大尉の娘 (光文社古典新訳文庫 Aフ 11-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753986

感想・レビュー・書評

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  • ロシア近代文学の祖ともされるプーシキンによる娯楽小説です。

    貴族の生まれであるピョートル・アンドレーイチが、ロシア周辺地区の辺鄙な要塞に配属されたことで、物語の背景となる1773~1775年に現実に発生した大規模な農民の反乱であるプガチョフの乱によって運命を翻弄される過程がドラマチックに描かれます。

    貴族である厳格な父の手はずによって17歳のピョートルが軍人として赴くこととなったのは、ステップ地域の辺鄙なベロゴールスク要塞でした。希望していた華やかな首都とはほど遠い任務地に落胆するピョートルでしたが、要塞の司令官である大尉の娘との恋愛やライバルとの決闘などを経て次第に活力を取り戻します。そんなおり、のどかなはず辺境の要塞は、プガチョフ率いる反徒襲来の報を受けます。

    物語は数多いエピソードに彩られながらも、あくまでスピーディーに展開し、司令官の娘との恋愛やライバルとの対決、残酷なシーンも含む反徒との闘いにある活劇など、娯楽作品として愛好される要素をふんだんに散りばめながら、主人公ピョートルの激動の日々を劇的に描いています。

    ジャンルだけでなく時代も国も相違するにも関わらず、本作との類似性を感じさせられたのはアメリカの西部劇映画です。辺境の要塞を主な舞台として、決闘や襲来する反徒との抗争や恋愛をテンポよく描く本作を読むうちに、その舞台背景もあいまって、西部劇を観ているような感覚がありました。

    もう一点を申し添えると、反徒を率いる敵軍の将として登場する実在の人物であるプガチョフについては、単なる悪役としてではなく特別な存在として奥行のある描かれ方をしており、最終盤に彼が見せた振る舞いが非常に印象に残りました。『プガチョーフ叛乱史』も著したプーシキンにとって思い入れのある、特別な存在だったのかもしれません。

  • ロシアの大家、プーシキンの戦争、そして恋愛を描く作品。序盤は平和な雰囲気だが、恋人マリアどの出会いの後、ならず者のプガチョーフが攻め入って来るところからいきなりシリアスな展開に。主人公、グリニョーフの勇気と信念、可憐なマリア、主人公との複雑な関係を形成するプガチョーフ、恥知らずで悪役のシヴァーブリン、そして主人公に忠実な召使いで大活躍するキーマンのサヴェーリイチ。皆キャラがたっている。展開も単純明快、ダイナミックかつとてもスピーディだし、風景描写もよい。
    注釈がふんだんに記され、小説の背景となった史実である「プガチョーフによる農民戦争」に興味が高まり、解説を読むととこれがまた深い考察と取材によるもので、興味深い。
    本小説で主人公とシヴァープリンとの決闘シーンがあるが、残念なことにプーシキンその人も決闘により若い命を散らしているのに驚く。

  • 必要に迫られて読んだが、とっつきやすくてホッとした。
    (岩波の同書も入手したのでいずれ読み比べます)
    プーシキンはおそらく初めて読んだ。
    ロシア文学自体、あまり熱心に読んでこなかったジャンル。
    今後も長編には手を出せないと思うが、米原万里のおかげでロシア文学のイメージはかなり向上した。

    ロシア文学といえば、雪と血と酒とカネのイメージで、本作もだいたいそんな感じだ。
    粗筋のわりには、読後にはなぜか悲壮さが薄まっているのがプーシキンの手腕かもしれない。歌や恋や友情、忠義がうまく入り込むからだろうか。

    前半は危なっかしいおぼっちゃまの任地への旅で、大丈夫かこれ、の連続。
    話そのものはスルスル進む。章のはじめの歌の引用が効果的。
    マリヤの登場でいきなりロマンスに舵を切ったと思ったら、プガチョフの乱で物語は急転する。
    容赦なく激しいバイオレンスと、主人公サイドの綱渡りが続く。

