八月の光 (光文社古典新訳文庫 Aフ 14-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (768ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753764

感想・レビュー・書評

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  • 二年ほど間をあけての再読。話の展開が頭に入っているので、今回はじっくり読めた気がする。
    狂信、夢想、因習、抑圧、怒り。故郷とはー、神話の崩壊、恥部の暴露。自分は一体何者なのかという普遍的な問い。

    黒原敏行さんの訳は読みやすく、注釈やあとがきも親切。

    ハイタワーについて、もっと理解を深めたいので、数年後にまた読もうと思う。

  • おもしろい小説や物語なら古典でも世界中のどこでもわりと好き嫌いなく読むたちですが、そんな私にもアメリカ南部の作家にはちょっぴり尻込みしてしまう何かがあります。南北戦争、人種差別や女性差別の軋轢、土地に縛られた古い因習や閉塞感、ユーモアとは縁遠いグロテスクなさま……幾重にも重なっているせいなのか?

    それまで南部作家のストウやオコナーで悄然としていたわけですが、先日学生いらい久しぶりにマーク・トウェインの作品に触れてみると、その可笑しみやひたむきさにむくむく南部気分も高まり、それじゃウィリアム・フォークナー(1897~1962 米国ミシシッピ州 1950ノーベル賞)でも読んでみようかな! だが初読のチョイスを間違えると再起不能になりそうで怖い、ぐだぐだぐだぐだ……していたところに、困ったときの(困ってないときも)ラブリー黒原さん訳を発見! あぁ感激の涙涙なみだ。

    読了してみると、やはり食わずに尻込みしているのはもったいない、美味しいものを食べそこなってしまいます。最後まで一気に読ませる圧巻の作品に感激。

    白人なのか黒人なのかわからないジョー・クリスマスを中心に、その相棒の軽薄男ルーカス・バーチ、そして彼の子を宿したリーナ・グロー。さらに彼女に一目ぼれしたうぶなバイロン・バンチと、彼のメンター役となる元牧師ハイタワーといった、どこか不安定で一筋縄ではいかない人々の群像劇です。

    ヨクナパトーファ郡というアメリカ南部の架空の町からフォークナー作品が次々と生み出されていきます。
    南北戦争の敗残、人種差別と因習という歴史にくわえ、第一次世界大戦がもたらした機械化・科学テクノロジーの飛躍、資本主義の台頭、家族や故郷の崩壊といった時代背景を陰に陽にたっぷり盛り込んでいます。
    リアリズム小説かと思いきや、ときに意識は流れ、呪術的で幻視者のみるような情景や、広く深く読みごたえのある仕上がりに息をのみます。

    とりわけ目が離せなかったのは元牧師のハイタワー。そのモデルは英雄だった曽祖父や祖父に畏敬の念を抱いていた現実逃避気味のフォークナー自身だったのかもしれません。
    ある程度の人生経験を経てみなければわからないであろうハイタワーの形容しがたい悲哀と滑稽さを温かい眼差しでながめました。
    それとともにリーナのようなしなやかな女性の存在には驚嘆します。因習に縛られ、古き良き時代への郷愁に恋々としている男たちをよそに、生まれてくる子どもと未知の時代を進んでいく、傍若無人な若さと野性美にあふれたリーナがひときわまばゆい。

    解説はとてもわかりやすいですし、訳者の視点(解説)も愉しい。ダブル解説は、お得感満載♪
       
    フォークナーはバルガス=リョサや大江健三郎といった世界の作家たちに多大な影響を与えた作家らしい。
    確かに彼の作品をいくつかながめてみると、なるほどなるほどと膝を打ちます。また要所要所に描かれた細かいのに決してくどくない情景描写の美しさ、意識の流れによる剛毅な場面転換……フォークナーの作品は壮大な映画のようです。

    これからもいくつかの作品を追っかけてみたい魅力的な作家です。また以前から気になっていたほかの南部作家に対する勇気や興味もわいてきました。これだから読書はやめられません(^^♪

  • 主要人物のだれもが奇妙にバランスを欠いて危うい様子に引き込まれるようにして読んだ。読み終わっても把握できた気はしないけれど、彼らがそのようにあることが真に迫っていて、わかりたい気持ちが今も残っている。彼ら以外の町の人たちの語りも味わい深い。誰もテンプレートにのせて話さない。いつまでも聞いていたい話し方。

