クレーヴの奥方 (古典新訳文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753290

感想・レビュー・書評

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  • 恋は時間が過ぎれば冷めるもの、まして不倫の恋愛は害あって益なしと知ってる女性の、わかっているのにも求めてしまう恋の苦しさを、これでもかこれでもかと描いています。

    はじめは少々イライラもさせられるほどで、両思いなのに結ばれない、結ばれようとしない自制心の苦しみ、そんなに苦しむなんて無駄…とか、ヒロインの拒絶行動が、恋愛をいやがうえにも盛り上げているのじゃないか、とうがった見方までしてしまう。

    今や女性自身で考える自律が普通のことですけど、17世紀の女性の作家が16世紀のフランス宮廷を背景にしての状況ですから、先駆的でもあったのですね。なるほど、不倫の恋愛の苦しみ、究極の恋愛を描いたフランス心理小説の古典、なのだと。

    むかしむかし高校の教科書に堀辰雄『美しい村』の序曲が題材として載っており、その文中に『クレーヴの奥方』と、ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』が引いてあり、なぜか興味を覚えやみくもに読んで、わかったのかわからなかったのか、それから幾十年。

    今回読んでみてヒロイン(クレーヴの奥方)が熟女のように思っておりましたのに、16歳の設定でびっくり、高校生年代ではありませんか。だから高校生の頃ってそんな姿を、若さゆえの老成を、理解しようとしたのかもしれません。

  • 16世紀フランスの宮廷・貴族社会を舞台に、17世紀に書かれた「恋愛小説」。
    前半50頁くらいまで、フランス王室や宮廷に関する史実を淡々と叙述。1人称、2人称の物語がなかなか始まらず、退屈する。この前段で投げ出す人も多いはず。また、途中で、本筋と直接関係ないサイドストーリーも展開。別の不倫男女の匿名の恋文が宮廷に一波乱を発生させ、今度はその恋文が、クレーヴ夫人の本筋に影響を与える、という、とてもわかりにくく、まわりくどい展開もある。(それらをあまり精読せず、気にせずにさらりと読み進めることをお勧めする。)

    そうした要素を我慢して前に進むと、そのあとにこってり濃厚な恋愛心理の物語が待っている。

    さて、以下、物語の本筋、概要。 (!ネタばれ含む)

    「シャルトル侯の娘」である「クレーヴ嬢」は16歳ほどの若さ。クレーヴ公の求婚を受けて結婚し「クレーヴ夫人」となる。この物語の主人公である。親が決めた縁組でもあり、ほんとうの恋心というものを知らぬまま、クレーヴ公と結婚したのであった。
    夫人は夫の人柄を尊敬するのだが、夫への恋愛感情を抱くことはない。夫のクレーヴ公は、美しい妻を娶った喜びの一方で、妻の情愛を感じられぬ寂しさともどかしさに思い悩み、苦しむ。
    時を同じくして、美貌の青年ヌムール公は、人妻クレーヴ夫人への恋心を燃やし始める。そして、夫人は、夫には抱くことがなかった「恋心」を初めてヌムール公に抱く。

    だが、ここからが、他の恋愛小説と趣を異にする。
    クレーヴ夫人は、自身のヌムール公への好意を自覚しつつも、夫に忠実であろうとし、ヌムール公の接近を拒み続ける。夫人は、内面には揺れる恋心を抱えながらも、ヌムール公のあの手この手の、そして強引なアプローチを回避、拒絶。田園の別荘に隠遁したり、姿を隠したりもする。

    簡単に言うと、ヌムール公とクレーヴ夫人の攻防が、(本文庫で)200頁以上続く。

    クレーヴ夫人、思えば、なんとも強靭な精神力である。
    なぜ、クレーヴ夫人はここまで禁欲的に「操」を守り続けるのだろう…。という疑問を抱かないではない。
    その理由は、思うに③つある。

    夫人の気持ちその①、ヌムール公への思いに身を委ねると、歯止めなくずるずると不倫の沼にはまる地獄・破滅を怖れたから。
    ②夫の高潔な人格への尊敬の念はあり、その夫を裏切ることは出来ない、という思い。

