもって世界に打ち勝とうとしたお前とこの湿った洞窟の中で対峙した私と同じように、これから先もずっと、世界を秩序とみなす者が、世界を怪物とみなす者と対峙することになるだろう。一方の者は世界を批判可能なものとみなし、他方の者は世界をそのまま受け入れるだろう。一方の者は、ノミを使えばひとつの石に形を与えることができるように、世界を変革可能なものとみなし、他方の者は、常に新しい顔を見せる怪物のように、世界がその不透明さとともに変わっていくこと、また人間理性のごく薄い層が人間本能のもつ非常に強い構造的な力に対して影響を与えることができる程度には世界を批判できるだろうということを指摘するだろう。一方はペシミストとののしり、他方は夢想家と嘲るだろう。一方は、歴史は一定の法則のもとに進行すると主張し、他方は、そのような法則は人間の頭の中にだけ存在すると言うだろう」(p276)。

  • スイスの有名な作家で、スイスのみならずドイツ語圏ではデュレンマットの戯曲は定番として上演されているのだそう。
    1921年生まれ、1990年没。

    イメージ豊かで、登場人物が濃く、確かに演劇的。
    ソ連首脳部の葛藤を思わせる政治風刺的な「失脚」などは、登場人物の名前が頭文字だけなので、俳優がやって見せてくれたほうがわかりやすいかも。

    「故障」は車の故障で、たまたま立ち寄った家で、村に住む老人達の楽しみに付き合うことになった男。
    その楽しみとは、模擬裁判。
    彼らはとっくに引退しているが、元は裁判官など法曹関係だったのだ。
    罪を白状するように迫られ、冗談半分に営業マンである自分の身に起きたことを説明していくと‥
    極上の食事をしながら議論し、酒を飲んでやけに盛り上がり、互いにほめあい、感動して肩を抱き合ううちに‥?!

    「巫女の死」
    オイディプス王の悲劇をさまざまな角度から見る話。
    テーバイの王子がいずれ父親を殺し母親と寝るだろうという予言によって父王ライオスに捨てられ、コリントスで成長する。
    運命なのか?後に予言は成就されてしまうのだが‥

    巫女パニュキスは、アポロンに仕えるデルポイの神殿の女司祭長。
    長年、口からでまかせに思いつく限り妙なことを言ってきたという衝撃の出だし。
    しかも、パニュキスによる問題の神託とは、テイレシアスの意図によるものだった‥!
    テイレシアスは盲目の預言者で政治家でもあり、法外な額の金を受け取った上で、依頼者に都合のいい予言を行っていたのだ。
    もうろうとした老女パニュキスの視点というのも珍しい。
    さらに、二転三転‥王妃イオカステの告白や、スピンクスの視点まで?
    あるいはそれも、運命の環の中だったのか‥?

    山岸さんの古代ギリシアを題材にしたコミックスなど思い起こしながら、読みました。

  • スイス文学の至宝、不条理喜劇文学のデュレンマットの中編集が文庫になっていた!どれも面白いのだがお気に入りはミステリ仕立ての『故障』。デュレンマットは言う。かつて大災害は神の怒りか運命が引き起こすと何となく信じられていた。しかしアウシュビッツや原爆投下以降、それは故障、つまり人間のちょっとした手違いで起きる原爆工場の爆発のようなことが人類滅亡を招くと人々は知った、と。車の故障のため田舎町で老人の家に泊まった男。夜になると家主の友人たちが集まってきて裁判ゲームをやろうと言い出す。家主は元裁判官で友人は元検事、元弁護士…昔を懐かしむのだ。男が被告人となってゲームは始まる。極上のワインを飲んで酔った男は自分がサラリーマンとして成功してきたことをご機嫌に話し出す。検事は男の元上司が急死した話を聞き出し男の成功自慢と上司殺しの話を巧みに繋げて弁じる。男は自分が巧妙に邪魔者を消し成功を手に入れていくその話に舞い上がり、その通りだ!を連発。遂には死刑判決が下る。多くの話はこの死刑が本当に執行されるというサイコホラーなのだが、ここは少し違う。彼は高揚した気分のまま部屋で自殺してしまうのである。本当に執行しようとしていた家主たちは翌朝遺体を見つけて勝手に死んだことを憤り、話は終わる。人間の故障。現役時代への郷愁が過剰なリアリズムを生み、小市民が自分の人生を劇的ストーリーに捉え直してもらって異常な喜びを感じる。いずれも承認欲求。自分の人生が本物に見えてきた!と男は感激して皆んなに感謝し、そして英雄らしく死にたいと考える。故障した社会は現代社会を投影している。登場人物は一見皆異常者だが自分にも思い当たることだらけだ

