マノン・レスコー (光文社古典新訳文庫 Aフ 13-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753665

感想・レビュー・書評

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  • 「マノン・レスコー」アベ・プレヴォー。初出は1731年、フランス文学です。光文社古典新訳文庫、野崎歓訳、2017年。
    1731年というのは、古いですね。ディケンズだってヴェルヌだって19世紀です。スタンダールも作品は19世紀。19世紀ともなると、他にも「現代にそのまま通じるエンタメ小説」はいくつもありますが、18世紀はなかなか。
    …なんで、ひょっとして辛い読書かなとも微かに思ったのですが、見事に裏切られました。圧倒的に面白かった。

    #お話は、はじめ18歳くらいのどうやら貴族的身分の若者デ・グリューさんが、マノン・レスコーという名前の出自不明の美少女とばったり出会うことからはじまって。
    一気に一目惚れ。もともとが優等生気質だったらしきグリューさん。そして贅沢と裕福と遊びが大好きなマノンさん。そしてどうやらマノンさんは娼婦的性格(と実践)の強者のようで、グリューさんは振り回され、とめどもなく金を遣い、世間を狭くして勘当同然、ふたりして浮き沈みしつつ沈んでいく…という。
    グリューさんはとにかくマノンが好きでたまらない。マノンも熱烈にグリューを愛するけど、一方で幾度も裏切ります(特にお金が無くなり始めると)。

    #そもそも出会いのところが殆ど爆笑物の強引さ。その後も問答無用のジェットコースター小説。何が面白いんだろうかというと、とにかく執拗な心理描写。グリューさんの一人称小説なんです。グリューさんの恋焦がれ浮かれ舞い上がり、屈辱に震えて嫉妬に焦がされ怒りと絶望に涙する心情が物凄く豊かに描かれています。それから展開の適度なテンポ。とにかくふたりの関係性(を回想として述べるグリューの一人語り)しか表向きは題材が無いんです。そしてふたりの物語は前半からもう、アウトローの世界へと落ちて行ってしまうので、恋愛のジェットコースターはそのまま犯罪アクション、犯罪者物語と言っても過言ではありません。面白い。

    #そして、「ダレ場」が殆どありません。どうしてかっていうと、「風景や人物の外見の描写、そして社会構造や思想宗教についての論考が無い」からでしょう。これは、すごい。ほんとにありません。解説を読んで「あ、そうだ」と思ったんですが、そもそも「マノン・レスコー」がどんな美少女なのか描写されていない。あと主人公は何かしらか修道士?的な職業(どうやらこの社会のなかでそれなりに名誉あるポジションだったよう。中世ですから)からの脱落者なんですが(マノンとの恋愛のおかげで)、だからと言って神や聖書や宗教と、恋愛について、道徳について、本気で論考するようなくだりも全然ない。グリューの人生は(マノンとの出会い以降)「そんなことたちよりも、マノンと一緒にいることの方が大事に決まってるじゃん」という1点で、ブレない。微動だにしない。そんなこんなでダレ場がない。ほとんど現代的とも言って良い読みやすさでした。それについて大事なのは翻訳なんですが、翻訳もそんな「勢い」とか「熱」を遮らない文章で、あと見開き左に注釈があるのも良かったです。(ページを終盤に移動して注釈を読むのは面倒なんですよね)
     これが同時代でベストセラーとなったのもむべなるかな。なかなかこんな小説ありません。

    #何がすごいかって、グリューさんは(マノンも)恋愛とその快楽を維持するためには、犯罪を厭わない。罪悪感すら薄い。「だって僕たちの恋愛のためだもんね」的な。殺人までしちゃうんです。引きずらない。ラスコーリニコフがどっちらけです(笑)。若くて愚かで、罪を犯す一方でさすがに次々に失敗して没落していくんですけれど、これがもう痛快です。
     古典なんで、もう擦り切れるほど各方面の論考がなされているみたいですが、やっぱり共感を呼ぶのはその弱さやだらしなさも含めた人間味ですね。正義を行って確かに道徳的にその社会当時に何も悪いことをせず、したがって他者を糾弾非難して道徳と法律に君臨した人物の物語は、やっぱりおもしろくないでしょう(笑)。だってそんなの「そう言っているだけでホントはどうせちがうでしょ」。そして何と言ってもマノンさん。酷いこともいっぱいするんですけれど、ブレブレながらもグリューさんを愛しているんですね(まあ、「流れに任せて、グリューに巻き込まれて生きてしまった」という解釈も可能かもしれませんが、それだけでもないような不思議な人物像です)。

    #色々疑問は残るんです。突っ込めばキリがありません。それでも直球一本勝負、三球で三振以外に考えない怒涛のピッチングという感じで、えっ…という間にスリーアウト、みたいな読書の快楽でした。(同時にこれが長丁場になると、これでもたないだろうなあ、ボロが出るだろうなあ、とも思います(笑)。適度な長さです。つまり、省略が上手い)

    #それにつけても、「恋愛」と「お金」という関係性の物語とも言えます。カネが無くなる恐怖。カネがなくなればマノンは裏切るしかない。極北の個人的な営みと感情が、この上なく社会的なものに絡められてします。だからこれは都市の快楽と資本主義の台頭をざっくりと本質的に削り出した小説でもあります。実は「恋愛」というふわふわした、限りなく不可思議で狂おしいドラマが、実はそういう社会環境の産物なのかもしれませんね。恋愛感情は太古からでしょうが、それが人生を支配する葛藤になり得るというのは風俗現象かもしれません。そんなあたりを確信犯で削り出している。鉈で一気に仕上げた木像のぞっとする凄み、の如し。この延長にボヴァリー夫人が佇んでいることは間違いなく、フランス小説っておもしれえなー、という。

