この国。 (光文社文庫 い 35-10)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334765781

感想・レビュー・書評

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  • 小6男子が「女の尻を追いかけ回す愚劣な人間になってしまったんです。」っておもろ過ぎるやろ笑
    松浦視点でも物語を読みたい
    松浦が何故反政府なのかどういう国にしたかったのかめっちゃ気になった
    石持浅海作品2冊目で1番好きな作者に決定した
    冒頭ニ作が特に好き

  • 新しい日本の近未来を独創的な内容での小説かなと思っていましたが、後半などは普通にハードアクション小説。
    新しい死刑制度や進級制度などは面白いからもっと幅を広げてほしかったな。
    読みやすいので星二つ

  • ● 感想
     一党独裁の管理国家である「この国」が舞台の連作短編集。この国は、非戦・平和を掲げることで経済成長を遂げている。
     共通しているのは、全ての作品に「番匠」という人物が登場すること。冒頭では少佐で、公開処刑の場で処刑に失敗し、降格・左遷。各地で活躍し、最後、公開処刑を失敗させった反政府組織の松浦と対決するという構成となっている。
     石持浅海の文章は、無駄な部分があまりなく、文体もすっきりしていて読みやすい。構成もシンプル。予想外の展開ではなく、予定調和で読ませる。無理な意外性やサービス精神を盛り込んで読みにくくすることなく、全体をスッキリした構成で仕上げている。
     個々の短編もすっきりして読みやすく、連作としての構成も鮮やか。短編作成、短編集作成のテキストにしたいほど。この構成を分析すれば、短編、短編集のテンプレートができそうなイメージだ。
     作品全体を包むブラックでビターな雰囲気が石持浅海の味だろう。その味が楽しめれば、全体的に妥当なレベルの作品ぞろいなので楽しめる。個人的には好みの味付けである。
     読みやすく、分かりやすい作品で雰囲気が好きなので全体的に楽しめる。ただし、最後の作品である「エクスプレッシング・ゲーム」だけはイマイチ。これだけミステリ的要素がほとんどなく、アクションとなっている。番匠対松浦の対決は、もう少し知的ゲーム風でもよかったように思う。トータルでは★3で。★3の上の方というイメージ