  • 「トンネル」……いつも乗り慣れた列車だが、気づくともうずいぶんトンネルに入ったまま。不審に思って車掌を探すと…。ありふれた日常が知らぬ間に変貌を遂げる。皮肉と寓意に満ちながらかつ底知れぬリアリティに戦慄させられる物語。

    「失脚」……粛清の恐怖に支配された某国の会議室。A~Pと匿名化された閣僚たちは互いの一挙手一投足に疑心暗鬼になり、誰と誰が結託しているのか探ろうとしている。だが命がけの心理戦は思わぬ方向に向かい…デュレンマットの恐るべき構成力と筆力に舌を巻く傑作。※本邦初訳

    「故障」……自動車のエンストのために鄙びた村に一泊することになった営業マン。地元の老人たちと食事し、彼らの楽しみである「模擬裁判」に参加するが、思わぬ追及を受けて、彼の人生は一変する…。「現代は故障の時代」と指摘するデュレンマットが、彼なりに用意した結末に驚き!

    「巫女の死」……実の父である王を討ち、実の母と結婚するというオイディプスの悲劇。しかし当時政治の行く先を決めていたのは、「預言」を王侯に売る預言者たちであった。死を目前にした一人の老巫女が、驚愕の告白を始める…。揺らぐことのない権威的な神話の世界に別の視点を取り入れることで、真実の一義性を果敢に突き崩す挑戦的な一作。※本邦初訳

  • 「トンネル」、「失脚」、「故障」、「巫女の死」の4篇収録の短篇集。各所で評判が良いようなので手にとってみたのだがこれが大当たり。特異な舞台設定やそれに翻弄される人間心理の描写が素晴らしく、収録作のどれもが面白い。バラエティに富んだ作風ではあるけれど共通するキーワードは”諦念”かな。

  • 「トンネル」が1番印象的。列車がトンネルの中を走り続け、暗闇を抜けることができない。そこには、いつも乗りなれたはずの列車が、変貌する危機感がある。
    デュレンマットの作品では「判事と死刑執行人」もおすすめ

  • 原作者を初めて知った。幅広い分野で活躍されているらしい(訳者による)。推理小説が読んでみたい。

  • 前半の数編は、訳者の解説を読んでやっと真意のようなものがわかった。
    『巫女の死』ギリシャ神話初心者に優しく家系図や注釈がついていたが、登場キャラが多いため何度か戻りながら、またネットで元の神話を多少調べながら進めた。喜劇か…。
    世界のとらえ方とその表現に納得のため息。

  • 最もおもしろかったのは「故障」。「小説らしい小説」と言えるのではないか。

  • 『失脚』(1971)ドタバタ劇のあと、ポツンと置かれた座席表が殺伐とした笑いを誘う。『故障』(1955)は、車が故障し、田舎の屋敷に泊めて貰う代わりに主人の悪趣味な裁判ゲームに参加することになった男。うす気味悪い老紳士たち、食卓に並ぶご馳走。悪い予感しかないところへもうひと捻りくる。オイディプス王の書き直し『巫女の死』(1976)には吃驚して笑うしかない。そもそもやる気のない巫女が、若き日のオイディプスに対してテキトーな神託をでっちあげたはずだったのに、個人の意志もあらゆる人間関係も一直線に予言の成就を目指してしまう皮肉。全編に響く冷笑が何とも強烈。

  • 『故障』久々に「団欒」を楽しめた。食事で客人をもてなすという何気ない行為だが久しく触れることがなかったのでほっとした。ロマンポランスキーの映画「袋小路」を思い出した。 引退した爺さん達が客人をおもちゃにぎゃあぎゃあ騒ぐのが、ほほえましい。『巫女の死』選んでいるつもりがやはり選ばされているという運命の恐ろしさを改めて感じた。町田康さんちのプードルはスピンクだったが、ここに出てくるスピンクスと関係あるのだろうか。『失脚』頭がついていかなかった。観劇として見たい。『トンネル』普通に好き。

  • 『失脚/巫女の死――デュレンマット傑作選』
    著者:デュレンマット
    訳者:増本浩子 
     http://www.lit.kobe-u.ac.jp/faculty/hiroko-masumoto.html

    【書誌情報】
    2012年7月12日発売
    定価(本体1,048円+税)
    ISBN 978-4-334-75253-8
    シリーズ:古典新訳文庫

