すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

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本棚登録 : 973
レビュー : 97
  • Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752729

感想・レビュー・書評

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  • 昭和7年の作品とは思えないストーリーの緩急、個性的なキャラ、ぐんぐん読ませる面白本だった。発表当時はオーストラリアで発禁になったんだそう。

    『われら』や『一九八四年』と比べると大多数の人は圧力をかけられていない、というか自分ができあがるまえにきっちり型付けされるから軋轢が起きない社会。こんなの間違ってる、シェイクスピアが読めない世界なんて、と思っても、それは新世界の外にいるから言えること。飢餓や戦争よりましといわれたら反論できない気持ちになってしまう。

    長い目で見たら、変化できない生き物の集団はいつか適応できない事態に直面した時に全滅してしまうけれど、今ここにいるたくさんの人間をどうするのか。社会が守らなくてはならない価値は何か。快適で安定した新世界を疑似体験できるからこそ、読んだ後に考え込んでしまう本だった。

  • ディストピアものの名作の一つと聞いて読んでみたが、翻訳が新しいこともあってか古さを感じなかった。この本が書かれてからおよそ90年たつが、今の世の中はこの小説をフィクションだと一蹴することができるだろうかと考えると空恐ろしいものさえあった。
    世界観以外に読んでいて印象に残ったのは、社会の構成員が幸せに暮らしている中孤独を感じているバーナードという人物の描写だった。彼は上司に脅されたのを本気ととらないで高を括っていたのを後で所長が本気だったのを知って後悔したり、自分の非礼を許してくれた友人の寛大なところに感謝しつつ恨んだり、彼が自分の連れてきた未開人と仲良くなったのを見て嫉妬したりするといった行動をとる。そこに非常に人間味を覚え、自分はこういうふるまいとは無縁であるといえるだろうかと自省した。
    解説や年表も充実しており、特に訳者のあとがきで作中に何度も出てくる"pneumatic"という単語の訳出に苦労したという話が載っていた。読んでいてこれはどんな英単語をどのような意図で訳したのか気になっていた点を知ることができ、翻訳家はどんなことを考えながら仕事をしているのかを垣間見ることができて得した気分になった。

  • ディストピアものでは1984年に並ぶような作品であるが聞いたことなかった。ちなみに1984年もまだ読んでないけど。
    これが1931年に書かれたというのもすごい。あとがきでは核について記述がなかったことについて触れているけど、それにしてもフリーセックスやソーマという麻薬のようなものだったり、当時の社会の規範ではびっくりされるような内容だったろう。アルファだけの社会を実験してみたのも面白い。結局はうまく立ち行かなくなってしまったと。階級とそれを受け入れる気持ちというのは、例えば江戸時代とかもそうなのかもだが、社会の安定に必要なのかもしれない。現実に人間の能力差があって社会的な地位といった意味でも格差がある、でも人間は平等だという神話が逆に人間を苦しめてたりして。野蛮人ジョンも正常な人間の代表というわけではなく、ここでおれが言った正常もそれぞれの社会背景という文脈の中でのもので、正常なんてものがそもそも存在しないのかもしれない。

  •  ちょっとあきれたり身につまされたりしつつ、苦笑しながら読めるディストピア小説です。壜詰めで育てられる赤ん坊、ボカノフスキー法で生み出される同じ顔をした労働者たち…… “ああ、すばらしい新世界!”

     ドタバタとパロディー満載のおちゃらけ小説のようでいて、実はしっかりと哲学している作品でした。幸福とは何か、人間らしさとは何か? 人間らしくあることと幸福とは相容れないものなのか? 人間らしさを犠牲にしてまで守らなければならない社会の秩序とは何なのか?