    ● メモ
    ● 設定
     一党独裁の管理国家である「この国」が舞台。非戦平和を掲げることで経済成長を遂げている。
     死刑は公開処刑。ただし、首を吊ったのに死ななければ法的には死刑執行済み。戸籍抹消の上、新しい戸籍によって違う人間として生きることになる。
    ● 公開処刑 ハンギング・ゲーム
     別名、ケルベロスとの呼ばれる番匠少佐が、菱田一敏の公開処刑を指揮する。松浦と菊池という反政府組織のメンバーが菱田を救出に来るという。
     番匠は、反政府組織が観衆を人質にとって菱田の解放を要求することを防ぐため、菱田に銃を突きつけた状態で死刑会場に入った。これが一次攻撃隊の作戦だった。
     反政府組織の第二次攻撃隊はミツバチ。慌てたところを、出入口扉上の反政府組織員が菱田を奪還するという計画。番匠はこれを見抜く。第二次攻撃隊は確保。
     第三次攻撃隊。死刑制度反対のデモ。これが反政府組織か単なる市民団体かが分からない。番匠が迷っている間に、死刑囚の死亡確認のためにいる医師を人質にする。これもすんでのところで、番匠が見抜く。
     次はロープの狙撃。死刑執行後、死亡しなければ菱田は助かる。それを狙い、菊池という鍛え上げた男が、ライフルでロープを撃つのでは。番匠はそう考える。実際にライフルは発射されるがロープは切れなかった。
     死刑執行。しかし、菱田は死なない。屈強な男が死刑台の中で菱田の足を支えていた。ライフルでの銃撃が菊池だと思わせるミスディレクション。死刑台の中にいたのは菊池だった。
     菱田は助かり、番匠は処分を受ける。番匠は、この計画を立てた松浦を捕まえる、あるいは殺害することを心に誓う。
     松浦は、菊池の仇として番匠を殺害することを心に誓う。
     菱田という人物を公開処刑会場から救い出すための、ケルベロス=番匠と、反政府組織の策士、松浦との知恵比べ。この「設定」が面白い。これから処刑する菱田に銃を突き付けて入場し、先に人質とすることで、観客を人質に取られることを防ぐというアイデアは面白い。ミツバチ作戦と、市民団体作戦はそこそこ。最後のオチはもうひとひねりあってほしかったが、全体の完成度は高いと思う。
    ● ドロッピング・ゲーム 教育
     「この国」のアメリカから来ている英語教師、スコット・ヒルの目線で描かれる。小学校卒業後の進学先で、その子どもの将来がある程度決まる。最も優秀な子が行く「海洋学校」、それほど優秀でない子は普通科に。中間層にも入れない学力の子は職業訓練中学校に行く。このヒエラルキーからはずれるのは「体育選抜」と「芸術選抜」。
     仲がよい4人組の旭奈津美は普通科に、石田桃子は体育選抜に、金崎啓介は海洋に、そして宮村翔一は普通科に進学した。宮村だけが、希望の進学先である海洋への進学ができなかった。
     努力家であるがトップにはなれなかった宮村。海洋への進学の道が絶たれ、一時は落ち込んでいたが、周囲の友人の励まし、特に思いを寄せる旭奈津美からの声掛けにより立ち直っていた。その矢先、宮村が飛び降り自殺をする。
     その捜査を、番匠が行う。宮村は自ら飛び降りた。しかし、ヒルには疑問があった。立ち直っていた宮村が、なぜ、自殺をしたのか。
     ヒルは、卒業式での金崎のセリフから真相に気付く。それぞれ努力をしていることで結び付いていた4人。海洋への進学の道が絶たれ「普通」になった宮村が許せなかった金埼は、宮村に、宮村が海洋に進学できなかった原因は、奈津美が宮村を海洋に進学させないようにするために、悪くいったからだという嘘を吹き込んだ。
     数年後、ヒルは帰国。金埼は、外務大臣となっていた。
     人間の残酷な一面を書いている作品。ミステリというより、オチのある短編という感じ。北山猛邦の「私たちが星座を盗んだ理由」に収録されている短編に近い。オチは予想できるので、衝撃は少ないが、短編全体を支配するダークな雰囲気が魅力。計算された構成というか、ありがちな話ではあるが、悪くない。このような計算された構成の作品を書ける石持浅海という作家は、安定した質の作品を掛けそうなイメージである。それだけに、突き抜けた傑作がないのかもしれないが。
    ● ディフェンディング・ゲーム 軍隊
     士官学校の学生に任務の依頼がある。番匠から強盗未遂事件の捜査の依頼を受ける。同様の事件が3件起き、いずれも外国人が犯人。捕まっていない。軍拡を目指す周辺国が、東アジア安定会議において、優位な立場になるために、「この国」の政府に揺さぶりをかけているのではないか。騒ぎを大きくしないように、士官学校生が巡回することで、犯罪を抑止するという任務だ。
     浅岡、印南、池は巡回中、不審人物に遭遇。印南が撃退される。追っていた不審人物がいなくなり、急に背後に現れたという。不審人物は、電柱に上ってやり過ごしていた。印南を一人で行動させた判断のミスだった。
     池は、番匠に、犯人を見つければ攻撃してよいかと聞き、了解を得る。池は番匠に攻撃を仕掛ける。
     これは国防実習だった。戦争をしない国の軍人はどうあるべきか。戦わずに国民を守ることができる最善の手段は何か。その思考法を伝授するために行われた訓練だった。
     これも、計算された作品で、有り勝ちにも感じる。しかし、無駄な情報が少なく、すっきりしていて読みやすい。極めて安定したデキの作品
    ● エミグレイティング・ゲーム 出稼ぎ
     「この国」には、実質的に政府が経営している売春宿がある。その売春宿のサタの客が強盗に襲われ、殺害されるという事件が続く。
     売春宿から客が減る。犯行を裏で指揮しているのはテロリスト組織ではないかと考え、番匠が捜査をする。被害者が全てサタの客であることを知り、番匠は、自らがサタの客となり、おとり捜査をする。
     番匠は、サタにキスマークを付けてもらう。この行為は、同じ国から来ている労働者の男性、サジに言われてやっていること。ここでサタも、サジの犯行ではないかと気付く。
     番匠にキスマークのことを教えたのは、サタと同じ売春婦のイデ。イデは、この国に永住するためにサタと付き合っていたが、サタがテロ行為をしていることから裏切った。この国はいつも誰かが誰かを利用している。最後、サタはそのことに気付き、番匠に営業スマイルを見せてエンド
     短編のお手本のような構成の作品。最も犯人になりそうなのサジが真犯人で意外性はない。ただし、読みやすく、構成はシンプル。サタの営業スマイルで終わるというオチも含め、作品全体のブラックな印象は悪くない。
    ● エクスプレッシングゲーム 表現の事由
     表現庁が開催する「カワイイ博」が、反政府組織のテロに襲われる。首謀者は松浦。その警備を番匠が行う。番匠対松浦の直接対決
     カワイイ博の開催開始前日に、テロ行為が起こる。表現庁の完了である貝塚にある記者がインタビューをしていた。その場を毒を仕込んだ画鋲等で襲うテロリストが現れる。キャスターを使った攻撃。これらを回避し、別の会場へ。次の会場では建築資材、ベニヤ板、カーテン等を利用した攻撃
     最後の会場ではバイクを利用した攻撃。全ての攻撃を回避し、テロリストをせん滅。貝塚を取材していた記者を助けると記者の手に毒を塗った画鋲が。記者が松浦だった。番匠は、最後に松浦を殺害する。
     番匠、松浦の双方が死亡。番匠は松浦に対する、この国の何が不満だったんだという思いを示しながらエンド
     短編集のラスト。松浦と番匠が双方を殺害し、引き分けで終わるという形で、「この国。」という短編集を終わらせようとしていたのだろう。予定調和としての作品。アクションモノとなっており、ミステリ的要素はほぼない。謎解きでも、頭脳ゲームでもない。唯一あるのは、記者が松浦だったという意外性だが、これもさほど以外ではない。きっちりした伏線がないせいもあるだろう。最後の作品であり、全体の予定調和ではあるが、このオチはイマイチ。もう少し魅力的な終わらせ方をしてほしかった。
     

