神様のケーキを頬ばるまで (光文社文庫 あ 58-1)

著者 :
  • 光文社
3.65
  • (65)
  • (144)
  • (126)
  • (27)
  • (4)
本棚登録 : 2212
感想 : 130
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334773663

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ある雑居ビルのテナントに入っている人たちそれぞれを主人公にした連作短編集。男運のないシングルマザーのマッサージ師、一番になれない劣等感をかかえたカフェバー店長、バンドをしながら古書店でバイトしている女の子、本命になれないと知りつつイケメンと別れられないIT企業社員など、誰もがさまざなま問題や悩みを抱えて生きていて、いずれもラストで少しだけ前向きになる、過程とエピソードに説得力があって読後感がいい。

    すべての短編に共通して出てくるアイテムとしてウツミマコトという元画家の監督映画『深海魚』という作品があるのだけど(ブラックスワンのシンクロ版みたいなダークラブストーリー)きっと最終話はこのウツミマコトが主役なのだろうなと勝手に予測していたら、本人は全く出てこなかった(苦笑)最終話は、雑居ビルの向かいのマンションに住む女性の話でした。

    基本的にはどの話も良かった。彩瀬まるは長編の『あの人は蜘蛛を殺せない』を読んだときにとても巧いなと感心して、今回も登場人物の設定や心理の移行は丁寧で相変わらず上手だなと思ったのだけど、たまに細部で雑?と言っていいのか、ちょっとしたことで引っかかってしまう部分があり・・・

    例えば最終話で主人公がカビだらけの「くずかご」をお風呂場に持ち込んでカビキラーを吹きかけるくだりがあるんですが、そこで主人公はバスルームの他の部分にもカビキラーを噴射し、なおかつ、バスタブの汚れを洗剤をつけてごしごし洗う。一応換気扇は回してあるけれど、たぶんカビキラーしたバスルームに長時間滞在しないほうがいい。気分悪くなるよ?なおかつ、主人公は「数時間後」にすべて洗い終えてバスルームから出てくる。え、ちょっと待って、風呂掃除に何時間かかってるの?・・・と言った具合で、物語の本筋と関係ない部分にちょっと引っ掛かりを感じてしまいました。ごめんなさい、もしかして校閲ドラマの見すぎで校閲体質になってしまったのかもしれません(苦笑)

    ※収録作品
    泥雪/七番目の神様/龍を見送る/光る背中/塔は崩れ、食事は止まず

  • ラストまで読んで、タイトルの意味を知った。

    もしかしたら、筆者の望んだタイトルじゃないかもしれないけれど(本にはそういうことがままあるから)、それでもこのタイトルはとても腑に落ちた。
    そう、神様のケーキを頰ばるまで、あと少しだけ。(がんばろう)

  • ありふれた雑居ビルで繰り広げられる
    日常のどうにもならない理不尽なこと、
    大きな怒りや悲しみを抱えた登場人物5人が
    様々な出来事や出会いを通じて
    生きる姿勢を少しだけ変えることで、
    今までの日々を時間をかけて許し、
    付き合っていこうと前を向く。
    それまでの憎んだ相手や、苦しみもがいた自分自身が、
    手を添えて今の新しい幸福を一緒に作ってくれたんだと
    思えるようになるまでを描いた、短編集。

    少しずつ話は繋がってるけど
    私は1話目の「泥雪」と
    ラストの「塔は崩れ、食事は止まず 」が好きです

  • とある雑居ビルを巡る、5つの物語。ウツミマコトという画家〜映画監督になった人物がどこかでキーとなる。

    龍を見送る、タイトルと初めの2ページを読んだだけで、あらすじの想像ができた。主人公がどんな葛藤を経てそこへ至るのか、最後にどんな心境になるのか、息を詰めるようにして読んだ。人は、相手に対する思い込みからなかなか抜けられないけど、違う一面に気づいた途端に、世の中の捉え方まで変化してしまうこともあるのだと思った。そういう出合いに恵まれることは、生きていく上でとても幸せなこと。凝り固まった自分の思考から離れて、全く別の見方が、できるようにかるから。
    *****
    でも、一人の人間が深く苦しみながら身体の外に取りだした概念は、どんなものであれ人間一人分の確かさを持って他の人間を支えるんだろう。
    同じ作品、同じ経緯についての感想なのに、なんてばらばらなんだろう。そして二人ともまるでしっかりと根付いた木のように、自分の考え方に確かさを感じている。
    *****
    自分に自信がなくて本当の自分を出すのが怖くて、「良い人、求められる人」になろうとばかりするのは苦しい。自分が何者か判らなくなるから。でも、自分の「本当」が見えてくると、そこに留まっては居られなくなる。「七番目の神様」
    イケメンの優しい王子様を掴まえたくて、自分の本当を見せずに彼に合わせる努力をする女の子。でも、やっぱりホントの自分でなけりゃだめだよね。「光る背中」
    誰よりもこの人のことを人間扱いしていなかった、という気付きが切なかった、この人はこういうことに苦しみながら生きてきたんだ…って。

  • 忘れるのも、忘れられるのも悪いことばかりじゃないと思う。

    その人は、最後に別れた時からずっとおんなじ場所に立ってる、変化のないつまらない人だよ。

    毎日がちょっと強くなれるような短編集
    どうしようもないこともあるけど、苦しいことも乗り越えられそう

  • 龍の話が好きでした。
    オーナーの話はもっと続きが読みたかったなあ…
    同じ映画が各話の共通で出てくるけど、いまいちその映画の話題の必要性が理解できなくて勿体なかった。
    皆さんは理解できたのか、、、

  • 一つの映画が共通して登場する短編集。主人公はそれぞれ何かしらかの悩み・やるせなさを持っている。人と関わったり、環境を変えたりして少しだけ前を向けるようになる、そんな人の話。全部全部解決ってことにならないし、主人公たちと関わった人たちのストーリーが気になるけど、そこは深堀りしないらしい。

    私は短編集には解決していなくても、他の登場人物の違う一面とか、物語の連続性とかを求めるタイプだということがこの本を読んで再確認できた。

  • どの話も、不幸な出来事を経験した主人公が、決してハッピーな終わり方じゃないけど、少し立ち直って話しは終わる。なんて事ない話しだけど、感情を表現する文章が上手くて、話しに引き込まれた。

  • オススメされていた初読みの作家さん。何かにつまずいた人達が少しのきっかけでまた新たに日常に輝きを取り戻して行く過程が好きでした。不器用だけど愛おしい人達。後からじわじわ来る作風でした。

  • 挫折を味わった人達が少しずつ前向きになっていく5つの短編

    初めての彩瀬まるさんの本は、読み終わった後胸がぎゅっと痛くなるような感覚になりました。

    嫉妬や憎悪、妬み、失望、こんがらがりすぎて複雑になってしまったグツグツと煮えた感情を持った人たち。
    そんな人間の隠したい感情に焦点を当ててます。
    この本を読んで、自分のそんな感情がみんな持つものだと思え、次に進もうと諭してくれたような気持ちになります。

    ウツミマコトの深海魚という映画が短編を通して出てきます。
    主人公たちが好き嫌いさまざまな感想を持っていて、なかでも
    「正直に、取り繕わず、制作者の心をさらけ出した作品は、必ず誰かに嫌われます。そういうものは力強い代わりに粗も多く、でこぼこで、違う意見を持つ人にとってはひどく目障りになるからです」
    このセリフがズンってきました。
    自分の意見も持ちつつ、異なる意見の話も柔軟に聞いていきたいと思いました。
     

全130件中 51 - 60件を表示

著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

彩瀬まるの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×