神様のケーキを頬ばるまで (光文社文庫)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334773663

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  • テナントの入った雑居ビルを舞台にした、悩める人達の人間模様を描いた短編集。
    何かしら悩みを抱え自分の居場所を作ろうと必死にもがく彼ら。
    次々に試練が課せられ、落ち込んだり投げやりになったりとどうにも地味で冴えない。
    羨ましいのは励ましたり話を聴いてくれる味方のいること。
    特に「龍を見送る」の傷痕に名前をつけて可愛がってくれる千景さんのエピソードや、「光る背中」の最後まで逃げずに見届けておいで、と助言してくれる女友達のセリフに泣けた。

    世の中思い通りにいかないことが多くやるせない。
    でも大丈夫。生き方や考え方を少し変えてみれば各々の場所で少しずつでも前に進められる!
    ご褒美の甘いケーキをみんなが微笑みながら頬張っていますように…各々の未来を祈りたくなる優しい物語だった。
    彩瀬さんのラストの描き方は優しい気持ちにさせてくれて好きだ。

  • 短編集で、それぞれの物語の主役同士が薄くつながっている…そういう本が私はけっこう好きなんだな、と今さら気づいた。
    そういう短編集を今までいくつも読んできたけれど、つながり方にそれぞれ個性があるのが面白い。単純に人同士の場合もあるけれど、この小説の場合は“古びた雑居ビル”というどこにでもありそうな1つの建物がつながりの中心にある。
    と言ってもビルの存在感はほぼ無いに等しくて、むしろ後になって「あ、この人もあのビルにいたんだ」と気づいたりするのがまた面白い。

    登場するのは、シングルマザーのマッサージ師、喘息持ちのカフェバーの店長、理想の男から逃れられないOLなど。
    人生は思うようにいかないことばかりだけど、もがいたり傷ついたりしながら、かすかな光を求めてまた立ち上がる。そんな人々の切実な思いが描かれる。

    彩瀬まるさんの小説を読むのは「骨を彩る」に続き2冊目だけど、芯に人としての温かさを感じるという共通点があった。
    簡単に批判したり断罪したりしない。少しの空白を持って人を見つめる。その距離感が温かいと感じる。
    現実の人間でもそうだなと個人的には思う。距離が近いように見えて実のところ優しくない人はたくさんいて、本当に温かい人は、少しの距離をもって他人と接する独特の優しさを持っている。信じてるからベタベタしないし、何も知らないまま人を批判したりもしない。
    そういう温かさを、この小説(を書いた著者)から感じたような気がする。

    基本的にはなかなかうまくはいかない日常や人との関係が描かれているけれど、けして絶望的ではなくて、むしろ光の存在がすぐそこにあるような作品群。
    失敗や理不尽な出来事、うまく進まない恋、こじれてしまった人間関係。現実の日々にも起こりうる出来事は登場人物を傷つけるけれど、そこから立ち上がるパワーを人が持つことも同時に教えてくれる。
    全体的に、人に対する“赦し”のようなものを感じた。辛くても人を愛することは止められない、というような。

    それぞれにとても良かったから選びがたいけれど、「光る背中」と「塔は崩れ、食事は止まず」がとくに好きだった。
    両方とも、理不尽な人との断絶から立ち上がる女性の物語。

    とあるアーティストが様々なかたちで全てに登場するところも共通点で、そのアーティストの作品に対する登場人物たちの感じ方の違いがその人の生きる指針を表しているところも面白かった。

  • ある雑居ビルのテナントに入っている人たちそれぞれを主人公にした連作短編集。男運のないシングルマザーのマッサージ師、一番になれない劣等感をかかえたカフェバー店長、バンドをしながら古書店でバイトしている女の子、本命になれないと知りつつイケメンと別れられないIT企業社員など、誰もがさまざなま問題や悩みを抱えて生きていて、いずれもラストで少しだけ前向きになる、過程とエピソードに説得力があって読後感がいい。

    すべての短編に共通して出てくるアイテムとしてウツミマコトという元画家の監督映画『深海魚』という作品があるのだけど(ブラックスワンのシンクロ版みたいなダークラブストーリー)きっと最終話はこのウツミマコトが主役なのだろうなと勝手に予測していたら、本人は全く出てこなかった(苦笑)最終話は、雑居ビルの向かいのマンションに住む女性の話でした。

