人間の大地 (光文社古典新訳文庫)

制作 : 渋谷 豊 
  • 光文社
4.14
  • (11)
  • (11)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 141
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753146

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  •  南米、北アフリカなどを舞台に、レシプロの飛行機で定期航路を飛ぶ。サン・テグジュベリの実体験を基にした随筆。リアリズムと、形而上学が鮮やかに交錯しており、なんとも魅力的。すばらしい。
    (程々の)高空から眺める、アフリカや南米の大地の表情、風景が描かれる。そして、壮絶な遭難体験。
    神の目線に近い上空から大地を見つめ続ける視線視座の故か、そして、対話する相手もなく飛び続ける孤独の故か。思いはときに内面に向かい、ときに透徹な思考にいたる。

    最も、強烈なのは、冒険飛行の途上、サハラ砂漠で遭難不時着したときの極限の体験。創作では到達しえない、実体験のもつリアリズム。なおかつ、飢えと渇きの極限状況のもと、サン・テグジュべリの眼前に拡がる世界は、異界のような幻想風景となってゆく。

    他の短編も面白い。モロッコの、しかもさらなる辺境部、西サハラでの日々も、珠玉のもの。スペイン軍の砦に隣接して、定期航路のための飛行場がある。( ※キャップ・ジュビー/ タルファヤ )
    サン・テグジュべリは、同地で1年近く過ごしたという。現世から乖離したかのような、幻想的な世界。
    周辺の敵対的部族による襲撃を怖れる緊張感。奴隷の老人を救いだしたエピソード。
    そして、飛行場周辺に生息した野生のフェネックギツネのこと! これは、私には大いなる驚き、発見である!
    サン・テグジュべリは、この西サハラの辺境の橋頭堡で、無聊をまぎらすためもあったのだろう、砂漠にいるフェネックギツネを飼っていたというのだ。
    そう「星の王子さま」にキツネが登場するが、これは、このときのフェネックがモチーフになっているにちがいない。
    つまり「星の王子さま」は、単なるファンタジーではなく、過酷な西サハラの自然と、その日々に於ける、あるリアリズムとつながっていたように思われるのだ。
    私は、この視点を持って「星の王子さま」を再読することを決めた。

    そのほか、南米ウルグアイ近くの(アルゼンチンの)田園地帯(田舎)に暮らす家族のエピソードが印象深い。不時着して短いあいだ世話になるのだが、美しい姉妹がおり、床下に野生のマムシが棲んでいたりする。夢の世界の一部であるかのような、この家の時間の流れ。幻想的で奇妙な魅力に包まれている。

    魅力的な掌編が数多くあり、またいつか、繰り返してひろい読みしたい。そう思わせる、珠玉の作品である。 
    私は、サン・テグジュべリの作品では、本作を最も気に入っている。

  • 【冒頭】
    大地は僕ら自身について万巻の書よりも多くを教えてくれる。なぜなら大地は僕らに抗うからだ。人間は障害に挑むときにこそ自分自身を発見するものなのだ。

    【いちぶん】
    救いをもたらしてくれるのは、一歩踏み出すことだ。一歩、また一歩。同じ一歩を繰り返して。

    愛するとは互いに見つめあうことではない。一緒に同じ方向を見つめることだ。

  • 砂漠に僚友とふたりで不時着し、数日間さまよう話がいちばん印象に残る。あとは僚友ギヨメの生還の話。「夜間飛行」を思わせるエピソードの数々。そしてプンタアレナスのエピソード、なども。解説にもあるように、あちこちに書いた文章を寄せ集めた感はいなめないが、興味はつきなかった。/君は今まで一度も牢獄から逃げ出すよういざなってくれるものに出会わなかったのだね。p.32/ここで、世界最南端の町が姿を現す。原初の溶岩と南極の氷のあいだにたまたま少量の泥が残っていたおかげでできた町だ。p.88(プンタアレナスのこと)/長い間大きな愛に包まれて生きてきて、突然その愛を失ってしまった人の中には、孤独に気高く生きていくことに耐えられない人もいる。p.156/三十年間の労役の果てに彼が手にしたもの、それがこの眠る権利、土に還る権利だった。p.158/僕らのメッセージはこの世界の何を動かしたのだろう。もちろん、何一つ動かしたりはしなかった。それは一つの祈り、聞き届けられることのない一つの祈りだった。p.210/郷愁に駆られるとは、何か判然としないものを欲望するということだ。p.269/

