無間人形 新装版: 新宿鮫4 (光文社文庫 お 21-19 新宿鮫 新装版 4)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (673ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334767488

感想・レビュー・書評

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  • 覚せい剤を主題にして、ニンゲンの複雑な想いを
    描き切る。
    香川進が 自ら販売するアイスキャンディで、
    崩壊していく過程の描写がじつにリアリティがある。

    覚せい剤を100kg入手した 香川兄弟。
    地方を牛耳る香川財閥のボスの腹違いの類系。
    反発しながらも、その権力を活用する。
    香川昇は、香川財閥のボスの娘 景子に秘めた想いがあった。
    しかし、なぜ 覚せい剤 を扱おうとしたのかの動機となる。

    景子つながりで、香川兄弟は 藤野組の新進 角に
    アイスキャンディを 実勢価格より安値で おろす。
    そのことで、若者たちに 急速にひろがる。
    確かに、覚せい剤は ただで手に入れた。
    精製過程だけの経費で済む。

    それを追いかける新宿署防犯課刑事 鮫島。
    晶は やっと CDをだしたばかり,
    売れているとは言えないが、プロの自覚が。
    そして、昔のバンド仲間 耕二にあうことに、
    耕二は、景子のK&Kというクラブの店長で、ペットだった。
    そのことが、事件に広がりを与える。

    鮫島の晶に対する 想いが語られる。
    そして、晶は 鮫島を信頼する。

    香川進と角との関係が、いつの間にか
    逆転する。それは、進の盲目の恋心だった。

    物語としては、かなり完成された形となっている。
    鮫島の ポジション、そして 桃井の存在。
    麻薬取締官と警察との 軋轢と不具合。

  • ふと思ったのだけど、この人のお話は、犯罪を扱っているものの、すごく多面的というか、いろんな関係者目線でのストーリーが丁寧に描写されてて、王道な勧善懲悪の物語ではあっても、犯罪者側にも犯罪者側の人生や感情があって、捜査に関わる人たちにも、巻き添えを食らう人たちにもいろいろあって、っていうのが感じられるのがいいですね。それが、小説のドラマ性を上げてるのかな。

  • キャリア警察官出身の鮫島警部が所轄署の刑事になっていて、 そんなことは異例だから、警察内部機構の矛盾をついて いろいろぶつかりながら、事件を解決していくストーリーがおもしろい

    この作品で直木賞を受賞というより、 これまでのシリーズ全体に受賞という感じ
    ま、その後の10巻に及ぶ作品群もおもしろいらしいから
    (夫が先に全巻読んでの感想で) 大沢氏、このシリーズ作品が大力作というわけである

    作品の手に汗握る事件を追うのも楽しいが、 やはり展開の中にはさまれるフレーズにハッとする、 それが作家の妙味

    たとえば次のような、鮫島(主人公の刑事)が、新しいバンドでプロのボーカルになっている恋人、晶に
    「なぜ前のバンドチームが壊れたのか」
    って聞く会話場面

    それに答える晶
    「よくある奴。みんなプロをめざしてたんだけど、
    それはとりあえずのプロって奴で、なってからのこと何も考えてなかった。
    で、プロの口がちょっとかかったとたんに、バラバラなこといいだした。
    要はバンドがプロになることよりも、ひとりひとりがプロになることしか思ってなかったんだ、でも、向こうはさ、最初はバンドとして見てるじゃない。全体でどうかって、具合で。
    だけど、口がかかると浮き足立っちゃって、自分から別のレコード会社へ、ソロ売りこみいったり、へんにプロダクションに相談したり、 足並みがてんでばらばらになっちゃった。それで一同、話し合ったら、 結局、プロになってからやろうと思ってることが、全員まるでちがうってことがわかってさ」

    「なんだかもったいないような話だな」

    「それでもとりあえずやってみようかってときもある。
    プロになって、バンドとして何年かは我慢しようかって、
    でも、そんときのメンバーは皆、我慢できる連中じゃなかった」