    全編を通して、じいや役がいいキャラクターで気に入った。
    お金にうるさく、主人公のことを何より気にかけている。
    隻眼の老軍人もいい。実質、要塞のボスだった老女もいい。(だからこそ、淡々と処理されるあのシーンは辛かった。)
    プガチョフも非常に筋が通っていて、清々しいほど。最終章での彼もヒーロー役の最期のよう。
    この性格は、昨年よく読んだ海賊ものでみかけるアウトローたちに通じるものがあった。(雪のせいで外界と閉ざされやすい状況になるのか、力関係が一瞬でひっくり返る怖さがある。)
    アウトローたちは、力に恃むところがある一方で、義理堅く、信心深く、純粋な子供のようでもある。
    簡単に裏切るものも多い一方で、内通者が二重スパイのようになり、マリヤの手紙を届けてくれるなど、意外といいやつだったする。

    それにしても、主人公の流れを見て、行きずりの人にも親切にしておいたほうがいい、とよく分かった笑。

    光文社では新訳で噛み砕かれていて読みやすい上に、注釈が親切でありがたかった。
    ロシアものといえば、名前がわかりにくい、名前と愛称の離れっぷりも読みづらいという印象があったが、この本ではそのあたりを丁寧に説明してくれた。

    プガチョフの乱は、この作品が書かれた時期より50年ほど前の史実で、プーシキンはこまかく取材をして書いてきたらしい。30代で決闘で死んだプーシキンにはもちろん生まれる前の世界だ。プガチョフの乱をメインにしたプーシキンの史記もあるとはじめて知った。
    今で言えば50年前は、キューバ危機とか万博、オイルショックくらいか。十分昔だと思える。

    本書はこまかい注釈のほか、巻末の解説も楽しい。
    解説にあるように、中国作品ぽさが三割、ヨーロッパ作品の味が七割、と大昔の翻訳者が言うように、ところどころ、三国志でも読んでいる気がした。そこを生かした大昔の翻訳ネームが苦心の跡が見えて興味深い。

  • 劇的。よかった。映画で観たい。

  • プガチョフは悪役として出てくると思っていたが主人公と大尉の娘の結婚を認めてくれるなどいい人だった。またエカチェリーナ2世が最後主人公を許すシーンが素晴らしかった。あらすじは貴族の子供の主人公が反乱を起こしているプガチョフと戦う間大尉の娘に恋をする。

  • プガチョフの乱を軸に展開する、主人公と「大尉の娘」の間の恋愛譚。
    当時のロシアにおける民衆の実情がありありと描写されていて、ロシア史好きにはたまらない。この小説の為に3年もの年月をかけて史料考証や農民への聞き取りなどを行い、歴史書まで書いているというから驚きだ。
    こうした作者の歴史に対する情熱に裏打ちされているからこそ、濃密で印象深い作品となっているのだろう。。。

    と、勿体ぶって書いては見たもののぶっちゃけよくわかんかった。ロシア語人名ややこしすぎて無理

  • 健全な話すぎてつまらない。

  • 宝塚の『黒い瞳』が好きで原作も読んでみた。
    大きな流れは同じだけど、結構印象的な場面が原作にはなくて驚いた。

  • プーシキン初読み。この薄さで中身の濃い一冊。
    ロシアの歴史的背景に疎いため、テンポ良く読めたもののおさらいが必要だった。
    新訳は読みやすいけれど軽薄な印象を受けるので、他の訳も読んでみたい。

  •  世間知らずの貴族が田舎に飛ばされて、何故か剣が強くて嫌味なライバルに勝ったり、何故か女の子にモテたり、何故かみんなの人気者になって、突然起きた動乱に立ち向かってゆく。ように見える。どんなに稚拙な小説でも、もうちょっとストーリーに必然性を持たせてくれるのではないだろうか。
     もちろん、これはストーリー展開に対する批判(非難?)に過ぎない。プガチョフの乱というロシア史上の大事件を取り扱ったことと、それを歴史小説として再構成したことで、当時のロシア人が当時のロシアを背景に受け取った何かがあったのだろう。この小説の何かを掬いとる何かが、私に欠けているのかもしれない。俺TUEEEE的な展開も、当時は今のように手垢塗れにはなっていなかったのかもしれない。

     でもつまらなかった。

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