  • 向いてない

  • 人間の気高さとは何かについて書かれた本。

    p76の下記の一節は僕の座右の銘の一つになっている。

    「人間であること、それはとりもなおさず責任を持つということだ。自分のせいではないと思えていた貧困を前に赤面すること、僚友が勝ち取った栄冠を誇りに思うこと、自分に見合った石を積むことで世界の建設に貢献していると感じることだ。」

  • 傑作。
    新訳で星の王子様ならぬ「ちいさな王子」を読み直し並行して読むと、本書が「王子」の異バージョンというか大人のための「王子」だとわかる。
    暖かなヒューマニストであり、勇敢で型にはまることのできない冒険家であり、世界と人間を見つめる哲学者でもあるテグジュペリを読むには本書が最高だろう。

  • 幻想的な感覚に囚われました。
    表現力が豊かです。
    前半は自然の大地を飛ぶ中での人間の小ささ、自然の大きさ、感覚の解放(一体感)のようなものを感じました。、、、ニュータイプ?
    砂漠のところは自然の厳しさと人間の精神の解放。

    本を読んでいてこんな感覚になるなんて初めてです。

  • 1930年代の飛行機はエンジンの不調でリビア砂漠やアンデスの山の中に不時着することもしばしばある。サハラ砂漠に不時着するとムーア人に襲われることもある。アンデスの標高4000mの高台に不時着した盟友メルモーズは滑走スペースがないので飛行機を奈落に向かって走らせる。断崖の縁から真っ逆さまに落下する途中で奇跡的に揚力を得て生還した。再び空に戻ったメルモーズは何年後かに南大西洋上空で消息を絶つ。同じくアンデス山脈で飛行機が故障して奇跡的に生還した盟友ギヨメは第二次世界大戦中に輸送飛行中に地中海上空で撃墜される。サンテグジュペリ自身、何度も事故を起こして奇跡的に回復し、リビア砂漠で水もほとんどもたずに遭難したときは2日目から幻覚があらわれる。奇跡的に通りかかったアラブ人に助けられるものの第二次世界大戦中にはフランスが降伏したあとアメリカで執筆に励んで星の王子様を出版したのに連合軍の偵察隊に復帰して消息を絶っている。そうまでして危険な仕事に帰って行くのは、歯車の一部となって精神生活とは無縁の小市民として生きることに耐えられないからだという。そこまで命をかける気にはとうていなれないが、自分はどう生きていきたいかを問いかけながら人生をすごしたいと思う。

  • 本文中の至るところに散りばめられた詩的イメージがいい。
    物語としては、「砂漠の中心で」が白眉であろう。自分も喉の渇きを感じながら夢中で読んだ。
    サン=テグジュペリの他の作品も読んでみたくなった。

全9件中 1 - 9件を表示

著者プロフィール

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ。1900年6月29日、フランスのリヨン生まれ。
幼少の頃より飛行士に憧れてその職につく。飛行士と兼業して、飛行士の体験をもとに『南方郵便機』、『夜間飛行』などを発表。
第二次世界大戦中、亡命先のニューヨークにて『星の王子さま』を執筆し、1943年に出版。同年軍に復帰し、翌1944年7月31日地中海コルシカ島から偵察飛行に飛び立ったまま、消息を絶つ。
その行方は永らく不明とされていたが、1998年地中海のマルセイユ沖にあるリュウ島近くの海域でサン=テグジュペリのブレスレットが発見される。飛行機の残骸も確認されて2003年に引き上げられ、サン=テグジュペリの搭乗機であると最終確認された。

人間の大地 (光文社古典新訳文庫)のその他の作品

人間の大地 (光文社古典新訳文庫) Kindle版 人間の大地 (光文社古典新訳文庫) サン=テグジュペリ

サン=テグジュペリの作品

人間の大地 (光文社古典新訳文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする