シャーロック・ホームズの冒険―新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

制作 : 日暮 雅通 
  • 光文社
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レビュー : 79
  • Amazon.co.jp ・本 (555ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334761639

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  • 19世紀末から20世紀初頭の英国作家アーサー・コナン・ドイル(1859-1930)によるシャーロック・ホームズ・シリーズの最初の短篇集。19世紀ヴィクトリア朝末期――それはちょうどシャーロック・ホームズの世界観に対する一般的なイメージと合致している時期であるが――の1891-1892年に大衆雑誌「ストランド」に発表されたもの。

    ホームズ物と云えば、小学生の頃に読んだ児童向けの翻訳以外にはアニメ「名探偵ホームズ」やジェレミー・ブレットのドラマをテレビで観てきたくらいで、原作を読んだのは今回が初めて。古典的な作品ということもあり、トリックもどこかで聞いたことのあるようなものが殆どだが、あまりに有名なシャーロック・ホームズの世界を手軽に楽しむことができてよかった。最も印象に残ったのは「赤毛組合」で、一般の推理物とはどこか趣の異なる不気味さというか奇妙なおかしみがあるように思う。「オレンジの種五つ」「青いガーネット」も面白かった。

    "名探偵"としてのシャーロック・ホームズの性格造形は、ポーが半世紀前の1841年に「モルグ街の殺人」の冒頭で描出したデュパンのそれと概ね一致している。「・・・、分析的知性はその持ち主にとって、つねに、このうえなく溌剌とした楽しみの源泉である・・・。・・・、分析家は錯綜した物事を解明する知的活動を喜ぶのである。彼は、自分の才能を発揮することができるものなら、どんなつまらないことにでも快楽を見出す。彼は謎を好み、判じ物を好み、秘密文字を好む。そしてそれらの解明において、凡庸な人間の眼には超自然的とさえ映ずるような鋭利さを示す。実際、彼の結論は、方法それ自体によってもたらされるのだけれども、直観としか思えないような雰囲気を漂わせているのだ」。"名探偵"を推理に駆り立てる動機は、純粋に知的遊戯に付随する快楽それ自体のためであり、正義のためだとか名誉のためだとか経済的利益のためだとか恋愛の成就のためだとかまして信仰のためだとか、そうした"外部"に根拠を求められるものではない。これはとても近代的な人間像であると云えないか。大衆向けの物語としてこうした知的遊戯に興じる人物が登場するということは、それだけ教育やメディアの普及・発達により社会全体の知的水準が向上したということの徴だろうか。自己の知的快楽に没入する志向は現代的な「おたく」にも通じるように思う。

    「・・・、人間は頭脳という屋根裏部屋に使いそうな道具だけをそろえていき、あとは書斎の物置にでも放り込んでおけばいいのさ。必要になったら、物置に取りにいけばいいんだから」(「オレンジの種五つ」)

    「ぼくの人生というのは、平凡な生活から逃れようとする果てしない努力の連続だ。こうしたささやかな事件があるので、いくらか助かるがね」(「赤毛組合」)

    更に興味深いのは、シャーロック・ホームズ作品が随伴的に生み出したシャーロキアンと呼ばれる愛好家集団の感性である。コナン・ドイルの原作を"聖典"として、外部世界から独立した自律的な虚構世界についての果てしない"お喋り"に興ずることに知的快楽を覚える彼らの美的感性もまた、現代的な「おたく」の先駆であると云える。シャーロキアンと20世紀末以降のアニメやゲームその他の「おたく」との間の、感性や行動様式に於ける共通点/相違点を調べてみるのも、こうした現代的な感性の系譜を考えるうえで面白いのではないだろうか。シャーロック・ホームズ以上に、シャーロキアンという存在に興味が湧くことになってしまった。なお、最初のシャーロキアン団体は1934年にニューヨークで誕生しているという。

  • 小学校の図書館で読み漁ったシャーロック・ホームズ。子ども版だったからかとても面白く一気に読んだものだ。今回表紙のホームズが可愛らしくて手に取ってみた。(本文中の挿し絵は落ち着いたホームズですよ♡)有名な短編もバッチリ入っていて読み終えたときには大満足。けっこう財産目当てで事件がおきたんだなぁ……

  •  12篇の短編集です。
     ホームズ第1作「緋色の研究」(1887)、「四つの署名」(1890)、に続いて、1891~1892の時期に雑誌に掲載されたもの。

     ミステリーの原点、とかって言われる訳ですね。
     確かに、「緋色」「署名」よりも、一冊の本として面白かったです。後半、夜なべでイッキ読みでした。
     昔々に、子供向け翻訳で読んだかも知れないんですが、やっぱり光文社新訳はいいですね。
     ミステリーの原点らしく、結局全ては資本主義的な都市部の、あるいは都市部の反対の位置として、地方での、欲・財産にまみれた犯罪譚であるのが特色ですね。「緋色」「署名」は、ロンドンの雰囲気と、あとは旧植民地の恨み&復讐譚でしたからね。

