デーミアン (古典新訳文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753559

感想・レビュー・書評

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  • 日々様々な雑念に惑わされ、本も自分が読みたいものから、世の中で話題になっているもの、仕事で読んだ方が良いもの、と常時10冊以上読むべき本を抱えている。で、「これは本当に読んで良かった」と思えるものは10冊に1冊くらいである。
    で、この『デーミアン』を読んで、古典的名作というものはハズレない、読む価値が必ずある、ということを改めて知った。
    若い頃『車輪の下』は読んでいたのだが、当時から読みたい本、読むべき本を抱えていて、他の作品も読んでみたいと思ってから幾星霜。
    これも若い時に読みたかったと思ったが、今読んでも十分刺激的で、考えさせられるものだった。
    10代の普遍的な悩み苦しみが描かれているだけでなく、精神的導き手であるデーミアンをいつも心に置きながら、素直に認められず、なかなか実際には会えなかったり、会わずにいたりするのは、恋のようでもあり、物語として大変惹かれる。
    読みながら、「これ、萩尾望都が漫画にしたらピッタリだなあ」と何度も思ったが、あとがきで、なんと訳者の酒寄さんも同じ匂いを嗅ぎとっていたようで(いや、酒寄さんが嗅ぎとっていたからこそ共鳴したのかもしれない)感激した。
    先日コルドンの『ベルリン1919 』を読んだので、戦争へ向かうシーンは、ブルジョワのおぼっちゃまだからこんな風に感じたのかな(庶民は暮らしがかかっており、こんなに観念的に考えないだろうな、と。)と思ったが、解説で、第一次世界大戦が化学兵器などを使ってえげつなくなる前で意識的に終わらせていると書かれており、納得した。
    この作品についての分析などは研究者がたくさん書いているからおいとくけど、まあとにかく、名言の数々にうっとり。詩人でもあったヘッセの言葉づかいの巧みさと酒寄さんの名訳が一体化した宝石みたいなもので、これを味わえるだけでも至福のひととき。
    若者とかつて若者であった人は、ぜひ読んで欲しい。

  • この小説をおすすめしてくれた男の子にこの本のどこが好きなのか聞きたいのだけれどあれ以来会っていない

  • これは自己実現の過程を赤裸々に語った貴重な物語。ユングの心理学について知っていればかなり面白いと思う。
    全て物語としても読めるけど、無意識の領域やアニマ、グレートマザー、影とかそういうものと登場人物を読み替えていく楽しさ…村上春樹も凄いと思ったけど、こんな風に無意識そのものをテーマに自己との対決から逃れず書き切ったのはすごすぎる。
    ヘッセ自身の名前で最初は出さなかったのも頷ける、相当恥ずかしかったと思う…内容がどうあれ、自分の内面世界をここまでさらけ出すのは身を削ってると思う。ほんとにすごい。

  •  私は、自分を壊してまで自らの心を覗き込んで、向き合って、探究する必要はないと思っているけれど、たとえ苦くて辛くても自分と向き合う時間はかけがえのないものだなって、改めて思わせてくれた小説。

     ぱっぱと読んじゃうのには勿体なくて、少しずつ少しずつ読んでいくのがいいかなって、個人的には思った。

     自分の思想と合うか合わないかは別として、人が普段鍵をかけて奥底に沈めている部分に揺さぶりかけてくる、素晴らしい本だと思う。無視しようとしても、なんとなく無視できない、鮮烈な印象を残す本。ただ書くのが上手いとか、ストーリーが面白いとかっていうんじゃなくて、魂を削って、全部曝け出して、痛みを強さに変えている本。節々のエピソードや心情の描写もめちゃめちゃ心に刺さる。

     特に子供時代のエピソードは、なんともいえないあの感覚が巧みに表現されていて、感嘆した。状況や経緯にリアリティがあって自然だし、シンクレアの心情も臨場感たっぷりに的確に表現されていた。

     美しい夢のような第一の世界と、臭気を放つ第二の世界の話は、すっと腑に落ちた。二つの世界があってその間をフラフラする感覚。第二の世界について考えれば考えるほど無視できないことに気づく。でも、美しい夢を捨てて、輝く色彩の世界を放棄して、そのことに折り合いをつけるのに慣れてしまっても、世界の輝きを見て感動することはできる。この部分にもすごく共感した。全部灰色に見えてしまう時があっても、ちゃんと鮮やかに見える瞬間がまた訪れるって、心に刻んでおきたい。

  • 光文社古典新訳文庫はガチで読みやすい。苦手だった海外古典文学がためらいなく手に取れるようになったのは、このシリーズのおかげである。古典を古典として読むのが億劫になってきたので、きっとこれからもお世話になると思う。
    本書の訳者は酒寄進一氏。以前読んだシーラッハの『犯罪』もたしかこの方の訳書だった。翻訳にあたっての難所についてや、デーミアンのBL要素といった可能性などまで、訳者あとがきも非常におもしろく本書についての理解をより深めてくれる。

