暗い越流 (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社
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レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334773618

感想・レビュー・書評

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  • 程よい倦怠を感じ、ああ、どこかでこの感覚、知っているような……

    そうだ、私が大好きだった、ほんと初期の桐野夏生の「村野ミロ」シリーズ!あの空気を感じるのだ。
    その後、桐野は当時の読者を置いて、途方もない場所に行ってしまい、ある種の喪失を覚えていたのだが。
    もしかしたら、救世主となる作家なのかもしれない。
    これは、作家にしてみたら賛辞とは取られないだろうが。

    短編集なのだが、ダークなミステリもあれば、ほどよいコメディもあり、レンジが広い作家だ。

    葉村晶シリーズ。
    またもや必読の女探偵が現れてしまった。

  • 若竹七海の短編集。表題作は、協会賞受賞作品。
    近作はとにかく、読んで面白い小説ばかり。この短編集もいい。
    葉村シリーズが2本とノンシリーズが3本、いずれも、吃驚仰天するわけではないが、向いている方と違う展開を見せてくれたり、準備していない感情を引きずり出してくれる。
    また、ユーモアセンスや日本語の選び方が絶妙で、つくづく楽しい読書ができる。大人向けエンタメ。
    ちなみに、近藤史恵の解説はとても同意できる。
    4

  • 若竹さんの本に近藤史恵さんが解説を書いているという、Wで美味しい文庫本。内容キレキレで良かった。

    ・蠅男
    フリーの女探偵・葉村晶は、若い女性の依頼で、伊香保温泉近くの洋館に遺骨を取りに行くことになる。
    洋館は悪霊が出るとの噂があり、異臭が立ち込めていた。葉村は辟易しながら遺骨を探すが見つからない。そして、「蠅男」に階段の上から突き飛ばされてしまう。
    謎の蠅男の正体は、依頼人の女性の兄。兄は遺産相続で別の土地を相続したが、お金にならなかった。一方、妹が相続した洋館は金になる上に、火山性ガスが出ていることも判明し、観光ホテルにするために取り上げようとしていた。ガスを吸い込まないようにマスクをして洋館を見に行ったところで葉村と鉢合わせした、というのが真相。

    ・暗い越流
    日本推理作家協会賞受賞の表題作。
    磯崎という死刑囚へ、彼を褒めたたえるような内容のファンレターが届いた。磯崎は5人をしに至らしめた上に反省もしておらず、彼の父親はそれを苦に自殺している。
    ファンレターの差出人は、山本優子という女性。
    磯崎の本を出そうとしている出版社に勤める主人公は、磯崎の弁護士から手紙を託され、山本優子を探すことになる。
    主人公と仕事上コンビを組んでいるのが、フリーライターの南という男。南は磯崎へのファンレターよりもっと気になると言って「死ねない男」福富大吉の取材をしようと言う。
    福富は何度も自殺を試みているが死ねないと言う。そんな彼には恋人がいたが、急に姿を消してしまった。恋人の名前は山本優子。
    福富から優子の住所を聞き出して家を訪ねると、そこには優子の父親が住んでいた。
    優子は父親と老いた祖母を残して出ていってしまったと言う。そして、殺人鬼磯崎の家と山本家は近所で、優子は磯崎と昔から交流があったことが判明。
    磯崎の家を訪ねてみると、主人公たちはそこで女性の……山本優子の遺体を見つける。悠子を殺したのは、磯崎なのだろうか……。
    主人公たちは、優子の父親の話と、実際の磯崎家の矛盾から、優子を殺したのが父親であることを突き止める。
    優子の父親は、優子に掛けた保険金を得るため、第三者に優子の遺体を発見させたかった。
    しかし、父親は娘を殺してはおらず、娘は水害のあった日に、ホームエレベーターで溺死したのだと言う。
    それを聞いて、主人公は自分の母親のことを思い描く。主人公の母は厳しい人物で、主人公の妻と娘はそれで出ていってしまった。おりしも、台風が近づいている。エレベーターで溺死……使えると思う主人公だった。
    出てくる人たちが男性なのか女性なのか判読しづらいと思った読んでいましたが、最後で「主人公(男性)も自分の親を殺そうとしている」ことを機を正せるための手法だったようですね。