  • 一党独裁政権下の日本を仮想したような国家における治安維持警察と反政府組織のテロリストの話。
    もしかしたらありそうと思わせながらも実際にはあり得ない設定は三崎亜記氏を彷彿させる。
    どちらのリーダーも非常に頭が切れるので、相手の手の内の読み合いに力が入る。
    冷静なようで正義感と人情味に溢れる番匠の魅力に惹かれていたので、最後はちょっと残念な終わり方でした。

  • お話の舞台は日本のようで日本でない、パラレルワールドにある日本というのが私のイメージ。
    過去二回の世界大戦では中立を保ち、資源に乏しく、長いこと一党独裁で、絞首刑が一般公開され、人々の娯楽になっているような、でも平和な国。そこでの体制側と反体制側の人間の頭脳戦&肉弾戦がメイン。
    だけど、直接対決のない、小学校や国防軍の話もあって、読みやすかった。

    最後に勝つのはどちらか、そこに作者のイデオロギーは反映されてるのか?と読んでる間は考えていたけど、どちらにも公平?な終わり方で、ハッピーエンドよりはバッドエンドに分類されるかもしれないけど、ある意味スッキリした。

  • この国の通ってきた道、政策が正しいのかどうかはわからない。しかし、治安警察官の番匠も反政府組織の松浦もこの国を愛していたのは間違いないと思う。

  • 2016年11月24日読了。
    2016年108冊目。

  • どこまでもこの国の為に有れる番匠さんが清々しすぎます。イイネ!(笑)
    たしかに「戦争のない国」というのは素晴らしい、誇れる事であるというのは 頭では理解できます

    この本を読んだ感じとして番匠さんは戦争経験者ではない…ようですが… 
    実際にその悲惨さ、凄惨さを経験していない人が
    戦争のない事(この国では失業者もない等色々良い所あるますが)を命をかけてまで誇りとし、
    国の体制維持のため己の全て捧げちゃったり…できるものでしょうか。
    私的には番匠さんがどうしてそういう人間に育ったかという事の方が気になって仕方ありませんでしたが
    最後までこの国の事を考えて終わるという生き様が素敵だったので★4つで。

    内容というよりキャラが良かったというか。

  • “この国”の治安警察官と反政府組織の頭脳戦。
    公開死刑が国民の娯楽となり、小学校卒業時に将来が決められる。
    そんな国を守る側と、国に反発する側。
    国のためを思うがゆえの戦いの結末とは・・・。


    “この国”が具体的にどこなのかは示されていませんが、どうしても日本に置き換えて読んでしまいます。

    こんな国になったら…ありえそうな、怖いような。

    公開死刑や小学生の話、それぞれ独立した章で構成されているので、読みやすかったです。

    途中から私は反政府組織の応援をしている自分に気が付きました。

  • いかにも石持浅海って感じ。5編の連作短編集。面白かったけど、最後の話はイマイチだったな。番匠があっさりやられちゃうのは悲しかった。日本のパラレルワールドのような『この国』。中学校進学に際し、ランク分けし、売春宿も国営。売春国営はいいんじゃないかと思うけど。全てを管理することで平和を維持する。ほんと、反体制は何を目指していたのか。断然番匠派だね。しかし、この作者はほんと変な話を書く。嫌いじゃないって感じだね。

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著者プロフィール

1966年、愛媛県生まれ。九州大学理学部卒。2002年『アイルランドの薔薇』で長編デビュー。03年『月の扉』が話題となり、〝碓氷優佳シリーズ〟第1弾となった05年『扉は閉ざされたまま』(祥伝社文庫)が 「このミステリーがすごい!」第2位。同シリーズの最新作に『君が護りたい人は』(祥伝社刊ノン・ノベル)。本作は『Rのつく月には気をつけよう』(祥伝社文庫)の続編。

「2022年 『Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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