     更に、下記するように、どれも割りと、ドロドロしてるんですよね。スキャンダラス、家族間の殺意、遺産、KKK・・・。
     とにかく、先進的都会、資本主義の中でのモラルの歪み、欲望、金銭、遺産・・・。うーん、19世紀的。そこに英国ならでは、「貴族」なーんていう旧時代のスタイルが併存するから、ムード満点。
     それがどれだけドロドロしても、ホームズとワトソンだから、痛快なんですよね。そのホームズも、月光仮面じゃなくて、麻薬中毒の変態退屈知的快楽野郎ですからねえ。
     こりゃ、ほんとに良く出来たヒーローものだし、風俗モノですね。そして、資本主義、世間体、マスコミ、世論、都市、というものがないと始まらない。そう言う意味では、19世紀末でも、21世紀でも楽しめますねえ。

     ホームズをイケメン、ワトソンとの関係を擬似ボーイズラブ?と考えれば、女子ウケも有り得る世界ですね。
     (まあでも、基本には男子的な「冒険したい欲求」みたいなものがあるんですけどね。そこらあたり、主役のホームズが、トコトン変態に描かれてるから、意外と気にならないかも。変態っていうと雑だけど。変人。その上、日本人からすると全般的に、英国趣味なスタイルで、其の辺のクササはまぎれるのかもですね。それは、米国でも。)

     個人的にすごいなあ、と思ったのは。
     「ぶな屋敷」の章で、ホームズがワトソンに、「田舎の風景を見ると、どういう犯罪が行われているのか、想像すると怖い。都会より、よっぽど陰湿に隠れて、犯罪が行われ得るのが、田舎だ」
     と語る場面があります。
     ものすごい卓見だと思います。完全に同感です。

     19世紀のイギリス人が書いたものを、21世紀に日本人が読んで娯楽になるって、凄いですね。って・・・考えると、漱石・鴎外・子規とかと、同時代人なんですよね。そう思えば、そうでもないのかな。

     資本主義、っていう下に、合理主義が根付いて。教会とか儒教とか宗教的道徳に縛られない個人の欲望が勃興して。伴って社会が変わって。帝国主義が相対的に見られ始めたり。マルクス主義だったりがぼちぼちあって。その先端である大都会では、華やかな風俗とともに貧困があって。神なき欲望の大競争があるから、商品文化が花開いて。その一方で欲のための犯罪がある・・・。
     まあ、その下敷きが同じだから、まだまだこの先も読み継がれるでしょう。





    以下、備忘録。ネタバレなので、読みたくない人は読まないでくださいね。



    ①ボヘミアの醜聞
     ボヘミアの王族が、結婚することになる。相手はどこかの王族。ところが、以前に付き合った庶民の女性から脅迫が。ネタは、ふたりで撮ったラブラブ写真。脅迫といっても、「愛しているからあたしを捨てるな」というタイプのもの。
     困った王族はホームズに相談。ホームズはあと一歩のところで、女性に逃げられる。

    ②赤毛組合
     ある店主が「赤毛なら、百科事典を写すだけで高給」という美味しい仕事をしていた。ところがある日、その勤務先が雲のように消えた。ホームズに相談。実はその店主の店の地下から坑道を掘って近所の銀行を狙う、という犯罪が裏にあった。

    ③花婿の正体
     若い女性が、「愛を誓った彼が消えた」と。ところが真実は、娘がいなくなると財産が減る義父が、変装した彼氏だった。

    ④ボスコム谷の謎
     地方で、殺人事件。背景には、オーストラリアで過去に悪党だった男が、イギリスに戻ってカタギになろうと。ところが過去を知る者に脅されて、金を与えて生きてきた。その悪党だった男が、とうとう相手を殺した。その二人の男の、息子と娘が恋仲なので、息子の方に濡れ衣が。

    ⑤オレンジの種五つ
     どうやら、アメリカでKKKの一味だった?男がイギリスの地方に隠棲。だが仲間に殺される。何やら大事な書類のせいで。その相談に来た息子も、殺される。果実の種は、KKKの殺しの印。ホームズは捕らえようとするが、どうやら一味は海難事故で死んでしまった。

    ⑥唇のねじれた男
     妻も子もある勤め人。ところが実は、本業はプロの乞食。変装が上手く、稼ぎが良いのだ。だがそれを妻に見られてしまったことから、ばたばた。自分殺しの容疑者として逮捕されてしまった。

    ⑦青いガーネット
     臆病で金に困った男が金持ちから凄いダイヤを盗むが、処置に困ってダチョウに飲ませる。その上ダチョウを間違えて、売られてしまった。無実の、前科者の配管工が濡れ衣・・・。

    ⑧まだらの紐
     財産のために、義娘を殺害する義父。手口はインド仕込みの毒蛇。となりの部屋に寝る娘に通風孔と呼び鈴の紐を伝って・・・。

    ⑨技師の親指
     贋金作りの組織犯罪者たちが、機械の故障に困って技師を呼ぶ。知られてしまったから、殺そうと。九死に一生、親指は失うが、逃げた技師。ホームズが追い詰めたが、本拠地は火事で消失。

