絶望 (光文社古典新訳文庫)

制作 : 貝澤 哉 
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レビュー : 22
  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752798

感想・レビュー・書評

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  • 2013/11/14 ★★★★ - 記憶力の悪いわたしにはナボコフの小説は再読してこそ面白いようで、二回目はゲルマンのダメダメな饒舌を地獄のミサワ的に楽しむことができた。これだけ自分の見たいものしか見ない人って、ネットで見かける家庭問題の相談系まとめ的な意味で、エンターテインメントになる。再読してよかった。

    新たに面白かった点は、ゲルマンが手記を書いている時間と事件が始まって終わるまでの時間が重なっているところ。ゲルマンはこらえきれなくて、手記中の時間ではまだ起きていないことを先走って書いてしまうのだ。似たような物事の時間と場所の記憶がごっちゃになっちゃうところも、残念というか予兆に満ちているというか、わざわざ「理性じゃなくて記憶が書いてる」って繰り返すからはいはいって思って読んだけれど、しみじみ、ああいうことを成功させるスキルが全然なかったなと。能力が低いサイコパスの、残念なあるある感が味わい深かった。

    2013/10/15 ★★★ - 一応犯罪小説なんだけど、語り手のゲルマンがポンコツすぎてあんまり楽しめなかった。信頼できない語り手にもほどがあって、核心に至るずっと前に「ああーこの企画無理でしょう」という予感がきてしまうので、最後まで読んでも驚きもすっきり感も何もない。こういうのは「素朴な読者」の感想なんだろうけれども。

    あとがきを読むと、ナボコフがこの小説を書いたのはそれなりの意図があって、わざとゲルマンの小説を失敗させているというのはわかるのだけれど、ナボコフの意図をこういう「ポンコツ犯罪小説」小説の形を取らずに作品化した本があったらそっちを読ませてほしいと思った。

    ゲルマンの分身へのこだわり、本人の存在感の薄さは印象的。

  • ずっと「人間失格」を思い浮かべつつ読んでいた。
    あれも同じく鏡で自分を見つめることが一切出来ない男の、現実を自分の都合の良い形でしか認識出来ず、明白な事実さえ作り変えてしまう、つまり自然発生的に世界がフィクション化してしまう男の話だからだ。

    しかもそのフィクションの世界では自分は被害者だったりして「絶望」したりしてる。
    太宰の小説の中では人間失格はそうとうポンコツな出来だと思うのだが、逆にそんな風に「絶望」のように「人間失格」を読んでみるのも乙かも。

    というか、「絶望」のように日本の政治も読めよなあ。

  • 『ロリータ』を容易く挫折したナボコフを読み解く資質に欠ける私でも『カメラ・オブスクーラ』とこの『絶望』は充分楽しめました。いちいち分析しなくとも皮肉的なニュアンスは感じ取れます。そして徐々に露わになる主人公の狂気にもんどり打つことに。まぁ初めから伏線は張られているのですが、気付かず読み過ごす(私のような)愚直な読者にこそ驚きをもたらすとも言えるのでは。で、後になって「なるほど〜」と振り返るのもまた一考かと。少しずつでも距離を縮められるよう、このような馴染みやすいナボコフの翻訳をこれからも期待します。

  • ナボコフ初期の長編。思い込みってこわいね。

  •  結末がどうなっていくかはともかくとして、僕の個人的な意見を言えば、このゲルマンという男そんなに嫌いでもない。語る口調はたしかに腹の立つほどプライドの高さを感じるが、こういう口八丁の連中にありがちな結局道化のポンコツ野郎でとにかく滑稽なことをしでかすのが笑える。ただラスト1行の彼の台詞が印象的でゲルマンはゲルマンであることをやめていないところがいいなと思った。作品名がいうように絶望するのだけど、それが終わりに直結していない。むしろどこか自信に満ちたフシさえあって、そんなところに愛着を感じた。

  • ふぅ! やれやれ…。印象をとしては、「ヘッポコ主人公のながい知的遊戯に付き合いました」かな(失礼)。タネ明かしはほぼ解説にて。探偵小説を下書きにしたメタフィクション、だそう。なのですが。正直なところ、読んでいる間は、「これが、文学、芸術、なのですね?」ふふふ...コントとしてなら楽しめそうかしらん、といった感じ。
    度々読者を引き止め、「読者よ...」と呼びかけては、コレにはこれこれこういう理由があるんだからね、『なんだからね!』の過剰なエクスキューズに、あ、そう。へーそう。(毛先を弄りながら)そっかそうだねあはは、と上の空で相づちをうっているイメージが続く。
    好きな場面は、風がオリーブの木の葉をいっせいに裏返す様子を、飽きることなく窓から眺める場面で、お?思ったのは、妻に向かっての「脳タリンな女」発言。
    ただ、示唆にとんだ文節が無かったかと言えばそんなことはないし、解説を読んで皮肉たっぷりな小説だったんだと気づいた(解説がいい)。鈍いな自分。
    読書って解釈の自由さがあるから面白いし、それが醍醐味だと改めて気づかされた。