    そしてその③である。
    夫人とヌムール公の奇妙な関係は、夫クレーヴ公の知るところとなる。しかも、夫人は、夫への誠実さの発露ゆえに、夫に対して「ある男性に恋心を抱いている」と告白。
    以後、夫は嫉妬、悶絶、悲嘆の思いに苦しみ続ける。やがて夫クレーヴ公はこの異様な状況のもとで悶死に至るのだが、それが理由の③となる。夫人は、夫の非業の死への責任を痛感し、ヌムール公を拒むことを強く決意するのだ。
     
    こうやって、物語を振り返りながら書いていると、本作の面白さが改めて蘇ってくる。
    繰り返すが、なんともこってり濃厚で、不条理/異常なプロットである。後半、ヌムール公はますます執念深くしつこく、クレーヴ夫人にアタックを繰り返す。夫人は(内面ではヌムール公を恋しているのに)それでもなお、ヌムール公を固く拒絶し続ける。
    読者の私は、ヌムール公のしつこさにうんざり感を抱き、それゆえか、夫人の完全なまでの拒絶に一種の快感、カタルシスも覚えるのであった。

    * * * * *
    光文社版文庫の解説には、興味深い情報も掲載。
    小説『クレーヴの奥方』と大岡昇平、三島由紀夫、太宰治との関連について書かれている。

  • ・フランス恋愛文学講座で取り上げられたのをきっかけに読みました。

    めっちゃ良かった!
    クレーヴ夫人の年齢など事前にお話しを聞くことができたりして、あの時代の結婚と恋愛は今とは違う。
    マヌール公とあのような結末になったけど、そうだからこそ今に残ったのかな。

    欲しいものは手に入れたら終わりなのかも。2人とも焦がれるような気持ちでずっといられてある意味しあわせだったかも。そういうのって時効があるから。

  • 色恋がフランス宮廷を支配しすぎててびっくりする。宮廷なら政略結婚の要素が強いのかと思っていたが、さすが愛の国。そしてだいたいみんなうわさ好きで口が軽い。人が簡単に死んでしまうのは医療が未発達なせいなのか。
    読んでいてクレーヴ夫人の好意に気づいてからのヌムール公がだんだんうっとうしくなる一方、クレーヴ夫人本人に対しては好感が増した。

  • 時代を考えればとってもスキャンダラスな小説だったのだと思う。当初、著者は匿名でこれを出版したという。

  • 1678年初版の宮廷恋愛小説。恋愛と結婚の二律背反に苦悩する三角関係を描き、その結末が物議を醸した名作。

    16世紀のフランス宮廷が舞台ということで、序盤はたくさんの人名が出てきて戸惑うが、いざ物語の本筋に入るとほぼ主要人物3人の話なので読みやすい。恋愛感情に伴う男女のあらゆる心の機微と、結婚という義務と責任で揺れる苦悩が生々しい。背景にこの時代の貴族社会の特殊性があるとはいえ、状況自体は舞台をどこに移してもありえそうな、というか普通によくある話ではある。この小説が特別なのは内面・心理の描写の細やかさと、ヒロインのとった決断と行動にあるのだと思う。この結末が読む人それぞれに賛否あるのは当然で、彼女の選択肢には絶対的な正解などあるわけもない。かのスタンダールは否定派で、彼女は○○すべきだったと書いているとのこと。真の愛情とは?女性の幸せとは?女性の自律とは?出会いのタイミングという運命の理不尽さ。感情と理性の葛藤。色々と考えさせられるが、自分はクレーヴの奥方に拍手喝采した。なによりもクレーヴ公に同情した……。

  • 天の夕顔

  • リアルだからずっと女性に読み継がれてきたのかなって分かる作品

  • 恋を知らずに十代で結婚したクレーヴの奥方様。
    社交界で色男に恋をするが、悩んだ末に彼女は自分の夫にその想いを告白する…というあらすじを読んだ時には、何でだよ!何でよりによって旦那だよ!と突っ込んだのだけど、読んで納得。
    心理描写が非常に細やかで(この作品が心理小説の先駆けと言われているそうだが、ほぼ先例なしにこれを書いたというのは凄まじい手腕…!)、そうせざるを得なかった彼女の心がよくわかる。
    夫と恋の相手についても丁寧に描かれていて、苦しい気持ちになりつつも満ち足りた読後感だった。
    彼女が夫に告白してまで踏みとどまろうとした理由が、宗教ではなく自分の信条からだというのも好み。

  • 史実と物語の交差、物語の中の物語、どんでん返しのどんでん返しなど、展開が軽快でページが進む。

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