母親ウエスタン (光文社文庫 は 35-1)

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  • / ISBN・EAN: 9784334768560

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  • あるときはバブル景気の真っ只中の東北、
    あるときはバブルがはじけた時期の北海道帯広に
    北海道えりも町、
    あるときは宮城県のとある町。
    各地を転々としながら
    定食屋「いろは」の店員、
    スナック「卑弥呼」で働くホステス、
    スーパーの洋品店の店員など職を変え、
    男やもめで母親のいない家庭にふらりと現れ、愛情に飢えた子供たちに愛を与え去っていく広美。

    身体一つで、家族から次の家族へ、全国をさすらう女。
    果たして彼女は一体誰なのか?
    何が目的なのか?
    『東京ロンダリング』で一躍注目を浴びた著者の長編第二作であり、
    ちょっと変わった家族小説。


    初めての原田ひ香作品だったけど、
    木皿泉の解説にあるようにタイトルの秀逸さと
    主人公広美のワケの分からなさが面白くて(笑)
    一気読み。
    (映画ファンであればタイトルから往年の西部劇の傑作「シェーン」を思い浮かべるだろうし、その発想は正解です)

    伊丹十三の傑作映画「たんぽぽ」がラーメン屋版「シェーン」だったのに対して、
    こちらは母親版「シェーン」。

    悪者たちがはびこる荒廃した西部の町に流れ者がふらりとやってきて
    父親のいない母子と知り合い
    ひととき共に暮らし、
    悪者たちを成敗して
    またふらりと去っていく。
    (勿論、一緒に暮らし懐いた子供は、「シェーン、カムバック!」と別れを惜しむわけです)

    これを現代の母親に置き換えたわけだけど
    もうその斬新な発想からして
    心躍るし、
    主人公広美の過去パートと
    幼少期に広美に育てられた青年が広美を捜す現代パートを交互に描いた巧みな構成、
    リズム感のいい文体と
    胸を打つ借り物でないセリフ。

    そして、無理のないその土地土地の方言が
    いいアクセントになって飽きさせません。
     
    色白で小柄。透明感のある赤い唇と笑うとえくぼのできる愛嬌のある顔。
    「申し訳ございません。おそれいりましてございます。」
    というなんとも奇異な挨拶が口癖の(笑)
    ミステリアスでなんとも魅力のある謎の女、広美にどんどん惹かれていく不思議。

    広美の行動はホンマ無茶苦茶なんやけど、
    なぜか憎めない。

    子供に食べさせるために魚の小骨を丁寧に取ってあげたり、
    風呂に一緒に入ったり、
    保育園に毎日一緒に行き一緒に遊んだり、
    謝ることの大切さ、挨拶の仕方、ご飯食べるときのマナー、花の名前、折り紙の遊び方、ホットケーキの作り方、勉強のやり方を教えたり、
    夜明けにヴァン・ヘイレンの「Jump」をみんなで歌ったり、
    ひととき広美と時を過ごした子供たちも
    感謝こそすれ、誰も彼女を恨んでなんかいない。

    人が人として甦るためには
    何も特別な儀式なんて必要ないのだろう。
    なんでもない日々の暮らしを積み重ねることこそが
    胸に巣くう悲しみや怒りや孤独を浄化し、
    穏やかな日々の暮らしでのかけがえのない記憶が心の核となり
    どんなときも人を救ってくれるのだと、
    自分も母親に捨てられ施設で育った経験から
    身に沁みて解っている。

    誰かのためにではなく、
    あくまでも自分のために行動した広美だからこそ、
    関わったすべての家族の心に消えない記憶を残したのだと思う。

    今は朽ちないことや老いないことをよしとする風潮が主流だけど、
    歳をとったり、朽ちていったり、変わっていくことを怖れず書いている小説が僕は好きだ。

    この小説も、
    家族から家族へ
    母親を必要とする家族を渡り歩き、
    崩壊した家族を立て直すと
    またどこかへ消えていく広美という女の20年に及ぶ一代記だ。

    そう、映画「グロリア」のように
    戦うおばさんはカッコいいのだ!