    ドストエフスキーが読んだら何て言ったか、想像すると楽しい。

  • 「カメラ・オブスクーラ」を出してくれた光文社が、またまたナボコフの初期長編を出してくれました。ありがたく買いました。
    内容は思ったよりもシンプルなんですが、ものすごく周りくどいというか、叙述的というか…ミステリ的なんだけど、こう「小説を書く」というそのものが物語のテーマにもなっていて、読者を混乱させます。
    ちょっと「ロリータ」にも通じる信用出来ない語り手路線です。
    個人的には「カメラ・オブスクーラ」の方が面白かったですが、ナボコフファンなら必読だと思います。

  • この話は鼻持ちならない自意識過剰な男の「芸術」なのかもしれない。ぼんくらな芸術家がいかに惨めで哀れで滑稽かと描かれているのかも。ミステリとしてのある部分をネタバレしているので解説は最後に読まれた方がいいと思う。ネタバレあってももちろん面白がソコに作者の意図があるので自ら読んで驚いた方がいい。随所に仕掛けありきらりと美しい描写あり皮肉で辛辣でナボコフ初期の作品でとても楽しめた。

  • チョコレート会社の経営が傾きかけている主人公ゲルマンは、ある日自分そっくりな浮浪者の男と出会い、替え玉殺人=保険金詐欺を思いつく・・・というあらすじだけなら、一見ミステリー仕立てのお話かと思いますが、実際にはその殺人計画があまりにもずさんで、読んでるこちらが「それじゃすぐバレるよ!」と心配になるほど(苦笑)。

    「自分とそっくり」というのがあくまで主人公の主観で読者にはその真偽が不明なあたりは、一種の叙述トリックの趣きもあるのですが、顔が似てるだけで死体を自分だと思わせられるというのは安直すぎるし(警察どんだけ無能だと思われてるんだ)、「自分とそっくりな人間に出会ったら人はどうするか」というお題(シチュエーション)の面白さを生かしきれておらず、結果、単に主人公がおバカなだけでしたっていう身も蓋もないオチ。

    解説をじっくり読むと、ナボコフが書きたかったことはそういう筋立てではなく小説そのものを皮肉ったような主人公の記述の仕方だったりするようですが、それも読み手としてはまわりくどい、もってまわった言い方にイライラするだけで、あまり魅力を感じられなかったのが残念。こちらはどうしても筋書きを追ってしまうので、どんでん返しや意外な展開を期待してしまい、例えば記述してるのは実はゲルマンではなく、まんまと入れ替わってゲルマンになりすましたフェリックスのほうでしたとか、実は最初から妻と従兄弟がグルになって、そっくりさんを用意してましたとか、色々予想しながら読んでいたのですけども、ことごとく裏切られ、「絶望」というか「失望」して終わりました・・・

  • 古典

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著者プロフィール

ウラジーミル・ナボコフ(Владимир Набоков, Vladimir Nabokov)
1899年4月22日 - 1977年7月2日
帝政ロシアで生まれ、ヨーロッパとアメリカで活動した作家・詩人。文学史上、亡命文学の代表者とされることもある。昆虫学者としての活動・業績も存する。
ロシア貴族として生まれたが、ロシア革命後の1919年に西欧へ亡命。ケンブリッジ大学に入学し、動物学やフランス語を専攻。大学卒業後にベルリンで家族と合流して文筆や教師などの仕事を始める。パリを経て1940年に渡米、1945年にアメリカに帰化。1959年にスイスに移住し、そこで生涯を閉じた。
ロシア時代から詩作を開始。ベルリン、パリにおいて「シーリン」の筆名でロシア語の小説を発表して評価を受ける。パリ時代の終わりから英語による小説執筆を始めた。渡米後も英語で創作活動を続け、詩・戯曲・評伝を記すだけでなく翻訳にも関わった。
代表作に、少女に対する性愛を描いた小説『ロリータ』。映画化され、名声に寄与した。ほかに『賜物』、『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』、『青白い炎』、自伝『記憶よ、語れ』。

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