    ミステリーファンとストレンジ・フィクションファンは必読! いつもの列車は知らぬ間にスピードを上げ……日常が突如変貌する「トンネル」、自動車のエンストのため鄙びた宿に泊まった男の意外な運命を描く「故障」、粛清の恐怖が支配する会議で閣僚たちが決死の心理戦を繰り広げる「失脚」など、本邦初訳を含む4編を収録。
    https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334752538

    【メモ】
    http://www.kotensinyaku.jp/books/book151.html

    【簡易目次】
    目次 [003]
    はじめに(訳者) [004-005]

    トンネル 009
    失脚 033
    故障――まだ可能な物語 113
    巫女の死 209

    解説 [279-307]
    年譜 [308-316]
    訳者あとがき [317-325]

  • 戯曲「物理学者たち」を読む機会があり、その前に読了しようと思ったもののくどさに中々進まず…演劇受容史など詳細な経歴があり、先に読み終えておけばよかったと大後悔。戯曲をこれから読んでみたいと思っている方も一旦はこちらの解説から触れることを勧める。

    「トンネル」:電車通学をしている大学生の男。トンネルに入ったが中々出ない様子。おかしいと思い移動した所…
    /掴みにはちょうど良い。トンネル=奇妙な世界への入口というのは例を紹介するまでもなく定番だけれど、その始祖と言える。既に男は死んでいて、終りのない悪夢を見続けているというありがちな想像が浮かぶ所も…

    「失脚」:政治家たちがお互いの存在に恐れつつ行う駆け引き。/とにかくくどい。それぞれの心理を執拗なまでに書いており、これなら言葉の心理戦として戯曲化してほしいと切に思った一作。

    「故障」:車の故障で困った男。ひょんなことから、老人たちの集う場で夕食を共にすることとなる。彼らは裁判ゲームを日夜楽しんでいた。男は被告人役になり、過去の経歴を語り始めるが…/テーマとして死が関わって来る遊びというものは迂闊にしてはいけないと思う。誰かが本気になりかねないのだから…こちらも前作と同じく舞台で見たい。ただし、簡潔なので作品としては「故障」の方が優れている。収録作品中ベスト。

    「巫女の死」:こんな劣悪環境の神殿で働いていられない、と怒る老婆。彼女には死期が迫っていた。亡くなる直前に見る「オイディプス王」の様々な裏側とは/「ギリシャ劇大全」を読んだ後だとパロディ劇?と笑いが零れるものの、最後はしんみり終わる。このミスにランクインもしたそうだけれども、どうも純然たるミステリは好んでいなかったらしいことがこちらで分かる。アンチミステリのような要素も有りつつ深く考えさせられる一作。

  • う~ん…

  • 2012-7-19

  • http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2018/04/post-b67f.html つながりで。「トンネル」普段と同じように列車で大学へ向かっていた男が、いつもよりトンネルに入ってる時間が長いと感じてから、どこへともなく限りなく速度をあげて、果てしなく下っていくトンネルへと列車が走るところへ乗り合わせてしまったストーリー。「僕たちがコンパートメントにすわっていたときにはもう、すべてがおしまいになっていたのに、それに気づいていなかったんだ」「まだ何も変わったところはないような気がしたのに、そのときには本当はもう、僕たちは深みへと落ちていく穴の中に入り込んでしまっていたんだ」が印象に。また当時は150kmでも相当速い部類だったんだな、と。「失脚」ある共産主義国家の政治局員十三人の対話劇。序列13位のNの目から描かれる。権力闘争の血生臭さと滑稽さ。綱渡りの対話劇で最後に失脚するのは、と。「故障」車の故障で田舎の宿に泊めてもらうことになったビジネスマン。毎晩老人が行う裁判ゲームに嬉々として参加したが...。何が正しいかより、自分にはこんなことだってできるという全能感に酔っていき、最後にとった行動と老人たちの驚き。「巫女の死」もう適当な宣託しか下したくない疲れ果てた老巫女。金を積まれればどんな神託も述べさせる神殿長。金を積んで神託を行わせる陰謀家。神託に踊らされる支配者一族たち。オイディプス王の挿話に一捻りふたひねりが加えられ、唸らせられる。描かれなかったソフォクレス「オイディプス王」の裏面、といったところなのか。原作の方も読んでみたくなる。「どうでもいい話など存在しないのだよ。全てがつながっているのだから。どこかを揺すれば、全体を揺さぶることになるのだ。パニュキスよ」