    • vilureefさん
      こんにちは。
      「64」にコメントありがとうございました。
      お返事書かせていただきましたので、良かったら覗いてください。

      さて、原田...
      こんにちは。
      「64」にコメントありがとうございました。
      お返事書かせていただきましたので、良かったら覗いてください。

      さて、原田ひ香さん。
      この作家さんまだ作品数は多くありませんが、大物になる予感がプンプンします。
      何しろ目の付けどころが上手いですよね。
      だってこのタイトルですよ(笑)
      面白かったよなぁ。

      >人が人として甦るためには
      >何も特別な儀式なんて必要ないのだろう。
      >なんでもない日々の暮らしを積み重ねることこそが
      >胸に巣くう悲しみや怒りや孤独を浄化し、
      >穏やかな日々の暮らしでのかけがえのない記憶が心の核となり
      >どんなときも人を救ってくれるのだ

      円軌道の外さんのこの言葉。
      沁みました。激しく同意。
      日々の繰り返しっていかに重要か。
      昨日読み終わった本、西川美和の「永い言い訳」にまさにこれにぴたりと当てはまる場面が出てきました。なので余計に。

      いつも素敵なレビューありがとうございます♪
      2015/07/15
    • 円軌道の外さん

      vilureefさん、沢山の花丸ポチと
      嬉しいコメントありがとうございます!

      原田ひ香さんが
      大物になる予感がプンプンするって...

      vilureefさん、沢山の花丸ポチと
      嬉しいコメントありがとうございます!

      原田ひ香さんが
      大物になる予感がプンプンするってめちゃくちゃ分かります!(笑)
      vilureefさんの言うように
      そうくるか~っていう
      テーマや目の付けどころがスゴいですよね(笑)
      まだ読んでないけど、
      「東京ロンダリング」のワケあり物件に住む人とか、
      今作の家族を渡り歩くさすらいの母親とか(笑)、
      最新作「三人屋」の時間帯によって出す物が変わる一件の店とか、
      毎回気になる題材やプロットで
      読む気にさせるのが上手い
      意欲的な作家だと思います。
      (引きが強い)

      文章もいいリズムがあって
      上手いなぁ~って思ったし。

      まだあまり知られてない作家なので
      いまのうちに沢山読んでみようって僕も密かに企んでました(笑)

      いやいや、恐縮です!
      褒められなれてないので
      そんなん言われたら
      どこまでも舞い上がってしまいますよ~(笑)( >_<)

      その言葉は僕の経験で
      実際に実感したからこその言葉なので、
      嬉しいです!

      なんでもない日々の積み重ねって
      その中にいるときは何も考えてないんだけど、
      あとから考えてみたら
      その特別さや大事さが身に沁みて解りますよね。
      ああ~、あの平穏な日々があったから
      自分は頑張ってこれたし、
      今の自分があるんだって。
      だからこそ、この小説の子供たちも主人公を恨むこともなかったわけだし。

      西川美和の「永い言い訳」は
      かなり評判いいみたいで
      僕も気になってました。
      vilureefさんのレビューは
      僕自身かなり信頼しているし
      今までも本選びの参考にしてきたので
      図書館で見つけ次第読んでみますね(笑)

      こちらこそ、嬉し過ぎるコメント
      感謝感激です!
      またあとでそちらにもお邪魔しますね~(^^)
      これからもよろしくお願いします!