    最も多くページを割かれるジョーには、(もしかしたら自分でかけてしまった)呪いが人を殺すことが本当にあるかもしれないと気づかされた。村上春樹の「鼠」の弱さや、中上健次の秋幸の頑なさが長年理解できなかったのだけれど、なんだか少しわかったような気がする。根拠がどうであっても、それを抱えては生きていけなくても、リセットできない人の在り方があるのかもしれない(それでも、リセットしちゃえよ~って思っているけれど)。

    長年「フォークナーの小説は長大で誰が何を言っているのかわからない」と思い込んでいたのだけれど、黒原さんの新訳は読みやすくほどよく注が入っており、もう全部黒原さんの訳で読みたい!という気持ちになった。フォークナーに手を出しかねている人から次に読む本が特に決まっていない人まで、全方位におすすめしたい。

  • ああ…。
    解説にあるように、クリスマスの血を浴びたことを私も忘れられないだろう。
    外見は白人だが、「黒人の血が流れているらしい」という不確かな話で自分が何なのか定められず、また定めることに抵抗したクリスマス。
    読みながら、「自己」という概念に葛藤する、夏目漱石作品も思い出した。
    また、登場する女性たちは皆ろくな目に合わない。
    キリスト教において、またこれまでの社会において女性が疎外されてきたことも描かれており、「自分とは何だ」という問いと同時に、「女とは何だ」ということも考えさせられた。
    読み終えてからも考え続けている。

  • 錯綜するそれぞれの登場人物の過去と思想。
    それらはまるで繊細な毛糸のような絡み合い、解けてゆく。
    シェイクスピア
    ワインズバーグ、オハイオ

  • 注釈で今後の展開に関する示唆があり実質ネタバレになるので注意が必要。

    荒廃した孤独が、我が物顔でありとあらゆる部分に横たわっているのを感じる。
    孤独はこっちのことを思いやりもしないので、こっちばかりが居心地悪く部屋のすみにうずくまっているような感覚がある。

    英語の一文って、長いんだな……となった。

  • ノーベル文学賞受賞のフォークナーの代表作。アメリカ南部の田舎町ジェファスンを舞台に、外見は白人でありながら黒人の血を引くクリスマスと天真爛漫な生粋の南部娘であるリーナの物語を主軸に(しかし交わらずに)アメリカが抱える澱みを描く。

    本作品を理解するにはそもそもの時代背景を知る必要がある。北東部では新たな跳躍の希望を抱き、対する南部では依然として閉塞感と黒人差別が残り禁酒法下の鬱憤とした時代、相反する感情を伴いアメリカとして自信が揺らぎいいしれぬ怒りが漂う時代。それらを端的なメタファーを用いるでもなくカタルシスを生み出すでもなく、直接的描写をしつつも明確にはせず重奏的に物語を紡ぎ出す。

    正直一度読んだだけでは理解できたとは言い難いが本作が持つ迫力と凄みが伝わってくる。少し時間をおいて再読したいと思う。

  • 街の中に暮らす様々な人たち。彼らはみんなどこか愚かで、どうしようもない。そのどうしようもなさが、リアルで、自分の中にもあるものとして感じられる。
    閉塞感や孤独、回復できないほどの精神的傷なんて、現代社会に限るものではないんだと思った。どうやって、より良い社会を築けばいいのか、途方にくれる。
    ワインズバーグ、オハイオの後に読んだのは、正解だった。

  • 戦間期のアメリカ南部。黒人や女性を抑圧する社会の空気に縛られつつ抗う。そのあり様は登場人物によって様々で、彼らが織りなす物語に福音書のイメージが重ねられもする。訳者は後書きで読者に再読を勧めているが、確かにそうすることによって汲み出すことができるものは多いように思う。ただ結構長い作品なので、実際再読するかと言われると考えてしまう。

  • 「普通」の人生などないと改めて感じさせる。なかでもクリスマスのアイデンティティの拠ってたつもののなさに一滴混じった悪意の果たすものの大きさ、それがもたらした複雑な生き様、そして悲劇には深く考えさせられるものがあった。人生において繰り返し読むに値する一冊。それにしても米国南部の歴史が抱える深い深い業よ。

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著者プロフィール

一八九七年アメリカ合衆国ミシシッピー州生まれ。第一次大戦で英国空軍に参加し、除隊後ミシシッピー大学に入学するが退学。職業を転々とする。地方紙への寄稿から小説を書きはじめ、『響きと怒り』(一九二九年)以降、『サンクチュアリ』『八月の光』などの問題作を発表。米国を代表する作家の一人となる。五〇年にノーベル文学賞を受賞。一九六二年死去。

「2022年 『エミリーに薔薇を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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