  • # 失脚/巫女の死

    深みのあるフィクションであり、楽しむためには知性が必要だが、自分がまだそこに追いついていない。
    普遍的な内容を短い物語に落とし込んでいるところがいいと思う。

    ## トンネル
    カフカ的不条理。若者の、太ってて体の穴を塞いでいるという特徴は何か意味があるのか?

    ## 失脚
    ソ連らしき共産主義国の最高会議を舞台にした作品。
    ただ日時を間違えて参加しなかったOについて逮捕されただの暗殺されただの、全員で疑心暗鬼になることによって結果的にAが失脚する。
    N視点で語られており、Aの失脚後、Nは意図せず順位を上げることになる。だからといって安心できるのではなく余計に粛清の不安に陥ることになる。

    A
    B:外務大臣。「宦官」「友人B」「われらが天才」
    C:国家公安大臣。秘密警察。ゲイ。「国務おばさん」
    D:党書記長。Mの愛人。「いのしし」
    E:通商大臣。Dの取り巻き。「エヴァーグリーン卿。、
    F:重工業大臣。「靴磨き」「ケツなめ」
    G:指導的イデオローグ。「紅茶の聖人」
    H:国防大臣。「ジン・ギス・汗」
    I:農業大臣。法学者。「われらがバレリーナ」
    K:大統領。「ジン・ギス・汗」
    L:運輸大臣。最長老。「記念碑」
    M:教育大臣。「党のミューズ」
    N:郵政大臣
    O:核開発大臣
    P:青少年団長。Aの娘と関係。

    ## 故障
    第一部は随筆のようなもので文学論が語られる。現代の小説家にとって残された可能な物語は因果関係にもとづいて結果にたどり着くものではなく、何か故障やアクシデントによって発生する物語である。
    第二部は物語で、文字通り車の故障で一晩の宿を借りることになった家で、模擬裁判のような遊びが行われ、主人公は死刑判決を言い渡され、自殺する。

    ## 巫女の死
    名前が覚えにくくプロットが複雑なので理解しにくい。
    オイディプスの悲劇が、予言者や巫女が託宣した通りではなく、さまざまな偶然によって引き起こされたということを推理小説仕立てで書いている。
    神や貴族が人間味があってばかばかしいところが面白い。

  • スイスの作家、デュレンマットの短編小説。古典、と言うことで読みにくいのでは?と思ったけれど、現在にも通じる皮肉がちりばめられた4編。「トンネル」「故障」は「世にも奇妙な物語」みたいな感じ。「失脚」は革命から突然政治の中心に添えられてしまった政治局員たちの会話劇。次はだれが粛清されるのか?と言う疑心暗鬼の人々から発せられる言葉がクスリとさせられます。「巫女の死」はギリシャ悲劇を知っていると興味深いかも。

  • この著者の作品も古典新訳文庫も初めてだったが、古典!と身構えずとも普通に読みやすかった。
    短編4つ収録でどれもシュールな話。
    ベストは「巫女の死」。オイディプス王の神話をミステリ的に再構成したような話で、関係者の語りで真相が二転三転してゆく。
    解説によると”スイスの現代作家たちには、スイスの牧歌的イメージを破壊しようとする傾向がある(中略)牧歌的なイメージはスイスを美化・理想化し、数々の問題を抱えた現実をその美しい風景で覆い隠してしまうからである。”そうだが、まさにスイスと言われて思い浮かべるのはハイジしかない。デュレンマットの他作品や他のスイス作家の作品も読んでみたい。

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著者プロフィール

スイスの劇作家、小説家。1921年、ベルン州エメンタール地方のコノルフィンゲンにプロテスタント牧師の息子として生まれる。ベルン大学とチューリヒ大学で哲学などを専攻。21歳で処女作『クリスマス』を執筆。1945年24歳のときに短篇「老人」が初めて活字となる。翌1946年、最初の戯曲『聖書に曰く』(鳥影社『デュレンマット戯曲集 第1巻』収録)を完成。1940年代末から60年代にかけて発表した喜劇によって劇作家として世界的な名声を博したほか、推理小説『裁判官と死刑執行人』(同タイトルで同学社刊。また早川書房『嫌疑』にも収録)がベストセラーに。1988年、演劇から離れ散文の創作に専念することを発表。晩年は自叙伝『素材』の執筆に打ち込む。1990年、ヌシャテルの自宅で死去。代表作に『老貴婦人の訪問』、『物理学者たち』(以上2作は鳥影社『デュレンマット戯曲集 第2巻』収録)など。

「2017年 『ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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