痺れる (光文社文庫)

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レビュー : 145
  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334764456

作品紹介・あらすじ

十二年前、敬愛していた姑が失踪した。その日、何があったのか。老年を迎えつつある女性が、心の奥底にしまい続けてきた瞑い秘密を独白する「林檎曼陀羅」。別荘地で一人暮らす中年女性の家に、ある日迷い込んできた、息子のような歳の青年。彼女の心の中で次第に育ってゆく不穏な衝動を描く「ヤモリ」。いつまでも心に取り憑いて離れない、悪夢のような九編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 沼田まほかるさんは三作目。傑作「ユリゴコロ」の作風がぴったり来ていた。

    次に勢い込んで読んだ「9月が永遠に続けば」はその暗さに圧倒された、楽には生きられないにしても、自分で招いた不幸までも何か運命のように襲ってきて、その上不意の事故、おぞましい性癖、忌みごと、怖くやり切れなない思いでもう読むのは止めようかと思った。

    ところがそんな毒に染まったのか、この本をふと手に取り、チラッと読んで、また取り込まれた。「悪は伝染する」とか「毒はじわじわ伝わる」とかあり来たりの言葉を、言い訳めいて思い出だしながら読んだのだが、面白いシーンは短く終わってしまった。私は迂闊にも短編集だと気がつかなかった。

    これならいけると思った。そして読み進んで驚き、心から詫びた。沼田さんの作品は奇をてらうのではなく、ことさら暗さを呼び寄せるのではなく、常ならざる影がある。それが人生の底辺を流れている、それが生きること、そういう意志がみえてきた。それを作品にする力を持つ人なのだ。

    三作目にして少し解った、と、このくらい書きたくなるほど、良く出来た短編集だった。ホラー、ミステリ、サスペンス、形は違ってもこれから読む沼田本はどんな毒でも素直に染まってみよう、それほどインパクトのある、様々なスタイルを持つ作品集だった。

    こういう特異な作家は読者を選ぶかもしれない。でもそれぞれの短い話は絶品で、多少猟奇的でハードさが、いつか気持ちよくなる、そんな気持ちを共有してみたいと思うことでもあれば、強くお勧めする。

    《林檎曼荼羅》
    これがいい。認知症で独り暮らしの老女が、探し物をするので棚のものを出していく。それにつれて様々な思いが去来する。ユリゴコロに通じるような日常にある違和感、それが認知症の頭で歪んで見える、過去と現実がだぶる、探し物に紛れて秘めた過去が出てくる、じわっと恐ろしい。

    《レイピスト》
    不倫女性がレイプに会う、その結果は、という並でない話。

    《ヤモリ》
    これも面白い、最後であっという、もしかしてと言う感じがじわじわと。

    《沼毛虫》
    これも日常が普通に進んでいく家庭なのだが。曽祖母の話を聞く曾孫刃考える。あらわになる出来事が、それまで日常に生まれて過ぎてきた、不思議さが巧い。これが沼田さんの持ち味かな。

    《テンガロンハット》
    女の独り暮らしの話。古い家を修理してくれる庭師が器用で、おそろしい。ちょっと悲しいかも。

    《TAKO》
    いやぁ、参った。映画館の暗い観客席に少し秘密がある。最後の一行で名作になる。

    《普通じゃない》
    そう、コロンボって変なおじさんで、”どう見ても性格異常者だ”と思い私なら、彼の上を行く完全犯罪が出来る。どじなどしない。そして綿密に計画を練る。じこうしたが、最後のシーンが眩しい(笑)

    《クモキリソウ》
    この目立たない花がマニアックでいいのです。毎年、門の脇においてくれる人がいる、ミステリかな、ちょっと違う、優しい出来事。

    《エトワール》
    吉澤と不倫関係にある、吉澤は年上の妻も愛しているらしい。葛藤と嫉妬がわく。異常な感情に傾いていく。あぁ巧いな、きっとやられます。しまった。



    300ページちょっと、すぐに読める、面白くて読み始めると勢いがついて止まらない、そんな短編集だ。
    池上冬樹さんの解説にまで激しく同意。

  • 沼田まほかるにしか出せない空気感がある。本著は短編集だから、短いストーリーテラーの中での、独特な視点、言葉選び、固有名詞が織り成す世界観が尚更そう感じさせる。その独特な感性の中で、少し奇妙な物語9編。静かな冬の電車に相応しい、ジワリとした読み応え。

  • 「ユリゴコロ」に続き二冊目のまほかる作品。短編集なら気軽に読めるかと思ったら甘かった。「林檎曼荼羅」~「沼毛虫」まではイヤミスな展開が続き、これはしんどいと思っていたら「テンガロンハット」~「普通じゃない」は一転しブラックユーモア調。続く「クモキリソウ」は「ユリゴコロ」にも通ずる愛の物語。ラストの「エトワール」は何とも不気味な読後感を残し終幕する。体温を感じない人物描写に「ユリゴコロ」同様肩透かしな伏線など粗い部分も目立つのに「愛」の一言で妙に納得し、許せてしまうのは毎回不思議でならない。個性とは偉大だ。

