せつないいきもの: 牧場智久の雑役 (光文社文庫 た 21-6)

著者 :
  • 光文社
3.36
  • (1)
  • (3)
  • (6)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 49
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334775087

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 牧場智久を探偵役とした前作「狂い咲く薔薇を君に」の続編。今回は類子ちゃんが語り部。今作からは速水果月も登場。相変わらず牧場智久は安楽椅子探偵というか本業が忙しく類子ちゃんから齎される謎を携帯で聞くだけで解決していく。類子ちゃんの彼氏ならもっと関わってやれよぉ!という気持ちになるのは類子ちゃんの健気さというか可愛さが本作でめっちゃ伝わってくるからか。そう書くとミステリが主題というよりもキャラ重視に感じるけれど暗号や不明な動機など推理物としてもちゃんと楽しめる作りなのはさすが。

  • 〇 メモ
    〇 青い鳥,小鳥 ★★★☆☆
     ヒロインである武藤類子の友人,如月拓也は耳が悪い姉がいるので読唇術を学んだことがある。その如月拓也は,電車の中で犯罪計画を喋っていた二人を見た。その二人を,武藤類子の剣道の大会の祝勝会をやっていたファミレスで見かける。二人が計画していのは拉致・監禁。今も犯罪を実行中だと知った類子達は二人を尾行する。エレベーターの動きから二人の居場所を推理。智久は,類子の相談を受け,エレベーターの制御と宅配をした人物の存在から二人が降りたのは10階だと推理する。二人の女性は西浦美那子と布川千郷。リズマイカという音楽関連企業に勤めていた。ミュージシャンである速水果月は,二人と知り合いになり二人の部屋に行く。類子も同行。智久は,情報から真相を推理。二人の犯罪は拉致・監禁だが対象は犬だった。
     オチの部分,対象が犬というのはうすうす感じてしまう。キャラクター性がよく,竹本健治のミステリとしてはすっきりして読みやすい。上品なユーモアもあって仕上がりは上質。★3で。

    せつないいきもの ★★★☆☆
     「かなみ一直線EX」という剣道を題材をしたアニメは音楽を速水果月が担当していた。作画を担当した物集正範にも会えるということで,果月の誘いでホイミン倶楽部という集まりに参加する。類子は,ホイミン倶楽部の温泉旅行にも参加。その後,類子達は,物集の仕事現場の見学に行く。その見学の最中,さゆきがビルから飛び降りて死ぬ。さゆきの死は他殺か,事故か,自殺か。類子達は独自の捜査の中で,さゆきが両親を不良に襲われるという形で失っていたこと,物集が作成している「せつないいきもの」というアニメの原作者であることを知る。物集はさゆきのことが好きであり,さゆきは三国のことが好きだったという。そういった関係があったが…。真相は,さゆきは自殺。さゆきは整形していた。さゆきは整形する以前に三国と付き合っていた。
     途中,さゆきの他殺説が出て,自動装置などを使ったトリックについて語られるがその内容は陳腐。ホイミン旅行の温泉旅行の描写などはそれなりに面白い。トータルで見るとミステリとしては平均点以下のデキ。エンターテイメントとしてはギリギリ及第点か。★3で。

    蜜を,さもなくば死を
     明峰寺学園高校で,爆弾騒ぎが起こる。運動部が活動自粛になるので,如月拓也と津島海人のいる化学部に行くと,ほかの学校との交流をしている。
     その後,類子,果月,海人は三人でミステリクエストというイベントに参加。問題は,「野から和までに間が4つ。4つ目の間の上」と「都の一番長い直線左端の下」というもの
     類子にミステリナイトのイベントで配布された携帯電話に電話が掛かってくる。類子達の問題はミステリナイトとは異なる問題であり,果月がイベントの一環でしたベルトには爆弾が付いているとのこと
     類子は智久に電話をして助けを求める。都の一番長い直線は中央線で左端は立川。よって下は「かわ」だと推理する。
     智久は対局中なので対局後に引き続き問題を解くことになる。類子は犯人を割り出すための調査。功刀という雑誌編集者が死亡していることが分かる。おそらく,この問題はその編集者の暗証番号を解読するために誰かが仕組んだものではないかと推理する。
     類子は和と野の間に4つというのは鉄道の駅についてだと考え,調査をする。
     智久は対局を終え,独自に犯人を追い詰める。追い詰めた犯人は類子に迫る。果月は類子の携帯にGPSを仕込んでいたので,類子のピンチを救いに駆けつける。犯人は尾上崇という智徳高校の化学部の部員。類子は最後にもう一つの謎も解く。和は大和。野は相模大野。間には東林間,中央林間,南林間,鶴間と間が4つ続く。よって,4つ目の間の上は鶴。暗号はつるかわだと。
     サスペンス風の味付けがされた暗号ミステリ。エンターテイメントとしては楽しめるがさすがにリアリティは皆無。パスワードの解読にこんなことはせずに,津島を通じて類子に依頼すればよいだけ。
     肝心の暗号も,知識が必要なものであり,そこまで面白いものではない。サスペンス風の味付けと読みやすさでギリギリ★3といったところか。

     全体的に見て,通勤電車や寝る前などにさらっと読める軽めの仕上がりの短編ミステリになっている。キャラクターが魅力的であり,文章も読みやすい。ミステリとしての謎はそこまで魅力的ではないが,★3としたい。

    武藤類子,木谷亮子,速水果月,明峰寺学園高校,牧場智久,三原祥子,中谷美加,如月拓也,津島海人,西浦美那子,布川千郷,物集正範,小坂勘太郎,三国隆,飯島弥生,岸部久美子,マンタ,箭内真砂子,さゆき(山里亮子),ますむら,水上千草

  • 天才囲碁棋士、牧場智久シリーズ。短編3つ。「青い鳥、小鳥」はオチが早くわかってしまったり、「せつないいきもの」はオチや動機が少しガッカリ。「蜜を、さもなくば死を」はタイムリミットのある中での暗号解読でおもしろかった。どれも主人公である牧場智久の出番がほとんどないのが残念…と思っていたらサブタイトルが「牧場智久の雑役」。なるほど…。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

竹本健治:
一九五四年兵庫県生れ。佐賀県在住。中井英夫の推薦を受け、大学在学中に『匣の中の失楽』を探偵小説専門誌「幻影城」上で連載。デビュー作となった同書は三大奇書になぞらえ「第四の奇書」と呼ばれた。
ミステリ・SF・ホラーと作風は幅広く、代表作には『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』の「ゲーム三部作」をはじめとする天才囲碁棋士・牧場智久を探偵役としたシリーズや、自身を含む実在の作家たちが登場するメタ小説「ウロボロス」シリーズなどがある。近著に大作『闇に用いる力学』。

「2022年 『竹本健治・選 変格ミステリ傑作選【戦後篇Ⅰ】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

竹本健治の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×