    ちょうど、スマップの解散騒ぎがマスコミで沸騰、バンド組むのもグループで歌うのも同様のわけがあり
    「なるほどなー」と思って読んでいた次第

    この作品は1994年が初版
    すこしも古びていない、というか
    集団があれば、結束もあり離散もあるってこと

  • 再読。相変わらずストーリーを何も覚えていなかった。作者のあとがきが興味深い。晶は災難。

  • 若者たちの間で流行っている薬「アイスキャンディ」。
    錠剤を口にすると、すっと頭が冷静になり、感覚が鋭敏になる。そして何よりも安い。

    今までになく手軽でお洒落な覚せい剤の出どころを追う鮫島。
    そして鮫島とぶつかる麻薬取締官事務所。
    取引の主導権を巡って争う「アイスキャンディ」の卸元と、東京の暴力団。
    地方の財閥一族の愛憎。
    そして鮫島の恋人・晶の運命。

    いくつもの物語が平行して動き出す。
    徐々に終焉に向かって収束していく後半は、とにかく続きが気になって、本を置くことができない。

    妨害されようと、時間が足りなかろうと、とにかく一歩一歩確実に犯人たちを追いつめていく鮫島。
    しかし事態は一歩一歩では追い付けないくらいの急転直下を迎えるのである。何度も。
    それでもあきらめない鮫島の姿を読むのは、とてもスリリングで楽しい。
    物語の構成も素晴らしいと思う。

    ただ、地方財閥の香川一族が…。
    こわいもの知らずのやんちゃな次男という仮面の下は、自分に甘く自己中心的な進。
    頭が切れて冷静な長男という仮面の下は、若い頃の心の痛手が消えることなく、屈折した愛情を抱えたまま破滅していく昇。

    いやこれ、20代ならまだしも、いい大人がこのメンタルはダメだろう。
    しかも、思い通りにことを進められるだけの権力を持っているときたら、それは社会の迷惑でしかない。
    癒えることのない心の傷を抱えているからと言って、不特定多数の若者に覚せい剤を売ったり、他人の人生を踏みにじったり、家名に泥を塗ったり、何も知らない家族を醜聞に巻きこんだりする権利はない。
    自分だけが悲劇の主人公のつもりなのか、いい年をして。

    本気で読んでいたから本気で腹が立つ、彼らに。
    メインストーリーがいいだけに余計。
    それほどに面白かったということなのだけど。
    香川一族、嫌いだな。破滅するなら一人でして、って感じ。

  • 新宿鮫シリーズの、第4作。1994年。

    直木賞を受賞した作品で、シリーズ最高傑作、という人も多い1冊。

    今回の敵は、

    「東北の巨大財閥の兄弟が、覚せい剤の販売をしている。
    それを卸して貰って捌いている暴力団」

    という設定。

    ただ、主人公にも読者にも、「覚せい剤を作って卸している大元」はなかなか分からない仕掛け。

    だいたい、新宿鮫シリーズの特徴なのですが、読者、次いで、主人公に、仕掛けが全て分かるまで、つまり前半の方が面白い。

    後半は、もうちょっと具体的に、つまり個人個人のアクションとか死の危険といった、

    「まあまあ、そりゃさ、ゆっくりあわてなければいずれは悪者は捕まるよね」

    というレベルのスリルとサスペンスで引っ張られて行きます。


    #


    あと、やはりこのシリーズの特色は「けれん」ですね。

    「無間人形」の犯人たちも、一体全体どういう動機で全てが転がり始めたのだか、よくよく考えるとよくわかんない(笑)。

    なんだけど、自滅的に麻薬仕事にのめり込んでいくエリート、従姉妹の美女との運命的?な恋愛と失恋の過去、などなどの「けれん」で、なんだか読めてしまう。
    (無論、その「けれん」がどっちらけで、読むに値しない、という読者もいらっしゃると思います。それはそれで、人の好みですね。僕はけっこう...ストライクゾーンが広くて楽しめます(笑))

    それから、後半の怒涛のアクションと解決が、かなりご都合感があったとしても。
    このシリーズが読めてしまう理由の一つとして思うのは、「犯人の側の魅力」ですね。

