サクラ咲く (光文社文庫 つ 16-1)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334767044

作品紹介・あらすじ

全国有力書店にて、7/1からフェア「乃木坂文庫」開始!
白石麻衣さんが『サクラ咲く』書影を飾る!

塚原マチは本好きで気弱な中学一年生。ある日、図書館で本をめくっていると一枚の便せんが落ちた。そこには『サクラチル』という文字が。一体誰がこれを?やがて始まった顔の見えない相手との便せん越しの交流は、二人の距離を近付けていく。(「サクラ咲く」)輝きに満ちた喜びや、声にならない叫びが織りなす青春のシーンをみずみずしく描き出す。表題作含む三編の傑作集。

感想・レビュー・書評

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  •  辻村深月さんが「進研ゼミ」(中二・中一講座)に連載した2編を含め、中学・高校を舞台にした3編が収められています。

     ヤングアダルトやライトノベルなどのカテゴリーは個人的によく判りませんが、少なくとも中学生を読者対象の中心に置いているとしても、大人も十分に楽しめる青春もの、という印象です。
     平易な文章で読みやすく、3編それぞれが、実に鮮やかな密度でリンクしていて、配列の仕掛けも絶妙で面白いです。上手いなぁと思ってしまいます。

     3編に共通するのは、学校の授業に見立てて『特別の教科 道徳』の価値項目だと、「個性の伸長」「向上心」「友情」「信頼」「相互理解」「寛容」辺りでしょうか。自分を変えたいという想い、行動・克服が中心になっている気がします。
     道徳の教材としては長過ぎますが、十分通用して余りあるほど価値があると思います。
     多感な中学生心理が瑞々しく描かれ、ミステリー要素を入れながらの登場人物への陰影付けが深く、誰もが「わかる〜」「あるある」と感情移入しながら読めること請け合いです。
     タイトルも内容も、これからの季節にピッタリな物語でした。

  • この本を読んで、中学や高校での生活がとても懐かしくなりました。
    一年を通してのさまざまな行事、テストや部活動、そこで出会ったかけがえのない友人たち。
    随分遠ざかってしまったけれど、少しでもあの頃の澄んだ心を取り戻せたような、そんな気がします。

    謎の転校生悠と朋彦の、心温まる交流が描かれていた「約束の場所、約束の時間」。
    本好きで、自分の意見がはっきり主張できない中学一年の塚原マチの、成長していく過程が描かれていた「サクラ咲く」。
    どちらも同じ中学が舞台になっていました。

    「世界で一番美しい宝石」は、少し時間が経っていますが、高校生のお話。
    ここでも本好きな女子生徒が出てきて、何だか嬉しくなります。
    司書の海野先生は…。一平の父親はもしかして…。
    というような面白い仕掛けもありました。

    三編とも、逞しく生きる少年少女たちがきらきらと輝いていて、読んでいて羨ましくなります。

  • 3つの短編。2つは中学生、1つは高校生の青春が描かれています。青春です。青臭いほどの青春です。おじさんには眩しすぎます。でも不快感はありませんでした。

  • 『学校は誰のものだ』その答えを3つの短編に丁寧に描いた作品でした。

    最初の<約束の場所、約束の時間>を読みはじめると、確かに辻村さんっぽい設定だけど、今ひとつかなぁという読後感でした。それが、次の<サクラ咲く>で一変。短編なので掘り下げはどうしても浅くなりがちで、途中で結末も見えては来るのですが、それでもこの明るい光のもとに解き放たれた世界には強くこみ上げてくるものがありました。そして、<世界で一番美しい宝石>では、3編で見えた世界の総括として、『学校は誰のものだ』という問いに対する辻村さんなりの答えを一緒に考えさせていただけたように思います。

    学校には体育会系に代表されるようないわゆる大人が推奨する日向の高校生活を送る人たちの世界と、文科系に代表されるように大人しくオタクにも繋がる日陰の高校生活を送る人たちの世界があります。これは、少なくともこの国のどこにいっても、時代が変わっても変わらない大人も含めての一般的な共通認識のようなものになっているように思います。

    どちらの世界を生きるかは入学した時から決まっていて、その両者の間には決して超えることのない、もしくは超えることのできない壁が立ちはだかっています。壁のこちら側と向こう側の世界、それぞれが反対側の世界を思う時、いつの時代も前者から後者は蔑みの対象、後者から前者は妬みの対象というのが一般的な見方ではないかと思います。そして、ヒトが群れたがる生き物である限り、壁を乗り越えて反対側に行こうと試みる人が出ると拒絶反応が現れます。その行為を思いとどめようとし、叱り、罵る。一方、頑張って壁を越えてきた人を受け入れる側にも拒絶反応を示す人が出ます。お前は反対側の世界の人間だろう、どうしてこちら側にやってきたんだ、お前などこの世界に生きるものではないといったように。学校が社会の縮図である限り、大人たちがその価値観を変えない限り高校の中だけが変わることなどありません。

