今はちょっと、ついてないだけ (光文社文庫 い 60-1)

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  • 光文社
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感想 : 101
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334777463

感想・レビュー・書評

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  • タイトルにひかれ手にとり
    序盤は、なんかムカつく人ばかり出て来て嫌だな…と正直読み進めるか考えてしまった

    けど色んな人生、色んな失敗した人たちが挑む敗者復活戦!!
    気づけばドン底だった主人公に、写真撮影を通じてドンドン仲間になってくるRPG感…

    そんな中年達が、這い上がる為に試行錯誤したりして
    少年のように目をキラキラさせてる感じがワクワクしました。

    ※だから話が変わるけど 結局俺が何を言いたいかって言うと…
    【あらためて見るとマジンガーZの走り方って意外と癖が強いよね?】って事!!

  • 『今はちょっと、ついてないだけ』
    タイトルがいい。つらい時に思い出したら気持ちが前向きになれそう。

    「ボーイズ・トーク」から後半の三章がよかった。
    控えめでイケメンな立花さんが実在しているような気がしてしまい、会ってみたくなった。こういう感じの人タイプだな、是非綾野剛さんに演じて欲しいなと思って読んでいたが、すでに玉山鉄二さんで映像化されていた。どんな感じか気になるので観てみようと思う。

    ひとつ引っかかった事。岡野が家族をバーベキューに連れ出す場面での奥さんの態度が酷すぎた。段取りが悪くても、楽しませようとしてくれた気持ちを汲むべき。思いやりが大事だよー。

  • あなたは今、”ついている”でしょうか?

    “人生山あり、谷あり”という言葉がある通り、人生は決して平坦なものではありません。山の頂上の面積には限りがあります。誰もがそんな頂にいつまでもいられるわけがありません。人が集団社会の中で生きている以上、誰かが山の頂上でその時を満喫していれば、誰かは谷底でそんな頂の上にいる人を見上げることになる、そんな風に世の中は回っているのだと思います。しかし、こんな風に冷静に俯瞰した見方ができるというのは、それはある意味で幸せなことなのかもしれません。人生の谷、どん底にいる時にはそんな風に人生を俯瞰する心の余裕など生まれはしないからです。

    このレビューを読んでくださっている皆さんの現況は人それぞれだと思います。幸せの絶頂期にいる方もいれば、反対に何かに思い悩み、”なんて、ついてないんだろう”と、悔しさに打ちひしがれている、まさにその真っ只中にいらっしゃる方もいると思います。『編集採用として出版社に入社したのに別の部署に配属になってしまって。毎日単純作業ばかりだったので、編集部に配属されて展示会やパーティに行く同期がきらきらして見えました』と、ご自身の過去を振り返る伊吹有喜さん。職業は違えど会社員をされていらっしゃる方の中には、”人事異動”の光と闇に、似たような経験をお持ちの方も多いと思います。かくいう私も現在進行形の会社の風景は、まさにこの状況です…。能天気なレビューを書く日もありますが、”無理してるよな”と一方で思う自分自身の今を噛み締めてもいます。そんな時にたまたま書名を目にして手にしたこの作品。『大丈夫、今はちょっと、ついてないだけ。そのうちどかーんとツキが来るよ。世の中、そういうふうにできている』とその時言われた言葉がずっと耳に残っている、と続ける伊吹さん。この作品は、”ついている?”、という質問に”No”と答えた、そう、そんなあなたのための物語です。

    七つの短編それぞれに光が当たる主人公が登場する連作短編の形式をとるこの作品。『四十代は早期退職する人もいれば、そろそろ出向する人もいて、自分はこのまま会社にいられるのか考える人も多いと思うんです』とおっしゃる伊吹さんがそんな主人公に抜擢したのは、まさに四十歳、アラフォーとも言われ、人生のステージの切り替え期にあたる男女でした。そんな中でもこの作品の中核をなす人物が立花浩樹です。まずは、彼を中心に据えた一編目、表題作でもある〈今はちょっと、ついてないだけ〉をご紹介しましょう。

