シークレット・エージェント (光文社古典新訳文庫 Aコ 3-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334754037

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  • ロンドンのブレット・ストリートで雑貨商を営み、
    若い妻ウィニーを娶り、彼女の母と弟を同居させ、
    穏やかに暮らすアドルフ・ヴァーロックの正体は
    某国のスパイ、コードネームΔ(デルタ)だった。
    雇用主から
    長い間まともに本来の仕事に精を出していないと
    叱責された彼は、新たな任務を負ったが……。

    19世紀のアナーキー・イン・ザ・UK
    ……と言いたいところだったけれども(苦笑)。
    序盤はヴァーロックの日常と、
    そこから著しくかけ離れて見える本業との対比や、
    上司との皮肉の応酬が黒い笑いを誘い、
    アイロニーとブラックユーモアで
    ストーリーを引っ張っていくのかと思ったが――
    実は、背景となる当時の
    霧と煙に覆われたロンドンの雰囲気そのままに
    重苦しい物語だった。

    タイトルのagentは通常「代理人」「仲介者」「スパイ」
    などを表す語なので、
    そのままヴァーロックの活動を指していると思って
    読み進めたのだが、
    後半でギョッとする展開に(ネタバレ厳禁!!)。
    そこで少し検索したところ、
    他にも「行為者」「反応などを起こす力」
    といった意味があるとわかって、なるほどと頷いた。

    これは、人間は表に出す面と
    他者の目に触れさせない部分の両方を持っているという話。
    表面の利害によって寄り添ったり離れたりするが、
    内心がその動きに合致しているとは限らない、と。
    例えば、軽度の知的障碍があると思われる
    スティーヴィー(ヴァーロックの妻の弟)も、
    素直でおとなしく、一見、周囲の目に無垢な少年と映るが、
    暇なときは紙片に謎の図形を執拗に描き続けるなど、
    余人に計り知れない熱情を持て余しているかのようでもある
    ……といった具合に。

    おしどり夫婦と思われたヴァーロックと妻ウィニーが
    共に仮面をかなぐり捨て、
    本当は世間に対する体裁のため、
    あるいは安定した生活を手に入れて肉親を安心させるために
    結びついただけだったことが露呈するシーンは圧巻。
    惜しむらくは、その後、
    ウィニーが試行錯誤を経て幸福を掴む展開にならなかったこと。
    そうなっていれば、一種のフェミニズム小説と
    受け取るのも可能だったかもしれない……。

    しかし、人は対峙する相手によって表情を変化させる
    ――つまり、上述した人物たちのあり様の方が普通で、
    一貫して何ものをも恐れず、金品に執着せず、
    媚を売らず、
    ただただ素晴らしい爆弾を作るスペシャリストとして
    生きていくだけという職人、
    通称《プロフェッサー》の揺らぎのなさこそが
    異様であり、ブレない狂気を感じさせるなぁ……
    という読後感と共に本を閉じた。

    ところで、『オルメイヤーの阿房宮』も、
    この光文社古典新訳文庫から出ませんかねぇ
    (と、言うだけ言ってみる)。

  • コンラッドは「闇の奥」に続いて2冊目。
    登場人物の内面描写の精密さに唸らされる。とくに主人公夫婦のやりとりは夏目漱石ばりにリアル。
    翻訳のある作品は全て読みたいと思った。

  • どうも「蝿の王」と「闇の奥」と勘違いしていて、その程度の認識しか持ち合わせない私の知識。タイトルイメージ「なんか格好いい。トムクルーズもしくはウィルスミス出てきそう」
    しょうーじき、光文社のこのシリーズ、面白いとも読みやすいとも思ったことが多分なく、岩波は時々難しい表現が所々ある時もあるが、こちらのずーっとなんかNHKでやってるオペラみたいな雰囲気が濃すぎて、なーんか読んだ気がしない。無理にメロドラマっぽくしなくともー。

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