脂肪の塊/ロンドリ姉妹 モーパッサン傑作選 (古典新訳文庫)

制作 : 太田 浩一 
  • 光文社
4.00
  • (2)
  • (1)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 35
レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753399

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  •  特異な状況に置かれた人々の描写が吉田戦車的で笑ってしまう。個人的にツボだったのはホラーな『チック』と、サディスティックなプロイセン士官をコミカルに描いた『マドモワゼル・フィフィ 』。どろどろした内容が目立つモーパッサンの作品の中では珍しくタイトル通り爽やかな『冷たいココはいかが! 』は、真夏の炎天下に転がり込んできた幸運が清涼剤のように瑞々しく光る短編でした。『聖水係の男 』は秋田滋訳で既に読んだ作品でしたが、いつ訪れるかもしれない幸運を逃さぬように、また眠っている間に掴んだ幸せが逃げていかないように、生涯注意深く周囲に目を光らせていた眠れない主人公の必死な姿が印象深いお話。

     プロイセンの侵攻から逃れる乗合馬車の一行を描いた『脂肪の塊』は、馬車そのものが社会の縮図となっている構成が秀逸。戦時下のポートレイトが『マドモワゼル・フィフィ 』と同じく赤裸々でグロテスクな作品ではあるけれども、労働者に負ぶさって私腹を肥やす特権階級や有産階級を皮肉ったような、二重の比喩にもとれる表題に作者の怒りを感じました。聖なるワインの醸造とその葡萄栽培を特権階級が牛耳ってきたキリスト教国という土壌を背景に、シャンパン(ドイツ人が醸造に関わってきた歴史を持ち、尚且つゼクトと競合)と普仏戦争を絡めながら、若者を生贄にしてシャンパンで祝杯をあげるブルジョワジーの品性が絶望的に卑しく描かれており、まさに集団で仔羊の肉を貪る獣のような人間の本性を晒している。強者が弱者の信仰心を巧みに操り、目的地へ向かうための手段として聖職者の言葉を借りて犠牲を強いる場面では、宗教とは一体何なのだろうかと読者に強く問いかける作者の声が聴こえてくるようでした。

     裏切られて泣く娼婦の横でラ・マルセイエーズを歌い続けた男は、普仏戦争に召集された作者自身を投影した人物なのかな?高価なシャンパンを呷る一行を傍目に、事の成り行きを傍観していたこの革命家の男が飲むのは安価なビールという、人物造形でのこうした小道具の対比も作品全体にはっきりとしたコントラストをもたせている。お酒と娼婦が登場する話が多いせいか、ロートレックのポスターを思い出しました。

  •  
    ── モーパッサン/太田 浩一・訳《短編集「マドモワゼル・フィフィ
    Mademoiselle Fifi 1882 /脂肪の塊/ロンドリ姉妹 20160908 光文社古典新訳文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4334753396
     
    ……「マドモワゼル・フィフィ」、あるいは男女の闘争/Kyo「聖杯」は、
    「脂肪の塊」に次いで、娼婦と戦争とを結び付けた作品。1884年に書か
    れる「寝台29号」と合わせて、戦時下における娼婦を主題とした三部作。
    http://etretat1850.hatenablog.jp/entry/2016/12/27/150849(P142)
     
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/20110306
    ♀フィフィ タレント 19760222 Egypt /本名=非公開 [A] 国籍=エジプト
    http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/search?idst=87518&key=%A5%D5%A5%A3%A5%D5%A5%A3
     
    (20170828)
     

  • 「短編の名手」とのことで読んでみたが,一編目の「聖水係の男」ですっかりやられてしまった.

  • 人間のエゴや姑息さと言ったあれこれが刺さる物語が目立ちました。『脂肪の塊』の主人公以外の人達の行動は酷いけれど有り得そうで何とも言えない気持ちになりました…。

  • 10編収録。ハルキ文庫版(1998年)と3編ダブっている。図書館本。124

全5件中 1 - 5件を表示

脂肪の塊/ロンドリ姉妹 モーパッサン傑作選 (古典新訳文庫)のその他の作品

モーパッサンの作品

ツイートする