    ・幸せの家
    生活系雑誌の女性編集長が転落死してしまう。小さな編集部で、残っているのは女性記者である主人公と、フリーライターの男性・南。
    女性編集長は誰かを脅していたらしい。主人公は死の真相を追い、怪しい人物たちに取材と称して接触する。
    取材したのはいずれも素敵な生活スタイルを持つ女性たち。その中の一人、松原さやかという女性の家には、秘密があった。
    松原さやかはもともと住んでいる家の所有者ではない。老女が一人で住んでいるところに押しかけ、半ば家を乗っ取っている状態だった。真相に気が付いた主人公たちは家に乗り込み、本当の所有者である老婆の変わり果てた姿を発見する……。
    実は主人公も、松原さやかと同じように、他人の家を乗っ取っている人物だったというオチ。

    ・酔狂
    大声で言えないけど、この話のオチ、大好きですw
    語り手である酔った男・苅屋の話し言葉で進んでいく。
    苅屋は人質を取ってある教会(児童養護施設)に立てこもっている。その人質たちに向かって語り掛ける。
    苅屋は昔誘拐されたことがあるが、無事に帰ってきた。そして現在立てこもっている施設にいた美奈子という女性と知り合う。
    美奈子は15,6歳で子供を身ごもり、施設から追い出された。
    実は、美奈子のお腹の父親が、苅屋の父。苅屋の父親は教師だったが、教え子の美奈子に手を出し、助けもせずに捨てていた。
    美奈子は施設の近くでカレー屋を営んでいたが、施設の人たちは美奈子を汚らわしいと言って施設に入れない。唯一中に入れるのは、ボランティアの炊き出しの時だけ。
    美奈子の息子は成長して、カレー屋を手伝うようになる。
    だが、美奈子は亡くなってしまう。
    美奈子は最後まで施設に戻ることを希望していた。しかし協会は、汚らわしい美奈子の遺体を受け入れないだろう。
    そんな折、ある事件が起き、ボランティアが教会に集まる。
    美奈子の息子は、カレー屋の店員として、無言で炊き出しをした。
    苅屋はシスターたちに問う。
    「あの時のカレーの肉は……」

    ・道楽者の金庫
    女探偵・葉村晶は、依頼を受けて福島県の別荘にこけしを取りに行く。
    そのこけしには、故人が残した金庫の番号が書かれていると言う。
    しかし訪ねていった別荘で何者かの気配を感じ、棚の下敷きになってしまう。
    そして、葉村や依頼人より前に、何者かが金庫の中身を盗んだ。
    こけしにマニアがいることとか、各地のこけしの違いとか、職人のことを「工人」と呼ぶとか、読むとちょっとこけしに詳しくなる。
    別荘の持ち主である富豪・後宇多はこけしマニアで、お気に入りの工人に、金庫の鍵とな禰こけしを作らせていた。工人は安藤という男で、後宇多は彼の妹を後妻にする。
    後宇多氏は最初、後妻の姉と付き合っていたが、この姉は幼馴染と心中したので妹と付き合い始めた。
    兄である安藤は金遣いが荒く、後宇多にこけしを買ってもらう代わりに言うことを聞いていた状態。
    金庫の中身を盗んだのはこの安藤。鍵になるこけしを作った本人なので、金庫の番号も当然知っている。
    葉村に向かって棚を倒したのは安藤の妻だった。
    肝心の金庫の中身は、後宇多が書いた恥ずかしい官能小説。
    笑い話で済むかと思いきや、その内容は「裏切った浮気相手の女を、女の妹と共謀して心中に見せかけて殺す男の話」だった。
    後宇多氏はこの小説を隠し通し、そのまま死んだ。

  • 凶悪な死刑囚に届いたファンレター。差出人は何者かを調べ始めた「私」だが、その女性は五年前に失踪していた!(表題作)女探偵の葉村晶は、母親の遺骨を運んでほしいという奇妙な依頼を受ける。悪い予感は当たり…。(「蝿男」)先の読めない展開と思いがけない結末―短編ミステリの精華を味わえる全五編を収録。表題作で第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞。