    ⑩独身の貴族
     独身の貴族のアメリカから来た花嫁が、披露宴で失踪。
     真相は、その娘はかつて愛し合った夫がいて、その夫とその日再会、逃げたのだった。

    ⑪緑柱石の宝冠
     銀行家が管理する大事な宝冠が一部盗まれる。容疑者は不詳の息子。だが本当は、そこの姪&職業悪党の仕業。息子はそれを見て知っていたが、姪を愛していたから黙っていた。

    ⑫ぶな屋敷
     あるそこそこのお金持ち男。娘がいて、妻が死に、後妻と結婚。娘に財産がついているので、結婚に反対。監禁。
     だがウロウロ寄ってくる娘の恋人を騙すために容貌似た女性を雇って窓辺に座らせたり。最終的に彼氏が恋人を奪取。

  • 小・中学生だった頃にちょっと読んだぐらいだったホームズを久しぶりに!と思って読んでみた!
    普段は推理小説とか読まないので、推理小説ってこんなものなのか~と思ったのと同時にホームズとワトスンの不思議で面白い関係を楽しみました。
    ホームズのように細部にまで観察や想像を広げられたら世の中違って見えるんだろうな~なんて思ったり。
    当時のロンドンの生活の様子が分かったりしてなるほどと思ったり。
    例えば馬車一つとってもいろんな種類があったんだなーとか。

    ちなみに私の好きな話は「ボヘミアの醜聞」。
    ボヘミア国王とホームズを翻弄する女性、アイリーン・アドラーはなんとも魅力的。なんかこの話を読んで思ったのは、どうやら男にとって全ての女性はアイリーン・アドラーになりえそうだということかな(笑)

  • 当時、シャーロック・ホームズが爆発的な人気を得ていったのは、
    この短編が掲載されていた頃のようで、いわゆる火付け役となった作品。
    ホームズのトレードマークとなっている鹿撃ち帽とコートが出てくるのも、この巻より。

    いきなり、ホームズが負けを認めることとなった物語から始まり、
    強盗、殺人、KKK団、宝石探し、…
    中には事件とは呼べないようなものまであり、様々。
    まさに、ホームズのアドベンチャーですね。

    こんなのも書くんだ、と驚かされます。

    世紀末ロンドンの、雰囲気たっぷりの背景も味わい深く、
    知的好奇心を刺激する不可解な事件、
    そして解決に至るまでの道筋を辿ってるゆく面白さ。

    逆に、あえて解決しない余韻たっぷりの作品もあったり、
    じっくりと浸れる555ページに亘る12作もの物語は、とってもボリューミー。

    また、訳者の日暮雅通さんのこだわりとセンスが素晴らしい。

    これはハマるねーw

  • そういえば、シャーロック・ホームズのシリーズは子供向けしか読んだことなかったなと思ったので読みました。

    あー、これはファンが付くわー、と改めて思いました。
    本当に魅力的な人ですね。
    短編だからかもしれませんが、思わせぶりに口を閉ざしても、結構あっさり種明かししてもらえるのでストレスもなく。

    しかし、遺産問題の多いこと。
    身の丈に合わないお金は問題を産むわけですね。
    そして、いくつかの話では愛とは何かと思うわけです。

  • 不朽の作品。変装が得意でヤク中で正義感のある奇人にして不世出な探偵の事件簿。
    犯罪にユーモアが入ってるのはこれが初と思われる赤毛連盟が名作。

  • 初短編集です。
    おもしろいわ、コレ。

    以前(30年ぐらい前か……)よりも、おもしろく感じます。これは、子どもの読み物ではないな(笑)

    解説には、ホームズとワトソンの怪しい関係について書かれているのだけれど、わたしは、なによりもこの2人の健全さに感動してしまいます。

  • 何年もミステリファンを公言していながら、実はほぼ読んでいなかったホームズ。正しくは子供向けで「まだらの紐」だけ読んだことがあったのですが。その他一切未読状態で読みました。
    お気に入りは「オレンジの種五つ」。ミステリとしてはどうなんでしょ。ちょっと微妙なのかもしれませんが。謎めいたオレンジの種と迫りくる死の不気味さが、雰囲気としてとても好きです。謎の残るラストも好き。
    そして唯一読んでいた「まだらの紐」も改めて読んでみると、不気味な雰囲気がたまりません。こういうじわじわ感のある物語だったんだなあ、と再認識。

  • 今年はシャーロック・ホームズ130周年ということで

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著者プロフィール

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle)
1859年5月22日 – 1930年7月7日
医師・作家・心霊主義者。スコットランド生まれ。名探偵シャーロック・ホームズの生みの親。1877年に『緋色の習作』を発表して以来、約40年間にわたり60編の「ホームズ」シリーズを書く。ミステリーの基礎を形作った一人。

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