  • 読んでいて、これがフランス革命より前の時代の小説かと疑いたくなるほど臨場感があった。
    スタンダールの恋愛論といい、デュマフィスの椿姫といい、フランス文学は恋の情熱がいかに幻想的で破滅的かを克明に表現している。

    主人公のシュバリエがいかにマノンを愛しているかが、主人公の視点で終始書かれているので、いかにそれが狂気と隣り合わせかということが客観的にわかるようになっている。

    世界を支配できるとしても彼女の愛さえあれば他に何もいないという境地には、恋は盲目という言葉があるとおり、多くの人が共感できるように思う。

    作者は、浮気をされようともここまで友人や家族を翻弄し苦しめ、詐欺を働き、人を殺しかける主人公の愚かさを描く。挙げ句にその情熱の元となった恋人を失う顛末から、恋愛感情が麻薬的な作用をもたらすこともあるということを教訓として伝えたかったのだろうか。

  • 「1731年の小説なんて絶対面白くないだろうけど、まあここらで古典でも一冊読んどかんとなあ」程度で手に取ったのだが……衝撃をうけるほど面白い。それも圧倒的に。いやいやまんまとこのハチャメチャな物語に魅了されてしまった。訳者あとがきで「従来の常識では考えられないようなパッションのありさまは、読者をいまだに驚かせ、魅了し、あるいは呆れさせるだろう」とあるが、まさにこの通り。シュバリエ・デ・グリュとマノン・レスコーという300年前を生きた2人の若い愚か者のまあ魅力的なことといったらない。

    ヤッバイ恋愛楽しすぎる‼これ運命だわ。でも金に困ったので友達とか親戚にたかりまーす。それでも足りないので詐欺しまーす。あ、捕まっちゃったけど脱獄しまーす。ついでに殺人もしまーす。あ、普通に浮気もしちゃうぞ。

    いくらなんでも無茶苦茶すぎる。クズ過ぎる。

    にもかかわらずどこまでも情熱的で、刹那的で、自分に正直で、気持ちを真っ向から他者にぶつけ、したたかさも持ち合わせて、不必要な謙遜も自虐もなく、人間味にあふれ……。
    つまりとても真面目に真摯に誇り高く、自分たちの人生をとことん生きている。それって最高じゃん。一番大事なことじゃん。もう堪らないくらい2人が愛おしい。憧れる。

    まああまりに男性中心主義的な展開には不満も当然あるのだけれど、そういった短所すら「では現代的にこの物語を解釈した時にどういった結末がありえたのだろうか」と考える端緒になり、いやあこの本と出会えてよかった。

  • あらすじだけ見ると、滑稽極まりないが…読み始めると止まらない。

  • 亀山先生が“モーツァルトの手法で書かれた言葉のオペラ”と帯に書いてらっしゃった。
    たしかに亀山先生は、ドストエフスキー作品を訳をされてらっしゃるし、オペラ的な作品がお好きなのかな。
    自分は、フランス人がずっと感情的に叫んでるのに、驚いた。
    マノンちゃんが、この後の時代のファムファタルのモデルになってるらしいので、世の中にあふれてるいろいろな女性キャラのボスの物語を読めてよかった。

  • ただの愛の空回りと馬鹿騒ぎ、と捉える人間は浅はかだと感じる。フランスの恋愛文学の古典。名著。


    結局2人は望みあって、最後を迎える。
    デグリュよりもマノンの方が彼を愛していただけ、

  • ひで~~笑 バカダナーー
    でもこの小説が世界を変えたから、このような感想を平民で女の私も抱けるようになったのでしょう。解説がフラットでよかった

  • マノンレスコーは主人公の男性の名が
    題名だと思っていたが、主人公が出会う
    宿命なのか悪名なのか一目惚れをする
    美女の名であった。
    マノンとグリュの逃避行は直ぐに始まり
    グリュはマノンの散財や浮気を思い悩み
    苦しみながらも、マノンを何とか引き留める
    為に無二の親友や身分さへも捨てて
    悪徳の道へと突き進み、挙句に殺人も辞さない
    暴挙に至ってしまう。
    マノンはグリュにとっては神以上の存在
    なのだ。
    マノンの心情はグリュが語る以外には
    表面的にしか分からないがマノンの様な
    女性にはグリュは忠犬のさながらの存在
    でしか無かっただろう。

  • 図書館に予約して届いた本は紙面の茶色くなった昭和49年2月20日第44刷発行岩波文庫!

  • 読み物としては最初から面白かった。
    どういう物語が待ち受けているのか(大まかなストーリーや結果はわかっていながらも)どんどん読み進められる面白さがありました。
    終わり方は、シュヴァリエの独白が終わったところで全巻終わりになっている。最初は少しそこに物足りなさを覚えて、冒頭の『ある貴族の回想』の作者の言葉から、作者がシュヴァリエと会ってからの部分を読み直した。なるほど完成されていた。
    シュヴァリエのように破滅的までいかなくても、きっと非常に情熱的な恋愛をしてきた人にとってはその部分の面白さがもう少し分かったり、教訓になる本なのではないかと思った。

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