  • 心の隙間にスーッと入っていく、イヤな感じ。
    有りそうな、有りそうでない、何とも嫌な後味。
    まさに「まほかるワールド」他にはどんなものを見せてくれるのか、クセになる。

  • 過去と今が記憶の中で錯綜する「林檎曼陀羅」
    レイプされた女の話「レイピスト」
    田舎で一人暮らす女のもとに一人の青年が迷い込んだ「ヤモリ」
    曽祖母の繰り言に耳を澄ませると「沼毛虫」
    など、女の短編9本

    引きずり込まれました。
    女の人のお話ばかりで、スルっと入り込めたせいもありますが
    「あぁ、こんなことしそう、やらないでね、やらないでよ?」と思ったことをやってくれちゃうんですよね。
    で、やってほしくはないんだけど、それは自分がやってしまいそうで封印している行為や感情だったりして、「かわりにやってくれた」という感も否めない。
    そしてその良くない感覚に「あぁ、やっぱりやらなくて正解なんだ」と思えたりして。

    ただひたすら翻弄されました。
    まさに痺れる一冊。

  • 不倫、愛、性犯罪、そんなものを凝縮した短編集。‬

    色んな意味で怖い。
    ‪集中しては結末にハッと肩の力が抜けたり、最後の一行にギュッと心を掴まれたり。‬
    ‪繰り返す悪夢みたいに重い題材が続き苦しい気持ちになる。だがブラックユーモアもあり、これはオチまでの遊びを楽しむ作品だと気付いてからは気楽に読めた。
    「ヤモリ」の文章と雰囲気が好きだった。

  • この短編群を「痺れる」と題した意図は?
    不倫とレイプ と侵入の話が多い。それが植物の美しさや虫の気持ち悪さなどと結び付けられる。
    現代の小説にしては、女が男との関係に執着しすぎるのは何だろう。仕事よりも男か子供って、最近では珍しいタイプの女ばかり。総じて男のキャラが気持ち悪い。

  • この人の本は毎度のことながら、読みながらグッと息がつまり。2、3分たって、はぁーーーー、、、、で、また、グッと息止めて、また数分後、、、だはぁーーの繰り返し。

    読みながら、
    あ、は!、う!、え!?、あぁーぁ。あ、だ!!!、ンンンンどぁ。がぁ、は!ぇ、どぅ、あ!

    っていうね。うん。そうなんだわ。そうなのさ。なんとも言えないのよ。あの感じ。手のひらにドサっと見えない何か乗せられたんだけど、その得体の知れないものがなんか冷たいような?ドロっとしていてそれでいて、ふわぁーと動き始めたような感覚。わかるかなぁ。わかんないだろうなぁ。

    ホント、沼田まほかるの本はどれもそんな感じ。多分触るとそういう感じになると思う。感情の動きがさ。なんとも言えないのょ。わかるけどわかりたくない感情とか、知らないけど知ってるようなとか、見たいけど見たくない!みたいな。あのなんともいえない、全ての人類に備わるあの押しちゃいけないボタンは押したくなる感情を弄ぶのがとにかく上手いのよ!まほかるは!笑笑

    その押したらダメなのに押したくて、でも押せない人の中に押しちゃった人がでてきたりさ。そのね、なんていうかね、あぁーっていうね。その感じ。そう、それそれ。

    短編集なんだけど、どれもそういう感情の動きを見事に弄ぶ本です。いろんな角度から弄ばれるから。ホント、数分以上は絶対に息止めないように。要注意。

  • わたしの中で、怖気の立つ小説を書く作家さんと言えばまほかるさん。
    こわいでも気持ちが悪いでもなく。まさに、怖気の立つって感じ。

    まほかるさん作品はかなーり前に読んだことあったけど、この短編集は初めてでした。

    どの話も濃くて、ずっしり。短編集とは思えない濃厚さでした。

  • なかなかよかったです。
    まほかるさんらしさもあり、奇妙なおかしみと悲哀が同居してて、秀逸。

    狂気と無垢って、紙一重なのよね……。

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著者プロフィール

沼田 まほかる(ぬまた まほかる)
1948年、大阪府生まれの小説家。女性。奈良県在住。読んだあとイヤな後味を残すミステリーの名手として、「イヤミスの女王」という称号で語られることもある。
寺の生まれで、大阪文学学校昼間部に学ぶ。結婚して主婦になり、母方祖父の跡継ぎを頼まれ夫がまず住職となるが、離婚を経て自身が僧侶になる。50代で初めて長編を書き、『九月が永遠に続けば』で第5回ホラーサスペンス大賞を受賞、56歳でデビュー。
2012年『ユリゴコロ』で第14回大藪春彦賞を受賞し、2012年本屋大賞にノミネート(6位)。それを機に書店での仕掛け販売を通じて文庫の既刊が売れ出し知名度を上げた。
代表作『ユリゴコロ』は2017年9月23日に吉高由里子主演で映画化。同年10月、『彼女がその名を知らない鳥たち』も蒼井優・阿部サダヲ主演で映画化された。他の代表作に、『九月が永遠に続けば』、『猫鳴り』、『アミダサマ』。

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