    この辺は、「刑事コロンボ」も「メグレ警視」もそうだと思いますが。
    例えば「無間人形」だと、色と欲と恐怖と不安に溺れ死んでいく、財閥の弟くん。
    財閥の弟くんに良いように振り回されながら、虎視眈々と逆転を狙って牙を剥く、ヤクザ。
    などなど、の、犯罪に加害者として参加してしまう、ヒトの弱さというか、「わかっちゃいるけどやめられない」的な事情と感情。
    これがなかなか、滋味深く読ませます。

    それから「無間人形」では、主人公の恋人さんが、「主人公の恋人だから」という理由で危険にあって、暴力にさらされるという事件への絡み方をします。

    これはこれで、こういったシリーズの場合、「2度も3度もその手を使うと、さすがにドッチラケ」というカードだと思うのです。

    でも、恋人さん(インディーズのロック歌手、という設定)の設定を活かして、「地方でくすぶってるかつてのバンド仲間」が、「ヤンキー仲間と犯罪者になっていく」という、それはそれでなんとも哀愁ただよう人間ドラマを作れています。そのあたり、上手いですね。

    相変わらず、前半の作りが圧倒的。
    覚せい剤犯罪の全貌が見えてくるまでの、霧の中をてさぐりで進むサスペンスは極上でした。

    (後半終盤のかなりなご都合性も、いつも通りではあるんですが、ま、それを批判するくらいなら、読まない方が良いのでしょうね)

    そして、「踊る大捜査線」や「横山秀夫の世界」と並び、「キャリア、ノンキャリの警察社会」を取り込むことで、「リアリズム係数」を上げているシリーズなのですが、
    「無間人形」では「麻薬取締官」という、厚生省管轄の仲間と言うかライバルというか、を描くことで、またまたそのあたりの「リアルっぽさ」を稼いでいますね。

    そして、前半のサスペンス、後半のややご都合なたたみかける解決、リアリズムっぽい周辺の描き方...
    それらが相まって、「確実にスッキリ、サスペンスとカタルシスを味わえる、安定ヒーローものの小説物語」を作れてるんですねえ。
    批判したり限界を指摘するのも簡単ですが、意外にこれ、難しい。

    そして、僕もそうですけど、多くの男性読者に需要はあるんですねえ。

  • J様後追い第4弾
    途中から一気読みでした。
    最終的に大本の動機がそれかよという感じはあったものの、まあ人が何かしてしまう理由なんてそのあたりかもなぁとも思ったり。
    それ以上に取引の方法がすっごく考えられていたり、我慢強い捜査方法とか、鮫島は確かに顔知られてるはずだよなぁというのがちゃんと描かれているのが、ほんとに信憑性があって楽しめました。

    こんなにシリーズごとに前作を上回るとは。
    びっくりしたけど、本作直木賞受賞したのですね。なるほど。

    しかし、国前、平瀬、石渡の友人関係てなんだったのか。。むなしい。

    あ、あと桃井課長、やっぱりカッコいい!

  • はまり小説の第四段!直木賞受賞作と前評判があったため、期待のハードルをちょっと上げ過ぎたかも?時代を感じさせない、旬な話題が取り上げられています。

  • シリーズ第四弾。直木賞受賞作というだけに読む前には大きな期待があった。

    若者を毒牙にかける『アイスキャンディ』という麻薬を巡り、鮫島と麻薬取締が事件を取り合う。事件の黒幕は…鮫島の恋人の晶までも事件の渦に巻き込まれ…

    少し厳しい意見かも知れないが、ストーリーに出来過ぎている感があり、迫真性に欠けるところが目に付く。直木賞を受賞するなら、前作の『屍蘭』か『毒猿』が妥当だったのではないだろうか。警察小説の面白さは、迫真性に裏付けられた警察組織の闇の描写とその中で繰り広げられる事件の真相を究明する過程ではないかと思う。