  • 面白かったー。
    短編なのせいかテンポがよく、引き込まれた。
    どの話もラストが、ぞわーっとするようなおーと唸るようなラストで狙いすぎてない感じが良かった。

  • 短編集。あとがきによれば、「暗い越流」が日本推理作家協会賞を獲ったのをきかっけに単行本になったらしいい。
    以下あらすじ
    「蠅男」…女探偵葉村晶シリーズ。人里離れた別荘。もとは霊能者が建てた。屋敷に来た人が、気分が悪くなったり、頭痛がしたりするらしい。
    「暗い越流」…死刑判決になった男に宛てられたファンレター。差出人は、男の実家の隣に住んでいた女子高生だった。しかも、彼女は5年前から失踪しているという。一見、葉村晶タイプの雑誌リサーチャーが、弁護士と組んで事件を調べているのかと思った、最後の2ページでびっくりして、前の部分を読み返してしまった。
    「幸せの家」
    「狂酔」…教会の地下にシスターたちを閉じ込めて建てこもる男。彼の語りを通して、児童養護施設で育った少女のことが明らかになる。
    「道楽者の金庫」…これも葉村シリーズ。大金持ちが亡くなった。彼は金庫に何かをしまっていたらしい。しかし、その金庫の番号を知っているのは、生前お金持ちが大量に集めていたこけしだけだ。葉村は田舎の別荘までこけしを取りにいく。

    葉村作品が2つも読めてうれしい。それ以外の短編も面白かった。

  • タイトルを見て、重くてどっしりしたミステリーかと思いきや…
    各話、軽く読めるのに読後感がなんともねっとりぞくぞくな短編集でした。こういうのを「イヤミス」というのでしょうか。電車で読むと酔いそうです。

  • 最初と最後の作品が、葉村晶のもの。
    中の三編はノンシリーズだけど、この並びがまた一つのトリックになっている。

    葉村晶のシリーズは全て、家族のあり方が事件のベースにあるのだが、この短編集もまたそうなっている。
    だから読後苦い物が残されてしまうのはしょうがないが、なぜか葉村晶が事件に巻き込まれると「しょうがないなあ」と苦笑い程度には薄まったりするのは、短編だからなのかもしれない。
    何しろ「悪いうさぎ」の読後感ったら、苦いなんてものじゃなかったから。

    親が子どもを支配する連鎖が何とも重苦しくて見苦しい表題作。
    読んでいて一番つらかった。
    幸せになっていいはずの未来を断ち切られても、子どもは文句を言えないのか。
    子どもの犠牲の上にある親の安泰って、ここまで極端ではないけれど、実はわりとよくあることなのではないだろうか。

    家族っていうのは一体なんなの?
    血のつながり?
    一緒に暮らしているという、その形?
    壊そうと思っても簡単に壊れないくせに、大事に抱え込んでいるといとも簡単に崩れてしまう。
    実に厄介な代物。
    だけど往々にして人は家族を作ろうとするんだよね。
    そこに幸せがあるという前提で。

  • 暗いな〜。人間の暗いもの怖いもの、直接的な表現はないけれど、読んだ後に残るね。
    葉村シリーズが好きだけれど、そうでないものも、よく考えられてるし、いいまわしとかハードボイルドとか若竹さん独特の世界、楽しめました。

  • (収録作品)蝿男/暗い越流(日本推理作家協会賞(2013/66回)/幸せの家/狂酔/道楽者の金庫

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プロフィール

東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒。1991年、『ぼくのミステリな日常』でデビュー。2013年、「暗い越流」で第66回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。その他の著書に『心のなかの冷たい何か』『ヴィラ・マグノリアの殺人』『みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない』などがある。コージーミステリーの第一人者として、その作品は高く評価されている。上質な作品を創出する作家だけに、いままで作品は少ないが、受賞以降、もっと執筆を増やすと宣言。若竹作品の魅力にはまった読者の期待に応えられる実力派作家。今後ブレイクを期待出来るミステリ作家のひとり。

「2014年 『製造迷夢 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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