幸福について (光文社古典新訳文庫)

制作 : Arthur Schopenhauer  鈴木 芳子 
  • 光文社
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レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753696

感想・レビュー・書評

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  •  私たちが何を幸福とし、何を享受するのかということにとって、主観は、客観とは比べものにならないほど重要である。これは、空腹のときは何を食べても美味しいとか、若者が女神のごとく崇める美女が眼前にいても、老人は何とも思わないとかいうことから、天才や聖者の生き方にいたるまで、事々に確証される。(p.19)

     才知あふれる人物はまったく独りぼっちでも、みずからの施策や想像ですばらしく楽しめるが、鈍物は車高や芝居、遠出やダンスパーティーと絶え間なく気分転換しても、地獄の責め苦のごとき退屈をはねのけることができない。(p.20)

     幸福と享楽のあらゆる外的源泉は、その性質上、きわめて不確かであてにならず、はかなく、偶然に左右され、どんなに有利な状況にあっても、たちまち滞ることがある。それどころか、これらの外的資源が常に手元にあるのでないかぎり、こうした事態は避けがたい。(p.48)

     そもそも人間が他者の思惑に価値を置くということ自体、実に不適切かつむ分別である。だから「どんな心の喜びも朗らかさも、自分自身を高く評価できるような比較の相手がいることを基盤にしている」(『市民論』1の5)というホッブズの言葉は、たしかに痛烈ではあるが、適切かもしれない。(p.176)

     孤独は、知的水準の高い人にとって二重の利点がある。第一の利点は、自分自身の身を相手にしていること、第二の利点は、他人と一緒にいないことだ。およそ交際というものがどれほど多くの義務や苦労、危険までも伴うのかを考慮すれば、この第二の利点は高く評価されることだろう。(p.230)

     文体や世帯における新手の愚行を非難するどころか称賛する者は、それを真似する。だからドイツではどんな愚行もたちまち広まる。ドイツ人はたいそう寛容で、これには定評がある。「これくらいの勝手は許してもらって、同じく他人にも許してあげよう」がドイツ人のモットーだ。(p.302)

     知性の優越という特性は、その人物をたいそう孤立させる。知性の優越は嫌われ、憎まれる。その人物にさまざまな血tんをなすりつけ、その口実にする。女性の間では美貌がこれと同じ作用をもたらす。(p.311)

     人生は青少年の立場からすると、果てしなく長い未来に思えるが、老人の立場からすると、たちまち過ぎ去ったように思える。そのため人生とは、最初のオペラグラスの対物レンズを目に当てたときの事物のように見えるが、最後には接眼レンズを目に当てたときのように見える。年をとり、長生きしてようやく、人生がいかに短いかを悟る。ー若いことは、時そのものがたいそうゆっくりと歩むので、人生のはじめの4分の1は、もっとも幸福であるばかりでなく、もっともゆったりと時間の流れる時期でもある。そのために、たくさんの思い出が残る。思い出話をするとなれば、だれもがこの時期について、次の第二・第三の時期を合わせた分よりも多くを語ることができるだろう。そのうえさらに、1年の春と同じように人生の春も、日が長く、ついには手持ち無沙汰となほどだ。1年の秋、人生の秋には、日が短くなるが、澄んだ穏やかな日になる。(pp.359-360)

     年をとればとるほど、それだけ自覚なく生きる。物事は何の印象も残さず、足早に過ぎ去る。ちょうど千回も見た芸術作品が何の感銘も与えないように。しなければならないことはしても、それをしたかどうか、後になると覚えていない。こうして完全に自覚なき状態へと突き進むにつれて、生きるということは、ますます意識にのぼらなくなるため、時の歩みも速度を増す。幼年期にはどんな対象、どんな出来事も目新しくて、何もかも意識にのぼるため、1日がはてしなく長い。これと同じことは旅行中も生じる。だから旅行中の一ヶ月は自宅で過ごす四ヶ月よりも長く思われる。(p.367)

    10歳:水星が支配。抜け目なく雄弁な髪の支配下で多くのことを楽々と学ぶ。
    20歳:金星、すなわち恋の女神ヴィーナスが支配。恋と女性のとりこになる。
    30歳:火星、すなわち軍神マルスが支配。人間は激しく強く大胆で戦闘的で反抗的。
    40歳:4つの小惑星が支配。人間の生き方に幅が出る。
    50歳:木製、すなわち主神ジュピターが支配。若い世代よりも自分の方が優れていると感じている。自分の能力を十分に享受でき、経験や知識も豊かだ。
    60歳:土星が支配。鉛独特の重さ、遅さ、しぶとさが現れる。
    最後:天皇制、すなわち天空の神ウラノスがくる。その名の通り、このとき人は天にいる。
    (pp.384-386)

    • 大野弘紀さん
      素晴らしい。
      とても豊かで、本を読み、何を感じ、何を考え、そして、何を未来に持っていくのか、一冊の本に出会い、気づくプロセスが、ここに。
      ...
      素晴らしい。
      とても豊かで、本を読み、何を感じ、何を考え、そして、何を未来に持っていくのか、一冊の本に出会い、気づくプロセスが、ここに。
      とても純度の高い、豊かな感想文。
      2018/03/27
  • ショーペンハウアーならではのシニカルな幸福論。だが芯を食っている感じもする。何より自分の価値観を後押ししてもらえるのが良い。

  • 初めてのショーペンハウアー。思ったほど厭世的じゃないなと思っていたら、解説にも彼の「生の否定者」というような一般的なイメージは誤解の色が強いということが書かれていた。それどころか「生の哲学」の系譜の始祖であるらしい。驚いた。まあでも、あくまで思ったほど厭世的でないというだけで、かなりのひねくれ者という印象は免れ得なかったが。

    中身は概ね同意したい内容であったけれど、無能な人に対する当たり方が天分は生まれで決まると言いながら異常にキツイのは気になった。もう少し詳しい論拠が知りたいと思う箇所も結構あった。「意志と表象としての世界」がさらに読みたくなったが、、読み切れる自信なし。

  • 「ばかげた内容の会話を聞かされるはめになり、癇癪が起きそうになったら、これは二人の道化が演じる喜劇の一場面だと思えばよい。効き目は折り紙つきだ。」

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