    十分面白い作品であり、この先も楽しみなシリーズではある。

  • 気に入ったシリーズの各作品をランダムに愉しんでいる。これも凄く愉しかった。
    「訳アリ」な鮫島警部が奔走し、事件の解決を目指すという<新宿鮫>シリーズである。近年の作品を読んでいないと手を着け始め、随分以前に読んでいた可能性も在る作品に辿り着いたが、一度読んでいたかもしれないにしても、記憶が曖昧になっているので、新たに出会うのと同様に愉しく読んだ。映像ソフトが少し入手し悪くなっているように見受けられるが、本作を原案とするテレビドラマが在ったことも憶えている。
    <新宿鮫>シリーズは、主人公の鮫島の目線で綴られる部分と、作中の事件関係者等の目線で綴られる部分とが適宜交わりながら進むのが通例である。現在時点では「比較的初期の…」と呼び得る本作も、そういう方式が採られている。本作は、鮫島、交際しているロックバンドのボーカルの晶、地方の街にある彼女の嘗てのバンド仲間、バンド仲間の在る街で大変な影響力を有する地方財閥関係者と、「様々な人達の各々の物語」が作中の事件を交差点にして交じり合いながら展開する感である。
    物語の冒頭は新宿の街中からである。
    鮫島は不審な少年グループを見張っている。少年グループ側も周辺を警戒している様子が見受けられ、鮫島も慎重に様子を伺っている。違法薬物と見受けられるモノの密売をしたという様子が見受けられ、鮫島は彼らを捕えようと駆け寄る。格闘も交えて、鮫島は負傷もしたが、グループの1人を取り押さえる。逮捕した少年が所持していたモノの中から、錠剤が出て来た。10代の若者等の間で流行りつつある代物で「アイスキャンディー」という通称だった。この錠剤は、微量の覚醒剤成分を含む危険なモノであった。
    鮫島はこの「アイスキャンディー」の事案に取組んでいたのだ。逮捕した少年が通称「アイスキャンディー」を売り捌くようなことをしていたことから、入手先を聴取し、その入手先の人物を監視し、何とか流通ルートを暴き出そうとしていたのだ。
    鮫島は、少年が自白した、少年に通称「アイスキャンディー」を売ったという人物を監視し始めるが、麻薬取締官に出くわす。麻薬取締官達も、この「アイスキャンディー」の事案に取組んでいた。異なる捜査機関の思惑がぶつかり合うこととなって行く。
    他方、或る地方から出て来た偽名を名乗っている男が在って、新宿を本拠地とする暴力団の幹部とやり取りをしている。密かに「アイスキャンディー」を流通させようとしているのだ。そして、当初は安価で流通量を増やそうとしていたものの流通量を絞り込み、値上げを図るような思惑と、随意に必要量を得て利益を増やす思惑とがぶつかり合って行くこととなる。そしてこの偽名を名乗っている男の複雑な背景が在る。
    そして晶は、大きくヒットしているのでもないバンドのデビューアルバムのプロモーションも兼ねて地方公演に出るのだが、その途次に単独で或る街を訪ね、嘗てのバンド仲間と再会し、嘗ての仲間が携わるライブハウスを訪ねようとしていた。が、各々の道で各々が活動していることを言祝ぐような、古い仲間の愉しい再会で終始し悪くなるような予兆が立ち込めようとしていた。
    こういうようなことから展開する物語は、「続き」が気になって、頁を繰る手が停められなくなってしまう。終盤側では凄惨な闘いというような場面、複雑な想いが交錯する場面が相次ぎながら、鮫島は奮戦し続け、事件は収束する。
    シリーズの各作品、何れも甲乙点け難いのだが、本作は秀逸だ。

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著者プロフィール

1956年愛知県名古屋市生まれ。慶応義塾大学中退。1979年に小説推理新人賞を「感傷の街角」で受賞しデビュー。1986年「深夜曲馬団」で日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞、1991年『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞長編部門受賞。1994年には『無間人形 新宿鮫IV』直木賞を受賞した。2001年『心では重すぎる』で日本冒険小説協会大賞、2002年『闇先案内人』で日本冒険小説協会大賞を連続受賞。2004年『パンドラ・アイランド』で柴田錬三郎賞受賞。2010年には日本ミステリー文学大賞受賞。2014年『海と月の迷路』で吉川英治文学賞を受賞、2022年には紫綬褒章を受章した。


「2023年 『悪魔には悪魔を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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