ボートの三人男 もちろん犬も (光文社古典新訳文庫 Aシ 8-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753740

感想・レビュー・書評

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  • 三人の男と一匹の犬がテムズ河をボートで旅する珍道中を描いたユーモア小説。日本で言うと弥次さん喜多さんのようなものか。

     自分が重い病にかかっている、と言い張る三人の男たちは、気晴らしにテムズ河をボートで往復することを計画する。意気揚々と準備を始める三人だが、まずもってなかなか旅に出かけない。ようやく三人が重い腰を上げたのは、物語が1/4を過ぎてからである。
    もちろんそんな三人だから、テムズ河に繰り出してからも、食事はうまく作れない、何かが足りない、でドタバタ劇は続く。皆とにかく想像力、というか妄想力がすごくて、しかも頭の中で完結してしまい、実行に結びつかないのである。
     本書はそんな三人の様子を面白おかしく描いているのだが、頭でっかちの自覚のある私は、なんだか自分を見ているようで気恥ずかしさも感じてしまった。

     本書が執筆された1800年代後半のイギリスは、ゆとりのある生活にあこがれを持つ都市部のオフィスワーカーが増えてきた時代なのだそう。著者のジェローム・K・ジェロームは、そんな読者の需要を当て込んで、三人の男の生活を実際のオフィスワーカーよりも上のクラスに設定しているようだ。
     長期休暇を取り、たっぷりの食べ物を積んでのんびり川遊び。なんて優雅な生活なのだろう、とうらやましく思ったが、当時の読者も同じような気持ちで読んでいたのかもしれない。

     本書では、テムズ河沿岸の街の歴史や見どころについても紹介される。もともと著者はこの部分をメインに考えていたそうなのだが、息抜きのためユーモアたっぷりの文章を書いたところ、それだけが採用され、他の部分はかなりカットされたらしい。確かに歴史の部分が大半を占めていたら、少なくとも日本の文庫でお目にかかることはなかったかもしれない。

     周辺の景色を楽しみつつ、ゆったりボートで漕ぎながら、優雅な休日を過ごす妄想をしたい人にはもってこいの小説である。

  • 最近、本筋から脱線していくバラエティーが好きです。さんまのお笑い向上委員会のゲストほったらかしのやり取り。ロンドンハーツや水曜日のダウンタウンで、企画の目的と違うところで話やロケのVTRが面白くなっていく様子。相席食堂の下手なロケ映像と千鳥のツッコミ……。台本の無い感じがいいのかなあ。

    転じてこの『ボートの三人男 もちろん犬も』も、本筋よりも「ぼく」こと語り手の思考の脱線が面白い。ボートでの旅の旅情なんてほとんど印象に残らないし、そもそも脱線がなければページ数半分くらいで収まったのでは? とまで思うほど。
    なので、話が進まないとイライラする人もいるかもしれないし、綺麗な結末や物語の妙を期待した人は、裏切られるかもしれません。でも、自分はこの脱線に加え、三人男がほぼほぼ揉めている様子に、何度もニヤリとしてしまいました。

    書き出しからクスリとさせられるとともに、少し共感できます。薬の広告を見ているとあらゆる症状が、自分に当てはまっていると感じてしまうぼく。そこからぼくは図書館で病気をのことを調べたことを回想します。
    チフス、マラリア、コレラ、ジフテリア、といったあらゆる病気にかかっていることに気づくぼく。ちなみにかかってないと確信できたのは「女中ひざ」だけだそう。そして慌てて医者に行き、処方箋の紙をもらい薬剤師の元へ向かうのですが……

    そんなぼくと二人の友人は気分がすぐれず、精神的にまいっているよう。そこで三人は『僕らに必要なのは休養だよ』となり、犬のモンモランシーを加え、ボートでテムズ川を遡上する旅に出ることになるのですが……

    荷造りでは歯ブラシを入れたかどうかで大騒ぎになり、一度詰めた荷物をすべてひっくり返し、歯ブラシを探し(ぼく曰く、歯ブラシはいつも最後まで見つからないそう)天気は晴れてほしいときは雨が降り、雨が降ると思いきや晴れる、とぐちをこぼし、
    足を踏んだ、ボートの操縦の負担の配分がおかしい、目覚めが悪い、シャツを落とした、白鳥に襲われたと三人はしょっちゅう揉めに揉め、旅の様子はこうしたもめ事とハプニング、愚痴の中に埋没していきます。