    『名古屋近郊にある病院の中庭で、携帯電話の撮影機能を呼び出そうとして』戸惑うのは主人公の立花浩樹。そんな浩樹に『ちょっと何?そんなカメラで撮るの?』と『よく日に焼けた小柄な男』が近づいてきました。『ねえ、それって携帯だよね』という男に『事情がありまして』と返す浩樹。『うちのおふくろがプロのカメラマンに写真を撮ってもらうっていうから…携帯で撮るなら、俺のスマホで撮ってくれた方が話早くない?』と言う男。そんな男の横にある『クリスマスツリー』の前で『白髪をきれいにまとめ』車椅子に座るのは『この病院の二人部屋』で実母の隣にいた宮川静枝。『写真家なら機材を選んでよ』と続ける男に『何言ってんだね!』と『自分の母親の声が響き、立花は軽くうなだれる』という光景。『うちの浩樹はお金を取るんじゃないんだから。この子はボランティアなんだから』と言う母親に『金を払えばいいわけ?払いましょ。遺影にもなるような立派なやつを』と言う男。『金の問題じゃないって』と割って入る浩樹に『もういいよ、撮影なんて。俺、早く東京に帰りたいし。やめましょ、撤収、撤収』と静枝の方へと戻っていく男。『今日現れた男は静枝の一人息子で、東京で妻と娘とともに暮らして』おり、『バレエを習っているという十九歳の孫娘』は、『華やかな経歴を持つ』らしいことを母親から聞いていた浩樹。そんな中『待って、立花さん。私たちの写真を撮って、お願い』と言う静枝。『立花さんはとても素敵なお写真を撮る方なの』と続ける静枝に『うちの子の写真はアラスカやアマゾンだよ』と自慢げに話す母親。その時『ああっ!思い出した。思い出したよ、立花、俺、思い出した』、『おたく、ひょっとしてあのタチバナ・コウキ?ネイチャリング・フォトグラファーの』と、男が手を握ってきました。『俺ね、好きだったんですよ、あのシリーズ』と感激する男。『バブルと呼ばれた空前の好景気の勢い』の中、『社長の巻島』と出会った当時の浩樹。『東京に大きなスタジオを持ち、外車を何台も所有していた』あの時代。『モデルの真似事のような仕事も入ってきた』、『二十代半ばが、人生の絶頂期だったのかもしれない』と思う浩樹。そして『バブルが終焉し、その残り香も完全に消えたとき、すべてが変わってしまった』という転落の人生。そんな浩樹に『お願いしますよ』と写真を撮るよう迫る男は母親が出してきた浩樹のカメラを覗いて唖然とします。『なんだ、これ。視界が真っ白…ひょっとしてカビ?』と、態度が一変。『写真家といっても、お母さん。しょせんはバブルの時の人だから』と立ち去った親子に、『まさに自分はバブル…』と、うなだれる浩樹。しかし、それからしばらくして『写真を撮ってくれないかって。ダンスの公演をするんだって』と、静枝から孫娘の公演のパンフレット写真の撮影依頼が母親宛に届きます。そして浩樹は…というこの短編。八〇年代のバブルの大波に翻弄された主人公・浩樹の転落の人生。どん底から這い上がっていくそんな浩樹の姿が描かれる、この連作短編の冒頭に相応しい好編でした。

    七つの短編、そのそれぞれの短編で主人公を務める人物は一編目〈今は〉の主人公である浩樹が過去に、そして今の人生に関わりを持つ人物から繋がっていきます。そんな人物たちはアラフォーと呼ばれる時代を生きています。アラフォーと聞いて感じるイメージは、その年代にまだ到達していない人、現在進行形の人、そして過去に振り返る年代になった人と、読者の年齢によってもイメージは異なってきます。しかし、平均寿命八十云歳という現代の我が国において、その後半の人生への折り返しに差し掛かる、まさしくそのような年代であることに違いはありません。そんなアラフォーを迎えるこの作品の登場人物たちは、”山あり谷あり”の人生の谷底でもがき苦しんでいました。『大学を卒業して以来、映像の制作会社』で『実績をあげていたプロデューサー』だったものの後ろ盾を失って『自主退職を求められ』る職場へ人事異動となり無職となった宮川良和が主人公の〈朝日が当たる場所〉。『メイクや眉、睫毛のケアやエステの技術には自信がある』ものの『接客や人付き合いがあまり得意ではない』と結局、人員整理の対象となった瀬戸寛子が主人公の〈薔薇色の伝言〉。そして、『白金にあったスタジオ兼自宅の訪問取材などを受けたりしていた二十代半ばが、人生の絶頂期だったのかもしれない』と振り返る、バブルの終焉と共に全てを失ってしまった立花浩樹が主人公の表題作〈今はちょっと、ついてないだけ〉、とそれまで順調に歩んできたはずの人生が、ちょっとしたことをきっかけに大きく崩れ、途方に暮れる主人公たちの今。そして、そういった時代というのは、往々にして何もかもうまくいかないというおまけがついてくるものです。『家庭にも居場所はない』、『友人もいなければ、仕事仲間も消えていった』と、頼るべき人も、居場所もなくなり戸惑う主人公たち。こういった事態に陥った時、人はどうしたらいいのでしょうか?また、人はそんなどん底から頂へと再び上がっていくことはできるのでしょうか?