    で、デーミアン。第一次世界大戦直後に発表されたドイツ文学である。
    日本で有島武郎の『或る女』などが発表された1919年にヘルマン・ヘッセが匿名で発表した作品で、今年で発表からちょうど100年と聞き、せっかくなので読んでみようという気になった。作品の内容をひと言で表すとすれば、「既存の価値観と対峙する、若者の青春期」といったところだろうか。

    主人公はエミール・シンクレアという青年で、彼の幼少期からの成長を追っていく構成となっている。彼は世界にはきれいな世界と汚れた世界があることに気付く。守られた清らかな世界で生きている人は汚れた世界を見ないふりをしているが、たしかに存在することを彼は知っている。ふたつの世界について知った彼が、どう生きていくのか…思春期の問い、と簡単に言うには重すぎる「世界」との対峙について、キリスト教の宗教観のなかでデーミアンという導き手の影響を受けながら答えを模索していく。

    思い返せば、僕は比較的丁寧な世界で育ててもらった。暴力や貧困の世界があることは知りながら、そこに足を踏み入れないでいいように守られて生きてきたと思う。ところが社会に出て、今はどちらかというと本書で言う「汚れた世界」に近づいてきている。低層というと好ましくない言い方かもしれない。うまく言えないが、直接税を納めていなさそうなわりに、間接税(主に酒税、タバコ税)を大量に支払っていそうな人たちとともに生きている。また、直接税をきちんと納めていながら、他人を不快にさせる言動を悪びれもせずに言い放つような人間も身近にたくさん見てきた。そして、僕にはカインの印なんてものはない。

    汚れた世界にフタをして、きれいな世界で生きることもできるだろう。きれいな世界を離れて、汚れた世界に身を置くことも容易かもしれない。また、どちらも選ばない第三の道もまた考えられる。本書に出てくるアブラクサスという神は「神性と魔性を合わせ持つ」という象徴的な役割を担っている。

    対立する二つの世界があるとして、どちらの世界でどう生きるのか。はたまた世界そのものを疑い、否定し、打ち破ることができるのか。この本は戦後の世界的なブームのほか、ベトナム戦争の後などにも迷える若者たちの間で度々手に取られてきたという。さらなるパラダイムシフトも簡単に起こりえる今現在、そしてこの先も、世界と対峙する上で多様な示唆を与えてくれる物語である。

  • すごく読みやすくてありがたかった。
    それでいて格調もある。

    酒寄氏も解説に記されているとおり、ユング全開といってもいいくらいの作品であることにあらためて驚いた。(それなのにユングに言及されていないという酒寄氏の指摘。おもしろい。)

    ベアトリーチェは見るからにアニマだし、クローマーはたしかに「影」。エヴァ夫人は太母だけれどもアニマ的なところもあるのかな。デーミアンはすべてを包摂した「自己」だと解説には記されていてなるほどと。そうするとラストでシンクレアは自己の統合を果たしたということになるんだろうか。

    西欧の精神史をたどるような内容でもあり、さまざまに読める奥深さを持っている。個人的には、冒頭のクローマーとのいざこざがしつこく描かれなくて好みだった。

  •  怪しげな空気とか、いじめとか、あと学生時代に酒におぼれるのは卵を産めない郭公もそうだけれども、アメリカだろうがドイツだろうがみんな同じなんだなあと思いつつ、芸術論とか、信仰についてとか、ニーチェっぽい感じとか、戦争とか、男っぽい髪型の女が好きとか、趣味全開でめっちゃいいのだが、その全開が極点に達したのは、まさに息子と母とやる(やってないけど、もうヤッたと同じでええんちゃうかな?)、母と娘ならぬ、母と息子の親子丼を主人公が成し遂げかけていたところ。この母と息子も怪しげに見えるし、3Pがはじまるんちゃうか! とピリピリとした空気の中、読んだ。ヘッセとは、熱く下ネタを語れそうだ。

  • 難しかった
    でも孤独を肯定してくれてうれしかった

  • 真の自分になるために己の道を歩く
    試行錯誤して己の道を行くことが人生
    でも真の自分になれた人はいない
    人類皆兄弟だから分かち合うことはできる、でも自分を解き明かせるのは自分しかいない
    序章のこの考えが面白くて何度も読み返したくなる
    アブラクサスやカインとアベルの話で宗教を学ぶことの面白さを見出した
    うまく言語化できないけど、この本で苦境を乗り越えるヒントのようなものを掴んだ気がした
    ニーチェやユングの心理学も併せて読んでみようと思う

    世界を卵に例えて雛が殻を突き破ると言う表現が少女革命ウテナにもあったような気がしてこのアニメももう一回見直したいなと思いました

  • シンクレアは日々の生活、それらが積み重なった結果としての人生に起こるさまざまな出来事に対して感受性が豊かなのだなと感じた。だからこその彼の苦悩が胸に痛かった。そして、彼の傍から見れば単に無頼な転落も、彼のような人間だからこそのものだと思えた。
    人生や物語に何かしらの解決がなければならないという訳ではないが、ストーリー上の「解決」を用意することが非常に難しい物語(趣旨)だと思った。そのうえで、あのラストがすごく味わい深かった。

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