    そして先に書いたようにぼくの思考もテムズ河以上に流れに流れる。そのたびに様々なエピソードが語られるのですが、その力の抜け具合とユーモア加減もまたいい。ちゃんと歌詞を覚えていないのに、歌おうとして周りを困らせる男、分からないのに、分かったふりをして失敗した話、管理人も出てこれない迷路、一方でもう一匹の道連れ、モンモランシーは猫やケトルとケンカをして……

    探しているものに限って見つからないだとか、周りの迷惑も考えずしゃしゃり出る人だとか、どこか共感できるポイントも多いのもいいのですが、とにかくぼくの語り口が好きでした。あくまで至極真面目にこうした物事や、トラブルを描いていて、その真面目な口調と語られることの対比がとぼけていて、それが可笑しさを演出します。

    そして三人と一匹のキャラも良かったなあ。まさに往年のコント番組を見ているような、ドタバタともめ事の数々に何度も笑ってしまいました。

    壮大なドラマやドキュメンタリーというわけでなく、別に絶対に見ないといけないわけでもないけど、でも見逃すとなんだか損した気分になる、で、見たら見たでやっぱり面白い。そんな気楽なバラエティー番組のような作品でした。図書館で借りた作品でしたが、これはいずれ買うかも。

  • 好き(笑)
    理由は単純で、昭和の小学校の図書室によくあった「小学館少年少女世界の名作文学」のイギリス編に掲載されていたから。好きすぎて暗記するほど読みました。
    特に好きだったのは、食べ物に関する様々な記述。何も知らない子どもの頃、「ルバーブのパイ」なんて聞いたこともなく、"どんなに美味しいんだろう"と妄想しましたよ。大人になって調べたら、ルバーブってギシギシなどのタデ科の植物で、下剤などで使う「大黄」の仲間なんですね。ちょっとがっかりしたなぁ…。
    それでも三人が繰り広げるドタバタは、イギリスらしいユーモアに溢れていて、やっぱり大好きです。

  • 1889年の作品とは思えない読みやすさで(光文社古典新訳文庫の好きなところ)、内容はタイトル通り、三人の男「J」、「ハリス」、「ジョージ」と犬の「モンモランシー」が、ボートに乗ってテムズ河を遡っていくユーモア物で、何か変な書き方だけれど、昔も、こんなベタなユーモア物があったんだなと思いました。でも、面白かった。

    まず、ボートで出発する前に色々起こり、なかなか旅が始まらないなと思い、出発したらしたで、過去の思い出話などで、横道に逸れまくる展開も、最初は戸惑いましたが、慣れるとこれはこれで面白い。

    また、それとは対照的に、自然や歴史の丁寧過ぎる程の細やかな描写もあり、そこに浪漫や美しさ、寂寥さを感じられたのも特徴的で、テムズ河の自然やその周辺の街や村の歴史が想像出来るようで、当時の感慨に浸れました。

    そして驚いたのが、訳者の小山太一さんが、副題をこれまでの「犬は勘定に入れません」から、あえて「もちろん犬も」と変えた事です。
    これって凄いですよね。古典と言われると変えていいのか、躊躇いもしそうですけど、私は小山さんの副題、好きです。物語を読むと、モンモランシーも犬ではなく、擬人化して書いている部分もあるし、物語を盛り上げてくれる、立派な仲間だと思いましたので。

    それから、小山さんの解説で、「メランコリックで物思いに沈みがちな性格」が、ユーモリストに共通しているというのは、何となく分かる気がしました。元々、明るい人がユーモアを書くよりも、ユーモアのような溌剌とした物語で、心からおもいきり笑って楽しみたいという、切実な思いを抱いている人の方が、求める思いが強い分、よりギャップのある面白い作品が書けるような気がする。

  • ヴィクトリア朝後期のユーモア小説。

    「働き過ぎだ! 休むぞ!!」と
    旅支度を始めた三人の男、
    語り手「僕」ことJ、悪友のジョージとハリス。
    彼らは着替えや食糧など、山のような荷物を準備し、
    犬のモンモランシーを加えて
    列車でキングストンに降り立ち、
    ボートに乗ってテムズ河を遡上。
    優雅に様々な追想に耽るものの、
    つい、オールを握っていることを忘れたり、
    操船ミスを起こしたりと、ドタバタの連続。