     膨大なシェイクスピア作品を諳んじる野蛮人ジョンと、本当は科学者になりたかった世界統制官閣下との言葉の応酬(第17章)には思わず唸らされました。話題は芸術、科学から神の存在にまで至り、著者の教養と思索の深さを感じます(これはドストエフスキーの大作“カラマーゾフの兄弟”の「大審問官」のパロディーであるとの由)。

     結末はちょっと残念でした。こういう結末にしなくちゃいけなかったのかなあ……

  • ここ最近のSFでは一番の当たりかも。

  • 未来小説の古典として1984と比較
    人間が機械と同等になる
    妊娠出産しない(フリーセックスと人工授精)
    宗教のない世界での支配者vsインディアン=野蛮人
    老いと死(の概念)がない世界で⇒自死という終末

  •  言わずと知れたディストピアの名作。最近読んだ『1984年』と比べると、あちらは「監視」が徹底しているのに対し、こちらは「管理」が徹底しているという印象を受けます。

     人間をあたかも工業製品のように製造し、その製品に一定の動作を行なわせることで、社会を安定的に運営するというのがこの物語の世界観です。

     管理されている人間たちは、あらゆる不快さから守られ、管理されながらただただ快楽を享受しています。いわば人間性のない生活なのですが、彼らはそれを楽しむように作られているのだから、幸せには違いありません。

     じゃあこの物語はめでたくおわりではないか。そう思ったときに現れるのが、優秀な欠陥品バーナードと、野蛮人ジョン。超管理社会の権化ともいえる世界統制官ムスタファ・モンドと彼らの問答は圧巻です。

     芸術や文化、宗教といったものを徹底的に排除し、ただひたすらに社会の安定性を追及していった結果うまれた社会。筆者が描くそのいびつな社会から、現代につながる技術と人間の問題が見えてきます。「やはり」と思うと同時に、その普遍性に戦慄もさせられる一冊。

  • 「1984」が大好きなので、この本も読んでみました。新訳というのも買うきっかけになりました。
    1984はうわーやだなーこんな世界…とおもいますが、本書で描かれる世界は、なんだか悪くないです。作中で「ソーマ」といわれる薬は、抗鬱剤やドラッグの良い部分を併せ持つような薬で、未来人たちはガンガン使って嫌な気分を吹き飛ばしてます。
    人々は結婚・出産・育児から開放されているのでフリーセックスを謳歌し、恥じらうこともありません。
    労働は完全に階級化され、新生児の段階から「条件付け」されているので、反抗心もないし進路に悩むこともなし。
    年取ったら苦しみなく美しいまま死ぬことができるのです。ブラボー。

    この作品が1932年に書かれたということがある意味びっくりで、この未来の楽園の一部分は、21世紀に実現しているかもしれません。
    ソーマはありませんが、一部の薬品は似たような効果があります。頭痛薬でも辛い頭痛から痛みを和らげる効果があるわけで、ある意味ソーマともいえるし、老化を止めることはできませんが、これからもっとアンチエイジング技術は進むのではないでしょうか。
    人間らしさとは何か。苦痛やめんどくさいことがなくなれば人は幸せになれるのか。「すばらしい新世界」の住民は、自由で苦痛ない世界なのに、結局やっていることは低次元の娯楽にとどまっています。
    技術や医療の進化はもちろん人間を幸福にし、苦痛を取り除いてくれてそれはそれで素晴らしいものですが、それがイコール人間の「幸せ」に直結しているかというとそれは違うのかもしれない。
    そのような皮肉な物語だと思いました。

  • 好き。古いのに古くない。

  • 題名がシェイクスピアから引用しているとは思っていなかった。というかこの物語を通してジョンはほとんどのセリフをシェイクスピアから引用している。しかしジョンが言う「すばらしい新世界」はとても皮肉に満ちていて、いかにもなディストピア小説だ。
    この新世界の人々の描くユートピアには家族がなく、人は生まれつき人生のレールをひかれていて、宗教もなく、ソーマという快楽剤を服用することにより感情の起伏を抑えている。階級付けされた人々もそれに疑問を抱くことなく享受している。なんとも孤独で生きがいのない人生だなぁと思いながら、きっとハクスリーはそれを伝えたかったのだと確信した。また時代はこの新世界へ向かっていくことの危険さを警告しているように思えた。機関さえ整えば、人間は簡単にこの新世界の制度に染まってしまう。
    読んでて最も苦しかったのはリンダが亡くなる場面。病院というよりもむしろ収容所に入れられた患者は誰に看取られるわけもなく、孤独に死を迎える、そしてその死の間際に現れる同じ顔をした子供たち。残酷でグロテスクで、悪気がないところがさらにジョンを苦しめているのではないかと思う。

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