    人は順調な人生を送っている時、それは反面忙しさと表裏一体という時代でもあるのではないかと思います。毎日が充実して、その順調な人生に全てをかけて打ち込む人生。それ自体はとても幸せなことでもあると思います。自分が人の世の中で一つの役割を果たしていることを感じる人生。そして、この世に自分という人間が生きていることを実感できる人生。”一寸先は闇”というその先に待ち構える落とし穴に意を払っている余裕などありません。だからこそ、その先に待ち構えていたまさかの落とし穴に落ちてしまうと、逆にその反動も大きくなりがちです。『結局、仕事がすべてだったのに。それが無くなったら、どう生きていったらいいのかわからない』、と忙しい時には休めないことに不満も漏らしていたことがまるで皮肉であるかのように、その反動を感じながら生きる人生ほど辛いものはないと思います。そんな時には『振り出しに戻って出直そうか。生まれ変わった気持ちで、やり直そうか』というような前向きな発想を持つということなどなかなかにできることでもありません。

    この作品では『人生にも、敗者復活戦みたいなものがあったらいいなと思って』という主人公の台詞の中で『敗者復活戦』という言葉が登場します。『私自身は本当は人生に勝ち負けはない、と思っています』と語る伊吹さんは『今いる場所が不遇で、そこから自分が望む場所に行きたいと動き出したなら、もうその時点で次の入口に立っている、復活戦は始まっているんじゃないか』とおっしゃいます。この作品に登場した主人公たちは、人生の転落ぶりに大きく混乱し、その不遇ぶりに戸惑いながらも毎日を生きてきました。そんな中で偶然の人と人との出会いに主人公たちは転機を見出していきます。どこまで行っても自分の人生は自分のものです。他の人を頼るだけでは前には進みません。しかし、自分と同じように、また自分以上に辛かったはずの人生を歩んでいたはずの人たちの姿を見て、自分も『人生をあきらめたくない』というその起点となる想いを主人公たちはそれぞれに感じていきます。決して他人に頼るばかりではなく、与えられるでもなく、あくまで自分の力で谷底から這い上がっていこうとする主人公たち。そんな彼らのひたむきな姿が描かれた物語は圧倒的に晴れやかな気持ちの中に幕を下ろしました。

    『いろいろ遠回りをしてきたけれどー。今だからこそ見える景色が、ここにある』という瞬間へと這い上がっていく瞬間を垣間見るこの作品。それは、私たちのリアルな人生も同じことです。誰もが頂にばかりずっと留まっていられるわけではありません。短いようで長い人生の中では『何してんだろ…ほんと、どうしたらいいんだろ…』というどん底の時代を誰もが一度は経験する、それが悲しいかな、人生なのだと思います。しかし、『本当によかった。一歩、踏み出してみて』という瞬間は誰にも必ず訪れます。大切なのは、その”起点”です。小説の中にはそんな変化の”起点”に焦点を当てたものが多数存在します。そんな中で、この作品が拘るのは、そんなどん底にいる時の心持ちです。どん底へと落ちてしまった人はそこで何を見るのか、そんな時、どうやって気持ちを維持するのか、そして、再び這い上がれるまでをどうやって持ち堪えていくのか。