    第12章(p.227)ベッドからはみ出した悪友の脚を
    タオル掛けに利用する条で
    A.A.ミルン『くまのプーさん』~
    「プーあなにつまる」(1926年)において、
    兎の穴にお腹が閊えたプーの脚(in 穴の中)が
    タオル掛けにされてしまうエピソードを連想したが、
    『ボートの三人男』の方が
    先行する作品(1889年)なので、
    これは英国定番のギャグなのか、と(笑)。

    作者が憧れ、目標ともしたらしい
    「ちょっとイケてるお兄さんたち」の
    大真面目な悪ふざけ、といったところか。
    ただ、せっかく個性的な犬を登場させたのだから、
    もっと暴れさせてもよかったのでは? と思った。

  • 好きな光文社古典新訳文庫のコーナーでふと目に止まり、英国ユーモア小説として有名らしいが、なんの予備知識もなく読んだ。

    中年男子三名と犬一匹がボートでテムズ川をキングストンからオックスフォードまで上って、パングボーンまで下って、最後は汽車で帰ってくるドタバタ劇。

    主人公Jの伯父さんが居間に絵を掛けた時の大騒ぎとか、釣り人の釣果インフレの法則(なかでも、“正直”なひとが25%増しに止める自分ルールをどんどん修正していく場面)とか、いちいちおもしろい。

    景色、服装、食べ物はだいぶ日本とは違うけど、笑いのツボは結構世界共通のようで、気楽に楽しめる良書だと思う。

  • あっはっは!
    読んでいて何度も吹き出した。
    面白かったー!
    でもずっととぼけた雰囲気なのかと思いきや、時々意地の悪さもあったりして、一筋縄ではいかない。
    書いた時代=舞台となっている時代なのが意外なほど、風俗やその時代の考えを、作者が距離を取って客観的に見ているように感じられた。
    描写も上手く、情景が頭に残る。
    にしても、あなた達もう二度とボート乗るんじゃないわよ!(笑)

  • くだらなくて滑稽で面白い。
    3人の男と犬がテムズ河をボートで上るだけなのに、あっちこっちで何かしらひっくり返して罵り合いばたばたばた。

    説教じみた教訓なんかは全く無いが、どの階級の人もこぞって読んだそう。

    古典って何でもありだな、って思うし、ユーモアは時代を超えるな、とも思う。

  • むうむ。自分が今すさんでいるせいか、漂う陽気さ呑気さがどうにもひっかからなかった。三人の男が犬を連れてロンドンからボートに乗りテムズ川を出発する道中記。現在過去に起きたハプニングをさぞ語るべき重要なことと言った具合に説明されるが、面白いのあんただけやろ?という感想。時々出てくる犬エピソードだけは微笑ましい。正直中途半端だと思う。人情をうたうなら、江戸物で日本人の方がうまいし、旅の情景とかはほとんど皆無だし。イギリスの人が読めば知名だけで土地の想像がつくのかもしれない。時々イギリスの独りよがり小説にあたる。

  • 19世紀イギリスのユーモア小説。とことんおバカな三人組+犬がテムズ川をボートで旅する話。主人公たちのアホな話は楽しいけど、道中の街や村の紹介は素敵で行ってみたくなる。第10章でいきなり文学的に夜の森を語る場面には面食らうが、訳者あとがきを読むと納得できる。

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著者プロフィール

Jerome Klapka Jerome。1859年、スタッフォードシャー生まれ。ユーモア小説『ボートの三人男』で知られるイギリスの作家。ロンドンの貧しい地区イースト・エンドで貧困に苦しむ幼少時代を送った後、13歳から15歳のときに両親を相次いで亡くし、学業を諦めて働き始める。18歳のときに移動劇団に加わるが3年で役者の道を諦め無一文でロンドンに戻り、弁護士事務所の事務員などをしながらエッセイや短篇小説を発表するようになる。新婚旅行のあと発表した『ボートの三人男』(1889年)が評判になったのを機に専業作家となり、小説、エッセイ、戯曲を書き、また雑誌の編集にも携わる。しかし『ボートの三人男』を超える評価を得ないまま、1927年、自動車旅行中に脳出血で逝去。

「2021年 『骸骨』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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