      2015/07/27
  • 幼子の世話や育児を目的に、使えるものは何でも使い、時には自分の体も使って、その父子たちの中へ入っていく。

    それはまさに流れる者のように続いていく。

    読後は想像していたのと違うな〜と正直戸惑ったけど、日にちが過ぎるにつれて、主人公が自分の子供を育てさせてもらえなかったことから、困っている家族、特に父子家庭の子供を放っておくことができなかったんだろうなと。
    彼女の抱えるこころの傷やくやしさ。
    最後、少し明るい未来が見えて良かった。

  • 不思議な話です。でもホンワカします。登場人物と時系列がややこしく、面倒なところもありますが、さじを投げてしまわない程度の微妙なラインで踏みとどまってくれています。こんなお話が2015年に出版されて図書館に眠っていたのですね、探し当てて良かったです。

  • 題名からどんな話か全く想像がつかず、なんとなくパワフルで物悲しいイメージがあった。
    読んでみるとと、これまで読んできた話とは違う感じでかなり新鮮だった。

    なんらかの事情で母のいない子どもを世話して各地をまわるというお話。
    現代と過去の二つの視点が交錯する。

    母親をテーマにした作品は数あれど、ほんのいっとき、全身全霊の愛情を注いでいなくなる母親の姿に胸がいっぱいになる。
    同時に、母を求めてやまない子どもたちの姿も心が痛む。

    広美さんが子供を求める姿は、ちょっと狂気的なところもあり、子どもと一緒にいられるのなら、身も心も男に捧げることすらある。

    後半は子どものためにここまで…という場面もあり、広美さんの愛の深さを痛感させられる。
    一人の母親の生き方が周囲を変えていく様子も描かれ、なんとも言えない後味もよかった。

    血のつながり、法的なつながりを持たない母親の姿を描き、母とは親子とはということを考えさせられる。

  • ウェスタンといえば「シェーン」
    子供のいる家に母はやってきて、ふらりと去っていく。かっこいい〜
    木皿花さんの解説も、また絶妙。

  • どこにもいないような女の人の、フィクション!という感じの小説。
    原田ひ香さんの小説は2冊めですが、1冊めで読んだ『三千円の使い方』とは全く異なるテイストで、リアリティのなさが面白かったです(もちろん、こんな生き方をしてる人も実際にはいるのでしょうが)。
    血縁のない親子(のような)関係で、大人が子供を思って守る、というシチュエーションは『そしてバトンは渡された』に通じるものがある気がしましたが、こちらは心温まるお話ではなかったかな。
    でも、誰にも頼らずに生きる広美さんの潔さは気持ちよかった。

  • 母親を必要とする子供と、必要とされたい元母親の長い物語だった。
    25歳の広美の1番初めの話が、母親ウエスタンを始めるきっかけだったのではないだろうか。
    「母親」として扱われることに喜びを感じたのだと思う。
    ラストシーンは、「母親」としてではなく、「広美」を必要とされたことに安堵した。
    それが物語のきっかけとなった健介によるものなのが尚更よかった。
    裕理もあおいも「母親」として広美を受け入れようとしていたから、このままじゃ「広美」としての人生が死んでしまうと感じた。

  • 図書館でジャケ借り。
    どんな状況?どうゆうこと?って思いながら読み進めて、最後まで完全にはスッキリしなかったけど、引き込まれて描写が浮かびやすく一気に読めた。

  • 家族モノを読むと母に電話しようかなあとか思うんだけど、大抵の場合本を読み終わるのが夜なので、結局しないことが多い。
    まあそのうち帰省しよう。

  • 2つのストーリーを交差させながら過去と現在を行き来する。それでいてわかりやすいストーリー。
    奇抜なタイトルの意味は読了すればすぐに理解できる。

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著者プロフィール

1970年神奈川県生まれ。2005年『リトルプリンセス2号』で、第34回「NHK創作ラジオドラマ大賞」を受賞。07年『はじまらないティータイム』で、第31回「すばる文学賞」受賞。他の著書に、『母親ウエスタン』『復讐屋成海慶介の事件簿』『ラジオ・ガガガ』『幸福レシピ』『一橋桐子(76)の犯罪日記』『ランチ酒』「三人屋」シリーズ等がある。

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