    『うまくいかない時には、”今はちょっと、ついてないだけ”と考えて、少しでも気が楽になれるといいなと思います』と優しく語る伊吹さんが描くこの作品。そんな主人公たちの姿を見て、次は自分の番!と顔を上げたいと思います。そして、”今はちょっと、ついてないだけ”。そんな風に考えて気持ちを楽にしようと思います。そして、この作品からもらった魔法の言葉を大切にしようと思います。

    本を閉じて、”がんばろう、自分!”、と自然に言葉がこぼれた、そんな作品でした。

  • 一万円選書に紹介されていた一冊。
    お題もいい!!
    詰んでる私に、あなたにも、おすすめです。
    読み終わったら、人生はわるいことばかりじゃないと思える。心穏やかになれる一冊です。

    一世を風靡したコウキ。しかし今は詰んでいる。
    昔、コウキに憧れた人たちが、集まってきて、再びコウキに救われていく。
    コウキって素敵なんだよね、いつも飄々としていて、だけどわかりにくい。
    そういうコウキがいよいよ自分と対比する最終章がすごくよかった。
    登場人物が中年に差し掛かっているのも、なんかいい。読んでてしみじみする。
    今はちょっとついてないだけ。
    いつか抜け出せるから・・


  • タイトルが気になって読みたいと思っていた。

    自分の良いところって、一番気付きにくい
    それって普通のことと思ってしまう。
    だから分かってくれる仲間は、かけがえのない存在で、それもまた気付きにくいもの
    当たり前では無くなって初めてその存在に気づく。上手くできてる。

  • 今はちょっと、ついてないだけ
    つらい時、おまじないみたいに唱えたら頑張れそう。

    いい時もあれば悪い時もある。
    流れに身をゆだねて、フワフワと乗り切ったらいいのかもしれないけれど、そういう時ほどジタバタしてしまうんだよなぁ。

  • ちょっとどころか人生最大の危機ではないかと思うような出来事に、同じようについていない中年が集まり敗者復活戦に挑む。どこまでも暗くて救いがないような状況のはずなのに皆楽しそう。読んでいるともしかして本当にちょっと、ついていないだけなのかも?って気になる。そんな雰囲気なのはお互いにそんな事もあるよね、でこれからどうするかを一緒に考えて目の前の事を楽しんでいるからかな。相手を憎む事よりこれから自分がどうしていきたいのかが大切な事を重たくなく話がすすんでいく。
    読めて良かったな。

    • yhyby940さん
      ご返信ありがとうございます。多分ずっと呟くかもしれませんね。あと「自分は本気出してないだけ」も呟くことがあります。いつ出すつもりと友人には言...
      ご返信ありがとうございます。多分ずっと呟くかもしれませんね。あと「自分は本気出してないだけ」も呟くことがあります。いつ出すつもりと友人には言われます。本、読んでみます。ありがとうございます。
      2022/10/16
    • 四季子さん
      こちらこそコメントありがとうございます。
      私の方からも次はコメントさせてくださいね。
      こちらこそコメントありがとうございます。
      私の方からも次はコメントさせてくださいね。
      2022/10/16
    • yhyby940さん
      ありがとうございます。
      ありがとうございます。
      2022/10/16
  • 伊吹有喜さんの作品は2作目。
    穏やかで静かに、でも、何処か力強さも感じさせられる作品だと思った。
    『今はちょっと、ついてないだけ』
    書名だけ見ると、少しネガティブな印象を受けて手に取ることはなかったのですが、映像化されたということで読んでみた。
    登場人物の辛い思い、醜い感情も書かれていて、私と重ねて読むような所もあったけれど、
    「今はちょっと、ついてないだけ」
    「大丈夫、頑張れるよ」
    と、励ましてくれているように感じた。
    大丈夫、大丈夫。
    揺れる心を落ち着かせてくれる作品でした。

  • 良かった!
    ドラマ化するし、見に行こうかなぁ。σ( ´ᐞ` * ).。o(考え中)

  • 栄光と転落。
    心がひきこもってしまって、遠回りしてしまうこともあるけれど、だからこそ見える景色がある。
    遠回りしているようで、ちゃんと必要な道を進んでいるんだと思える物語でした。
    自分の役割が明確になってきたら、人生はより輝き出すのかな…

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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