    この作品では、そもそも壁の存在自体がおかしいのではないか、こちら側と向こう側の世界という考え方がおかしいのではないか、学校って誰のものなんだという根本的な部分に光が当たります。大人になる前の高校生だからこそ、ひたむきに生きる彼らだからこそのそれぞれの結論。この作品で描かれる、ピュアで胸に詰まるような甘酸っぱい悩みをいっぱい抱えた高校生たちのひたむきな日常は、大人が読むと恥ずかしく感じる部分さえあります。でもそこに流れるテーマはとても古くて重いものです。疑問に思っていても何も変わることのなかった、変えられることのできなかったものです。だからこそ、大人になった自分の心が強く共感するのを感じました。

    学校はそこに集うみんなのものであってほしい、辻村さんらしい仕掛けを3編に織り込んだとても優しくてあたたかい作品でした。

  • 心温まる短編集。
    中高生にぜひお勧めしたい。

    友情を築いて友達のために必死になること、
    重視するものののためにその他を粗末にして反省すること、
    人に話せない悩みを打ち明けられる救い、
    欠点に苦しみ変わりたいと願うこと、
    居場所を求めること、
    などなど、思春期の悩みや、
    乗り越えた爽快感など、
    平易な言葉で感情移入しやすく描かれている。

    重たい作品の辻村さんも好きだけれど、
    こういうサラッとした辻村さんも、素敵。
    中高生には絶対こういうのだろうな。

  • 学校を舞台にした3つの異なるストーリーはファンタジーの要素もあればリアルなものもあり、読んでて飽きませんでした。

    ストーリーももちろん魅力的でしたが私が気に入ったのは、登場人物です。
    内気な転校生、陸上部のイケイケ男子、自分の意見が言えない女の子、学校に居場所を失った不登校生、高校デビューをしたが、それに違和感を持つ子、意識の高い部長
    どれも「クラスにいたわ」と思わせるほどリアルでした。

    そして、辻村さんといえばストーリーのリンク代込みですが、今回もしっかりあります。
    特に一作でこれが見れるので、辻村さんの魅力を知りたい人へまず、勧めたい一冊であると言えます。

    • さてさてさん
      nikaku1.1さん、こんにちは。
      辻村さんにファンタジーはとても似合うと思いますが、この作品は、nikaku1.1さんさん書かれている...
      nikaku1.1さん、こんにちは。
      辻村さんにファンタジーはとても似合うと思いますが、この作品は、nikaku1.1さんさん書かれている通り色んな要素が含まれていてとても楽しめました。辻村さんの魅力がいっぱい詰まった作品だと思いました。
      ありがとうございます。
      2020/07/29
  • 仕事の繁忙期からようやく抜け出し、久々の読書です。
    いずれも中高生が主役の話が3つ。
    『サクラ咲く』ある日、図書室で借りた本の中に見つけた「サクラチル」のメモ。
    自分と同じ本を借りている誰かがメモを挟んだのか?メモを入れているのは誰か?そして、思い切って、自分もその見知らぬ誰か宛にメモを入れてみる。そこから始まる知らない相手との手紙のやり取り。
    自分の意見をはっきり言えず、周りに流されてしまう自分がイヤで、でもなかなか変われずにいたマチが、その手紙のやり取りをする中で、少しずつ変わっていく。
    自分が変わることは、周りが見えてくるということでもあるなぁとつくづく思う。
    辻村さんの物語は、最後に希望があると思わせてくれる。
    中高生にもおすすめです。

  • 3作品収録
    連作といっていいのかどうか
    でもつながりは感じました
    進研ゼミの中二、中一で連作していたようで年齢層はその辺なのかもしれませんね
    いずれの作品も学校でのお話でまぁ青春かなと
    さくっと読める作品でした

  • 桜の季節は既に終わり、街路樹は新緑に彩られ花水木の花も盛りです。学生の皆さんは新しい生活にも慣れたでしょうか。

    若美谷中学、高校を舞台にくりひろげられる、三つのストーリー。それぞれ、少しづつ登場人物の関係が絡んでいます。表題作品”サクラ咲く”では、自分を強く主張することのできない塚原マチが、図書館の本にそっとはさまれたメッセージを偶然見つけるところから始まりす。

    ”サクラチル” マチの読もうとする本に次々と見つかるメッセージを残す人物は誰なのか。なぞを追いかけながら、自分自身を次第に主張していくマチの変化、揺れ動く気持ちが伝わります。エンドは”よろこびの歌”のような・・・

    ”世界で一番美しい宝石”で描かれた、”図書館の君”立花亜麻里も、映画同好会の武宮一平も、平凡でも非凡でもいい、自分の位置を確かめたい想いが、切なく、静かだが強く表現されています。
    「学校は誰のものだ。俺たち皆のものだ」

    10代の頃、自分を壊してしまうほどの激しい不安が我々にもありました。内面が剥き出しになり、回りとの関係に大きな痛みもたくさん経験しましたね。
    若い、清々しい春風のような小説でした。

  • 学校という一つの社会の中で繰り広げられるこの物語の中には、ほんの些細な言葉が人を励ましたり、支えたり、傷つけたり、新しい行動を生み出す姿が描かれている。
    本編の中で「ものづくりが徒労に終わるかもしれないなんて、決めるのは結局誰かの主観でしかない。何が無駄かなんてことを決めるのも、人それぞれだ。」と綴られている言葉に、それが端的に表されている気がした。

    青春、と一言で言ってしまえないほどに、いろいろな感情や思考、意思があって、一人一人の思いは交錯して一つの社会になっているのだなぁ、と改めて思う。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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