    基本的にはどの話も良かった。彩瀬まるは長編の『あの人は蜘蛛を殺せない』を読んだときにとても巧いなと感心して、今回も登場人物の設定や心理の移行は丁寧で相変わらず上手だなと思ったのだけど、たまに細部で雑?と言っていいのか、ちょっとしたことで引っかかってしまう部分があり・・・

    例えば最終話で主人公がカビだらけの「くずかご」をお風呂場に持ち込んでカビキラーを吹きかけるくだりがあるんですが、そこで主人公はバスルームの他の部分にもカビキラーを噴射し、なおかつ、バスタブの汚れを洗剤をつけてごしごし洗う。一応換気扇は回してあるけれど、たぶんカビキラーしたバスルームに長時間滞在しないほうがいい。気分悪くなるよ?なおかつ、主人公は「数時間後」にすべて洗い終えてバスルームから出てくる。え、ちょっと待って、風呂掃除に何時間かかってるの?・・・と言った具合で、物語の本筋と関係ない部分にちょっと引っ掛かりを感じてしまいました。ごめんなさい、もしかして校閲ドラマの見すぎで校閲体質になってしまったのかもしれません(苦笑)

    ※収録作品
    泥雪/七番目の神様/龍を見送る/光る背中/塔は崩れ、食事は止まず

  • ラストまで読んで、タイトルの意味を知った。

    もしかしたら、筆者の望んだタイトルじゃないかもしれないけれど(本にはそういうことがままあるから)、それでもこのタイトルはとても腑に落ちた。
    そう、神様のケーキを頰ばるまで、あと少しだけ。(がんばろう)

  • 同じ場所で、同じものを見ているにそこには沢山の違う世界が存在している。

  • かわいい表紙と題名が印象的で手に取った。

    雑居ビルを舞台に、どこか苦しくて、
    もがいている人々の人間模様がつづられている。

    みんながいる境遇は独特なので
    全く同じ境遇と言う人は少ないかも知れないけど、
    どこか共感できる部分はあるのではないかと思う。

    登場人物みんなが、
    どうにもならない世界の理不尽さを許し、
    付き合っていこうと、生きる姿勢を少しだけ変えるまでのプロセスが、これ以上ないほど丁寧に描かれていく。
    (柚木麻子さんの解説より)

    まさにこの本の魅力をよく表していると思う。

  • 彩瀬さんの作品にハマったので読んでみた。そしたら表題作?が模擬試験の国語の小説で出てきていたもので、びっくりした。その時からずっと読みたかったので偶然巡り会えたことに喜びと感動で胸いっぱいになりながら読んだ。雑居ビルを舞台に、いろんな立場の人間の葛藤を映した作品。非常に私好み。人の傲慢さ、報われなさ、また少しの希望、そういったものを彩瀬さんの文章で彩ってあり、読んだ後はなんとも言えない虚無感と満足感に襲われた。若い人にも大人にも読んで欲しい作品の一つ。また、作品に出てくる深海魚という映画見てみたいと思った。

  • 短編集だけど緩く薄く繋がっている。こういうのとても好き。
    優しく悲しく寂しくて苦しい。なんだろうこの感じ。とてもじんわりして泣きたくなる読後感でした。
    もっと早く読みたかった。
    プロレス好きなので「光る背中」の主人公の興奮が手に取るように分かる(笑
    読んでよかった本です。

  • ちゃんと生き残った。

  • ある雑居ビルに関係する5つの短編集。それぞれの話はほぼ直接関係せず、各主人公がたまに顔を出す程度。どれもありふれた日常、どこにでもいそうな、平凡で特別な魅力があるわけでもない人物が主人公で大きな出来事があるわけでもなく、奇跡的な出来事も起らない、ほろ苦さを感じる人生。退屈さも感じるけど、自分の生活を少し振り返ってみようと思わせるものがある。全編通して語られる画家兼映画監督ウツミマコト。映画のほうは私も苦手な感じだけど、絵は見てみたいと思った。

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プロフィール

彩瀬まる(あやせ・まる)
1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒業。小売会社勤務を経て、2010年「花に眩む」で第9回女による女のためのR-18文学賞読者賞を受賞。2016年『やがて海へと届く』で第38回野間文芸新人賞候補。2017年『くちなし』(文藝春秋)で第158回直木賞候補。

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